107 恐るべき真実5
戦いは激烈を極めていた。
美しき心を映す世界に侵入してくる魔族は絶えることがなかった。
それどころか、数を増やしているようにも見えた。
「大丈夫! 大丈夫! 必ず勝てるから! 」
アーサーはみんなを励ますように叫びながら戦っていた。
メイナード、ザラ、シン、ルルの4人もアーサーに負けないくらいの強さを見せた。
そのため、戦いは一端硬直状態になり、いつしか侵入してくる魔族が止まった。
そのタイミングを逃さないように、アーサーは急いで陣地の中に戻った。
そして、クラリスが横たわっている部屋に急いだ。
「クラリスさんの様子に変化がありましたか。」
アーサーはヒール魔術をかけ続けているメイに聞いた。
その問いに、メイは少し明るい顔で答えた。
「もう大丈夫です。なぜだかわかりませんが、お嬢様の体に少し魔力が回復しました。精神の混乱も回復したようです。心が正常に動き始めました。ただ、意識が戻るまでにはもう少し時間がかかりますが。」
「よかった!!! 」
アーサーの顔に明るさが戻った。
持ち前の明るさが戻ると、彼は戦いの行く末を考えた。
(いったい。魔族はどのくらいの数いるのだろう。魔王が消えた今、誰が魔族達を統率しているのだろう。美しき心を映す世界と戦うのが、彼らの本能なのだろうか。)
クラリスの美しい青い瞳の魔眼に灯っていた光りが消えた。
「わかりました。美しき心を映す世界と悪しき心を映す世界との関係を決めているものがあります。2つの世界を対立させ不安定にしているものを壊すのです。」
「それは何か。」
「天秤です。私は見ました。誰かの手が天秤にさわり、両側の皿が大きく揺れました。」
「それはどこに。」
「超次元にある空間で、本来であれば誰もたどり着くことができません。でも、今いるこの場所からはそんなに遠くの場所ではありません。しかし―― 」
「何か不都合が。」
「そこへ移動するための転移魔法を実施する魔力量が私にはありません。」
クラリスが悲しそうにそう言った時、アスモデウスは精一杯笑いながら答えた。
「なんだ。そんな簡単なことか。今、私には大量の魔力がある。それを進呈する。」
そう話した後、アスモデウスは200年前のことを想い出した。
(エマの前でも、よくこうした。英雄としてたくさんの戦いに出かける時、いつも不安でたまらなかった。そして、エマに「大丈夫」って聞かれると、無意識に精一杯笑った。」
「どのくらいの魔力が必要か、わかりません。魔王アスモデウス様、私が転移先をナビしますので、御自身で行っていただけませんか。」
「大丈夫。大丈夫。私は悪しき心を映す世界の守護者魔王アスモデウスだ。それに、戦いの前に魔力をフル充電している。その、ほんの一部をあげるだけだから。」
今度もアスモデウスは精一杯笑いながら答えた。
クラリスは少し考えた後、深くおじぎをした。
「それでは、魔力の一部をいただき転移します。」
「よし。それでは早く始めよう。暗闇と光、それは敵ではない。お互いに支え合うため存在するもの。魔王アスモデウスが保有する全ての魔力を光の守護者にささげ、暗闇と光の行く末を守らん!!! 」
詠唱の内容を聞き、クラリスは驚いた。
「止めてください。このような異次元の中で全ての魔力を私に渡せば、存在が危うくなります。」
彼女は必死に止めたが、既に莫大な魔力の供給が開始されており動くことができなかった。
その後、魔王アスモデウスは少しずつ、きれいな光りの玉になり消え始めた。
「魔王アスモデウス様。どうして、私のために命を投げ出していただいたのですか。」
「魔王アスモデウスではなく、英雄アスモデウスと呼ばれていた時、最愛の人のためにやってあげられなかったことがたくさんあった。あなたと英雄の未来に多くの《さち》あらんことを―― 」
姿が完全に消えたアスモデウスに対して、クラリスは深くおじぎをした。
やがて、強く決意を秘めた表情で彼女は転移魔法陣を構築し、そして言った。
「我を移動させよ。美しき心を映す世界と悪しき心を映す世界との間の理ことわりを定めている天秤の元へ。」
クラリスは転移した。
そこは白を基調にしたシンプルな空間だった。
不思議なことにそこに巨大な机が置かれており、その上に天秤が置かれていた。
比較するとクラリスはとても小さかった。
「この机は誰が使うのかしら。きっと、巨人に違いないわ。」
彼女は天秤を消滅させることにした。
魔眼で見ると、消滅魔法で分解できることがわかった。
すぐに彼女は天秤に向かって消滅魔術をかけた。
「ディスアピアー!!! 」
一瞬にして天秤は消滅した。
その時、その空間に巨大な振動が起きた。
やはり巨人が現われたのだ。
彼女はすぐにこの空間から転移することにした。
自分が元いた美しき心を映す世界に向かう転移魔術を構築し発動した。
巨人がクラリスの気配に気がつき、視線をそちらに向けたが、既に彼女は消えていた。
美しき心を映す世界では、しばらく魔族の侵入は絶えていたが、再び始まった。
悪しき世界の様子を監視していたエルフが、緊急の知らせを告げた。
「アーサー司令官様。悪しき世界から魔族の侵攻が再び始まりました。」
「その数は変わりませんか。」
「いえいえ、その数はさらに増えています。」
連絡を受けたアーサーは外に出て、侵入してくる魔族達を確認した。
すると、信じられないほど魔族の数が増加していた。
しかも、なぜか、全体が無秩序に混乱しているようだった。
アーサーは弓矢隊に指示した。
「射手の数を増やして、弓矢の雨をもっと激しくすることはできますか。」
「わかりました。エルフの名にかけて、無限の矢が降り注ぐようにしてやります。」
地上で待受ける態勢も、できる限り堅固なものにしようとした。
「障害物をうまく配置して、最後に上級魔族達を迎え撃つ場所の幅をできる限り狭くします。それで、2人一組でその場を守り交替しながら、疲労で勢いが衰えないようにします。」
「メイナードとシン、そしてザラさんとルルさんで組になってください。私はさらに前衛で、上級魔族の数をできる限り減らします。」
メイナードが心配して言った。
「それでは、アーサー王子様にかかる負担がとても大きくなってしまいます。」
「大丈夫です。英雄として恥ずかしくない働きをしたいのです。」
そう言いながら、アーサーは既に陣地の外に向かって歩いていた。
ほんとうは、意識を失っているクラリスの顔を見てから戦いに出たかった。
しかし、そうすると自分の足が動かなくなってしまうようでこわかった。
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