表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
芸ノ譚  ―弦は盤上に堕ちて―  作者: 宮山悠
第一章 定めの盤上へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/11

第三話 響かぬ音

華京の門をくぐった瞬間、騒めきが耳を刺した。

こんなに賑やかな場所は初めてだった。

叫び声、笑い声、馬車の軋み。耳が痛くなるような騒音があたりを満たす。


宮廷への道には長い列が続く。

今日は競演の最終日らしい。

それでも、終わらぬ者がこんなに――終われるのか、と思う。

私はただ、休める場所が欲しかった。


灰爺の金子で、小さな宿をとった。今日は休むことにした。




翌朝、街が叫びで沸いた。


「結果が出たぞ!」


宿の窓から頭を出すと、舞の勝者が決まったらしい。

佳恋という少女。花街の第一の姫だという。


男たちは騒ぎ、悔しがる。


「もう二度と会えねえ!」

「行って欲しくなかった!」


女たちは囁き合う。


「宮廷に行って良かった。もう夫が花街に通わなくて済む」

「目ざわりだったわ」


なるほど。魅惑の女だ。


華京は完全な実力主義だと分かった。

才があれば羨まれ、才がなければけなされる。




私は琴を手に、稼ぎに出かけた。

人が多めの広場を選び、静かな曲を爪弾き始める。母の旋律。

湖畔の風、葦の囁き。


だが、ここではまるで浮いていた。

華京の芸は、強く目立つ「音」で勝負するものばかり。

私の静かな音は、この喧騒に溶けなかった。


それでも、いつの間にか人が集まり始めた。


「お嬢ちゃん、初めて聞く音だ」

「競演に参加したか?」

「こんなんじゃ抜けられねえ。平凡だ」


賛否両論が両耳を刺す。

私は気にしない。弾くだけでいい。




そのとき、馬車が私の前に止まった。

金と絹で飾られた、豪華な馬車。


「皇妃の馬車だ!」


人々が騒ぎ、一斉に跪く。

私は琴を抱えたまま、呆然と見つめた。


皇妃の手が窓から現れ、使いの者に封筒を渡す。

使いの者は私の前に進み、それを差し出した。

少し躊躇したが、受け取る。


馬車は去った。周りの声が弾けた。


「皇妃に気に入られたな」

「お前、もう皇妃の人間か!」


ざわめきが耳を刺す。

私は封筒を握りしめ、ただ立ち尽くした。




宿の主人が現れた。


「はいはい、解散、解散!」と叫ぶ。

人々は渋々散った。

主人は私に目を向ける。


「お嬢ちゃん、客が待っている。ついてきてくれるか?」


「……はい?」




私は今、ひどく戸惑っていた。

華京に知り合いはない。あの男を除いて。

だが、彼は私がここにいることを知るはずがない。

それに、王妃の馬車が現れたタイミングがあまりにも絶妙だった。

まるで、私を待っていたかのようだ。


灰爺の言葉が頭に蘇る。

「一番安全で危険な場所」


旅人の声も重なる。

「この先、巻き込まれるぞ」


琴を抱き直し、私は深く息を吸った。

新しい世界が、今、目の前に広がっている――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ