23 暗黒魔術師キリヤ
魔女の国の女王クリスタは、娘のクラリスに言った。
「クラリス。十分に気をつけて。私は感じました。魔王アスモデウスは、もう1人の暗黒騎士を人間の世界に侵入させているわ。暗黒騎士というよりも暗黒魔術師と言った方がよいかもしれません。」
「暗黒魔術師ですか、ねらいは、アーサー王子様ですね。」
「そうです。貴方が王子様をしっかり守るのですよ。」
アーサーの剣から放射された光りに映し出されていた、魔女の国の女王クリスタの映像はそこで消えた。
クラリスはアーサーに申し出た。
「アーサー王子様。母様からの情報であなたに危険がせまっています。ですので、私とメイはこの危険が完全に去ってしまうまで、この州都ハイデに滞在させていただきます。」
「ありがとうございます。お二人の住む家をすぐに用意します。」
「とにかく毎日泊まることができて、できれば、ほんの簡単な台所があればうれしいです。でも、あまりお気になさらないでください。普通の家であれば問題ありません。」
「わかりました。ロードリック市長にお願いしてみます。」
「アーサー王子様。少しお待ちください。」
クリスタはポケットから紙を取り出し、それに対して詠唱を始めた。
「真実に至る魔女を継ぐ者の気持ちをこの紙に込める。アーサー王子様を害しようとする魔力を固く防げ、そして真実に至る魔女を継ぐ者に伝えよ―― 」
アーサーに渡した。
「アーサー王子様。これから、いつもこの紙を持っていてください。これは、呪符。簡単に言うとお守りです。」
「ありがとうございます。」
アーサーは呪符をふところにしまった。
次の日から、クラリスと侍女のメイは、州都ハイデ中心の領主の館に近い場所に家を借りて滞在し始めた。
暗黒騎士キリヤは知らぬ間に目標に忍び寄り、なにもわからない方法で倒すことができる魔術を使うことができた。
それは、大部分の人間の心が目に見えない恐れを信じていた古代にはよく使われた魔法、呪いだった。
強い呪いの力をもつキリヤは、州都ハイデを見渡せる丘に立ち考えていた。
「英雄は多くの者に守られているから、まずは州都ハイデに大混乱を起そう。そうすれば、英雄が1人になる瞬間も多くなるに違いない。」
その言うと、キリヤは魔法の術式を詠唱した。
「死してつらいことは何~動けないこと。死してつらいことは何~しゃべれないこと。死してつらいことは何~暗闇の中で何も見えないこと。――全てを我が魔術で苦しむ魂を解放する! 」
その丘にある多くの墓に向かって、呪いをかけた。
墓の中から黒い影が起き出した。
埋葬された者のうち、不運にも安らかに眠ることのできなかった者達の死霊だった。
多くの黒い影は、わずかに残っている記憶をたどりハイデの町に戻っていった。
そして、ところかまわず家々の扉をたたいた。
「わあ――――助けて―――――」
「死霊だ!!! あっちへ行け!!! 」
住民達はノックを聞いて扉を開き、大混乱が発生した。
死霊は何もしなかったが、その姿が恐怖だった。
すぐに多くの住民が領主の館に知らせにきた。
「アーサー王子様。ハイデに多くの死霊が現われました。大混乱が起きています。」
ショウとメイナードが、アーサーの部屋に報告に来た。
「死霊は住民達に危害を加えるのですか? 」
「いえ。危害を加えられた報告はありません。しばらく家の扉の前に留まった後、首を振って動き出し、次の家の扉の前に動くそうです。そして、また同じことを繰り返すだけだそうです。」
「ショウが国軍に指示してください。兵士は2人一組で町を巡り、大声で扉をたたく音がしても開かないようにと伝えてください。私は、クラリスさんのところに相談に行きます。」
「王子様に同行して警護します。」
「メイナード。私は大丈夫ですから、別のことを指示します。ロードリック市長の館に行き、その警護にあたってください。」
「王子様。それでは私は騎士としての指命を果たすことができません。」
「武具を持った強い武人の存在は、死霊を退散させることができるといいます。あなたをいつもそばに置いて、私はフレイヤさんにたくさんの借金があるのですよ。安心させてあげてください。」
アーサーはいたずらっぽくメイナードに微笑んだ。
「ありがとうございます。感謝申し上げます。」
メイナードは、ものすごい勢いでアーサーの部屋を出て行った。
アーサー王子は館を出た。
かなりの深夜になっていた。
夜空には雲がかかってなく、町の中をはっきりと照らしていた。
しばらく歩き始めてから、アーサーは気がついた。
「あっ! 剣を持ってくるのを忘れた! まあいや、私は強い武人ではないから、どうせ死霊がよってくるに違いない。でも、少し恐い…………」
クラリスが宿泊している家にもう少しの所まで歩いた時、アーサーは気がついた。
死霊がある家の扉の前に立ちすくんでいた。
その姿をアーサーは見たが、恐ろしいというよりも、悲しそうな様子が気になった。
強く引きつけられて、彼はそこに立ち止まって様子を見ていた。
報告で受けたように扉をたたくこともなく、死霊はいつまでも立ちすくんでいた。
「やはり悲しそうだ。扉をたたきたくても、たたけないよう――そうだ! 助けてあげよう。」
なぜ、そのような行動をとったのかはわからないが、アーサーはその死霊に近づいて行った。




