55話
* * *
「バベルの塔攻略速度から引き上げなければ。」
何か重要な話があると思ったら、たかがこれだけかという顔で、キョン・ジロクはピーナッツを指で剥いた。
「ああ、分かってる。遅いんだよ。宗主国にもなって、まだ39階だなんて。マジで恥ずかしい。」
「いいえ、リーダー。僕たちは遅いのではなく、『遅れている』のです。」
「……」
それは挑発に近かった。
少なくとも、この国で最も「塔攻略」に命を懸けている男にはそう聞こえた。
キョン・ジロクは顔を上げた。歯を少し見せた笑みだった。
「……こんな戯言を私の前でほざく理由が必ずあるはずだ。」
「ディレクター(Director)。」
ペク・ドヒョンは真っ直ぐに見つめて言った。
「バベルには『ディレクター』というタイトルがあります。」
「……」
ボロボロ。
砕けたピーナッツを払い落としたキョン・ジロクは腰を伸ばした。とりあえず聞いてみようという態度だった。
「50階攻略が終わると、『インターリム』と呼ばれる超越空間が開かれるのですが、そこで得られる『業績タイトル』です。そこの試練を突破する最初の1人が手に入れます。」
「……」
「そうして『ディレクター』になると、バベルネットワークに干渉できるようになります。それを『ディレクティング』と言います。」
バベルとの直接的なコミュニケーションから、塔に関連する一部の権限まで得られる。
簡単に言えば、一介の覚醒者ではなく、地域のバベルの塔の代行者になると見ればいい。
惑星代表が王なら、ディレクターは城主くらいになるのだ。
「問題は、その『ディレクティング』が所属する地域だけでなく、他のローカルにも可能だということです。」
「……くそ。」
キョン・ジロクは理解が早かった。
「前回のチュートリアルワークの時のエラーもそれか?」
「もちろん偶然かもしれませんが、高い確率で他地域のディレクターの仕業と見るべきでしょう。」
実際、こんなに早いとは、繰り上げられるとはペク・ドヒョンも思っていなかったが。
いくら考えても、今のところその可能性しかない。
「しかし、50階が解禁された塔はまだ……ああ、クソ。」
「ああ。『無塔』がある。」
捨てられた地のバベルの塔。
国籍もなく、名前もない者たちが向かうそこ。
どこにあるのか分からず、実在するのかも見たことがないが。
存在することだけは確かなその無主の塔を、人々は無塔と呼んだ。
その存在が初めて知られた背景は、無国籍者「マッドドッグ」のランキングデビュー。
また、彼を筆頭に現れた国籍不明の国際テロ集団の出帆。
キョン・ジロクは頷いた。
「面白いな。」
「……」
「急に状況がクソみたいに変わるな。塔を登るのに忙殺されるのに、今度は他国の奴らまで牽制しろと?」
ハハ。声を出して笑っていたのをピタリと止め、上体を屈めた。
キョン・ジロクの目が暗く光った。
「これがどういう意味なのか分かって話しているんだろうな、今?」
「攻城と守城。」
ペク・ドヒョンが答えた。
「『ディレクター』、つまり城主同士の戦争時代が到来することになるでしょう。こちらに戦う意志がなくても、攻撃する者が存在する以上、どう防ぐかによって被害が変わってくるでしょう。」
「……」
「もうなぜ『遅れている』と言ったのか分かったでしょう?」
「……」
キドの無塔はすでに50階を超え、アメリカの塔もすでに40階台を突破した。
現在までの韓国は遅れているのが正しかった。
「もちろん、私たちには『王』が存在します。地球でたった一人のキングがここにいるのですから。しかし、これは分類が違う話です。」
「ディレクター」は面倒な席だ。
悪用する意思がない場合は特に。
ただバベルの試練を突破しただけ。それは最も強い人を指すわけでも、最も賢い人を指すわけでもない。
名前の通り、塔を監督し管理する「指揮者」。
ペク・ドヒョンが記憶している韓国バベルの塔の「ディレクター」も、もともと平凡極まりない少年だった。
しかし、確かに「必要な」席だ。
「司令塔のない守城は、ただの雑兵の戦いに過ぎない。そんな侮辱に耐えられると?」
「雑兵とは。」
キョン・ジロクは呆れた笑みを浮かべて立ち上がった。
「王座は決まった主がいるからそうだとしても。五体満足に生まれたのなら、クソ。」
そのまま歩いて行き、受話器のボタンを押した。
「大将軍くらいはやってからくたばらなきゃな。」
[「はい、ヤングボス」]
「公文書を送れ。5大ギルドに。39階攻略会議の日程変更。明日13時。不参加の場合は。」
獰猛にキョン・ジロクが笑った。
「置いていくぞ、雑兵ども。」
* * *
同じ時刻。
キョン・ジオの心の中では合理的な疑念が芽生えていた。
「私、もしかして……自覚のない憑依物の主人公なのか?」
これマジで、私の人生のジャンルがある日変わったのに、私だけ自覚できずに呑気にバスに乗っているんじゃないか?
誰かがこの小説の登場人物の中に「キョン・ジオ」というのがいて、そいつが原作のラスボスだ、と噂を広めているんじゃないかと。
「そうでなければ、こんなに誰でも彼でも知っていて、ジョーと叫びまくることなんてあり得る?」
回帰者のペク氏から始まって……
今度は傾国傾城の妲己に匹敵する美貌の、誰が見ても黒幕のような奴が登場だなんて。
しかも狐の笑みまで。先祖様たちの言葉に、あんな風に笑う奴にまともな奴はいないそうだ。うん。
回帰者がただのコーヒーなら、こいつはT.O.P。ピンと来た。
「顔色良くなったね。」
「そりゃ、家出していたお星さまがカムバックしたからな。」
数分前に復帰されて、現在リアルタイムで土下座して謝り倒している。
[あなたの聖約星、『運命を読む者』様が、お兄ちゃんが百回千回万回悪かった、このお兄ちゃんと本当に口をきかないつもりかと、大粒の涙をポロポロこぼしています。]
[Wi-Fiが少し切れただけだと、お兄ちゃんがこんな僻地で、みなしごのように暮らしていると、これを見ろとばかりに周囲を両腕で振り回しています。]
「見えない。」
[聖約星、『運命を読む者』様が、えっ、うちのベイビーが今お兄ちゃんの言葉に答えてくれたの?そうなの?涙目の猿が口を押さえるポーズを決め込んでいます。]
既読無視で答えたジオが後ろをちらりと振り返った。
「なんでついてくるの?」
「また倒れるんじゃないかと心配で?」
「いいから、行く道を行ってください。」
「心配なんだ。」
「いつ会ったと。私を知ってるんですか?」
「うん。」
「……」
「今度はどうして知ってるのかと聞く番だよ。」
答えも準備しておいたと言わんばかりに笑みを浮かべる声。
本当に変な奴だ。
ジオは気まずそうな表情で手のひらをパーッと広げて見せた。
「1番、回帰者。2番、転生者。3番、憑依者。4番、眼球能力者。5番、ただのストーカー。」
「選択式か。」
「選んで。」
「6番、運命。」
優しく目を細める狐の笑み。
どこか宮崎駿映画に出てくる神秘的な男主人公のようでもあり、嵐の夜に訪れた大人のピーターパンのようでもある。
「マジでムカつくのに……」
妙に惹かれる。本当に「妙に」。
キョン・ジオは見慣れない気分を感じた。
本当に見慣れない感覚だった。
確かに自分の感情のはずなのに、そうじゃないような……
「懐かしい?」
ジオはパッと眉をひそめた。
「何してるんだ?」
「何を?」
「私に何かしてるだろ、お前。何の悪ふざけだ?この綺麗に顔を作ったクソ野郎が、死にてえのか。」
「わあ。口が悪いね、お嬢さん。」
微笑みを浮かべた大人の狐が近づいてきて、頭を下げた。ジオの頬の近くに唇を寄せ、囁いた。
「もしかして……『懐かしく』なった?」
そのまま角度を変えれば、お互いの唇が触れる距離だ。ジオは息を呑んだ。また、風の匂い。
これは本当に「異常」じゃないか。
ジオの顔から表情が消えた。
「お前、名前は?」
見知らぬ男が答えた。
「グイード・マラマルディ。」
[『ライブラリ化』発動]
[唯一真(眞)の化身 - キョン・ジオ権限確認完了。]
[領域を指定します。]
[『グイード・マラマルディ』の文書化を進めますか?]
[作業に失敗しました。]
[文書化する対象が存在しません。]
「グイード・マラマルディ」が笑った。
「失敗したのか、ジョー?」
「……お前、何者だ?」
「読まなくてもいい。僕が直接教えてあげるよ。」
名前はグイード・マラマルディ。
公式ランキングはワールド9位。
所属は〈イージス〉。イタリア南部出身のアメリカ人で、バベルと世界協会がつけた異名は……
「『調教師』と呼ばれているよ、幼い猫ちゃん。」
「……」
「みんな僕から恋人の影を見るんだ。一次的には……嗅覚から始まるんだけどね。」
美麗な指がジオの鼻先をかすめた。
「君は何の香りを嗅いだのかな?」
気になるね。グイードは身を引いた。
「近いうちにまた会うことになるだろう。」
そしてそのまま、捕まえる暇もなく人混みの中に消えていった。
ジオは彼が去った空席をぼんやりと見つめていた。見慣れない気分が消えずにいた。
「何もできなかった。」
より強いか、より弱いかの問題ではない。
魔力は原始的だ。
もし相手が強かったら、キョン・ジオが認知する前に彼らが先に反応しただろう。
しかしジオはグイードから、いかなる一抹の脅威も感じなかった。
つまり、こちらが圧倒的に強いという意味。それなのに。
「恋人……」
無意識に反芻したジオは、すぐに顔をしかめた。
何言ってんだマジで?モテないのにふざけてんのか?
「体が弱ってるからか?」
うん、確かに。そうかも。
さっきあそこの遠くに住んでいる誰かのせいで、パニックみたいなのが来たりもしたし。
[聖約星、『運命を読む者』様が、いつ手を下ろせばいいのかと、お兄ちゃんずっと両手を上げているとアピールしています。]
「ずっと上げててください。」
ふん。鼻で笑ってジオは歩いて行った。歩みに合わせて両手に持ったコーヒーキャリアもユラユラ。
その瞬間。
短いおかっぱ頭が風になびいた。ジオはハッと顔を上げた。
【これはもう閉じていいよ。】
【体を壊すよ。】
形のない手がジオの髪をかき乱して去っていった。
キョン・ジオは数秒間閉じていた目をゆっくりと開けた。
そしてようやく……ずっと開けていた聖痕を閉じた。




