29 第1の国の災厄2
「クラリスさん。魔王の血を無効化するのは難しいのですか…… 」
厳しい顔をしている彼女の顔を見て、アーサーが言った。
「古くからの言い伝えがあります。アーサー王子様には大変申し上げにくいことですが。」
「私に関係があるのですか。遠慮なさらずに言ってください。」
「……魔王の血と反対の性質があるものを体内の取り込むのです。それは『英雄の血』です。具体的に言うとアーサー王子様の血です。」
「はははは! よかった! 方法があるのですね! 私の血で巨悪な陰謀を防ぐことができるのなら、私が死んでしまったとしても全部の血を使いましょう。」
純粋なアーサーは、英雄として人々を助けることができるのならば、自分の命が失われてもかまわないと思っていた。
「王子様。そのようなことを軽々しくおっしゃってはいけません。クラリス様が最も心配なさっていることですから。いかに多くの人々を助けるためでも、自分が死ぬとは言ってはいけません。」
侍女のメイにそう言われて、アーサーがクラリスの方をそっと見ると、今にも泣き出しそうだった。
(しまった―――― )
「大切なお話中ですが、私達の隠れ家に来ていただけませんか。」
年長の子供がそう言った。
アーサー達4人は、隠れ家に案内してもらうことにした。
その後、大きな木だけではなく小木や雑草も生い茂っている深い森の中をしばらく歩き、大きな岩山のふもとに開けた平地に出た。
岩山には大きな洞窟があるようだった。
既に洞窟の前にはリーダーらしい背の高い女の子が立っていた。
不思議なことに、アーサーはその女の子を見たことがあるような気がした。
「ゴード王国のアーサー王子様、お久し振りでございます。私はミレーネ王国第1王女ジェシカです。武芸大会に優勝された英雄に、勝者のあかしをお渡しする役目をいただいた幸運な子供でした。」
「あっ!!! 」
アーサーは武芸大会がミレーネ王国の武道場で行われたことを想い出した。
そして、武道場に設けられた式場でハプニングがあったことを想い出した。
表彰式のことだった。
多くの観客が見守る中、それは行われた。
「みなさん。今回の武芸大会の優勝者はゴード王国のアーサー王子です。この年で神のような強さをもち、やがては英雄になられるでしょう。アーサー王子に勝者のあかしが渡されます。」
小さな女の子が多くの家来に補助されながら、式場に上がろうとしていた。
かなり身分が高そうだった。
「勝者のあかしは、ミレーネ王国ジェシカ王女から渡されます。」
式場に上がるとジェシカ王女はアーサに近づいた。
そして、アーサーを見上げた。
ジェシカ王女は、アーサーを心の底からの尊敬の気持ちをもってじっと見つめた。
その後、従者がお盆の上で持っていたメダルを持ってアーサーにかける手配だったが、彼女はその手順を全て忘れ、アーサーをじっと見続けた。
長い間ができてしまい、少し観客がざわざわし始めた。
従者があわてて彼女に注意した。
「王女様。早く早く、メダルをとってアーサー様にかけてください。」
注意を聞き、ジェシカ王女は我に返ってメダルをとり、アーサーにかけようとした。
背の高さがだいぶ違うので、アーサーは精一杯かがんだ。
アーサーは握手をしようとして手を差し出し、彼女と手を合わせた。
そして、握手を終わりにして手を離そうとした。
しかし、彼女の小さな手をアーサーの手をしっかりと握り続けていた。
少し待てば手を離すだろうと思って、アーサーは無理矢理手を離そうとしなかった。
ところが、いつまでたってもジェシカ王女は小さな手を離そうとしなかった。精一杯の力がこもっていた。
視線はアーサーをあこがれをもって、ずっと見つめ続けていた。
不自然に長い間が流れて、観客達がシーンとなった。
今度も従者があわてて注意した。
「王女様。早く早く、握手はもう終わりです。手を離してください。」
しかし、まだ手を離さなかった。
アーサーは良いことを思いついて、優しい表情で優しい声で言った。
「ジェシカ王女様。このままエスコートしていただき、式場から退場しませんか。」
王女はかわいらしく笑ってうなずいた。
背の高さがだいぶ違ったので不自然だったが、アーサーは精一杯かがんでジェシカ王女と手をつないだまま式場を歩いて退席した。
微笑ましい光景に大勢の観客達から大歓声が起きた。
式場から完全に退席した後、ジェシカ王女は心の底から笑いながら言った。
「英雄様。本日の光栄な記憶を私は永遠に忘れないでしょう。」
「あっ! あの時の小さなジェシカ王女様ですか! 」
「はい。私はあの時からだいぶ背が伸びましたけれど、アーサー王子様はさらに背が伸びて。無理にかがみ込む御苦労はさせませんが。このような異常事態の時、我が国にお出でいただいたとは…… 」
「ここにいらっしゃるのは、真実に至る魔女を継ぐクリスタさんです。彼女が世界の10か国に大災厄が起きることを予知夢で予言して、それを防ぐため最初に、このミレーネ王国に来ました。」
「真実に至る魔女を継がれる方とは、神に等しい力をもたれる最高位の魔女ですね。その方が予言されたとはどういうような大災厄なのでしょうか? 」
「人間が悪しき心に完全に支配され、最後には魔族になってしまうというものです。」
「それは、私の国のことですね。大人の身勝手が優先され、子供達を育てるという大切な指命を放棄してしまっているミレーネ王国で、大災厄は現実になりつつあります。」




