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58話

* * *


釜山のとある海岸付近。


ウナ・セムはため息をついた。


「来るたびに慣れない大邸宅……」


ここは韓国のカリフォルニアですか? まるでLAじゃないか。


巨大なアメリカ大陸にあるなら納得できるような大邸宅が、狭い韓半島(朝鮮半島)の釜山の地に居を構えているこの光景。


いつ見ても見ていてつらい。


通りすがりの人が成金だと指差しても、何も言えないレベル。


しかし、そうするには邸宅の主たちがちょっと恐ろしすぎる。


ウナ・セムはため息をつきながら身なりを整えた。


「あら、来たの?」


「ご機嫌麗しゅうございますか、大夫人!」


「挨拶がちょっと大げさよ、あなた」


「申し訳ございません!」


パピヨンを抱いた中年美婦人が、キャッキャッと笑い声をあげた。少女のような笑顔だった。


「騙されてはいけない」


正統なヤクザ一家のお嬢様として生まれ、自分の代で家勢をものすごく拡大したリビングレジェンド。


釜山の伝説。


しかも自分を捕まえようと追いかけてきた検事を婿養子として迎え入れ、子供に父親の名字すら継がせなかった女性だった。


ファン夫人が可憐に頬を包んだ。


「ところでね。うちの末っ子がまだ調子が良くなくて……ちょっとそうなの」


「そうでございますか?」


「ええ。ソウルで何かあったのかしら?」


「世の中そんなものでしょう。それに最近は季節の変わり目で天気も不安定ですし、ご存知のようにヘッドはもともと感受性が鋭いじゃないですか?」


「そうね……私が胎教を現代美術でしたからかしら。うちのホンがちょっと芸術家的な、そういう性向を持って生まれたのね。そうでしょ?」


「ええ……」


現代美術、お前のせいか?


どうりで性格が超現実的に難解なわけだ。


ウナ・セムは嫌な顔で歩き出す。


外観はアメリカ式、内部はヨーロッパ式。家もとにかくものすごく現代美術のようだった。


部屋の前まで案内してくれたファン夫人が、それでは男同士で話してと(幸い)席を外してくれた。


「ヘッド、私、セムです。入ります」


明かりの消えた寝室。


後ろを向いた背中は眠っているように見えたが、長い時間彼を補佐してきた右腕のウナ・セムは騙されなかった。


「あの豆腐メンタルのボスめ……」


「インスタに涙の自撮りをアップしているのを見て来る途中です。起きてください」


˚ king_twiight (1721)


domdomiさん他多数がいいね!しました。


すべての人の前で最高の姿を見せるということは、とても疲れていて不可能なことだ。


#名言 #格言スタグラム #こんなダメな私でも #戻ってきてくれるかな #おかっぱの彼女 #taers #感性 #涙スタグラム #セルカグラム 20xx年3月


「……黙れ。俺は今話す気分じゃない」


「バビロンに一発食らうたびに釜山に帰ってくるこの癖、直すと新年に私と約束したはずじゃないですか」


「誰が一発食らったって言うんだ!」


「じゃあペク・ドヒョンがバビロンにサインしたという話を聞くやいなや、ここに引きこもったのはなぜですか!」


「黙ってろ、マジで殴り飛ばすぞ」


荒々しい方言とは別に、力が抜けきった言葉。


ウナ・セムは押し黙った。


「思ったより状態が悪いな」


悪材料がいくつか重なった。


スカウトの失敗に、季節の変わり目に、また……うーん。


「まさか、それのせいですか?」


ビクッ。


「……はあ。それはヒョンベが間違って聞いてきたんだと説明したじゃないですか。常識的に考えて、キョン・ジオ、キョン・ジロク、二人ともキョンさんなのに、そういう関係であるわけがないでしょう?」


「誰が見ても親戚筋でしょう」


これについては話すことがあるが、ちょっと後で。少しなだめてから。


「そして今、そんなことで落ち込んでいる場合ではありません。バビロン側から公文書が届いているんです」


「……なんだ?」


ようやくスッとこちらに寝返るファン・ホン(ファンホン)。


シルクのパジャマと枕に押された白い顔まで。派手な入れ墨さえなければ、紛れもないお坊ちゃまだ。


ウナ・セムは内心舌打ちしながら報告した。


「39階攻略に関する会議のことです。もともとは来週の予定だったものを、明日に日付変更するそうです」


「……はあ、あの鹿野郎、どこか具合でも悪いんじゃないか? 何か変なものでも食ったのか。誰の許可を得て変更してやがるんだ? もういい、やめだ。俺は行かない。行かないぞ」


「追伸がありまして……」


チラッとファン・ホンを一度見たウナ・セムが、できるだけ乾いた口調で読み上げた。


「不参加の場合は置いていくぞ、雑兵ども」


「……!」


バッと。ベッドから起き上がるファン・ホン。


驚いてのことではなかった。


あえて描写するなら、うーん。マジギレしてヒューズが飛んだ顔。


拳と手足を空中にブンブン振り回しながら、ファン・ホンがベッドの上でドンドン飛び跳ねた。


「うわ、はあ。何だと! この野郎、頭おかしいんじゃないか! あの鹿野郎、マジで行って! え! パパッ! こうしてこうして、え? 殴り飛ばしてやる!」


しばらくの間、空中パンチ、シャドーニーキックを繰り出したファン・ホンが、首の筋肉をパキパキとほぐしながら目をむいた。


「何をしているんだ? すぐに車を手配させろ! この野郎、マジで許さないぞ。今回こそ誰が!上か! 思い知らされる。」


うーん。少しは元気が出たみたい……?


ウナ・セムは悩んだ末に口を開いた。


「ところで、ヘッド」


「ん?」


「まだご報告することがありますが」


「なんだ? 早く言え」


「以前おっしゃっていた猫の件ですが」


「ああ。ナセム、お前が確実になったら話すと言って待てと言っていたな。どうした? 確実になったのか?」


「……はい」


「鹿とはそういう関係ではないんだな?」


「はい。間違いなく違います。全然違います」


ファン・ホンの顔が完全に明るくなる前に、ウナ・セムは急いで言葉を続けた。


「実の兄妹だそうです」


「それならそう……!」


……


……え?


「キョン・ジオ。キョン・ジロク。同じ年の1月、12月生まれ。11ヶ月違い。ほとんど双子のように育った本物の兄妹」


―だそうです。報告を終えたウナ・セムが気をつけの姿勢を取った。




ゴゴゴゴ。

何かの効果音が聞こえてくるようだ。


立っていた姿勢のままベッドにバタンと倒れ込むファン・ホン。


「あ、ヘッド!」


「……」


「ヘ、ヘッド……?」


「……だそうだ」


「はい?」


「行かないって、行かない、ソウルには行かないぞおおお!」


こうしてギルド〈黎明〉。


会議の不参加確定。





* * *


チッ、パチッ。


暗闇の中で光が灯っては消えた。


空席を糸のような灰色の煙が埋める。


虎はタバコの煙を吸い込み、吐き出した。


聖所で不敬なことをしているのかもしれないが、私の宗教ではないから。


そしてこの時間なら、主も退勤しただろう。


トツ、トツ。


余裕と重みを込めた足取りが低い階段を上っていく。月光が降り注ぐ聖堂の室内。


老人。あるいは老将。


あるいは獅子。


そう呼ばれる背中を持つ老年の男が、ぼんやりと暗闇の中に立っていた。


目の前の菊を見下ろしながら。


「代表」


何度呼んでも返事がない。


虎は深く煙を吸い込んで吐き出し、ゆっくりともう一度呼んだ。


「父さん」


「……人生は無常だな」


「……」


「若い頃は戦で死に、年老いては歳月に死に、菊の花の香りが止まらないな」


「似合わない詩的なことをおっしゃいますね」


「そうか?」


ウン・ソゴンは正面を見上げた。


月夜のステンドグラス。


昼ほどではないが、なかなか趣があった。


「こうして一人ずつ見送るたびに感傷的になるのは、どうしようもないな」


「……」


「結局は『人』なんだな」


かすかな父の笑い声。


靴で吸い殻を踏み消した虎が、新たに一本取り出して口にくわえた。そうでしょうね。


「幽霊ではありませんから」


「冗談も言うようになったか?」


「何でも軽く言おうとする子を抱えて暮らしているうちに……」


口癖になりました。


タバコに火をつけた虎が失笑した。それにウン・ソゴンも笑う。さっきよりずっと軽い笑みで。


「いい子だ」


「無神経なのが問題ですが」


「そういう時代なんだ。心を許すと軽くなるのではなく、重くなる。重さのせいで座り込んでしまう」


「……」


「そういう世の中だ」


「……」


「虎」


「はい」


寂しげな眼差しが棺の上をなぞった。ウン・ソゴンは重い瞼を閉じた。


「若い頃、少しの間愛した女だ」


「……」


「香を上げてくれないか? あの世への道が安らかであれば、この心も少しは穏やかになるだろう」


鬼主、虎は黙って虚空に火を灯した。


背を向けて出て行く道。


二人の父子の間に長い会話は不要だった。


ぽつりぽつりと必要な時にだけ続く文章。石造りの床を響かせる靴音が、代わりに会話の空白を綴った。


「……ほう、それで、ジロクのところで仕事をしていると?」


「危機を感じたのでしょう。勘の良さは抜群ですから」


「良いことだ。関係を広げて悪いことはない。ジオは狭すぎるからいつも心配だった」


「まだ若いからです。徐々に良くなるでしょう」


「たまにお前が私よりジオに甘いという事実に気づいているのか?」


「たまにではなく、毎日です」


「なるほど、お前も10年以上ジオだけを見て生きてきたんだな」


「……」


「誰が狭く生きているのか」


「……」


風が冷たい。


ウン・ソゴンは四方に垂れ込めた夜を鑑賞した。遠い月を見上げた。


「弱点がそんなに大きくてどうする」


「……」


「私が死んだ後、プライドをきちんと率いることができるか心配だ」


「盤石はすでに誰かがよく磨いておいたので、何も難しくはないでしょう」


「チッ、ずる賢くなっていくな」


最も成長した息子。


また、最も強い……。


「虎」


「はい」


「兄弟たちにあまりにも残酷なリーダーになるな」


「父が譲ってくださった私の兄弟たちです。そんなことはありません」


「それならいいが」


虎とは、もともと獅子よりも残酷なものだ。ウン・ソゴンは苦笑いで言葉を濁した。


「ああ。バンビが会議の日程を明日の午後に変更したそうです。正午頃にお迎えに上がります」


「あのやつも気が短いな、わかった」


ギルド〈銀獅子〉。


会議の参加確定。


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