501話
6年後。
「おい!急げ!遅れたらマジで席ないぞ?これが普通のチャンスだと思うなよ?毎日来るヘタ攻略じゃないんだぞ!」
「分かってるって。」
クォン・ランドは生返事をしながらよろよろと歩いて行った。
火傷の痕で歪んだ顔、バランスが崩れた、みすぼらしい格好。
周りの人々は軽蔑を隠さず、遠く距離を置く。まるで伝染病患者でも避けるような仕草だった。
「笑わせるな。」
「エビ!」
「きゃあ!ママ!」
びっくりして泣き出した子供が逃げていく。それを見てニヤニヤするクォン・ランドを同僚が神経質に引っ張った。
「狂ったか!また薬やったのか?なぜじっとしている子供に喧嘩を売るんだ?」
「あの子がじっとしてたか?まともな人間をまるで怪物を見るように。大人なら子供に視線も立派な暴力だと教えるべきだ。」
「まともな人間?」
同僚が嘲笑った。
「道端の犬も笑うだろうな。おい。お前の姿を見てまともな人間という言葉が出るか?」
「……」
「…まあ、いいや。お前、今回はマジで頑張らないと。分かってるな?死んでもダメだってことを。お前の生きる姿があまりにも不憫で哀れだから、俺が頼み込んで兄貴に懇願してやっと一つだけ席をもらったんだ。」
「耳にタコができるよ。同じ話を何回するんだ。」
「それだけ、クソ、頑張れってことだ!この野郎!」
同僚がクォン・ランドの耳元で唸った。
「お前、魔法使いなんだろ。」
「……」
「ハンター証がなくても、その、なんだ。塔に入らなくても覚醒するヤクザな奴らっているだろ。お前が、まあそんなんだろ。違うか?違うのか?」
「……」
「答えろ、この野郎!まさか嘘だったのか?」
「……魔法使いは、そうです。」
気乗りはしないが肯定は肯定だ。
内心安心した同僚がクォン・ランドの肩をなだめるように叩いた。
「そうだよ。俺はお前の実力を知ってるから信じてる。直接見たじゃないか!そうじゃないか?生死を共にした仲間じゃないか。」
「……ええ、まあ。」
「テソよ。この野郎。兄貴がただ言ってるんじゃないぞ。」
同僚が声を低めた。
「分かってるか?仁川戦争で魔術師王が死んで、チョン・ヒドもそのクソ野郎が扇動して魔法使いを全部魔塔に閉じ込めたんだ。だから市場に魔法使い、なんていなくなったじゃないか。いつの時代の韓国魔法使いだよ。最近見ると活動してる魔法使いはみんな外国の奴らだ。ここは厳然と朝鮮の地なのに!」
「……」
「これがどういう意味か分かるか?うん?」
「…どういう意味ですか。」
「この野郎、レッドオーシャン!韓国人魔法使いは注目されさえすれば、超~高く飛び上がれる、チャンスの海という意味じゃないか?」
「ブルーオーシャンでしょう。」
「意味が通じればいいんだよ!コラ!とにかく!」
同僚がクォン・ランドの肩を掴んだ。
「一発当ててみようぜ。お前もよく考えろ。魔法使いにもなっていつまでこんな魔窟をうろついて生きるんだ。ああ?」
同僚が黄色い歯を見せた。
仁川大戦争が終わった後、いくつかの変化があったが、その一つが魔窟の盛況だった。
魔術師王のデビューと共にバベルの「最優先管理国家」となり、大韓民国ではすっかり姿を消した魔窟がアウターゲートの余波によって復活したのだ。
同僚とクォン・ランドはその不法魔窟の末端攻略隊で出会った仲だった。
「今回のヘタ攻略で一発当ててみろ。聞くところによると攻略隊長がチェ・ダビデだって。ヘタの夜叉。聞いたことあるだろ?めっちゃ有名じゃないか。」
「……」
「S級の目に留まりさえすればゲームオーバーだ。大当たりしてその火傷もちょっと治療して!お前、元は悪くないんだから?」
その言葉にクォン・ランドは反射的に自分の頬を撫でた。
嫌な記憶が蘇る。
同僚が呼ぶ「クォン・テソ」は彼の偽名で、こんなことを言うのはおかしいが、彼はもともとこんな末端でくすぶる身分ではなかった。
幸せな環境だったとは言えないまでも、彼は名だたる財閥家の御曹司で、まともな家族もいたから。
それもとても有名なアイドルだった妹が。
「勝てないなら、食べればいい。」
「・・・。」
「食べればいいんだって。」
「お前.....何をしようとしてるんだ?」
ララ!
クォン・ララ!やめて-!
ザザス、ザザス、ナサタナダ・ザザス。
ザザス、ザザス、ナサタナダ・ザザス。
「おい、クォン・テソ!」
ハアッ!
クォン・ランドは息を荒く吸い込んだ。
肺が締め付けられるように痛かった。同僚が不安な顔で彼のあちこちを伺う。
「この野郎、どうしたんだ。大丈夫なのか?」
「…だ、大丈夫です。」
クォン・ランドは冷や汗を拭った。
彼を探さない家族や親戚を恨むことはできない。
自分の精神状態がまともではないということは誰よりも自分が一番よく分かっているので。
「そうでなければみんながララの放火で記憶している事件をこんな風に記憶するだろうか••••。」
「お前の状態が良くないなら正直に言え。いくら良い機会でも台無しにしてチェ・ダビデみたいな大物に目をつけられるよりは逃した方がマシだ!」
「本当に大丈夫だって言ってるじゃないですか。ところで兄貴。」
「なんだ。」
「そんなにすごいS級が俺たちに大当たりする機会をくれるでしょうか?」
「……」
「いっそみんなに公平だという白鳥の方がマシだ。チェ・ダビデは性格も昔と違うって言うし。白鳥も不仲説があるじゃないですか。」
「黙れ。縁起でもないことを言うな、行け、この野郎。」
☆☆☆
そして予想通りの流れだった。
「はあ、クソ。どうしてこうなった?」
「本当に分からなくて聞いてるのか?」
ぶつぶつ言う同僚を見てクォン・ランドはぼんやりと考えた。
「末端攻略隊出身の穴埋めに任せるような仕事なら最初から決まっていたんじゃないか?」
正式覚醒もしていない未登録者の彼らに割り当てられた役割は当然、ポーター。
足の補助具を点検しながらクォン・ランドは山のような荷物をそそくさとまとめた。ところが。
「おい!そこのびっこ!」
「…俺ですか?」
「そうだ、お前だ!」
指をちょいちょいする態度が本当にムカつくが、服装を見ると納得がいく。
ヘタ征服。今回のダンジョン攻略を担当する国内5大ギルド、ヘタ所属のギルド員だった。
クォン・ランドのような最下級のポーターは、とても話しかけられないピラミッドの上流階級。
「お前、魔法使いなんだろ?何級-ああ。ヤクザだからそんなものはないか。亜空間魔法はあるか?」
「ないです。」
「お前は何を学んでたんだ?とにかく最近の魔法使いときたら.......昔が懐かしいよ。軽量化はできるだろ?」
「はい。それはまあ基本-うっ!」
「持って来い。」
投げるようにクォン・ランドに荷物を押し付けたヘタギルド員がチッと舌打ちした。
「ちなみに隊長老-いや、攻略隊長の個人的な荷物だからちゃんと管理しろよ。もしなくしたらただじゃ済まないぞ。」
「え?いや、ちょっと待ってください。そんな大事なものをなぜ俺が-!」
しかし彼の言葉は聞く耳も持たず、そそくさと歩いていくヘタギルド員。
遠くから早く来いと顎をしゃくる様子が憎らしいことこの上ない。
「ああ、あいつを………」
クォン・ランドは堪忍袋の緒を切らさないように歩いて行った。
前列に移動する彼を見た同僚が目を丸くして指をさしたが、いちいち説明する暇はなかった。
「移動!進入する!」
攻略隊長のシャウトが響く。歯切れの良い叫び。
チェ・ダビデだった。
大韓民国の2番目のS級。現在のランキング4位。
この韓国で有名さでは指折りのセレブ中のセレブだ。
「財閥家の御曹司時代にも見られなかった有名人がすぐ目の前に••••。」
さっきよりもずっと近くなった薄紫色の髪に胸がドキドキした。
クォン・ランドは背中に背負ったリュックをちらっと見た。
本当なんだ。彼が背負っているのがS級ランカーの荷物だということがようやく実感できた。
「感じは悪くないな?」
なぜか良いことがありそうな気がする。
ドキドキと鳴り続ける心臓の音を聞きながらクォン・ランドは力強く足を踏み出した。
☆☆☆
「………良いことなんて、クソ、くらえ…!」
虚脱した息が散った。
クォン・ランドは血の混じった唾を吐きながらケラケラ笑った。
やっぱりな。俺はいったい何を期待してたんだ?
呪われたまま生まれた彼だった。
一生を不運の中で生きて、自分の名前では生きることさえできない運命だから死んだ妹の名前を借りて生きてきた。
嫌悪の中で、非難の中で、軽蔑の中で。
「それでもこんな姿で死にたくはなかったのに。」
加級ゲリラダンジョンだった。
ダンジョンの最上位等級、ゲートで言えば1級に相当する。
しかもタイプまで韓半島では一度も現れたことがないという「シナリオ」タイプ。
出現と同時に報酬が少なくないという噂が立った。
当然、あらゆる烏合の衆が押し寄せ、結局政府が介入して攻略責任は〈ヘタ〉に。
そこに近5年間リミットを破り、現在全盛期というS級、チェ・ダビデまで攻略隊長として登場すると、誰もこのダンジョンが「加級」だという事実に気にしなかった。
歴史に残る冒険になるだろうと、みんなそう信じて••••。
「バカじゃないか。」
仁川戦争で「ジョー」が死亡して以来、大韓民国でどれだけの人が死んでいったか?
韓国は以前のあの安全な巣ではなかった。
誰でも、いつでも死ぬ可能性がある。
こうして嘲笑う彼さえその事実をすっかり忘れていたのだから何も言えない。クォン・ランドは笑い出した。
馬鹿げてるな。こんな風に死ぬなんて。
ゲリラダンジョンの不安定性は誰もが知っているが、知っていることが必ず避けられるということではなかった。
足元がガクッと崩れる瞬間。
クォン・ランドはそれ以上考えを続けることができなかった。
もがく隣の人の腕を掴み、それを引っ張り、そして•••••代わりに落ちたのか?
「ハ。」
どんな良いことを見ようとしたのか、この期に及んで•••••。
天井は崩れた石に覆われて見えない。落ちながらまともにぶつかったのか頭の方がずっとじっとりしていた。
助けに来るだろうか?
果たして彼を探してくれる人がいるだろうか?
すべて無駄な希望だ。
ぼやける視界を瞬きしながらクォン・ランドは周囲を見回した。何かでも••••え?
ちょっと待って。あれ。
「チェ・ダビデのリュック?」
遠くない瓦礫の下に、めちゃくちゃになったリュックが見えた。彼と一緒に落ちてきたようだ。
パッと希望がよぎった。
そうだ、S級ランカーの個人的な荷物じゃないか!
エリクサー-いや、聖水、いや!せめて高級ポーションでも!
「あるはずだ!きっと!」
最上級ポーションならこんな外傷は問題でもない。
動かない体に無理やり力を入れてクォン・ランドはうめきながら這った。
血に濡れてガタガタ震える指先がやっとリュックの入り口に届いた。
「これは飴で••••••マ×カソル?」
金創薬でもないのに、なぜこんなものを?
しかも魔力成分が添加されたものでもないじゃないか。近所の薬局でも売ってないゴミを。
「鍵?」
番号キーや指紋キーがあるのに、なぜこんな旧時代のものを持っているんだ?
「いや、鍵が一体いくつあるんだ?」
一体どれだけよくなくすんだ?チェ・ダビデってバカなのか?
「百済金銅大香炉?」
いや、マジかよ!!!
「ヘタの乞食か?クソ、乞食なのか!」
憤慨に満ちたクォン・ランドの声が割れた。
ランカーの荷物がこんなものなのか?
ヘタ、名札や高そうな飾り、正体不明の本などを除けば、あらゆる無駄なガラクタでいっぱいだった。
エ×パッドやマニキュア、リップバーム、干し肉などはあえて言及したくもない。
「クソ...。」
クォン・ランドは大の字になって倒れ込んだ。
彼の目がゆっくりとまばたきした。
寒くて、眠かった。こんなみすぼらしい最後だなんて笑うしかない。
そうして目の前がだんだんぼやけていった。
自分から漏れ出した血がどこに流れ着くのかも分からないまま。
「お前のせいだ。クォン・ランド。」
ごめんね、ララ。
お前の兄として生まれなければよかったのに。
俺が悪かった。
「卵から生まれた始祖の子孫、その娘の腹から生まれた長男クォン・ランドが世界を滅ぼし、五番目の力が彼の前にひざまずけ。」
ふざけるな。
そんなデタラメを信じるなんてお前らみんな頭がおかしいんじゃないか?
巫女のあのクソ野郎もそうだ。ボケたならおとなしく死ぬべきなのに、呪いで他人のまともな人生を台無しにするのか?
このクソ野郎、お前は地獄に行っても俺は絶対に許さない。
だから。
「どうか.....」
どうか誰か俺を•••••
ピン!
「魔法使いだね?」
ピリン、ピン、ピン!
「レメゲトンが適合者と接触しました。」
「条件対象:魔法使い」
「最小条件を満たしたため、最後の魔導書、「レメゲトン」の按配が作動します。」
「世界魔力が反応します。」
「予備された魔法が成就しました。」
「■■■との接続が解除されます!」
「警告!」
「警告!」
「助けてあげようか?」
「注意!不明な経路、天文を逸脱したアクセスです。」
「見えない目が対象を認識します。」
「世界魔力が適合者の意志に応答します。」
《バベルネットワーク、魂覚醒認識》
《世界樹が胎動し始めた挑戦者の魂を認知します。》
《クォン・ランド - 格を初めて生成します。》
「助けてあげようか?時間がない。答えろ、早く。」
「そ、そう… 助けてくれ…」
『壊れた究極格、「■■■」様が管理者に聖約公証を要求します。』
「異常な経路です。」
「許可されていないアクセスです。」
「エラー除去。」
「バベルネットワーク、外部特別契約を確認します。」
「承認のため、対象クォン・ランド様のヒストリーにアクセスします。」
「評価中......」
「法則に従わず、神秘を疑問視し、神を冒涜し、限界と運命に挑戦する者。」
「絶えず探求し質問する天秤の外の魂。あなたは魔法使いの魂です!」
「評価完了。」
「化身として適格です。」
「聖約刻印を執行します。」
「よっしゃ。完璧-あれ?」
「おめでとうございます!」
「あなたに万柳天秤の加護を!」
「名前を知らない外部者、「万魔の帝王」との聖約が成功的に締結されました。」
「万魔の………………何?」
「ちょ、ちょっと待って!ストオオオップ!こいつあの時の薬中毒者じゃねえか?!」
「死ぬほど我慢したのに、よりによってこんなクソ雑魚-!」
「現在のレベルで耐えられる臨界値を超過しました。」
「覚醒者の保護のため、聖痕を一時閉門......」
☆☆☆
数日後。
「•••師匠、弟子が不満を言ってるんじゃないんですよ。こんな人の住む土地をうろついて歩き回ってもいいのかと思って。」
昼は猫、夜は人だなんて。
「聖約星はもともとあの天文とかいう上にあるんじゃないのか?誰かに見られたら捕まりますよ。」
「黙れ。薬中毒者。」
「マジ勘弁。誰が好き好んで薬なんかやるか。俺の魔力を奪って行くな!」
「不満なら聖約を破棄すればいいだろ。」
「••••••俺が言いたいのは!もっと必要じゃないかということです。師匠をよくお世話するのが弟子としての務めじゃないですか?」
「そうだそうだ。頑張らないとな。死にかけてた薬中毒者を助けて人として生きさせてくれたのが誰だと思ってるんだ。」
「........」
コホン!コホン!
「あのう•••先生?」
....しまった。
クォン・ランドはそこでここがどこかを自覚した。
仕切りの向こうのセンター職員が彼を狂人を見るような目で見ている。
「大丈夫ですか•••••?」
ああ•••••マジでこのクソ師匠!
自分とは何の関係もないというように澄まして彼の膝に座った猫を睨みつけた後、クォン・ランドはぎこちなく笑ってみせた。
「すみません。あの、特別覚醒者緊急申告書を提出しに来たんですが。」
☆☆☆
ピン-!
クォン・ランド
20xx. 01.02
• タイプ:戦闘系 | 魔力特化
• 成長進捗度:2段階
• 潜在限界:不明
• 保有魔力値:測定不可
• 魔力感応レベル:極上
「最終等級:S」
《おめでとうございます、韓国!》
《国家大韓民国にS級覚醒者が誕生します。》
「••••友達は確かに魔法使いだって-ちょっと待て。S級、魔、魔法使いだと?!」
「ま、まさか••••!」
測定室の中。
何の期待もせずにクォン・ランドを見ていたセンター公務員たちの視線が混乱と衝撃に染まる。
分かっている。
S級魔法使いは全世界を合わせても歴史上ただ一人だけが唯一だったから。
これがどれほど驚天動地なことなのかはこの中の誰よりも彼が一番よく分かっていた。
「ま、まずは魔塔に!何してるんだ!早くチョン・ヒドマスターに連絡-」
「いいえ。」
いつからか当然のように彼の視界の一角に位置するようになった一人。
今はあくびばかりしている黒猫。
自分の人生を揺るがし、自分の世界を完全に変えてしまった、世界で最も偉大な魔法使いを見ながらクォン・ランドは力を込めて言った。
「バビロン。俺はバビロンと接触したい。」
話したいことがあった。
キョン・ジロク、現在の大韓民国のランキング1位に。




