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62話

* * *


「何か忘れ物はない?薬とか、武器とか盾とか……」


「うん」


「協会から前に何かの心丹とか、拱辰丹みたいなものが送られてきたけど、それも持っていきなさい。届けてあげようか?貴重なものだって言ってたわよ」


「ああ、母さんったら本当に大げさなんだから。子供でもあるまいし。」


「あの子たちが送ってきたものより、ずっと良いもので用意したわ」


「ほら、そうでしょう」


「そう……。あなたがちゃんとやったんでしょうね。それでも、いい?できるならご飯もちゃんと食べて、お腹を空かせないで、怪我をしないで、危ないと思ったら無理しないで……」


「お母さん」


「……」


戦闘靴の紐を結び終えたキョン・ジロクが立ち上がった。


じっと、自分の手を握ったパク・スンヨを見つめ、静かにその手の甲を包み込むように撫でた。


「行ってきます」


淡白な挨拶。それだけだった。





チャララン。


閉じた玄関ドアの上で風鈴が鳴った。


昔、観光地で買ってきて飾っておいた安物の土産物だった。


家族に幸運をもたらすという言葉に、ケチな母さんが5万ウォンも出して買った。




午前7時。


また眠るにも中途半端な時間だ。ずっと黙って後ろに立っていたジオが、眠そうな目を擦った。


「……朝っぱらから、まるでドラマみたい」


まあ、一日や二日でもないし。


バンビが塔に入るたびにこの騒ぎだ。ほぼ月例行事レベル。


「まるで死に場所へ送るみたい。ベトナム派兵みたい」


危険度だけを考えれば海外派兵とは比べ物にならないほど生存率は低いが、現実感覚のない魔術師王がそんなことを考慮するはずもなかった。


ため息ばかりつくパク・スンヨと、文句を言いながらも玄関を離れられない末っ子。


彼らの後ろで両手を大きく広げて伸びをしたジオが、あくびをした。ふああああ。


「ところで、私たち朝ごはん食べないの?」


「……」


「さっきコムタンの匂いがしたけど。母さんさん、牛骨スープを煮込んだの?えーん。私はあっさりしたスープは苦手なのに」


「……」


「塩でもたっぷり入れて食べないと。ネギは刻んでおいてある?何してるの、母さん?早くご飯ちょうだい。お腹空いた」


どれだけ激しく寝たのか、鳥の巣みたいになっているボブヘア。誰が見ても「私、ぐっすり寝ました」とアピールする両頬の上の枕の跡。


シワになったパジャマの間から白い柔らかいお腹が見え隠れしながら、ボリボリ掻いている浪人生。


「このどうしようもない奴……」


総合ギフトセットのようなその姿に、キョン・グムヒが空気を読めというサインを送る間もなく。


「……行け」


「え?」


「出て行け!今すぐ出て行け、この疫病神!」


「ひ、ひえっ!」


まず飛んでくる靴べら。


その後を追うように、色々なガラクタと勢いよく持ち上げた靴箱の上の山水景石。


「お、お母さん!落ち着いて!それで当たったら姉さんが運ばれる!」


「やめて!ああ、私がこいつを産もうと龍の夢まで見たのに、見たのに!猫に龍まで出てきたからご先祖様に感謝して、鯉を煮込んで食べた私がバカだった!」


[あなたの聖約星、「運命を読む者」様が驚いています。胎夢の話が出たと、とりあえず避難しろと緊急サイレンを鳴らしています。]


「た、胎夢級とは」


胎夢の恨み節は、パク・スンヨの怒りゲージがMAXに達した時に飛び出す小言のパターンだった。


江原道普賢カンウォンド・ボヒョンの僧侶パターンや、隣のソンヨンさんパターンとは次元が違う。


バベルの塔出現前からシャーマニズムが根強い国、大韓民国。


そんな国でパク・スンヨが見たキョン・ジオの胎夢とは、色々な意味ですごかった。


「夢の中で道を歩いていたら、真っ黒な猫が一匹来て、抱きついてくるのよ。可愛いと思ってぎゅっと抱きしめたら、私を強く噛むの。驚いて離したら、あっという間に龍に変身して昇天していくんだけど、その空にはまた星がものすごくたくさんあったのよ」


「……」


「住職に話したら、天下を掌握する偉人が現れるだろうと、時代の人物になって新しい歴史の幕を開ける指導者になる子だと……」


僧侶たちや周りの信者たちのお祝いはもちろんのこと。


どこから噂が広まったのか、その胎夢を私に売ってくれという人たちまでパク・スンヨを訪ねてきたそうだ。


ありとあらゆる良いものが出現した、まさに歴代級の胎夢。


そのため、胎夢をうんぬんする境地にまで行ったということは、つまり、非常に根本的な怒り。


どうして「あんな」胎夢から「こんな」ものが出てきたのかという、ものすごい怒りの表出だった。


「ジ、ジオ助けて!」


一目散に逃げろ。


キョン・ジオは両手にスリッパを持って、慌てて家から飛び出した。







* * *


魔の9区間。


連合攻略隊、初の出征。


このようなビッグイベントがあるたびに国によって雰囲気が少しずつ違うが、韓国側は比較的静かな方に属していた。


攻略を控えてナーバスになっている攻略隊を尊重しようという雰囲気が、概ね支配的だからだ。


したがって、バベルの塔の前に陣取ったマスコミも一定距離以上は近づかなかった。


キョン・ジオは近所のスーパーの中に置かれたテレビを見ていた。


ドローンが撮影しているバベルの塔の全景。


非常待機のための仮設テントも建てられていて、遠くに見える。


「今回入ったら、またどれくらいかかるかな?」


「息子を苦労して育てたのに、そばに置いておく時間もないなんて。ジオのお母さんの気持ちも穏やかじゃないだろうね」


「そうだね。ジオ、君がお母さんのことをちゃんと面倒見てあげて」


「まさか。セドのお母さん、やめてくださいよ。あの子はそんなことできませんよ。無愛想だから」


同じ町内に長く住んでいると、家の事情はある程度お互いに把握している。手を振ったスーパーの店主がジオを振り返った。


「ところでジオ、最近バイトに行ってるって言ってたけど、行かないの?もうクビになった?」


「ノーノー。今日は休みだって」


みんな現場に出払っているから、今日は来なくてもいいそうだ。


ジオは口の中でハッカ飴を転がした。


「これとこれをつけといてください」


「もう。ツケは次からは本当にしないからね」


「はーい」


適当に返事をして抜け出した。


出勤中の街の人々が、スーパーのテレビをちらちら見ながら通り過ぎていく。


ジオは片手でさっき届いたカカオトークを確認した。送信人はバンビバンビ。


お母さんの息子│010-7351-xxxx





━ x月xx日 ━


命日前には帰るようにするよ


家族をよろしく頼む




「あと10日くらいか?」


どうりで天気もどんよりしているし、母さんも最近さらにナーバスになっていると思った……。


やっぱり、その時期だったか。


iPhoneのカレンダーでキョン・テソンの命日をチェックしながら頷いた頃だった。




ブーブー。


もう聞き慣れた名前。


ジオは面倒くさそうに電話に出た。


「はい、もしもし」


[「今日出勤されてないですよね?何をされてるんですか?」]


「朝から母さんのヒステリーで、パジャマと裸足のまま追い出されて、ツケで購入した甘いものを咥えて町内を彷徨いながら電話を受けてるところ」


[「……あ。ご、ご無事なんですよね?」]


「うん。それで?用件は?」


[「昨日、カンジェ君が言っていた場所、見つけたみたいです」]


「もう?」


この回帰者、本当に予想をよく裏切るな。


ペク・ドヒョン、ジオは改めて液晶画面の名前を確認した。


スラム街ユン兄弟事件の核心であり、キー(Key)である龍。


復讐は何でも、何でもいいから、とりあえずもう一つの「黒い龍」という妖精龍を探さなければならなかった。


しかし、昨日ユン・カンジェの言葉によると、彼が以前に龍を見たのは全くの偶然。


兄のユン・ウィソを探しにギルドに行った際、偶然追いかけて降りて行った地下室だったという。


雰囲気がおかしいと思い、すぐにその場を離れたと。


それさえも、もう3年前。


それ以降は全く見ていないそうだ。ユン・ウィソが二度とギルドに来ないように念を押したから。


「でも……いつからだったか。兄さんがソウルの方じゃなくて、他の場所に出勤しているようだった。数ヶ月くらいになるかな」


テイマーとパートナー召喚獣は、切っても切れない関係。


だからおそらく龍もソウルにはいないだろうと、ユン・カンジェが慎重な推測を残した。


[「難しくはなかったです。まだ法に触れていないのか、事業所登録をかなり正直にしていました」]


「どこだ?ソウルから遠い?」


映画とか見ると、動物実験したり危険な薬物を作ったりする裏のある奴らは、鉄条網を張った軍部隊みたいな場所に隠れてるけど。


そんな風にジオの頭の中には、険しい38度線付近の国境地帯などが思い浮かぶ時。


[「盆唐ブンダンです」]


「……え?」


[「正確には、板橋パンギョテクノバレーです」]


ええ?


あまりにも都会的な都市名の登場に、ジオは口を開けた。







* * *


いや、これはちょっとないんじゃない?


魔術師王キョン・ジオが、じっとペク・ドヒョンを見つめた。


どこか不満そうな様子だった。


「どうされました?」


「……かっこ悪い」


「え?」


「イケてない……」


「それがどういう?」


新盆唐線シンブンダンソンの終電に乗って悪の組織を掃討しに来るなんて……」


「……」


あのさ。君、回帰者じゃないの?現代ファンタジー小説の主人公じゃないの?


スケールがしょぼすぎるでしょ、今。


他のウェブ小説を見ると、異次元世界も行き来したり、ヘリコプターに乗ってアメリカにも行ったりするのに……。


「交通カードで2450ウォン……」


しかも、終電に乗り遅れるかと、めちゃくちゃ慌てて走って乗った。


面倒なことは大嫌いだが、見栄に生きて見栄に死ぬキョン・ジオが、がっかりした顔でペク・ドヒョンをちらっと見た。


いわゆる「ねえ、あなたってこんなもんだったの?」という目つき。


「な、何だ?何か男としてのプライドが傷つけられるような、この気分……」


「いや、私は板橋駅と場所が近いから、こちらの方が効率的だと思って」


「いいよ」


うちの回帰者がコスパ重視だなんて。マンマミーア。


「……もしかして、怒ってらっしゃるんですか?」


「違う。早く終わらせて帰ろう」


「じゃあ、拗ねて……」


「違うって」


「何がご不満なのか教えてくだされば、ご機嫌を取りますよ。さあ、ちょっと一緒に行きましょう、ジオ!」


さっさと先に歩いていく不良の後ろを、ペク執事がそわそわしながら追いかけて行った。


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