105 恐るべき真実3
巨大ドラゴンの上に乗っていた魔王アスモデウスは気がついた。
自分のはるか下の地上に、アーサーが歩いてきた。
「あれが、現在の英雄アーサーか。相当なオーラーを身にまとっている。ゲールよ。私を下に下ろせ。」
魔王が巨大ドラゴンに命令すると、雷のようなうなり声をあげて地上すれすれまで高度を下げた。
その後、魔王は飛び跳ねるように地上に降り立った。
そして最後は、わずかな距離を隔ててアーサーと対面するような位置まで歩いて行った。
「初めてお目にかかる。私が魔王アスモデウスだ。どうも、現在の英雄は、美しき心を映す世界の守護者である魔女と相性が良いのだな。2人が力を尽くして、私の暗黒騎士達が起そうとした災厄をことごとく防いだ手段は見事だ。」
「はい。とてもすばらしいパートナーがいて幸運でした。9つの災厄、9つの国を救えたのは奇跡に近いと思っています。そして、私は10番目の災厄も必ず防ぎ、この美しき心を映す世界を守り抜きます。」
そう言った後、アーサーにはめずらしく、魔王に対して先制攻撃をかけた。
最短で最速の剣の軌道だった。
気持ちを集中させ最大の威力が剣先に乗せられていた。
ところが、魔王アスモデウスは自らの剣を抜くとともに、いとも簡単にアーサーの剣を受け流した。
その後もアーサーの剣の連打は続いたが、魔王は同じように連打を受け流した。
かなりの間、自分の攻撃は全く魔王に届かなかったが、アーサーはかまわず剣を振り続けた。
彼は無意識に、その連続攻撃の速さと手数てかずを増加させていた。
そして、増加の割合は加速度的に増えていった。
やがて、最後には――
アーサの剣は魔王の甲冑をとらえた。
甲冑の上からだったが、それは大きなダメージを魔王に与えた。
一瞬、魔王アスモデウスはかなりの距離を飛んで、後ろに下がった。
魔王は間をとった。
「見事に私の体に剣を当てたな。甲冑の上からでも私の体に剣を当てたのは、ここ200年で英雄アーサーが初めてだ。」(すると、大いに期待が持てるな。)
そう言うと、魔王は自らの暗黒のオーラを手の上に集中させ始めた。
美しき心を映す世界の天井に、悪しき心を映す世界の深い闇とつながった黒い穴が開いた。
そして、その穴から竜巻のように巨大な暗黒のエネルギが、魔王がいる地上におりてきた。
「英雄アーサーよ。ほんとうに申し訳ない。ここからがお約束の、魔王としての戦い方だ。武器とするのは人間が使う剣だけではない。魔力を使って攻撃させてもらう。」
魔王アスモデウスはオーラを集中させた右手をアーサーに向けて振った。
右手からは、暗黒のビームが発射された。
それは瞬時にアーサーの体に到達し貫通するかと思われた。
ところが、暗黒のビームは彼の体に届かなかった。
アーサ-は自分に向かって発射されたビームを、正確に捕らえて剣で切った。
彼の剣には英雄としての神聖のオーラが集中していた。
魔王アスモデウスは言った。
「歴代の英雄は、神と同じように人間の希望をその身にやどす。しかし、神聖のオーラを剣先に集中できる者はこれまで全くいなかった。私がよく知っている英雄も不可能だった。」
その後、魔王は同じようにアーサに向けて暗黒のビームを連射した。
しかし、結果は全く同じだった。
魔王アスモデウスには、わかった。
「そのようなことができる最強の英雄になったことがわかったぞ。英雄アーサー、ほんとうは弱いだろう。自分でも最弱だと認識しているだろう。自分に、ほんの少しの自信もないだろう。」
「はい。そうですね。私の心はとても弱いのです。いつもくよくよし、過去のこと。現在のこと。未来のこと。全部、考えずぎるほど考えてしまいます。」
「考えるのは自分のことではなく、他人のことばかりではないのか。」
「よくわかりますね。だけど、私は隠す必要はないと考えています。最弱であることが私の誇りです。」
アーサーがそう言ったことを聞いて、魔王アスモデウスは心の中で思った。
(最弱で最強ということか。そして、英雄の危うい組み合わせを見事にカバーしている者がいるな。)
その時、魔王アスモデウスは地上からの視線を感じた。
2人の戦いを見ているとても強い視線を感じた。
(美しき心を映す世界の守護者クラリス―― )
その時、魔王の心の中に、これまでの災厄を一緒に戦った2人の思念が流れ込んできた。
毎日、毎日、お互いに支えながら戦い2人の気持ちは強くつながっていた。
(そうか、運命の2人だったのだな。だけど、申し訳ない。別離が近い。互いに敵対する関係になるのか。この2人は知っているのか。ああそうか、知っているのはクラリスだけか。)
魔王アスモデウスは200年前に、悲しい別れをした最愛の恋人エマを想い出した。
そして、なぜか、エマが自分に話しかけ、お願いごとを言っているように感じた。
エマは他人のことを思いやることができる優しい人だった。
「アスモデウス。お願い。お互いに深く愛し合っている2人を不幸にしないで。私以上に彼女は永遠に苦しむでしょう。」
(では、どうすれば―― 英雄から魔王になってもう200年。この永遠に続くと思われた地獄から私が逃げるためには、アーサーを不幸にし、クラリスを不幸にするしかないのだ。)
魔王アスモデウスは、攻撃を開始した。
暗黒のビームを連射するとともに、剣を連打した。
それは、彼が今まで出した限界に近い強烈な攻撃だった。
ただ、押されている中で彼は魔王の攻撃をその目でしっかりと見ていた。
(魔王アスモデウスの攻撃をよく見るんだ。そして、きっとやって来る唯一のチャンスを逃さないようにするんだ。かならず、その時は来る。本能が予言している。)
クラリスは地上で、アーサーと魔王アスモデウスの戦いを魔眼で見ていた。
さきほどまで泣きはらしていた青い瞳は、依然として悲しみににじんでいた。
ただ、彼女は決心していた。
そして、それを実行する時がきた。
魔王アスモデウスといえども、限界近くの力を使い続けた影響が現われる時がきた。
それは、ほんのわずかな一瞬だった。
魔王がアーサーに振った剣の軌道に、ほんの少しだけずれが生じた。
その結果、魔王が予想していなかった態勢が生じた。
反対に、それはアーサーのチャンスだった。
魔王の剣をかいくぐって、アーサーは剣を振った。
それで勝負は終わるはずだった‥‥‥‥




