45 第2の国の災厄7
「リリーさんの心の中に開いてしまった空間をふさぐために、一体どうすればよいのでしょうか。」
クラリスがつぶやいたその時、アーサーが思いついた。
「クラリスさん。これから使おうとする転移魔術は、特別な場所に人間を送ることができるのですね。」
「はい。普通の転移魔術と大きく異なり、複雑で莫大な魔力を必要としますが、理論的には人間をどんな場所にでも送ることができます。」
「それならば、私をリリーさんの心の中に送ってください。悪しき心を映す世界との連結空間なら、反対の力をもつ、美しき心を映す世界のエネルギーに包まれた私の剣なら、切ってふさぐことができるはずです。」
「可能だとは思います。可能だとは思いますが………… 」
クラリスは下を向いて、急に口ごもってしまった。
それを見て侍女のメイがクラリスの気持ちを説明した。
「アーサー王子様。人間を特別の場所に転移させるのは可能ですが、失敗のリスクも非常に大きいのです。もし失敗したとすれば、魔術をかけた人間がどこかわからない次元に永久に行ってしまう可能性があります。」
メイはさらに強調して続けた。
「もし、転移させる人間がお嬢様の大切な方の場合、失敗する不安が非常に大きくなります。するとお嬢様の魔術の構築に大きく影響して、リスク発生の可能性が高くなってしまうのです。」
そのことを聞いて、アーサーはクラリスに話し始めた。
彼の顔には満面の笑みと自信に満ちあふれていた。
「クラリスさん。私は全然心配していません。あなたはもう、この世で最高の魔法師です―― 失敗することはありません。私は美しき心を映す世界の守護者の剣となり、リリーさんを必ず救います。」
アーサーの言葉を聞いた後、クラリスは顔を上げてうなずいた。
彼女の青い美しき瞳の魔眼は強く輝いていた。
翌日、クラリス達4人はリリーが姿を現わす街道に出て待機した。
あらかじめリリーが歩くと思われる途中に、クラリスが魔法陣を構築した。
「人間の命を聞かない空間の神よ。我は真実に至る魔女を継ぐクラリス。我のための道を開け。不幸な娘を救うため、英雄アーサーを娘の心に開いた悪しき心を映す世界からの入口に送り、そして戻せ。」
なぜか「戻せ」と言った口調が大変強くなった。
その後、クラリスの魔術で4人は姿を消し、じっと待った。
しばらくすると、ふらふらと歩いているリリーが姿を現わした。
そして魔法陣の中に入った。
「アーサー王子様!!! 今です!!! 」
不可視の魔術が解かれ、4人の姿が現われた。
クラリスは右手をアーサーの額に当てて詠唱した。
「空間の神よ。今こそ命に従え。英雄を転移させよ。」
転移魔術は成功した。
アーサーは巨大な大きさに開いた穴の入口に立っていた。
穴の向こう側には、奥底まで無限大を感じる暗闇が続いていた。
アーサーは剣を抜き、自らのオーラを全て集中させた。
すると不思議なことに、美しき心を映す世界と英雄であるアーサーの心がつながった。
美しき心を映す世界のエネルギーがアーサーの心を通じて流れ込み、剣先に集中した。
その時、暗闇の中から多くの影が飛びだそうとしていることを感じた。
それは魔族だった。
アーサーはそのことを感じて少し気をとられたが、剣先に準備が整ったことを感じて、剣を振った。
「美しき心を映す世界の優しい太陽の光りよ! 暗闇を消し去れ! サン!シャイン! 」
上段から振り下ろされたアーサーの剣から、優しくて強い光が輝き、大きく開いた暗闇を切断した。
暗闇は消滅した。
「英雄を戻せ! 」
空間の神に命令するクラリスの声が聞こえた。
気がつくと、アーサーはクラリスの前に再び立っていた。
クラリスがとても真剣な顔で言った。
「アーサー王子様。成功しました。よかった―― これから、リリーさんを美しき心を映す世界に転移させます。」
そして、クラリスは街道に描かれた魔法陣の中に倒れていたリリーに近づいた。
リリーの額に右手を当てて詠唱した。
「私に従う空間の神よ。真実に至る魔女を継ぐ私に再び従え、私とこの娘を美しき心を映す世界に運べ。この娘が美しき心を映す世界に入ることを守護者である私が許す―― 」
クラリスとリリーの姿がそこから消えた。
その世界には、さまざな色の花々が咲き乱れていた。
たくさんの色の花々は互いに相手を引き立て、全体として完全に調和していた。
はるか彼方までその光景は続き、花々の間を妖精達がいっぱい飛び回っていた
美しき心が映す世界の空は、クレヨンで描かれているようだった。
最高の青色の中に、優しそうな太陽が浮かんでいた。
急に現われたクラリスとリリーに気がつき、多くの妖精達が集まった。
「真実に至る魔女の娘、クラリス様。その方はどなたですか、気を失っていらっしゃいますが。」
妖精に聞かれてクラリスは答えた。
「みんな、お願いです。この娘さんはお母さんの美しき心をうそで隠され、本当の姿を見ることができなくなっています。この娘さんにお母さんの美しき心を見せてあげて。」
「魔女様。お安い御用です。みんな用意はいい。」
「もちらん、オッケーさ。」
多くの妖精達が空を飛び始め、さらに円を描き始めた。
それはだんだん早さを増していって、最後には何かを映し出す動画のようになった。
動画に美しい女の人が映しだされた。
彼女は手を振って笑っていた。
意識を失っているリリーの視線に、それはしっかりと映しだされていた。
その背景はリリーの実家のようだった。
「リリー。私が誇りにする最高の娘。元気ですか? 」
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