77話
板橋の頼み?
「何言ってんだ?」
「……どういう意味か、むしろこっちが聞きたいんだけど。」
キョン・ジオは全く意味が分からない顔だ。それにホン・ヘヤも拍子抜けしたような反応だった。
「トヒョン兄さんがたまにこうなんだよね。ちょっと掴みどころのない話をするというか。」
「えー、マジで?そうそう。あいつ本当に人をモヤモヤさせる。」
「なんか色々知ってそうだし、秘密も多そうだし。」
「え、マジ?あんた本当に人を見る目があるね。」
「私、『目』だけは生まれつき良いんだ。」
「運もマジでないし。」
ハハ……これは冗談じゃないんだけど。
笑いながらホン・ヘヤが分厚い眼鏡のフレームを押し上げた。
そのまま座って手慣れた様子で聖霊草を鍬で耕しながら尋ねる。序盤の警戒心は完全になくなった様子だった。
「この月溪谷にまつわる伝説知ってる?」
「星の墓?」
「……え?それ何?他のもあったっけ?」
[あなたの聖約星、『運命を読む者』様が、赤ん坊ごとき人間が星の話を知るはずがないだろうと囁いています。]
ああ、そういうこと?
ジオは平然と言葉を変えた。
「他のと勘違いした。何の話?」
「つまんないの……。」
ここにはね。
元々は遠い昔、仙人たちが降りてきて人間の世界を覗き見る場所だったんだって。
全ての銀河がそのまま映るこの谷の水を鏡にして覗き見ながら、世界の隅々を見ていたんだ。
だから霊気が濃くなる夜にここを訪れると、しばらくの間、その時の彼らのように『目』が開かれて、星の世界を目撃することになるんだとか。
[聖約星、『運命を読む者』様が、人間もなかなかそれらしい解釈をしたと面白がっています。]
「なるほど。私の点数は?」
「え、まだ終わってないけど?」
話はこれから始まるんだ。
じっとホン・ヘヤは聖霊草の星の光を見つめた。見ての通り、こんなにも美しいから。
「真夜中と明け方の間、ちょっと見るだけでは満足できなかったんだって。だからこんな一瞬じゃなくて……仙人たちのように永遠に、永遠に『世界を見る目』を僕たちが持つこともできるっていう噂がある日から流れ始めたんだ。」
人々は囁いた。
生まれたばかりの赤ん坊の目をえぐり出して谷に浸してみよう。
霊眼が閉じる前だから、きっと『世界を見る力』を覚えているかもしれない。
「幼い霊眼を世界眼にしよう。谷は枯れず、月は傾かないから成功するまでやってみるんだ。」
「……。」
「成功したと思う?」
人間の欲は執拗だ。
「何万、何千もの子供がこの月の谷で死んだんだって。最後の子供が成功するまで。」
「……。」
「そしてその子供こそが、最初の『ホン・ダルヤ』だったんだ。」
「……ホン・ダルヤといえば。」
ホン・ヘヤ、ホン・ダルヤ。
関連性を探さざるを得ない名前だった。ジオの呟きにホン・ヘヤがフッと笑った。
「そう。これは僕の家系の伝説だよ、ジオ姉さん。」
「……。」
「だからホン家の人たちは良い『目』を持って生まれるんだってさ。大叔母様もそうだし、僕の妹もそうだし……。」
でも実はそれが良い目なのかどうかはよく分からない。ホン・ヘヤがそう呟いた。
「実は僕の双子の妹のダルヤが今回の『ホン・ダルヤ』なんだ。」
力を込める手に星の光が散る。聖霊草は敏感な植物だった。
ホン・ヘヤは再び慎重に花びらを包み込んだ。
「あの子が何を見ているのかまではよく分からない。本当に家系の伝説通り世界を見ているのか、何なのか……。でもその目を持っていること自体がすごく苦痛みたいなんだ。」
生まれてからずっと病床に臥せっている妹。
双子を思い浮かべるホン・ヘヤの顔が苦々しくなった。
ジオの静かな視線が届く。
それに気まずくなったホン・ヘヤが自分の声から再び重みを減らした。まあ、それでも!
「最近は少しマシだよ。ドヒョン兄さんが聖霊草を教えてくれて……最近は眠るんだ。」
「もちろん『ジョー』に会えれば一番良いんだろうけど。」
「ふ、クフッ、ゴホッ。」
「……どうしたの?」
あ、いや。ちょっと肌寒いね。
風邪気味かな、ジオが肩をすくめて斜めに顔を背けた。
「……ジョ、ゴホン、『ジョー』はなぜ?」
「ダルヤがあの人ばかり探してるんだ。でも姉さん本当に大丈夫?顔色が悪いけど。」
「え、ええ。」
ペク・ドヒョン、てめえ、この野郎!
閃光のように『パンギョの頼み』が頭をよぎった。
「事が上手く終わったら、僕のお願いを一つだけ聞いていただけますか?」
「何?」
「その時にお話しします。聞いてから決めてもらっても構いません。難しいことでは絶対にないと思います。」
「ジョーミングアウトが難しいことじゃないだと?ふざけた回帰者め!」
ダメだ。どうやら今まで甘やかしすぎたようだ。
あの忌々しいペク・ドヒョンの潤んだ瞳にやられて……。
回帰者め、このまま放っておけばいつかどこかの世界でも救ってみろと目の前に突き出す日が遠くないように見えた。
キョン・ジオは当分の間、携帯電話の電源を絶対に付けないことを固く決心した。
* * *
「キョン・ジオ、姉さん、あんた実は寺の食事が体質に合ってるんじゃないの?」
「それがどういう斬新な寝言だよ、私の愛する妹よ?」
「いや……顔色が良くなったんじゃない?肉もふっくら付いたみたいだし……何か滋養食でも別に摂ったみたいに。」
「そ、そんなはずない。」
「とにかく今日が最後の夜だって。う、本当にうんざりした。ボヒョン僧侶が直接慰霊してくれるって言わなかったらとっくに行ったのに。」
「あの仏様、何か知っててそうしてるんだってば。」
「またその話?とにかく最後だからお母さんが、あんた今日まで法要に出席しなかったら……こら、こら!どこ行くの!こら!キョン・ジオ!」
週末を含めてなんと4日間だった。
その間、昼はチェ・ダビデ、夜はホン・ヘヤ。
まるで二股をかける人のようにジオは交互に彼らに会った。
平凡極まりないホン・ヘヤは思ったより変わった奴で、変わり者極まりないチェ・ダビデは思ったより平凡だった。
キョン・ジオはチェ・ダビデの方を見た。
雪岳、その最も高い場所、テチョンボンの近く。
眩しい天気に山脈の景色がはっきり見えた。風は低く吹いている。
チェ・ダビデの長い髪が静かに揺れた。
根本の脱色が過ぎたかな。薄紫色の髪の間から朱色がちらちら見えた。
視線を感じたのか振り返らないままチェ・ダビデがジオを呼んだ。低い声だった。
「おい、ドジェ。」
「何だ、チェ・ダビデ?」
「生意気な奴。誰も私の面と向かってそんな風に呼べないって分かってるのか?」
「生意気なのはあんたでしょ。本当に私が大目に見てあげてるってことだけは覚えときなさい。」
チェ・ダビデがからから笑った。ああ、マジで。
「マジで不思議だ。名前も教えてくれないお前が何だって可愛いんだか……何でこんなに妙に親近感が湧くんだよ?」
キョン・ジオも同じだった。
しかしジオはチェ・ダビデと違ってその理由を正確に知っていた。
初めて会ったのはほぼ10年以上前。
その後も数年間の国内ランカー1番チャンネル、毎日チェ・ダビデを見ていたし、ジオの視野の片隅には常に『銀獅子』がいた。
既にジオを知っている人々、家族と〈銀獅子〉側を除けば、チェ・ダビデはチャンネル内で唯一『ジョー』を呼び、探し回る人であり、常に潜水する『ジョー』も時々現れてその呼びかけに応えたりした。
『銀獅子』は『ジョー』が会話する唯一のランカーだった。
また、キョン・ジオにとってチェ・ダビデは初めて友達に『なりかけた』覚醒者だったし。
「私と友達になりたいって言ってましたよ。テレビで見ましたって。」
「ああ……。」
「一度くらい会ってみるのも悪くないんじゃない?私も他のS級がちょっと気になるし。あいつ一人なのにまさか私の正体がバレるかしら?あいつが他の人たちに私の話をして回ることもないだろうし。」
「しかしジオ様、ご存知のようにジオ様の状態が……。」
「……。」
「着実に訓練を受けていらっしゃることはよく存じております。それでもまだ完全に安定的な段階ではありませんから……。それにその友達はジオ様よりもずっと状態が不安定です。」
「……。」
「国内にたった二人しかいない幼いS級同士が出会って事故でも起こったら……私はとても想像したくもありませんね。国の根幹が揺らぐことになります。」
ジオはそっけなく言い返した。
「情でも湧いたんじゃないの。ちょっと餌付けでもしてあげるべきだったわ。」
イノシシから始まり一体どこから調達してくるのか、鯉、烏骨鶏などなど。
グミがむやみに疑っているわけではなかった。ジオはこれまでこっそり滋養食を食べていたのが正しかった。
得意げにチェ・ダビデが咳払いをした。エヘン。
「私は言葉より行動で見せるのが楽な人間だからな。これまでお前が食ったものは全部うちのギルドの霊山から持ってきたものだ。分かったか?」
「どうりで。内功が伸びる気がしたわ。」
このままいくとすぐに羽化登仙するんじゃないかと。
ジオの遠回しの褒め言葉にチェ・ダビデは嬉しそうな気色が歴然だった。おお、そうか?
「そうだ。お前の顔色も、ああ、とてもゴールド色にピカピカ!してるのがうちのドジェが元気になったならとても嬉しいよ!このフレンドはとても嬉しいです!私たちの友情、これからもずっと、ずーっと続いてほしい!」
「分かりやすい……。」
あからさますぎて言葉にできない。
それでも食らった手前何も言えないキョン・ジオの代わりに、隣の童子がしょんぼりした顔で骨を削った。
「最後の財産を使い果たされたんですね、大長老様が。」
内部からの攻撃に図星を突かれたチェ・ダビデがオロオロと声を上げた。
「こ、このドラゴンボールのパチモンみたいなハゲが最後まで邪魔しやがって!黙ってろ!」
「知りません!明日が会議の日なのにこれからどうするんですか!」
またしても言い争いを始める二人。
見守っていたジオが本当に気になって尋ねた。
「あんた……。」




