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83話

* * *


「神の子」


ティモシー・リリーホワイト。


愛称:ティミー・リリー。


ギルド〈イージス〉のギルド長。


長年ワールドランキング2位の万年準優勝だったが、「ジョー」の王座奪還でついに脱出し3位になった、アメリカ大陸の恋人。


現在は4月、ソウルの某ホテルでうつ伏して泣いていた。


「言われた通りにしたのに、なぜ! なぜ!」


足までバタバタさせながら。


「どうして、どうして連絡が来ないの! ジョナサン、一体どうなってるの!」


(どうなってるって、強制的に休暇を奪われた韓国人の熱い復讐だ。復讐、朝鮮の恨みの味はどうだ、歴史の短いアメリカン野郎!)


素早くティモシーとの同行から手を引いたジョナサン・パク(本名:パク・ヨンギュ/イージス支援チーム長/特技:全羅道出身の海兵隊男児)。


突然ギルドに1級非常事態が発令され、慌てて休暇を返上して韓国に飛んで来たが、彼を待っていたのはなんと……。


「どうしたんですか? 韓国側の人たちと何か衝突でも……」


「ジョナサン、「ジョー」がいなくなったんだ。僕に会いたくないみたいだ。どうしよう?」


「……。」


「どうすれば気持ちを変えられるかな? ねえ? 同じ韓国人だからジョナサンは分かるはずだ。」


「……。」


(韓国人は5千万人以上いる。同じ韓国人だから心理が分かるなら、5千万人全員が雌雄同体だ。)


内心とは裏腹に、ジョナサンは偽りの顔を作った。わざと心配そうに眉をひそめて。


「さて、どうしましょう? ずいぶんと気を持たせてますね。普通ならみんなイチコロなのに。珍しいですね。ただ者じゃないみたいですね。」


「ジョナサン、当たり前じゃないか! あの「ジョー」なんだぞ!」


「うーん……それなら、どこかの放送局の公開ホールかコンサート会場を借りて、歌でも歌いますか? 帰って来てくれって? 韓国のやつらはそういうのにすぐ騙されるんですよ。」


(悪魔だ、悪魔がここにいる。)


「本当? 僕、歌は上手くないんだけど……。」


(歌が上手かろうが下手だろうが、そんなことしたら社会的に自殺行為だ……。)


在米韓国人のギルド員が驚愕した顔でジョナサンを見つめた。その視線を感じたジョナサンが、ゆっくりと親指で首を切るジェスチャーをする。


(黙ってろ。)


海兵隊出身の全羅道男児の荒っぽさに、誰もが言葉を失ったその瞬間。


「もうやめておけ、ヨンギュ。そのくらいでいい。」


ぽん。


ルーカス・マローンがジョナサンの肩を叩いた。隊長の社会的自殺の危機を阻止し、ベッドの方へ歩いて行った。


「だからジョナサンは呼ぶなって言っただろう。ティミー、お前はまだ韓国人がどれだけ休暇に敏感な民族か分かってないんだな。」


彼らの休暇への執着は想像を絶する。外国に住んでいても例外ではない。


ルーカスが真剣に言った。


「誰であれ、小さな韓国人を刺激してはいけない。痛い目を見るぞ。どうして俺が韓国語をマスターしたのか、もう忘れたのか?」


アメリカで最も保守的なユタ州出身のルーカス。


おかげで、あの全羅道出身の韓国人と何度も衝突して酷い目に遭ったことばかり思い出して、今でもよく眠れない。


韓国人は悪魔だ。ルーカスは内心それを基本として想定して生きている。


「でも……。」


「でもじゃなくて、もう冷静に考えるべきタイミングだ。」


枕の間からティモシーが顔を上げた。体格とは不釣り合いな、まだら模様の少年の悔しさが滲み出た顔。


(……子供(ChiId))


彼のもう一つのニックネームを思い浮かべながら、ルーカスは心の中でため息をついた。


「見込みのない待ちぼうけを続けるわけにはいかない。ソウルに滞在することにした日付は、一昨日までだったはずだ。韓国側も手に負えない相手だと言っていたじゃないか?」


「……。」


「局長から直接謝罪も受けたんだろう?」


困惑していた中年男性の顔。


政治に長けたタイプだったが、ティモシーは彼が本気だと十分に見抜くことができた。


「申し訳ありません。」


……。


「ええ。我々も内心、少しの間くらいは可能だろうと思っていたのは事実ですが……。ランキング変動後から急に色々と仕事が多くなったと思ったら、こんなに急にいなくなってしまうとは。」


「正直なところ、現在のところ全く連絡が取れません。」


「そうですね。打開策と言っても特に……。もともとどこに飛び出すか分からない方なので。恥ずかしながら、我々も後を追うのに必死です。」


「我々も引き続き多方面で努力はしてみますが、今のところは……。」


「ただ、待つしかないでしょう。」


「4月だぞ。祖国をずっと空けておくつもりか、ティモシー・リリーホワイト?」


「……。」


「そろそろ帰らないと。ウィスキーホテルからもいつ頃戻るのか聞かれているぞ。「仕事」は滞っても構わないから、できるだけ早く復帰しろと。」


ウィスキーホテル(Whiskey Hotel)。ホワイトハウス(WH)のコードネームだ。


アメリカNo.1のランカーが席を空けているのだから、不安になるのも無理はない。


上位ランカーはすなわち国力だ。


どの国も国家の中核戦力を国外に派遣することを歓迎しない。今回の韓国行きは、ティモシーが全面的に主張して行ったことだった。


(でも……。)


しかし。必ず「伝えなければならないこと」がある。


彼にも誰よりも重要な理由があった。


ティモシーはため息をつきながら立ち上がった。


「一日だけ、あと一日だけ。」


「……。」


「あと一日だけ待ってみる。」


ルーカスが頷いた。これで十分だ。


いくら子供っぽい面が強くても、そんな面だけなら信頼して従うはずがない。ティモシーは自分の義務を忘れないハンターだった。


「分かった。では明日付で帰国するものとして承知しておく。」


「みんな聞いたな? 荷物は前もってまとめておけ」と、ルーカスがギルド員たちを見回した。


〈イージス〉公式整理魔の冷たい視線に、だらけていたギルド員たちが一人二人と荷物を片付け始めた。


あれを片付けろ、これを片付けろと言っている最中にも、向こうでしょんぼりしているティモシー。


その様子を見ると、やっぱり気になって。


ルーカスは咳払いをした。


「おい、ティモシー。そこで突っ立ってないで。」


「外にも出てみろよ。ずっと部屋に閉じこもっていたじゃないか? ソウルまで来たんだから、観光でもしてこい。ガイドが必要ならジョナサン……でも……」


(なんだとコラ?)


熱く射抜くような海兵隊男児の眼差し。


「……今の言葉は取り消しだ。」


しゅん。ルーカスが縮こまった。舌打ちの音と共に、ジョナサンが席を立つ。


「いいんですよ。どうせ俺もそろそろからかおうと思ってたんだ。そろそろ連れ出して風でも当ててくるかなと思って。だからお前は子供たちをいじめるのはやめて、行って来い。隊長は俺がちゃんと面倒見てやるから。」


「本気か?」


「ああ。」


「正直に言ってもいいか? 疑わしい(お前の悪魔的な前科のせいで)。」


「お前、マジで死にたいのか? このユタの田舎者が。」


「正直、ユタに比べて全羅道の方がよっぽど田舎じゃないか?」


「その正直、正直って言葉をもう一回言ったら、お前マジで殺すぞ。このユタ野郎は正直、正直って言葉がないと喋れないのか?」


どけとばかりに尻を蹴るジョナサンの足。


そうしてルーカスは、ギルド員たちが開けてくれたドアからベルボーイが一人入って来て、彼とすれ違ったにも関わらず、その存在に気づかなかった。


ガラガラ。カートを押す手つき。


「そちらのテーブルに置いてください。ああ、でもちょっと待ってください。先に片付けないと。」


「はい。」


「ルームサービス頼んだのか、ジョナサン?」


「ああ。ちょっと小腹が空いたけど、ビュッフェまで行くのは面倒じゃないか。隊長! 何してるんですか、早く来てくださいよ? さっきから何も食べてないの見てたから、早く座ってください。」


「僕はいい……。」


「ああ、もう、あの人は本当にどうしてこうなんだ!」


「片付けましょうか? 冷めたら美味しくないのに。」


「いや、いや。どうしてそんなにせっかちなんだ?」


手の大きいせいか、元々頼んだ料理が多かった。


急いでテーブルを片付けていたジョナサンの視線が、神経質そうにベルボーイに向かったが、すぐに和らいだ。


(なんだ、子供じゃないか。)


自分なりに年を取って見せたかったのか、付け髭をつけていたが、ハンターの鋭い目にはすぐに偽物だとバレた。


(へえ、可愛いじゃないか。なかなか精巧だけど、どこで手に入れたんだ?)


「お前、いくつでこんなところでバイトしてるんだ? 最近は韓国では青少年がホテルのバイトもするのか?」


「ゴホン。お腹いっぱい食べました。」


「は、こいつ面白いな。声色変えずにちゃんと喋れよ。まだ声変わりもしてないくせに。男気を出してるつもりか? お前、将来海兵隊に行くか?」


一番小さいサイズみたいだけど、一目見ただけで体に比べて大きすぎる制服。おもちゃみたいな赤い帽子の下には、白い肌。


(まるで、おもちゃの兵隊さんみたいだな。)


ジョナサンはふっと笑って、ティモシーを迎えに行った。


ベッドの縁に座って何かを考え続けていたティモシーが、人の気配を感じたのか、ちらっとこちらを見る。


「少しでもいいから何か食べてからにしてくださいよ、隊長。韓国語には「腹が減っては戦はできぬ」って言葉があるんですよ。早く。」


「ジョナサン。」


「はい。」


「キッドは今日も出かけたのか?」


急にどうして彼のことを? ジョナサンが頭を掻いた。


「ええ。最近何をしているのかずっと忙しいじゃないですか。サポーターのやつらの話だと、韓国人の彼女ができたみたいだって言ってましたよ。また彼女に会いに行ったんじゃないですか。」


「そう……。」


「マラマルディはどうした? 呼び出そうか?」


「いや、いい。ただ……。」


キッドが「ジョー」について何か知っているかもしれないじゃないか。


言い淀むティモシー。言いながらも、自分の言葉に全く確信がないように見えた。


ジョナサンは鼻で笑った。


「何を言ってるんですか? 彼が韓国に何の縁があるっていうんですか。南シチリアマフィア出身のキつド・マラマルディのこと、言ってるんですよね?」


「そうだ。いや、忘れてくれ。」


ティモシーは適当にごまかした。


ふむ。その様子をじっと見ていたジョナサンは、舌打ちをした。お人好しだな。来て、ご飯でも食べろ。


「全部冷めちまうぞ。」


「ああ、大丈夫だって。」


大丈夫だと何度も断るのを無理やり引っ張って行くと。ガラガラ。


カートを押して去っていくベルボーイ。


「おいおい、もう行くのか!」


ティモシーを適当に放り出して、ジョナサンは慌ててベルボーイの後を追い、ドアの前まで行った。


「おいおい、行くなら行くって言えよ、こいつ!」


冗談は全部言っておいて、チップを渡さなかったのが少し気が引ける。ジョナサンが笑いながらその背中をバーン! と強く叩いたその時だった。


(あれ……?)


ジョナサン・パクは一瞬そう思った。


今……皿が空中で止まったような気がしたんだけど……?


ベルボーイの手に持たれていた皿たち。


背中を叩いたせいで、ガシャーンと落ちそうになったから。いけない、掴まないと。確かにそうやって掴んであげようとしたのに。


(何が……?)


「え? 落ちそうになった。どうして叩くんですか?」


「……あ? ああ、ごめん。」


「行ってきます。」


そ、そうか。ジョナサンが釈然とせず、気まずそうに身を引いたその時だった。


「[ちょっと待って!]」


韓国語ではなく英語だった。慌てて思わず口から飛び出した。


ぎゅっ。


腕を掴む男の手。


ベルボーイ、偽装就業中だったキョン・ジオが振り返る。


ティモシーがそこにいた。彼女の腕を掴んだまま、再び言う。


「ちょっと待って……。」


ちょっと待ってください、待って。


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