101 第9の国の災厄7
悪しき心を映す世界の魔王城にいた魔王アスモデウスは感じた。
「副王イブリースが破れ、完全に消滅したか。やはり、神のギフトはきまぐれで限界があったのだな。最強である時間には限りがあった。そして、英雄アーサーはその時間を耐え抜いた。」
イブリースは、ゴード王国の農業が盛んな地域にある小さな村に生まれた。
子供の頃から清く正しく、神の教えに従った。
そして、15歳になっていた。
ある時、自分より小さな子が川に落ち流されているの見た。
彼は無意識に川に飛び込み、自分の力を振りしぼって泳ぎ、小さな子に追いついた。
しばらく2人で流されていたが、川の真ん中に突き出ている岩に取り付いた。
そして、自分の最後の力を振り絞り、小さな子を岩の上に押し上げた。
力を使い切った彼は、再び急流に流された。
「よかった‥‥ あの子は助かる‥‥‥‥ 」
その後イブリースは意識を失った。
彼は大量の水を飲み、命は果てた。
魂が天国に行こうとした瞬間、イブリースを呼ぶ声がした。
「イブリース。イブリース。目を開けなさい。」
イブリスが目を開けると、全身が真っ白な服装の女神が言った。
「あなたが神を信じる信仰心は大したものです。他人に尽くそうとする心は、とうとう自分の命を犠牲にしてしまいましたね。ここ数百年間、あなたのように神の御心を実現した人は現われませんでした。」
「神様。おほめいただきありがとうございます。私の心は十分に満足し、喜びで満ちあふれています。天国に行けるのでしょうか。」
「すいません。イブリース。神はあなたに与えたくなりました。だから100の命を与えます。あなたに、その命を有効に使っていただきたいのです。神の御心を実現させるために―― 」
「はい。御心のとおり、御心を実現させるために使わせていただきます。」
「ありがとう。もう1つ加えます。神の御心を実現するために戦わなければならない時がくるかもしれません。その時がきたら、あなたに与えた命を犠牲にすることで、世界最強になることができます。」
「世界最強ですか。そのようなことが必要なのでしょうか? 」
「必要ですよ。世界は笑って済むような理想で動くわけではないのです。ただ、ごめんなさい。命を犠牲にしたといっても、世界の理ことわりをねじ曲げて作る世界最強ですから、時間は限られます。」
イブリースの意識は戻った。
気がつくと、水の流れから押し出され、蛇行している場所の川原に倒れていた。
それからも信心深い彼は神の教えを忠実に守り、成人してからは教会の牧師になった。
村人の問題や悩み事に一生懸命に対応した。
そして、全ての問題や悩み事を完全に解決してしまった。
その日解決したのは土地問題だった。
農民の夫婦が教会にお礼に来ていた。
「牧師様。ありがとうございます。私達の畑を強奪しようとしたならず者達は全ていなくなりました。」
「ほんとうによかったです。私はならず者達の前に出た時までは覚えていますが、それから記憶に空白があります。気がついたら、自分の前に頭目の死体があり、大勢の手下の姿は消えていました。」
「私達は見ていました。体の大きな頭目がイブリース様の前に立ち、剣を振るいました。それをイブリス様はことごとく避けられました。そして頭目の刀を取り上げ、逆に頭目を切りました。」
「いえいえ。見間違いでしょう。私はそんなに強くありませんよ。いずれにせよ、ほんとうによかったです。これからも、私はこの村を守っていきます。御安心ください。」
農民の夫婦は深くおじぎをして、教会から去っていった。
イブリースはたった1人で礼拝堂の中にいた。
彼は大声でどなり始めた。
とてもイライラし、礼拝堂のあちこちを蹴りまくった。
「なんだ! これで今月に入って10件目だ。さまざまな悪人達が、この村の人々を苦しめようと次々とやってくる。国は何をやっているんだ。もう10の命を犠牲にして、最強にならなければいけなかった。」
すると、どこからともなく声がした。
「信心深き人よ。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」
イブリースは幻聴だと思い、そのまま黙っていたが、さらにそれは繰り返された。
「信心深き人よ。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」
「…………」
「信心深き人よ。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」
「思わない!!! 」
「私に答えてくれた。お礼に姿をお見せしよう。」
壁のはるか上の小さな窓から、黒い影が礼拝堂の中に入ってきた。
黒い影は礼拝堂の中にいたイブリースの前の空間に留まると、だんだん実体化し始めた。
やがて、その姿は魔王の姿に変わっていったが、牧師であるイブリースに恐怖心は起こらなかった。
「失礼する。私は魔王アスモデウス。悪しき心を映す世界の王、魔界の王と言った方がわかりやすいかな。イブリース、美しき心を全部否定して、悪しき心を賛美する者にならないか? 」
「悪しき心? 私の中にある? 」
「あるぞ。絶対だ。自分の信じるものを完全に信じる者の宿命だ。神ではなく私のことを完全に信じ私と契約するだけで、私は特別な力を与え、神の矛盾した束縛から逃げることができるようになる。」
「…………わかりました。魔王様。あなたを完全に信じる絶対を賛美し、あなたの忠実な家臣になります。」
その答えを聞いた途端、魔王は右手をイブリースに向かって差し出すと、そこから黒い光りが放射されララを包んだ。
黒い光りが強くなりイブリースの姿が見えなくなった後、突然黒い光りは消え、その中から黒い甲冑に身を包んだイブリースが現われた。
「暗黒騎士、絶対のイブリース、我についてくるが良い。」
「御意。今、道を作ります。」
イブリースは礼拝堂の天井に向かって剣を一閃させた。
すると、天井は大きく切り取られ、外とつながり外気が吹き込んできた。
空には、たくさんの星々の光りが瞬またたいていた。
その後、イブリースと魔王は空にジャンプした。
飛びながらイブシールは振り返り、牧師として努めていた教会の礼拝堂をはるか下に見た。
そして、右手を礼拝堂に向かって振った。
黒い光りが礼拝堂に向かって放射された。
それは礼拝堂に当ると広範囲に拡散された。
礼拝堂はあとかたもなく粉々となって崩れた。
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