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70話

チャララララ……。


ジオを中心に広がっていく強大な魔力。


許された者にしか見えない、ある世界が揺れ動いた。


舞い散る本のページ、何重にも重なった時計の秒針と時針、無数の線、文字、文書、記録、歴史……。


「ライブラリー(Library)」だった。


その主から全権を付与された唯一の代理者、唯一の化身。


全知の司書が言った。


「生命を復旧させることはできない。数百、数千回と試してみたけど、ダメなものはダメなのよ」


編集「修正」には明確な限界があった。


起承転結を完璧に把握していなければならず、重要度と理解度によって可能なことの範囲と権限が制限される。


生命、宿命、運命……。


いわゆる「命」の字が付くものは、彼女の権限外のことだった。


キョン・ジオは手を挙げた。


正確には、ペンを握った。


「それでも数秒、数秒くらい元の姿を取り戻せるくらいにはなるから」


一箇所に絞られた領域。


具体化された記録が竜を包んでいる。ジオは迷うことなくそれらを取り除いていった。


一枚ずつ削除されるたびに、妖精竜の生命力も一緒に落ちていった。しかし、もうそんなものにこだわらないことを互いに知っていた。


サアアア……


汚染された染みが消えていった。積み重なっていた傷が消えていく。


無理やり被せられた漆塗りの枷が外れ、ついに現れる白い海の真珠光沢。


ヒュイイー、

キャハハ。


妖精の口笛、笑い声が聞こえた。


パッと、翼が伸びをする。燦爛たる季節の色。太陽の下で砕ける波の上の蝶のようだった。


予想通り、めっちゃ美しかった。


ジオがニヤリと笑った。両目から黄金色の魔力回帰が閃光のように輝いた。


「最後の願いを言え、海の竜」


妖精竜アムピトリテが頭を下げた。丁重かつ優雅に。


【私、地中海のアムピトリテ】


【星系と霊界の導きに従い、あなたに私の運命を委ねようと思います】


テイマーとパートナー召喚獣の契約。


その強固な契約が途絶える場合は二つ。


片方が死ぬか、あるいは高等自我を持つ召喚獣が自ら他の主人を迎えるか。


原則はそうだが、後者はありえない場合と見なすべきだった。パートナー契約はすなわち伴侶契約。


召喚獣の忠誠心は他の追随を許さない。


一生の伴侶も同然の主人を裏切るなど、彼らの立場からすれば想像もできない話。しかし。


「一つお願いしてもいいかしら?」


「なんだ?」


「テイマーとパートナーの生命は繋がっている」


「私の死が、ウィソの死にならないといいのだけれど。これがアムピトリテの唯一の願いです」


召喚獣の死はテイマーにとって致命的だった。弱っちいユン・ウィソは絶対にアムピトリテの死に耐えられないだろう。


【召喚獣、幻想種『妖精竜アムピトリテ』が『キョン・ジオ』様にパートナー契約を提案します】


【承諾しますか?】


キョン・ジオは妖精竜を真っ直ぐ見つめた。


死の間際の最後の献身。


竜は、彼女は泣いていた。


「承諾する」


【……ごめんなさいね】


そして……、


ありがとう。


あああああ、ああああ。


妖精たちが泣いた。床に涙が落ちる。アムピトリテがそのまま目を閉じた。


光が舞い散る。死体は残らなかった。


妖精の死とはそういうものだった。


【あなたのパートナー召喚獣、幻想種『妖精竜アムピトリテ』が……】


竜の死亡を知らせるメッセージが鳴り響いた。


わざわざそんなことする必要はないのに。


ジオは目の前で直接見たし、また今や「感じる」こともできた。


「こんな気分なのか」


苦痛と現実を忘れさせる妖精竜の鱗粉。風に乗って空へ舞い上がっていく。


その風が去っていく方向をキョン・ジオはしばらく立ち止まって見つめていた。やがて、面倒くさそうな顔で呟く。


「マジで後味悪いな」


振り返ると、心配そうな様子をありありと見せながら見守っているペク・ドヒョンがいた。


「ご……無事ですか?」


「何が大丈夫じゃないんだよ。他人の家の竜だろ、マイ竜でもないのに。そうだろ、ニーズヘッグ」


「……契約まで代わりにしていただく必要はなかったはずです。召喚獣死亡ペナルティは相当なものだと聞いていますが」


「え?この人ったら。いい顔して怖いこと言うな。別人か?そのままにしといたらユン・ウィソ超高速で黄泉の国行きだぞ」


「それでも……」


「いいんだよ。それに」


トントン。体格と似合わず甘えるニーズヘッグの首をジオが叩いた。


「まだやるべきことも残ってるだろ」


ペク・ドヒョンがその視線を追う。


まだ完全に閉じていない異界の門。空はまだ妖しい光を放っていた。


遠くからサイレンが聞こえた。


遅い時間だったが、視界の片隅でチャット欄が炎上しているのを見ると、すでに「魔術師王」が出現したというニュースも広まっているようだった。


ペク・ドヒョンは苦笑した。


「反響が……相当なものでしょうね」


ジオもフッと笑った。


「キングの宿命だろ」


虚空を掴んだ。密やかな夜が包み込むように、魔術師のローブが体を包み込んだ。


フードを深く被り直す。


混乱魔法をパッシブで装着したこれは、どんな状況でも着用者の印象をぼやけさせてくれた。


たとえそれが上昇飛行の空であろうとも。


「行くぞ」


センターは遅れるだろう。


皆が眠りについているはずの時間だから。


忙しい彼らが重い閉鎖装置をヒーヒー言いながら持ってくるまで待っていたら遅れる。ちょっとどころじゃない。


せっかく汗だくになって片付けたのに、また飛び出してこさせるわけにはいかない。


黒竜ニーズヘッグが首を垂れた。キョン・ジオ、「ジョー」は忠実な眷属の角を掴んだ。


「さぁ、もう退勤しよう」


待てよ、私の残業代は誰が払ってくれるんだ?


フウウウッ!


竜の翼、黒い皮膜が突風を起こす。


そして夜よりも深い夜。


深夜よりも濃い黒竜が明け方の空を逆さまに疾走するのは、ほんの一瞬のことだった。






* * *


【種子隠匿、不法実験および麻薬類管理法違反、密輸容疑などで起訴されたギルド〈インバイブ〉代表キム某氏と元・現職役員10名、関係者47名に裁判所が法定最高刑を宣告しました。ソウル中央地方裁判所は……】


【管理局側は、このような大きな人命被害につながる事故の再発を防ぐため、より厳格な基準と厳重な処罰を適用する計画だと伝えました。一方、これに関連して大韓覚醒者協会では……】


「ユン・ウィソ患者の保護者の方!先生がお話があるそうなので、ちょっといらしてください」


「はい、わかりました!兄さん、行ってくるね。一人でいられる?ちょっとだけここにいて」


「ああ、カンジェ。走らないで」


病院の屋外。平和な午後だった。


数日前まで地獄のような生活を送っていたという事実が信じられないほど。


ユン・ウィソは目を刺すような 日差しに手をかざした。


事件は全国的に報道された。


テラフォーミングゲートの出現から「あの人」まで登場したのだから当然のことでもあった。


ギルド〈インバイブ〉はそうやってまた人々の口に上った。以前より悪い意味で。


下手をすれば都市一つが崩壊しかねなかった事件。


センターと検察は覚悟を決めて刃を抜いた。


傘下ギルドの管理失敗の責任を取ると言って、ギルド〈黎明〉側も彼らを全面的に支援した。


その結果、友好的希少種の不法実験、薬物製造法違反、種子ゲート隠匿、ハンター奴隷契約などなど、犯罪の全貌を明らかにするのは時間の問題だった。


新聞の一面ではインバイブとマヌミッション、二つの名前が途絶える日がなかった。


まるで法外でできることは全部やったんだな。人々は舌を巻いた。


〈インバイブ〉の看板格ランカーだったユン・ウィソもまた、スポットライトを浴びざるを得なかった。


搾取されていた彼の人生が照明されると、同情論から責任論まで意見は分かれた。


しかし、ユン・ウィソとしてはどうでもいいことだった。


「本当に不思議です。こんな日が来るのを夢見てきたのに……嬉しいだけではないというのが」


車椅子がゆっくりと進む。ユン・ウィソは花壇の前に立ち止まった。





3月の春。


蝶が舞い込んできていた。


「……」


「申し訳ありません。助けていただいた方の前でこんな話をするなんて。礼儀に欠けますね」


「……礼儀に欠けるってわかってるなら、しなければいいんじゃないですか?」


花壇の横のベンチで、だらしない姿勢で伸びていたヒューマン猫。


キング・ジオが背中をさらにズルズルと滑らせながら呟いた。片足をヤンキーみたいにブルブル震わせながら。


「必ず見ると、礼儀に欠けるけど、って言う奴らが言いたいこと全部言って人の気分を害するんだよな」


「ハハ。怒りましたか?」


チラッと見て、口の中に飴を転がす。スッとする匂い。ハッカ飴だった。


「病人になにを」


「カンジェが話してくれました。病院が嫌いだから二度と来ないって言ってたって……」


「うん、そうだったな」


「だから内心寂しかったんですが……こうしてお会いできてとても嬉しいです。感謝……という言葉も直接お伝えしたかったんです」


「……」


「本当にありがとうございます」


頭を下げるユン・ウィソ。ジオがピッと失笑した。


「本当に?」


「……」


「ほおおんとに?心から?」


「……」


「俺を恨んでないのか?あんなにすごい人が、なんでそこでテメェの竜を助けられなかったんだって、本当に一度も恨んだことないのか?」


何の動きもない。ほら見ろ。ジオはベンチから立ち上がった。


「後ろめたい感謝はごめんだぜ。この恩知らず」


「……恨んでません」


「……」


「一度も、恨んでません」


涙の匂い。


ハッカ飴の強い匂いでも防げなかった。去ろうとしたジオの足が止まる。


ユン・ウィソが呟いた。


「どれだけ苦しかったか、どうやって逝ったのか全部知ってるから……最後まで全部感じられたから」


「……」


「そしてまた……一緒に感じていたはずだから」


はああ。


深い溜息とともにジオが肩を思いっきり落とした。このバカ。


「恨んでるって言えよ。ちょうどいいタイミングじゃん。このKYが」


そうか。これもテメェの福だ。


気まずそうな顔でトボトボと振り返ったジオが、お腹の中から、正確にはフードの中からゴソゴソと何かを取り出して差し出した。


「ほら」


涙まみれのユン・ウィソからクエスチョンマークが浮かび上がる。不満そうな、むっつりとした顔でキョン・ジオがモゴモゴと呟いた。


「……ううう」


「はい?」


「うずうう」


「はい?発音をちゃんとしてください……」


「あ!竜の卵!竜の卵!妖精竜の卵!」


ユン・ウィソが魂が抜けたようにジオを見つめた。そしてゆっくりと、状況を理解しながら崩れていく顔。


膝の上に置かれた手のひらサイズの卵を抱えたまま、体を丸める。


うめき声のような嗚咽に人々がチラチラと横目で見て通り過ぎていった。


昼の月が眩しい。キョン・ジオは黙ってその音を聞いていた。


完全に静まるまで。


その場所に立って。






* * *


「サプライズしてくださったんですね。私はそれも知らずに、そうですよね。竜もすでにお持ちなのに、他の竜を欲しがるはずもないし……」


「……ん?」


「……?」


「……う、ううん。うん」


「……」


「そ、そうだ!た、当然、ゴホッ!クシュン!あ、なんでくしゃみが。ゴホン。とと当然のことじゃないか!私を、何を、何だと思ってるんだ!」


ユン・ウィソは呆然とオロオロと顔色を窺うワールドランキング1位を見つめた。


いや、この人。


本当に竜をパクろうとした……?


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