第九話 歓迎の宴ー中ー
中央に進み出たのは、奏和宮の者たち。
彼らは宴と雅を司る芸の精鋭であり、
その動きひとつにまで礼法と美が宿っていた。
琵琶と笛が重なり、
舞姫と舞士が左右より進み出る。
糸のような袖を翻しながら、ゆるやかに舞う。
灯火の明かりが絹の裾を照らし、
音と香が溶け合ってゆく。
私は息を呑んだ。
――美しい。けれど、どこか完璧すぎる。
それは、人の熱を排した宮廷の美だった。
やがて曲が終わり、帝がゆるやかに掌を打つ。
「見事だ。だが、今宵は新しき風を見たい」
その声に、殿の空気がわずかに動いた。
帝はまっすぐにこちらを見つめ、唇に微笑を刻む。
「弦、佳恋。そなたらも、見せてみよ」
一瞬、胸が跳ねた。
鼓動が耳の奥で鳴り響く。
私は立ち上がり、中央へ出た。
佳恋は袖を整え、静かに私に目をやる。
「大丈夫、合わせるから」
その囁きに頷き、
私は膝をついて弦を張った。
――音が生まれる。
張り詰めた空気を切り裂くように、
深い旋律が流れ出した。
佳恋の舞がそれに寄り添う。
袖が風を掬い、裳裾が波のように揺れる。
私の指が動くたび、彼女の体が応える。
即興――けれど、奇跡のような一体感。
終わると同時に、静寂が落ちた。
一拍ののち、殿に拍手が広がる。
帝がゆっくりと頷き、私の目を見据えて言った。
「さすが透真の娘だ」
笑い声が広がり、私はただ、背筋を伸ばすしかなかった。
周りから熱い視線が降り注ぐ。
見上げると、一人の男が立ち上がっていた。
――このお人が、私の父か。
「陛下。娘がこのような場で演奏できたこと、光栄に存じます。
……ですが、一つだけ、お訊ねしてもよろしいでしょうか」
宴の空気が再び緊張に包まれる。
帝の笑みが、わずかに消えた。
「申してみよ」
「なぜ、私の娘は宮廷に招かれたのでしょうか」
笑いが止まり、杯が置かれる音だけが響いた。
――その問いは、私自身がずっと聞きたかったことだった。
「家族団欒はよいもの……だが、朕の機嫌を損ねるとは。恥を知れ」
その声には冷たい威圧があった。
そこで、一人の四芸が立ち上がり、頭を下げた。
「あ……あの……陛下。贈り物をさせてください。
新しき二人に……祝いの品を……」
沈黙。
帝が笑い、手を振った。
「よかろう。澄江――持て」
墨の香りを纏う、画師の芸「墨」を持つ澄江様。
彼はゆっくりと歩み出て、二つの絵巻をそれぞれ私と佳恋に手渡した。
「これは、音と舞の絵です」
絵巻――そこには、何も描かれていなかった。
「ありがとうございます、澄江様」
佳恋が柔らかく笑みを浮かべ、まるでそこに美しい絵が見えているかのように言った。
私は遅れてその声に気づき、
「……ありがとうございます」と、かすかに返す。
澄江はふとこちらを見て、微笑んだ。
「……部屋に飾ると……いい」
そう言って、席に戻った。




