17 王子は誘惑される5
アーサーはひざまずいている女騎士に近づこうとした。
それを見て、メイナードが心配した。
「王子様。あの者はかなりの強い剣士です。仮に警戒せず近づき、剣を一瞬で抜かれたら危ないです。」
「大丈夫。注意していますから。それに、さきほどの剣さばき、どこかで見たことがあるような…… 」
アーサーは、女騎士に声が届く距離に近づいた。
「私はゴガン州の領主、アーサーコンラッドです。どこの名のある強い武人かは存じませんが、ありがとうございます。私の町を強盗団から助けていただいて、心から感謝致します。」
すると、意外な展開になった。
「王子様。お久し振りでございます。」
「えっ? 」
「もうお忘れですか。数年前にお会いして以来ですから―― 」
女騎士が顔を上げてアーサーを見た後、頭につけていたかぶとをとった。
そこに現われたのは、鮮やかな赤い髪とエメラルドよりも美しく輝く緑色の瞳だった。
「あっ!!! 」
アーサーは全て想い出した。
「ロンバルディア王国のララさんですね。とてもすばらしくお変わりになられたのですが、完璧な美しさであることは10年たっても変わりません。」
「王子様。そのような最上のほめ言葉を、女性に使っては絶対にだめですよ。それにしても王子様も基本的には変わられていませんが、背がとても高くなられたのですね。」
「ララさん。お国から出て、なぜ、ここにいらっしゃるのですか。」
「先の戦いで王子様が偽りで逃げられた時、連合軍は全力で追撃しました。しかし、私が率いるロンバルディア軍はいろいろな情報を確認して、追撃には加わらず自分の国にいち早く撤退しました。」
「私の戦略を見抜いていた将軍が、連合国軍の中にいたのですね。半分ぐらいの兵がお亡くなりになったのですが、ロンバルディア軍は全員無事だったわけです。最大の功労者ですね。」
「国に帰り、国王様などから最大のお褒めをいただきました。しかし、連合国軍の他の国から強い圧力がかかったのです。撤退、敵前逃亡をした将軍を処刑しろと! 」
それを聞いた時、アーサーの顔は一瞬でとても険しくなった。
「大変でしたね。連合国軍の申し出はとても理不尽です。自分達の不甲斐なさを棚に上げてとても恥ずかしい言いがかりです。ララさんはたぶん、事前の軍議で私を警戒しろと言われたのでは。」
「はい。誰も聞いてはくれませんでした。もう、戦う前から戦勝ムードがただよっているくらいでした。」
「わかりました。ララさんは、ロンバルディア王国を逃亡されたのですね。」
ララはその場に泣き崩れた。
その様子を見て、アーサーは全てを理解した。
「ララさん。それではこうしましょう。あなたを私の貴下の将軍として召し抱えたいのですが、どうですか。」
泣いていたララの顔は一瞬にして明るくなった。
「喜んで、王子様の家臣の端に席をいただきます。」
「これは我が従者、ララさんと同じく騎士のメイナードです。もう、持っているからおわかりだと思いますが、世界最強の槍使いですよ。」
「存じております。たった1人の最強ために、連合国軍は一瞬、危ない状態になりました。そのため、その後の偽りの撤退が、偽りに思えないくらいでしたね。」
超美人が自分のことを知っていて褒めてくれ、メイナードは顔を真っ赤にして恐縮した。
「メイナード。あんまり顔を赤くしすぎると、フレイヤに怒られますよ、はははは――ララさん、この後、メイナードとともに私の視察に加わってください。」
「はい。王子様。」
ランカスター公爵の城の中にある丸太小屋の中のクラリスの居室だった。
彼女の前の空間に、スクリーンのようにある光景が浮かんでいた。
「これは、どうしましょうか……………… 」
「お嬢様。またのぞき見ですか。ハイペリオンはよく働きますね。」
「のぞき見なんて、ひどい言い方ですね。ハイペリオンの木に、アーサ様に悪しき心を映す力が近づいた時、自動的に私に知らせるように魔術をかけていたのです。」
アーサーは町に入ると、町長から周辺の地域の実情について説明を受けた。
「王子様。州都ハイデからとても遠いこの地域の一番の問題は、強盗や夜盗のたぐいです。さきほどは女騎士様がいらっしゃたから撃退できたのですが。」
「治安が悪いのは問題ですね。この町には、周辺の治安を守る砦をおく必要がありますね。どれくらいの兵力を駐屯させるかは、適正に決めたいと思います。」
「いかんせん。この地方では住民がお金をかせぐ手段が全くありません。しょうがないことですか。」
「それについては、解決策があります。」
アーサーは目を輝かせて町長に話した。
「私の信頼する相談役が、この地方の土地は見かけは低木と雑草、石ころだらけですが、土質はかなりよさそうだと。土地の利用計画をしっかり立てれば、大農産地帯になると言っています。」
「そうですか。是非、大農産地帯になれるよう、お力をお貸しください。私もがんばります。ところで王子様、今日は小さいながらこの町で御宿泊ください。」
「わかりました。ただ、いろいろ気をお使いになる必要はありませんから。3人分の夕食と部屋を用意していただければ十分です。普通の旅人と同様で良いですから。」
夜になり、アーサー、メイナードそれにララは宿に案内された。
歩いている途中、一瞬ララがアーサの横に並び、こっそりと話しかけてきた。
「王子様。お願いでございます。私のことで内密に御相談したいことがあります。後で、お部屋にお邪魔してよろしいでしょうか………… 」
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