100 第9の国の災厄6
魔族に占拠されている王宮の追手門が開いた。
そこに姿を現わしたのは、1人の暗黒騎士だった。
回りの空間が彼の巨大な力の影響を受けて、深い暗闇に包まれた。
そして姿を現わした途端、そのエネルギーが強風となって吹き荒れた。
強風は王都イスタン中をガタガタと激しく揺らした。
その強風はゴード王国軍が陣を構える城壁にも達した。
クラリスは感じ取った。
「今、王宮の方向で莫大なエネルギーを発生する存在が現われました。これはたぶん、暗黒騎士イブリースでしょう。」
「私が出ましょう。」
アーサーが言った。
「アーサー王子様。私も家臣として、王子様の負担をできる限り減らします。」
メイナードが言った。
「私は純白騎士だから、暗黒騎士と戦うのは当然ですよね。」
ザラが続いた。
「2人ともありがとうございます。援護をお願いします。」
クラリスがとても険しい表情でアーサーに言った。
「アーサー王子様。古来から、人間に希望を守る英雄は神から与えられたさまざまな苦難に勝ち抜きました。たとえ、神が与えた最強と戦っても必ず勝機はあります。」
そして、自らの最大の魔力を右手に込めて、アーサーの髪の毛にさわった。
アーサーの頭を四葉のクローバで作られたかんむりが包んだ。
彼女は伝心魔術で、彼をどれほど愛しているか、心の中に秘めていたものを全て伝えた‥‥
「今の気持ちを正直に言えば、とても怖いですけど、人間界最強の2人に援護され、クラリスさんからギフトをいただきました。私は必ず勝ちます。これは私の義務です。」
王宮の王手門から続く王都イスタンのメインストリートが、神のエネルギーを運んできた。
それは、神の力で世界最強になった副王イブリースが体から放つものだった。
ところが、その神のエネルギーに反発するかのように途中で立ちはだかった者がいた。
ゴード王国第3王子、英雄アーサーだった。
「私にとって、人間は取るに足らない存在ですが、中にはとても気にさわる人間がいます。それは、あなたのように、どんな場合でも希望を捨てずに戦いを挑んでくる人々です。」
そう言った後、イブリースは剣を抜いた。
神から与えられた神剣だった。
それに対してアーサーも剣を抜いた。
それはゴード王国で、希代の名人と言われた刀鍛冶が打ったものだった。
即座に、両者の剣はぶつかった。
イブリースの剣の重さと速さは、やはり最強と言われるものだった。
アーサーは体制を大幅にくずされたが、やっと持ちこたえることができた。
「最強になった私の剣を1回でも受けきることができれば、人間の中でも相当の力があると言えますよ。しかし、2回目を受けきることができる人間はほとんどいない。」
そう言うと、イブリースは1回目の数倍の威力とスピードで、アーサーに剣を振った。
アーサーは自分の剣で受け止めることはできたが、体がはるか遠くに吹き飛ばされた。
彼は建物の叩きつけられたが、よろよろと動き、立ち上がった。
「2回目を受け止めましたね、過去1人いたかどうか記憶にありません。さすがに、歴史上、唯一無二の英雄ということですか。しかし、3回目は無理です―― 」
イブリースは信じられないほどの速さでアーサーとの距離をつめた。
そして、最高最大の力で剣を一閃した。
イブリースの剣がアーサーに届こうとして瞬間だった。
剣の軌道が何かに変えられそれた。
それはメイナードが渾身の力をこめた、槍の突きだった。
反動でメイナードは、はるか遠くに跳ね返され叩きつけられた。
それはあまりの衝撃で、メイナードは気を失っていた。
「人間の世界で史上最高の槍使いですか。我が剣をそらせただけでも大したものです。でも、もう立つことはできませんね。英雄の命の時間が、わずかに伸びただけです。」
イブリースは再び、氷のように冷たい目でアーサーを見た。
アーサーはなんとか剣を構えていたが、足下がおぼつかなかった。
「それでは、これで完成です。最強の英雄が死んで、悪しき心を映す世界が勝利し魔王アスモデウス様が全てを統治されます。」
最高最大の剣がアーサーに向けて振り落とされた。
しかし、それはアーサーには届かなかった。
ザラが自分の剣で受け止めていた。
「ザラか。裏切り者め、やはり自分の姉の側についたか。どけ。」
イブリースは渾身の力でザラを振り払った。
ザラは、はるか遠くまで吹き飛ばされた。
既に彼女は意識を失っていた。
「2人の邪魔が入ったおかげで、英雄の命の時間がかなり伸びてしまった。」
副王イブリースがアーサーの方を見たが、そこに彼の姿はなかった。
代りに、いつの間にか接近していたアーサーが連続して剣を振った。
何百何千回もアーサーは剣を振り続け、その間、一撃もイブリースに当てることはできなかった。
イブリースは余裕で受け流していた。
――――――
それは永遠に続くと思われたが、違った。
とうとう、アーサーの一撃が暗黒騎士の甲冑に届いた。
そして、それからアーサーの降り出す剣はことごとく当たり始めた。
最後には暗黒騎士の甲冑は割れて、イブリースの生身の体を一閃した。
イブリースは倒れた。
その場に倒れながら、アーサーに彼は言った。
苦しそうな声だが、とても冷静だった。
「とうとう。きまぐれな、神の手から逃げることができた。英雄アーサー様、神に最悪な場面を与えられたとしても、それは永遠ではありません。人間は必ず克服して、神に勝つことができまるのですね。」
機械のような表情だったイブリースが、にっこりと微笑んだ。
そして彼は美しいたくさんの光りの玉になった後、消えていった。
クラリスとメイが急いで戦いの場に駆けつけた。
メイは、メイナードとザラに近づき、ヒール魔術をかけた。
アーサーにはクラリスがヒール魔術をかけた。
「クラリスさん。私はなんで勝つことができたのでしょうか。」
「たぶん。イブリースを最強にする神のギフトの効力は、永遠に続かないということだと思います。2人の援護もあり、アーサー王子様が戦いの時間を延すことができたから、効力が切れたのですね。」
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