10 美しき心が映す世界、意外な出会い
その世界には、さまざな色の花々が咲き乱れていた。
たくさんの色の花々は互いに相手を引き立て、全体として完全に調和していた。
はるか彼方までその光景は続いていた。
そして、花々の間を何か小さなものがいっぱい飛び回っていた。
「クラリスさん。何かたくさんのものが飛んで、すばやく動いていますが? 」
「アーサー王子様、妖精ですよ。たぶん、王子様は妖精に好かれると思います。楽しみです。」
「えっ、妖精ですか。あっ、よく見ると確かに羽がはえた人間のような姿をしています。」
すると、飛んでいた妖精の一人が2人に気がついた。
「あっ。魔女様がいるよ。一緒にいるのは英雄! 美しき心を守る人だ! 気高き人! 」
最初は少しずつ、そしてだんだんその数は多くなり、最後には大群となり2人の回りは妖精だらけになった。
飛んでいた妖精がたずねた。
「真実に至る魔女の娘、クラリス様。お隣にいる英雄のお名前を教えてください。」
「この背の高いイケメンはアーサー王子様よ。今日は一緒にピクニックに来たの。」
「英雄がいるだけで、僕達は元気になれます。ゆっくりしていってください。」
「じゃあ、みなさん。私と王子様を2人だけにしてくれませんか。」
「はーい。わかりました。」
そう言うと、妖精達の姿は急に見えなくなった。
「王子様。あそこに小高い丘がありますね。あそこに登ってお昼にしましょう。」
クラリスはアーサーの前を先導して、丘を登り始めた。
登り終えると景色は最高だった。
はるか彼方まで美しかった。
2人はそこにシートを敷いて並んで座った。
ちょうど良い気温で、ここちよい、そよ風が吹いてきた。
「このそよ風は、妖精達のプレゼントですね。さあどうぞ、今日はサンドウィッチを作ってきました。お口に合えばうれしいのですが。」
アーサーは進められるまま、サンドウィッチを食べ始めた。
口にいれた途端、最高の味わいだった。
「う――ん。最高です。こんなにおいしいサンドウィッチは食べたことがありません。特にこのジャムはおいしいですね。なんの果物かはわかりませんが、とにかくおいしいです。」
「ありがとうございます。作りがいがあります。そのジャムの原料となった果物についてお教えしましょうか。」
「ええ、何でしょうか。」
「イチゴ、なし、ブルーべーリーなど、それぞれのの果物味が最高に引き立つ割合で混ぜたものです。魔女が生み出した最高の調和には魔法の効果があるのです。」
「どのような効果ですか。」
「ふふふふ。食べると、そのジャムを調和した人をとても好きになってしまうのですよ。アーサー王子様はもう私にメロメロのはずです。」
「え――――っ! それでもかまいません。あの、すいません。後、何個かいただけますか。こうなったらどんどん食べて、クラリスさんの完全奴隷になりメロメロになります。」
「ごめんなさい。うそです。でも、どんどん食べてください。たくさん作ってきましたから。それから、飲み物もあります。サンドウィッチによく合う新鮮なミルクです。」
「はい。遠慮無くいただきます。」
美しき心が映す世界の空は、クレヨンで描かれているようだった。
最高の青色の中に、優しそうな太陽が浮かんでいた。
太陽の光りはポカポカ陽気で2人を包んだ。
満腹になったアーサーは眠くなってしまった。
「クラリスさん。すいません。私はとても眠くなってしまいました。このところ、いろいろな事で緊張した毎日が続いて、このように眠くなることなどなかったのです。もう、がまんできません。」
「アーサー王子様。それでは、私のひざを枕にしてしばらく眠ってください。」
「すいません。もうだめです。よろしくお願いします。」
アーサーはクラリスにひざ枕をしてもらって深い眠りに落ちた。
2人にとって、あたたかくて優しい時間が続いた。
しばらくして、2人がいる小高い丘を照らしていた光りがさえぎられた。
空に大きな手で、黒いおおいがされたようだった。
クラリスの顔が険しくなった。
「ザラ! 」
おおきな声がした。
「おやおやおやおや、お姉様。ものすごいイケメンにひざ枕をしているじゃないですか。」
空に浮かんだ大きな手の黒い影から、何かがジャンプして落ちてきた。
最初はものすごく早かったが、地面が近づくに連れてゆっくりと落ちてきた。
そして、丘の上の空中に止った。
全身黒ずくめの甲冑に身を包んだ女騎士だった。
髪の毛も黒色、瞳の色は青色でクラリスにとてもよく似ていた。
ただよく見ると、透き通った海のようなクラリスの青い瞳とは違い、青い瞳は深海のようだった。
「ザラ。今日は何をしに落ちてきたのですか。ここは、あなたがいるべき世界とは全く反対、お願いだから無用な戦いを起さないでください。」
「反対の世界の勢いが強くなったので、見に行くようにと我が主に言われたのです。やはり、英雄がこの世界にいて、神聖の力をまき散らしているじゃないですか。私の世界に攻めてくるのですか。」
「そんな気持ちは全くないわ。そもそも、この『美しき心が映す世界』と、あなたがいる『悪しき心が映す世界』は対になって存在するもの。反対の世界だからといって排除することはないわ。」
「そうですか。でも私はお姉様の全てを排除したい。なぜかというと、私は人の幸せが許せない『ねたみのザラ』だから。こうするの―――― 」
そう言うと、ザラは剣を抜き、いきなり空中から2人に向かって剣を振り下ろした。




