60話
* * *
上の階で大義だの国を守るだの騒いでいる頃。
大きなイベントがあるとかで、ほぼ超豪華ホテルのビュッフェレベルだった下の階の社員食堂。
ロブスターを丸ごと一匹平らげ、お腹をポンポン叩きながら日差しの中でうとうと昼寝をしていた世界最強のキョン・ジオは、突然、物流倉庫行きを命じられた。
「あ、ジオさん。もし忙しくなければ、東灘倉庫にちょっと行ってきてくれませんか」
「ふあああ。忙しいのに」
「……ハハ。さっきまで居眠りしてたじゃないですか?」
「瞑想してたんです。」
「……お願いだから行ってきてください、ただ」
そうして押し出され、(眠気に)半分閉じた目でとぼとぼ歩いて行ったキョン・ジオ。
すぐまたうとうと。
エレベーターを待っている間に居眠りするその背中を、誰かが後ろからそっと支えた。
「このままでは怪我をしますよ。昨日よく眠れませんでしたか?」
「うん。」
「ああ。また徹夜でゲームですか。」
頷こうとしてすぐに首を横に振る。可愛い。ペク・ドヒョンは笑いをこらえた。
「どこへ行くんですか?」
「物流倉庫、東灘」
「一人でですか?車はどうやって行くつもりですか?(魔法は)目立ちすぎるでしょう」
「これ」
指にぶら下げられた車のキー。
ペク・ドヒョンはびっくりして叫んだ。
「免許をお持ちだったんですか?」
「ない」
「……え?じゃあこれは?」
「知らない。ゴリラがくれたんだけど」
何だ……この行き当たりばったり感は……?
ジオは元々こういう人だから仕方ないとして、そのチームも負けず劣らずめちゃくちゃなようだ。
ペク・ドヒョンはため息をつきながら、ジオの指から車のキーを抜き取った。
「運転は私がします。ちょうど私もそこへ行く用事がありますし」
ああ。
そういえば、こいつ、俺より五つくらい年上だったな。
その時になってようやく少し眠気から覚めた目で、ジオはまじまじとペク・ドヒョンを見つめた。
そしてそうして到着した、京畿道のとある物流倉庫。
「おい!そこの!出てこい、出てこい!」
「危ない」
ペク・ドヒョンはジオの肩を自分の方へ引き寄せた。巨大な運搬カートが彼らが立っていた場所を通り過ぎる。
「へ、へっくしょん!」
「大丈夫ですか?」
「うううん。誰かがまた私の陰口を叩いてるみたいだな」
まあ日常茶飯事だ。ハハハ。
何でもないような顔で平然と鼻をすするキョン・ジオ。
「この人、どれだけめちゃくちゃに生きてきたら陰口を叩かれるのが日常なんだろう……?」
ペク・ドヒョンがどんな目で見ているかも知らず、ジオは先にずんずん歩いて行った。
東灘物流センターは特殊管理倉庫だ。
一般貨物ではなく、魔石と覚醒者関連の物品だけを別途細分化して取り扱う場所。
物品の特性上、高価であったり危険度も他の場所より高いため、警備が厳重なのはもちろんのこと、人員も極端に不足していた。
「紛失ですか?そんなはずはないんですが」
管理者は腰に手を当ててため息をついた。疲れ切った目には充血が見られた。
「ここは現場でおじさんたちが一次的に分類しても、後で魔力システムでもう一度点検します。どちらからいらっしゃったんですか?」
「バビロン」
「……困ったな。どうしようもないな。それでは、ええと。あちらの未分類ラインの方へ一度行ってみてください。あちらの青いライン」
「最初から教えてくれればいいのに」
ジオはぶすっと紙を受け取った。
全部見るのが面倒なだけで。
範囲さえ狭めてくれれば、紛失した物を見つけることくらい、こっちにとっては造作もないことだ。
「解決したんですか?」
「まあ、大体?探してみないと分からないけど」
「それでは、用事を済ませたら呼んでください。私も周りを少し見て回っています」
「ペク執事は何を探してるんだ?」
「さあ……私も探してみないと分かりませんね」
肩をすくめて笑うペク・ドヒョン。
とにかく、誰が回帰者じゃないって言うんだ、疑わしいことこの上ない。
ジオは舌打ちしながら歩き出した。
「さて。ちょっと消化でもしてみるか?」
[聖約星固有スキル、「ライブラリ化」発動]
[領域を指定します。]
[「未分類ライン」の文書化を実行しますか?]
[文書化する対象の範囲が不明確です。]
/矢印を動かして詳細領域を調整してください。/
虚空に矢印が生成される。
キョン・ジオは無感覚な視線で範囲を狭めて選択した。
すると、ドラッグするように選択された空間表面に彼女だけが見ることができる色が塗られ、データが出力された。
サラサラサラ。
長いにも程がある。ジオは文書上部の検索バーを押して入力した。
[検索 - 受取人 バビロン]。
それで終わりだった。
「……あの、バビロンからいらっしゃった方!再チェックしてみたら、やはり紛失していたのが合っているようで……え?もう見つけられたんですか?」
箱の上に腰掛けたキョン・ジオが両足を揺らした。
「はーい」
「おお、わあ……!目利きがすごいですね。こんな隅にあるのをどうやって見つけられたんですか?」
「私がちょっと優れてるんです」
「ハハハ。でも、直接お持ち帰りになるには、ちょっとかさばりすぎますね。そうですよね?とりあえず置いて行っていただければ、後ほどすぐにバビロンにお届けします」
「それじゃあ、サンキュー、感謝」
申し訳ないと何度も謝る管理者。彼を後にして、ジオはペク・ドヒョンを探しに出た。
いつの間にか、ずいぶんと奥深くまで入っていらっしゃる。
ペク・ドヒョンは低温セクションの方にいた。片膝をついたまま、何かを深刻そうに見つめている。
「何見てるの?」
「……あ」
一瞬だったが、確かに少しびくっとしたペク・ドヒョン。すぐに何でもない顔で立ち上がる。
「いいえ、何も。用事はすべて済みましたか?」
「うん」
「思ったより早く終わりましたね。日が暮れる前に終わってよかったです。それでは帰りましょうか」
自然に言葉を続けながらジオの方へ歩いてきたが、ジオは道を譲らない。
そのまま立ってじっと彼を見上げているのだが。
身長差のせいで顎を上げているせいか?
それとも低温倉庫の冷たい光のせいか?いつもよりすねているように、むっとしているように見える。
「鼻の頭と……唇が……」
自分の胸の高さにあるその顔。
一瞬ぼんやりと見つめていたペク・ドヒョンは、はっと我に返って半歩後ずさった。
「ど、どうかなさいましたか?」
「うーん。何でもない!」
ジオはくるりと振り返った。
知らないふりをしておいてあげよう。
立ち上がりながら後ろポケットに何かを突っ込むのを、この目でしっかり見たけど……。
「あらら……。あの歳で盗癖とは」
哀れな回帰者め。
こそ泥の原因は愛情不足だっていうのに。そうやって心を満たすことを知らなければ、心を。
同情に満ちた眼差しがペク・ドヒョンをなぞった。
「……何か引っかかるな」
ペク・ドヒョンはわけもなく自分の頬を一度撫でた。
とにかくそうして外へ出た二人。
少しだけここで待っていてほしいと言い残し、ペク・ドヒョンは片方へ駆け出した。
一人残されたジオは、広大な物流センターをぐるりと見渡した。
「ふむ、本当に日が暮れる前だけど、どこかでコーヒーでも一杯飲んで帰るか?」
近くにいいカフェがあるかな?ペク執事に探させないと、大体そんなことを考えていると。
ピリン。
メールが一通。
ブーン。
そして内容を確認する間もなく、すぐに続く電話。
「ううむ」
登録されていない連絡先だった。
メールならまだしも、元々知らない番号から来る電話は受けない主義だが。
アルバイトに就職してからは、犬も猫も知っている番号になって久しい。
退屈そうな無表情でジオは電話を取った。
「はい、もしもし」
[「……」]
「バビロン秘書チーム宇宙最強の可愛い末っ子、この時代の真の働き手、キョン・ジオ。」
[「……」]
「……」
スパムかな?疑問も束の間。
[「……助けて」]
じっと耳を傾けると聞こえた。
受話器の向こうで息を殺したすすり泣きが。
ジオは片方の眉を少し吊り上げた。この声は。
[「助けて。助けてください、どうか」]
「……ユン・ガンジェ?」
すっかり忘れて生きていた昔のクラスメイトだった。
* * *
「ここで待ちましょうか?それとも一緒に行きましょうか?」
「適当について来い。一人で車で何してるんだ?」
タン。
ジオは車のドアを閉めて降り立った。
路地、また路地。
ここまで入ってくるのも大変だったが、ここからはもう車が入ることができなかった。
ワンワンワン。
暗闇の中で犬たちが吠える。
片方には再開発中止を求める垂れ幕、もう片方にはスプレーで書かれた出て行けの文字。
[聖約星、「運命を読む者」様が、まるで映画のセットのような貧民街だと感想を残しています。]
「そうだね。めっちゃ典型的だね」
「いやあ。風景を見てください、本当に……」
「昔を思い出します。私が子供の頃住んでいた場所がまさにこんな感じでした」
「……趣がある」
「クソ、すぐ隣に現代ファンタジー小説の貧乏主人公がいることをすっかり忘れてたじゃん」
台無しにするキングのキョン・ジオが、よいしょ、よいしょと道を上った。
周りを見回しながらペク・ドヒョンがその後ろについて行った。
「ユン・ウィソさんか……私が火星にいる間にそんなに多くのことがあったとは知りませんでした。人斬り抜刀斎とは、ハハ。ええ、聞いたことがある名前です」
「黙れ。本物の刀を使う奴を連れてきたんだから、刀の風を吹かせるような見せかけのパフォーマンスなんてしなくてもいいだろう」
「剣を使う必要なんてあるでしょうか、こんなところで?」
「知らない。でもユン・ガンジェが探しているのは、サブキャラクターの抜刀斎だろうから」
自分の兄が魔術師王だと思っている奴が、なぜB級ハンターを探しているのか分からないけど。
「それに、ユン・ウィソはどこへ行って、彼に渡した番号でユン・ガンジェが電話してきたのかも分からないけど」
とにかく、おいおい調べてみればいいことだ。
長い路地の突き当たりの家。門は鍵がかかっておらず開いていた。
「屋上だと言っていましたか?」
「うん。ガンジェが言うには」
ユン・ガンジェが話している途中で電話を切ったせいで、ソ・ガンジェに電話までかけた。
コンビニで知らないふりをしていた割には、よく覚えていてくれて本当に助かった。
「大したことじゃなかったら承知しないぞ」
「ごめんください」先に階段を上ったペク・ドヒョンがドアをノックする。
ジオも上ろうとしたその時。
「……ペク・ドヒョン、外に出てこい」
「はい?」
「外に出てこいって言ってるんだ」
ガチャガチャと鍵が外れ、ドアが勢いよく開くと同時に。
ファアアアッ-!
ペク・ドヒョンは腕を上げて防いだ。
魔力による風。
彼のすぐ隣で発散された魔力波が、周囲を強く撫でて消える。
「これは一体……?」
顔を上げると、半球状に跡が残った周囲。
その円の外には、集中しなければ見えない微細な粉が落ちていた。
ぼう然としたペク・ドヒョンが横を振り返った。
何でもないように立っているマイペース魔法使い、キョン・ジオがつぶやく。
「麻薬掃除終わり」




