表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/501

92話

「多人数用入場チケット、だと?」


ちっ。虎は口にタバコをくわえた。


少しうんざりした表情だ。苦労を重ねてきたという回帰者も、やはり戸惑っているようだった。


「そんなものが……可能なんですか? 星位が影響力を行使できる範囲は、自分の化身に限られているはずですが。それがバベルのルールですし。」


バベルは星と人間を結ぶ中間地点であると同時に、濾過装置でもある。例えば、世界というサーバーがダウンしないように、適度に選別する管制塔のようなものだ。


星々は、そんなバベルが公証した『星約』を通してのみ、その存在感を示すことができた。いかに偉大な星であろうと例外はない。


しかし、光がある場所には影もある。


世の中には、いくら先生が「ここでそんなことをなさると困ります」と泣きついても、「知ったことか」と耳をほじくるバランスブレイカーも存在するのだ。


【あなたの聖約星、『運命を読む者』が、世界のルールなどこの身の超越的で偉大な愛の前では取るに足らない塵に過ぎないと鼻で笑っています。】


【うちの可愛い子ちゃん、見てるか? あなたの星のような瞳に乾杯、聖約星がしっとりとウィスキーグラスを掲げています。】


「お星様、何かやったみたいで浮かれてるな。」


「できるらしい。」


「どんな原理で……。」


「とにかく、できるらしい。」


「……。」


聞け。キング・ジオが言うには、我が歩む場所こそ道であり、帝国であると。


何を見てるんだ。生まれながらの特権階級は、当然のように振る舞った。


世界観の原理原則をすべて無視する、めちゃくちゃなやり方。


見慣れない傍若無人ぶりに、ペク・ドヒョンは一瞬ぼう然とした。そのあと、虎が煙を吐き出す。


「そういうものだと思っておけ。ろくでもない奴を理解しようとしても、常識人の頭が痛くなるだけだ。」


ベビーシッターを十年やれば、どうしようもないものは放置するようになる。ベテランならではの助言だった。


ペク・ドヒョンは、少し新鮮な気持ちで彼を振り返った。


魔術師の風格を漂わせ、薄青い煙の中で眉間を揉む男。


苦しいのか、タバコを持つ指先でシャツのボタンを一つ外している。


「虎、鬼主キジュ……。」


最後までミステリアスな男だった。


獅子ウン・ソゴンが死んだ後、誰もが予想した通り、〈銀獅子〉は虎が引き継いだ。


準備された後継者であっただけに、〈銀獅子〉は混乱もなく、いや、若くして熟練した新たな首長の指揮の下、より強固にその地位を確立していくようだった。


「あの頭がいなくなるまでは……。」


最期はわからない。


生きているのか、死んでいるのか誰も知らない。


ある日突然姿を消し、どこを探しても見つからず、首領を失ったギルドは結局解体した……というのが世間に知られている事実。


ペク・ドヒョンが最後に虎を見たのは、ウン・ソゴンの葬儀だった。


大々的な国葬だった。


集まった群衆は雲のようで、英雄の名を記憶するすべての人が広場にいた。


『ジオ』、顔を出すことのできない一人を除いて。


ペク・ドヒョンはその日、最前列に突っ立っていたあの男の後ろ姿を覚えている。


両隣には、儀典序列に従った要職の政治家たちや代表ギルド長たち。彼らの間にそびえ立つ男は、どこか島のように見えた。


隔絶され、一人で存在する島。


「何をそんなに見ているんだ。」


「……いえ、何も。」


「見慣れないな。」


ポマードでざっと撫でつけた髪や、石像のように硬い体格。


どこか由緒あるマフィアの家系の出身者のように威圧的な外見はそのままなのに……。


ちょっと、今、ろくでなしって言ったか、言ってないか。


ふらふらしているジオに軽口を叩く姿。そして、瞬間瞬間見え隠れする眼差しの愛情を目撃するたびに、ひどく見慣れない気がした。


どこか気分が少しおかしいような気もする。


「どんな関係なんだろう……。」


思わずペク・ドヒョンは自分の口元をなぞった。強張っていた。


「とにかく、ギョン・ジオ。わがままを言うのはやめろ。お前でも、ダメなものはダメだ。」


「はあ……どうして愛は変わってしまうんだ?」


「言葉は補給だが、慣れない場所に行くから、お守り代わりに俺を連れて行こうとする魂胆が見え透いているんだ。それに。」


虎が頭を下げ、ジオの鼻先を軽く叩いた。低く囁く声。


「口を慎め。『お客様』がいらっしゃる。」


「……お客様。」


二人の円の外に完全に引かれた線。


ペク・ドヒョンはかすかに笑った。この気持ちが何なのか、今やっとわかった。


彼はあの男がひどく気に食わず、そして、嫌だった。




* * *


「私が拝見しても、私たち二人だけで行く方がよさそうです。ギルド長クラスの人物がまた動けば騒がしくなりますし、何よりも目的が目的なだけに、迅速な機動力が必要です。」


「ん?」


「ああ。悪気はありません。どうしてもフィールドで活動されていた期間が長いですから……。」


「考えなしに好き勝手に暴れられないのは事実だな。ルーキーのように。」


「抱えている家族が多いと、仕事に迷いも多くなるものです。」


「責任感、を言い間違えたように聞こえるが。


「一つだけをひたすらに見つめるのが責任感ではないでしょうか。」


「度胸より視野が狭いな。ひたすらであればあるほど、折れやすい……ああ。すでにそういう状況なのか。」


表情が固まったペク・ドヒョン。


彼を一瞥した虎が、短く舌打ちをした。子供相手に幼稚なことをしている、という表情だった。


ジオもよく見て知っている。


どこまでやるのか見てやろうと、見物していたジオの方に顔を向けた虎が、ふっと笑った。今度は少し照れくさそうな様子で。


続いて言う。


「心配するな。塔で時間がかかっても、問題ないようにしておく。全部言い訳で、結局はそれを言いに来たんだろう。」


うん、正解だった。


早朝、ギョン・ジオは目を覚ました。


スープの匂いが家中に漂っていた。プゴク(干しタラのスープ)。韓国を代表する二日酔い解消スープだ。


「母さん。昨夜は焼酎を太平洋のコククジラみたいに飲み干していたからな。」


歴代級の連合攻略隊が塔に入ってから、すでに二週間以上が過ぎた。


最短記録を打ち立てるのではないかと騒いでいたマスコミは、手のひらを返すように危機説と失敗の可能性を突きつけ始めた。


昨日、母さんが夜遅くまで見ていた番組は『100分討論』。


テーマは、両ギルド長が帰還しない場合、韓国ハンター界に及ぼす影響だった。帰還しないというだけで、死亡説を唱えるのと変わらなかった。


ジオはいつものようにネックレスを握った。


【聖なる者との三戒】


【━ Second User: キョン・ジロク】


【位置: バベルの塔/韓国┃状態: 空腹】


「腹が減ってるのを除けば、ピンピンしてるな。」


星様を徹底的に調べて、死亡や危篤な状況は遅延なくすぐに表示されるという事実を突き止めた。だから、まだ時間はある。


「ふむ、スープがめちゃくちゃしょっぱいな。母さんの涙の味か?」


「あらまあ。お母さん疲れてるから、適当に食べなさい。」


「ごちそうさまでした。」


「あら、もう一杯食べないの。それだけで足りるの? うちの子は一体誰に似てそんなに少食なのかしら。」


「ちょっと遅れる。連絡あったでしょ?」


「ええ。ギルドの特別ワークショップ? H大の教授も来るって。ジオ、ちゃんとしないとダメよ。また無礼なことをしたら承知しないわよ。わかった?」


「はーい。」


スニーカーのかかとをトントンと叩いて履いたジオが玄関を出ようとした時だった。


チャリン、チャララン。背後から再び風鈴の音が響く。


「どこ行くの、お姉ちゃん。」


パジャマ姿にスリッパも履いていない素足。末っ子のグミだった。玄関を静かに閉めながら、再び尋ねる。


「ワークショップなんて嘘でしょ。どこに行くの。」


ジオは庭をぐるりと見渡した。


長く過ごした場所だけに、三兄妹の痕跡が至る所に残っている家。


幼い頃からキョン・ジロクは、負けず嫌いがすごかった。


かくれんぼをすれば、一人でどこかの廃家に入り込んでいたり、木のてっぺんに登って遅くまで帰ってこないことがしょっちゅうだった。


だから、そのたびにキョン・ジオは言っていた。玄関を出ながら、今のように振り返りながら。


「うちの鹿を連れてくるよ。」


このバンビ野郎、またご飯も食べずに遊んでるんだ。




* * *


【入場資格を確認中です。Loading……。】


【承認完了 ━ 覚醒者(S)】


【確認 ━ 1位『魔術師王』ジオ】


【万柳天秤の塔、聖地(星地)バベルに入場されました。】


《ようこそ、キョン・ジオ様!》


《キョン・ジオ様が専用チケット(多人数用)の使用を要請しています。》


《正しい権限所有者。キョン・ジオ様外1名、承認完了しました。》


《ご希望の階数をお申し付けください。》


「39階。」


《39thフロア。メインシナリオ - 〈第3章 塩の橋の恋人たち〉》


《進行中のシナリオです。途中入場されますか?》


《確認。キョン・ジオ様外1名の例外入場を許可します。》


《星位 - 『運命を読む者』様の権能が一部解放されます。》


《変動値調整失敗。メインシナリオが進行される特殊ステージです。星位の権限が一部制限されます。》


【声くらいは出させてくれよ。】


【バベルネットワーク、要請を確認します。】


【承認。受容します。】


【よし、いい子だ。】


虚空を踏む浮遊感と遠ざかる音。そして再び目を開けた時には……、白色の大雪原。


雪国だった。




* * *



ヒュウウウウウ。


「何かがおかしい。」


ペク・ドヒョン(2回目/25歳/男/ドブネズミから龍/前世F級/有力な執事候補)は思った。


塔の気まぐれが激しいのは事実だ。


同じ階、同じシナリオなのに構造が変わっていたり、攻略法が変わる場合がたまにあった。


しかし、それは他の階の話。


ここは9区間、塔の脊椎である「メインシナリオ」ステージだった。


外部干渉が遮られるのはもちろんのこと、突発的な変化も不可能。


それなのに……。


ヒュウウウーン。


吹雪の中でペク・ドヒョンは襟を立てた。


「……前の39階のミッションフィールドは、学校だった。」


彼が入って行ったわけではないが、はっきりと覚えている。当時、塔から出てきたハンターたちが皆、制服姿だったので大きな話題になったからだ。


制服を着たキョン・ジロクが神経質そうにカメラを払い除ける場面も有名だった。何日もポータルのメインを埋め尽くしていたので忘れられない。


[……キョン・ジロクハンター!キョン・ジロクハンター!39階攻略、心からおめでとうございます!も、もしかしてこの制服は!待ち焦がれていた国民のためのサプライズイベントでしょうか!]


[何言ってんだ、クソ。あっちへ行け!]


「しかし、これは何だ。」


ペク・ドヒョンはぼうぜんと目の前の雪山を眺めた。


恐ろしいほど茫漠とした白色。泣きっ面に蜂で吹き荒れる吹雪まで。


「……寒い。それもすごく!」


と、とにかく動こう。


「ジオを早く探さなければ。」


シナリオ入場は個別だ。一緒に入ってきても時間も場所もそれぞれ違う場所に落ちた。


彼女もまた、ステージが学校だろうというペク・ドヒョンの話を聞いてかなり困惑してるはずだ。


早く探さなければ!


ペク・ドヒョンは急いで足を運んだ。




「……。」


足は運んだ。


速度が出ないからそう見えるだけだ。


膝までずぶずぶと埋まる深さ。ペク・ドヒョンは屈せず、泳ぐように雪道を進んだ。ひたすらジオを探すという一心で。


そうして30分ほど。


クオオオオ!


吹雪、険しい雪山……それこそクリシェ。ありふれた展開だ。


「フィールドモンスター、熊か……!」


ペク・ドヒョンはインベントリから剣を召喚した。


距離感が近い。


吹雪で視界妨害がひどいからそう見えるだけで、これくらいなら 3m、すぐそこ……!


「……。」


クオオオ!


「も、モーグリ?」


「……そ、そこで何をなさっているんですか。」


ヒュウウウウーン。


「え、何!さっきのペク執事の声じゃない!おい!止まれ。」


「クオオオ!」


「いや、は……危なくないって!じゃあ、腕だけ離してみて、この間抜けなクマ!」


普通のヒグマより体が数十倍は大きく見える動物型の姿。


ジャイアント灰色熊の胸の中に大切に抱かれていた生命体がひょっこり顔を出した。本当に、ひょっこりだった。


きょろきょろとこちらを確認すると、感激に満ちた瞳で叫ぶ。


まるで長い間、野生に閉じ込められて生きてきた初めて同族に会ったジャングル少女のように……。


「ひ、人! 人だ!ペ、ペク執事!」


「ジオさん……。」


なぜ熊にまで抱きつかれているんですか……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ