22 傲慢のブルクハルト4
「最高の鍛冶師が打った名剣を振るう最高に強き剣士。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」
どこからともなく聞こえてくる問いかけが、何回も続いた。
やがて最後には、ほとんど狂気に飲み込まれているブルクハルトの心に聞こえた。
「最高の鍛冶師が打った名剣を振るう最高に強き剣士。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」
「…………」
「思わない!!! とても長い間、自分の技を磨き最高の鍛冶師となった私の父親は殺された。人を殺すのを生業なりわいとしている人間に!!! 母親も殺された!!! 」
「私に答えてくれた。お礼に姿をお見せしよう。」
まだ、勢いを衰えさせず燃えさかっている炎の中に黒い影が浮かび、だんだん実体化し始めた。
やがて、その姿は 魔王の姿に変わっていったが、狂気に飲み込まれているブルクハルトに恐怖心は起こらなかった。
「失礼する。私は魔王アスモデウス。悪しき心を映す世界の王、魔界の王と言った方がわかりやすいかな。ブルクハルト、美しき心を全部否定して、悪しき心を賛美する者にならないか? 」
「悪しき心? それが私を助けてくれるのか? 」
「助けてくれるぞ。傲慢だ。神の冗談で、あなたは最高の鍛冶師の才能ではなく、最高の剣士の才能を贈られた。悲しくて狂気に支配されそうな心を、傲慢ごうまんの鎧を着て守ることができる。」
「…………わかりました。魔王様。傲慢の鎧を着て、あなたの忠実な家臣になります。」
その答えを聞いた途端、魔王は右手をブルクハルトに向かって差し出すと、そこから黒い光りが放射されブルクハルトを包んだ。
黒い光りが強くなりブルクハルトの姿が見えなくなった後、突然黒い光りは消え、その中から黒い甲冑に身を包んだブルクハルトが現われた。
「暗黒騎士、傲慢のブルクハルト、我についてくるが良い。」
「御意。今、俺様の心は守られています。この世の誰よりも強い。」
アーサーはクラリスにたずねた。
「クラリスさんは、そんなことまでわかるのですか。」
「はい。近頃は、いろいろな人の知るべき真実は必ず心の中に浮かんでくるようになりました。そして、その人々を救わなければなりません。」
「それは大変なことですね。私は今聞いたブルクハルトさんことだけで、彼に対する同情と心配で心がいっぱいになってしまいました。」
「魔女の女王『真実に至る魔女』になる者の宿命です。私の母様は今きっと、何千人何万人もの人のつらい気持ちを救うためにがんばっているはずです。私も母様の助けにならなくては。」
「そうですね。まず、ブルクハルトさんを救うのですね。」
「ブルクハルトさんは悲しい経験をしてしまい。そこから自分の心を守るため、アスモデウスの誘いに乗るしかなかったのです。だから、絶対、助けてあげたいのです。」
クラリスは心の中で思っていた。
(秘密ですが、私はアーサー王子様の心といつも心を直結させています。アーサー王子様の純粋で、いつも他人のことばかり考える美しい心が、私をいやし元気を与えてくれているのです。)
アーサーとクラリスの2人が話しているその時、美しき心を映す世界のエネルギーを吸収したアーサーの剣から光りが放射され、女性のような映像が映しだされた。
その映像ははっきりせず、ぼやけた者だったが、そこから美しい声が流れてきた。
「クラリス。がんばっていますね。私は母親としてあなたのことをとても心配することが多かったのですが、この頃は誇らしい気持ちでいっぱいです。」
「母様!!! 」
クラリスはとても驚いた。
これまで、母親の顔を知らないだけではなく、声すら聞いたことがなかった。
「私の娘といっしょにいらっしゃるのは、英雄になるアーサー王子様ですね。私の娘を助けていただいて心から感謝致します。」
「いえいえ、私はクラリスさんに助けていただくばっかりで、助けたことはありません。」
「ふふふふ。あら、娘はうまく隠しているのね。でもいいわ。アーサー王子様、これからもクラリスのことをよろしくお願い致します。」
「ゴード王国第3王子アーサー、私の国の先祖と守護神にかけてクラリスさんを永遠にお守りします。」
「アーサー王子様。その言葉はゴード王国の王族が花嫁をもらう時に、その両親に誓う言葉とほぼ同じですよ。もっとも、ここにヘルムートはいませんが。」
「母様。あんまりアーサ王子様を困らせないでください。…………それじゃあ、必ず私の結婚式には父様と2人で参加してくださいね。ところで、私に初めて話しかけてくれた理由があるのでは。」
「そうそう。大切なことを忘れていたわ。あなたが送ってくれたララにアスモデウスがかけた『虚栄の呪い』は完全に解除したわ。暗黒騎士を1人救えました。ただ、一つ困ったことが―――― 」
「えっ! それはなんですか? 」
「ララはとても美人で、大変なことを克服した女性は更に魅力的よ。」
「それが、何か問題ですか。」
「アーサー王子様。ララがほんとうにあなたのことを好きな場合、どうされますか? 」
「母様。いきなり唐突に!!! 」
「大丈夫です。クラリスさんへの気持ちは揺るぎませんが、ララの気持ちも大切にします。」
「よかったわ。それからクラリス、さっき送ってくれたブルクハルトさんにかけられた『傲慢の呪い』ですけど。大丈夫、彼の心が壊れないように十分に注意して呪いを解くから心配しないで。」
「母様。ありがとう。それから、今日初めて母様の声を聞くことができて、今まで生きてきて最高にうれしかったわ。」
「クラリス。注意して! 2番目でしょう。」
「2番目? 」
「あなたが最高にうれしかったのは、今横にいる方と初めてお会いした時のはずよ。」
「………………はい。そうです。」




