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13 王子は誘惑される

 魔王の前で控えていた暗黒騎士の全員が手を上げた。




「ほう、全員何か意見があるのか。それでは、その英雄に特に因縁の深い者の意見を聞こう。虚栄のララ、おまえは暗黒騎士になる前、その英雄と戦ったのだな。発言を許す。意見を述べるが良い。




 女性の騎士が立ち上がった。


 


 彼女はロンバルディア王国の騎士長の娘だったが、小さい頃から父に習練を受け、元々誰よりも才能があった剣の腕は国中の誰よりも強くなった。




 それに、同性の誰もがうらやむような美貌の持ち主で、異性は彼女の前に出ると緊張してうまく話せなくなってしまうほどだった。




 何もかも他人より勝っていた彼女は、他人からあこがれをもって見られることが当たり前だった。


 そして、全ての人を魅惑できるということに、ゆるぎない自信をもっていた。




 赤毛の髪は完璧な彼女の美貌を際立たせていた。


 反対色である緑色の瞳は強い輝きを放ち、エメラルド姫というあだなもついていた




「魔王様、私が適任です。」




「ほほう。適任とはどのような点か。」




「英雄を私が誘惑し、闇落ちさせ、悪しき心を映す世界の守護者にさせて見せます。」




 実は、虚栄のララは、闇落ちし暗黒騎士になる前にアーサー王子と2回会っていた。








 10年くらい前、この異世界は平和で、中心に位置する各国が争うことがなく多くの国が世界平和連合に加入していた。




 ただ平和な世界の中でも、人間は競うことが好きで、子供の鍛錬のため、各国の代表が木剣で最強を争う武芸大会が毎年開催されていた。










「今から準決勝第1試合を行う。ロンバルディア王国のララ、ルーン王国のガトリング、試合場に上がるように―― 」




 何万人もが観戦している中で男の子と女の子の2人の子供の剣士が上がった。




「いよいよ、実力者の2人の対戦だな。」


「特にあの女の子は超強いぞ。」




「男の子も強いぞ、だけどほんとうに子供か、大人の中に入っても断トツに大きいぞ。」


「女の子は美少女だぞ、なんと美しいことか。」




 試合が始まった。


 体の大きいガトリングが、巨大な木剣を信じられない速さで、さまざまな角度で振るい始めた。




 ブーン、ブーン、ブーン、ブーン


 ガトリングの剣の勢いで、空間を無理矢理切り裂く音が聞こえるほどだった。




 ところが、その剣は少しもララの体に当たることはなく、ララの体からはるかに離れた場所を通過した。




 見ていた観客には、いかにもガトリングがやみくもに剣を振り回しているように見えた。


(当たらない! 今までおれが正確に降り出す剣の軌道は全ての相手に衝突したのに。)




 ララの緑の瞳は輝いていた。


 ガトリングの動きを無限大のコマ送りにして、完全につかんでいた。




 最大のダメージを与えることのできる方向と強さを導き出した。




 そして、彼女は1回だけ剣を振った。


 ガトリングの大きな体は崩れ落ちるように倒れた。




 観客はララの実力と美しさ、特に視線で突き刺すような緑の瞳に魅了され大歓声が起きた。


 ララにとっては多くの人々の見つめられ、魅了してしまうことが最大の快感になっていた。




(みんな、私に魅了されているわ。私のとりこ、もう一生私を忘れないわ。忘れることは許さない。)




 ララは試合場から観客達を緑の瞳で見渡した


 自分を見てみんながハイな気持ちになっていることがわかり、彼女の虚栄心を十分に満足させた。




 ところが――




 たった1人、冷静な気持ちでいる者がいた。


 次に準決勝を戦うために、試合場のそばに控えていたアーサーだった。




 くせっ毛に大きな目、普通だったらとてもかわいらしい子供だった。


 ただ、ひたすら自分の前を見ていたアーサーは、恐いほど鋭い視線だった。




(なに。あの子。私のことに少しも関心がないなんて…………)




「今から準決勝第2試合を行う。ゴード王国のアーサー、サラゼン王国のシン、試合場に上がるように―― 」




 第2試合を戦う2人男の子が観客の前に姿を現わした。


 前の試合で美少女ララの戦いを見た後で、観客達はあまり盛り上がらなかった。




「どうせ、決勝戦ではこの2人のうちどちらかが、あの女の子の引き立て役になるだけだ。」


「あのくせっ毛の男の子。王子らしいぞ、ただ平民出の側室の子らしいが。」




 決勝戦に備えて試合場のそばに控えたララは、アーサーにとても興味をもった。




(私に興味を示さないなんて変な子。ずっと恐い顔を続けている。愛想が全くないわ。)




 試合が始まった。




 サラゼン王国のシンは各国に広く知り渡っている暗殺集団の出身だった。


 その剣は、目的となった対象と命を早く確実に奪うことに特化した剣だった。




 アーサーとシンは、剣を構えて向いあっていた。


 アーサーに隙が生じるのをシンは待っていた。




 シンは暗殺集団の中でも特に才能がある言われた子供で、向いあうとすぐに攻撃をしかけて相手を倒すことが容易にできた。




 しかし、今は違った。


 アーサーの構えには、ほんの少しの隙もなかった。




 シンはあせった。


(この王子、普通ではない。この構えは神のように完璧だ。)




 次の瞬間、信じられないことがおきた。


 シンが木剣を投げ捨て、その場にひざまずいた。




「負けました。神聖な力をその身にやどすゴード王国の王子様。」




 実は暗殺集団の中に特別な不文律があった。


 


 必要であれば剣を振るい全ての人間の命を奪え。


 ただし、神聖の力をその身にやどす者と対面した時に、剣は振るうな。




 最高に尊い英雄には勝てない。


 それからは、英雄のために自分の命をささげよ。

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