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26 暗黒魔術師キリヤ4

 今まで生きていて、明るい未来に向かって自分と進もうとしていた恋人の若者が、ドロシーの目の前で一瞬のうちに命を失った。




 彼女は一瞬にして決意した。


 護身用のナイフをふところから取り出すと、キリヤに向かって突進した。




「冷酷な魔術師、なんで私達の未来を奪ったの! 」




 キリヤはその質問には答えず、詠唱した。




「殺意、それは最も崇高すうこうなもの。私は殺意を支配する。殺意に命じる! 人の命を奪おうとする刃やいばを…………反転させよ。」




 ドロシーの手は、自分の手ではなくなった。


 そして何者かに支配され、ナイフを自分ののどに突き刺した。




 彼女はその場に倒れ、のどから流れ出ている血は花々に吸われていた。




 キリヤはその光景をちらりと見ただけで、馬にまたがり騎馬兵達に告げた。




「王命を果たすことができました。これで王もお喜びでしょう。」




 彼は心の中で自分に何回も言い聞かせていた。




「私という者がありながら、裏切って他の男と駆け落ちしようとした王女が悪いのだ。しかも、敵国から来た者、王族の名誉を守るためにも私がやったことは正しい―――― 」








 数日して、キリヤは王に呼び出された。




 謁見の間で王の前に彼がひざまずいた途端、回りを近衛兵に囲まれた。


 王が厳しい口調で言った。




「キリヤよ。そちは宮廷魔法師でありながら、なんということをしてくれたのだ。我は敵国の間者に誘拐されたドロシーを連れ戻すよう命じたのに、魔術をもって命を奪うとは気が触れたのか。」




 その時、キリヤは全てを理解した。


(私を、私の気持ちを利用したのか!!! )




「はははははははは―― 謁見の間にキリヤの笑い声がこだました。」




(ドロシー様への私の恋心を利用して殺させ、王家の対面を保ったのだな。でも、もういい。ここで命が終われば、この先永遠に続く苦しみの毎日から救われる。)




 国王は冷酷に言った。


「近衛兵。我が大切な娘ドロシーを殺害した、この魔術師を殺せ! 」




(もう、何も考えない終わりにすることができる。)


 魔術を使いその場を脱することもできたが、キリヤは何もせず、ひざまずいたままで目を閉じた。








 すると、どこからともなく声がした。




「魔術を極めし賢き魔術師よ。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」




 キリヤは幻聴だと思い、そのまま黙っていたが、さらにそれは繰り返された。


「魔術を極めし賢き魔術師よ。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」




「…………」




「魔術を極めし賢き魔術師よ。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」




「思わない!!! 私の嫉妬は汚い。報われない恋になって、勝手にドロシー様を恨んでしまった!!! そして、国王も王家の対面を保つため私の嫉妬心を利用した!!! 」




「私に答えてくれた。お礼に姿をお見せしよう。」




 謁見の間につるされた巨大なシャンデリアの光りが空間に浮かぶ黒い影でさえぎられ、その黒い影はだんだん実体化し始めた。




 やがて、その姿は 魔王の姿に変わっていったが、自分の最後の時を受け入れているキリヤに恐怖心は起こらなかった。




「失礼する。私は魔王アスモデウス。悪しき心を映す世界の王、魔界の王と言った方がわかりやすいかな。キリヤ、美しき心を全部否定して、悪しき心を賛美する者にならないか? 」




「悪しき心? それが私を助けてくれるのか? 」




「助けてくれるぞ。冷酷だ。あなたの心の中にある最大の後悔を消すことができる。自分の気持ちを優先させることを肯定する冷酷で心を凍らせることで、心の傷は治ってしまう。」




「…………わかりました。魔王様。冷酷で心を凍らせ、あなたの忠実な家臣になります。」




 その答えを聞いた途端、魔王は右手をキリヤに向かって差し出すと、そこから黒い光りが放射されキリヤを包んだ。




 黒い光りが強くなりキリヤの姿が見えなくなった後、突然黒い光りは消え、その中から黒い甲冑に身を包んだキリヤが現われた。




「暗黒騎士、冷酷のキリヤ、我についてくるが良い。」




 国王が衛兵達に向かって言った。




「おまえ達。何をしているのか。キリヤを早く殺せ。もう狂っているじゃないか。」


 他の者には魔王の姿は見えないようだった。




「魔王様。暗黒騎士キリヤの初仕事です。」




「キリヤ。その身には私が贈ったものがある使ってみるがよい。」




 暗黒騎士キリヤは衛兵達に向かって、その右腕を突き出した。




 すると、右腕からは多くの影が飛び出し、衛兵達に向かって放射された。


 影には顔が現われ、苦しそうにもだえていた。




 それらはすぐに衛兵達にまとわりつき、その命を奪うとともに魂を取り込んだ。




 見ていた国王は仰天した。




「宮廷魔術師キリヤ。悪かった。これはたわむれだ。お前は王命に従いドロシーを殺したのだ。栄誉を与えるから私に魔術を使うな。」




 キリヤは国王の言葉に何も反応せず、右腕を国王に突き出した。




 呪いがすぐに国王にまとわりつき、その命を奪うと共に魂を取り込んだ。








「真実に至る魔女の娘よ。私をどうするつもりだ。」




「あなたが今晩行ったことを、私は決して許すことができません。しかし、一つ良いことが起きました。あなたが殺そうとした英雄が関わり、1人の魂が天国に昇ることができました。」




 クラリスの青い美しい瞳の魔眼が輝き、1人のおばあさんの魂が思いをとげて天国に昇ることができた真実をキリヤに見せた。




「こんなことが起きていたのか! よかった! 」




「あなたにとってつらいことですけど、冷酷を溶かしてアスモデウスの呪いを解呪します。」


 そう言うと、クラリスは詠唱した。




「暗黒騎士『冷酷のキリヤ』を真実に至る魔女の元へ! 訪れない時、行くことができない場所、定められた時間、定められた場所へ運べ! 」




 暗黒騎士キリヤの姿がそこから消えた。

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