50話
* * *
事件の発端は数日前に遡る。
末っ子とのデートを成功させた一日。遅れて帰宅したキョン・ジロクに、残りの三戒も言い含めて、悠々自適に余裕を楽しんでいた夜。
満腹の平和に酔いしれて現実を忘却した暴君を叱責するかのように、キョン家の玉皇上帝の鉄槌が落ちてきた。
「……もどかしくて死にそう。あんな風に毎日家で情けないニートみたいにゴロゴロしている姿、私はどうしても見ていられないわ。」
午前0時を過ぎた時刻。
闇が降りたリビング。
台所でキムチチゲの中の豚肉をこっそりつまみ食いし、そろりそろりと部屋に戻ろうとしていたキョン・ジオの足がぴたりと止まった。
声が聞こえてきたのは奥の部屋。
ドアの隙間から黄色い光が漏れていた。
何か……ものすごく嫌な予感がした。
魔術師らしく聡明なジオの頭脳が回転した。
「この家で『情けないニート』という修飾語がつくのはキョン・ジオ、私しかいない!」
こっくり。
ニートのキョン・ジオは食後のデザートとしてかじっていた天下壮士ソーセージを両手に握り、向きを変えた。
もぐもぐと噛みながら奥の部屋のドアに耳を澄ませた。
「変わるわけないじゃない。私が自分の娘を知らないとでも? 今日だって昼の3時になってやっと起きてきたのよ。午前中に起きることなんて、もう期待もしてないわ。」
「そうよ。よりすぐって選んだ塾があんなことになるなんて、誰が予想したでしょう? ソウルの一等地で。」
「状況がこうなっては、どこかに預けておくのも不安だし。次男は自分の身を守れる子だし、末っ子は学校に通っているから。子供たちの学校はまだ、とても安全じゃない。」
(参考:すべての学校には基本的に国から支援された大保護結界が装着されている。)
「問題は長女よ。」
「うちの子は誰かが横で指示して、手綱を握ってあげないと、どうにかできる子なの。もともと怠け者だから。副代表さんも長く見て知ってるでしょ?」
話が続くほどに、パク・スンヨの口調がだんだん断固たるものになっていった。
それに比例して、ジオの不安感も大きくなった。そしてついに。
「だめだわ。答えは江原道よ。」
……!
「ボヒョン僧侶の連絡先が……どこかにあるはずだけど。あら。どこに置いたかしら?」
数日前に片付けてしまった過去のキョン・ジオ、ナイス!
「あらまあ。どこに置いたかしら? ……え? 少し待ってみろって? でも。うーん……」
そうだ! 頑張れ、私!
本当に私を江原道に送り返すんじゃないだろうな!
お前と私のソウルにはまだキングジョーが必要なんだ!
「……忍耐ね。そうね。私は多くを望まないわ。ただ、私の娘が少しでも誠実に生きてくれたら、一生懸命な姿を少しでも見せてくれたらと思うだけなの。」
「聞くところによると、よその家の娘たちは浪人や三浪をしても、自分たちでバイトをしたり、そんなことをするらしいじゃない。」
「隣の家の子は、学校に通いながら塾に通って、初任給で自分のお母さんにグッチのバッグを買ってあげたとか。ソンヨンのお母さんが、それはもう自慢するのよ。」
てめえ。チン・ソンヨン、てめええ。
絶対に許さない。復讐してやる、必ず。
「あらあら。そうね……私が欲張りなのかもしれないわ。副代表さんの言うとおり、とりあえず数日だけ様子を見てみましょう。」
つま先を立ててジオは部屋に戻ってきた。
ベッドにロダンの考える人のポーズで腰掛けた。事態は思ったより深刻だった。
「これくらいなら……ほとんど珍島犬一匹分だ。」
キョン・ジオワールド最高非常事態に近かった。江原道ジャガイモがすぐ目の前に見え始めたから。
「どうしよう?」
うーん、図書館や自習室に行くとでも言おうか?
いや。それらはもう高校3年生の時にずっと爆睡しているところを見つかって、やられた前科がある。
新しい塾に登録?
くそったれオプティマスがあんなことになった以上、どんな塾もパク・スンヨを満足させることはできないだろう。
それとも、寮、寮の塾……
「だめだ! キョン・ジオ様、ちょっと! お前! 頭おかしいのか?」
社会悪の寮の塾は絶対に嫌だ。それはまるで便所を避けて糞壺に入るようなもの。
落ち着け。パニックにならずに核心を把握しなければならない。
パク・スンヨと円満に交渉できる合意点を……!
その時だった。
バベルネットワーク
▷ ランカー1番チャンネル
▷ ランキング8位「アナウンス」使用
/チャンネル所属人員が「アナウンス」を使用中です。/
/アナウンスモードでは「チャンネルチャットウィンドウを閉じる」機能を利用できません。/
「忙しくて死にそうなのに!」
この夜中に、誰だよ、マジで?
「アナウンス」がオンになると、一定時間チャンネルチャットウィンドウを閉じることができない。
ジオは顔をしかめて目の前に浮かんだ半透明なウィンドウを払いのけようとしたが、無駄だった。
バベルネットワーク
| 8 |
ダビデ:はあ、、、、
| 8 |
ダビデ:お酒一杯飲みました、、スカウトがうまくいかなくてもいいです。しかし「ヘタ」だけは覚えててください、、心を込めて伝えます..
| 8 |
ダビデ:うちのギルドは大したことないかもしれません.. 夜通し悩みました.. 最善を尽くして頑張りました.. 私たちの真心が伝わることを願います ありがとうございます,,,,
| 28 |
ドミ:うわ、酒臭い
| 9 |
ギュニギュニ:もう、とうとうチャットウィンドウで酔っ払いまで......
| 18 |
チョンヒド:何なのあれ
| 18 |
チョンヒド:ランキングで押されて、ただでさえ気が滅入って死にそうなのに、こんな時間に他人の酔っ払いまで見なきゃいけないんですか、マジで
| 4 |
白鳥:申し訳ない。思わぬ醜態をさらすことになってしまった。
| 4 |
白鳥:今日、ダビデの心がかなり傷ついたようなので、どうか広いご理解をお願いします。
| 26 |
ソンタン:??? 何かあったんですか?
| 21 |
明日免許更新:あらまあ.......噂は本当だったんですね
| 8 |
ダビデ:みすぼらしい、、汚い、、
| 26 |
ソンタン:噂ですか?
| 21 |
明日免許更新:ああ、魔塔の方々はご存じないでしょうね。今日センターで本当にたくさんのことがあったんですよ
| 8 |
ダビデ:金さえあればいいのか マネーマネーしてもmoneyってことか、、
| 21 |
明日免許更新:歴代級の超新星に、あの珍しいAA級ヒーラーまで(笑) 韓国のギルドというギルドは全部集まったんじゃないでしょうか。珍しい光景でしたよ
| 21 |
明日免許更新:たぶんアナウンスが出たので、このチャットウィンドウもご覧になっていると思いますが
| 21 |
明日免許更新:ヘタとヨミョンがかなり力を入れているようでしたが、結局バビロンに行くみたいですね
| 3 |
アルファ:うちも食いっぱぐれましたよ~ あまりにも断固としていらっしゃったので^^;
| 3 |
アルファ:お話では、もともと一箇所だけ考えていらっしゃったそうですが。
| 3 |
アルファ:実はバビロン側から事前接触が激しかったのは、ここみんなが知っている事実じゃないですか? 火星の未熟な対処も少し残念です^^
| 9 |
ギュニギュニ:何を言っても、自分たちの都合の良い時だけ聞き入れるふりをするのに、どうしろって言うんですか、それじゃあ。
| 9 |
ギュニギュニ:D.I.側の成果が良かった前回のシーズンには、ありとあらゆる賛辞を贈っていたのに。
| 3 |
アルファ:私がそうでしたか? 記憶が... ^^
| 8 |
ダビデ:貧乏ギルドはつらい
| 6 |
夜食王:チェ・ダビデ、強くなれ..
| 6 |
夜食王:女の子、弱い姿を見せてちゃだめだ お? クスン
| 16 |
サム:ヘッド、お願いだから
| 16 |
サム:酔いが醒める前にチャットしないでくださいって、行く前に頼んだじゃないですか
| 3 |
アルファ:まあ、とにかく今回のリクルーティングシーズンの勝者はバビロンが有力そうですね^^ もちろん、ゲームは最後までやってみないとわかりませんが。
| 3 |
アルファ:そうですよね? ドヒョンさん^^ まだ判子を押す前ですからね。
| 13 |
サンサン:皆さん、どうしたんですか。社会的地位もある方々が、こんな「私的な」場所で「公的な」話をするなんて。見ているのが恥ずかしいですね。
| 13 |
サンサン:うちの「予備新入」の方がかなりプレッシャーを感じていらっしゃるでしょうね(笑)
| 8 |
ダビデ:うわ、マジでムカつくクソ野郎 笑ってるの見てろ
| 8 |
ダビデ:おい、マジかよ、マジでクソかよ お?
| 8 |
ダビデ:はあ,,,
| 8 |
ダビデ:狙うは1人。 人斬り抜刀斎、聞いてるか
| 8 |
ダビデ:うちの抜刀斎はどこ??ㅠ抜刀斎連れてきて。
| 18 |
チョンヒド:一人だけを狙うって、そういう時に使う言葉じゃないと思うけど
| 21 |
明日免許更新:でも本当にそうですね。今回のシーズン、剣術界で最もホットな超新星がこんなに早く売り切れてしまったので、他のギルドでは抜刀斎様を探しに血眼になっているでしょうね
| 26 |
ソンタン:うわ、価値がものすごく上がりそう
| 21 |
明日免許更新:価値が問題でしょうか。ぜひともお迎えしたいと大騒ぎでしょうね。ただ座っているだけでもいいと言いながら(笑)
| 26 |
ソンタン:確かにそうでしょうね(笑) スカウトの常套句(笑) 来て寝ているだけでもいい
「……寝ているだけでもいい?」
パッと! 頭の中に蛍光灯がつくような感じ。
ジオは飛び起きた。慌てて上の階の書斎に駆け上がった。
「なぜそれを思いつかなかったんだ?」
一段一段階段を踏むたびに、砂漠の泉でも湧き出るような気分だった。
近所のカフェやその他の飲食店とは違って。
ずっと立っていたり、動き回らなくてもよくて、分秒ごとに知らない人たちに対応する必要もなく。
座っているだけでもよくて、ひょっとしたら、寝ていることまで可能なかもしれない!
何よりも、現在のジオのスペックならフリーパスが可能な業界!
******
書斎の中。
キョン・ジロクの机を漁ったジオが、金剛山の山師のように両腕を上げた。
手の中にある書類ファイルが蛍光灯の光を受けてキラキラと輝いた。
あった!
「超楽バイト!」
[20XX年 ギルド バビロン デスク職 期間制社員 公開採用のお知らせ]
※ 応募資格:覚醒者ライセンス必須。
たまたま作ったB級ライセンス一枚が、S級ライセンス十枚よりも価値があるとは!
サブキャラの抜刀斎までは明かす必要もない。現場で働くつもりはこれっぽっちもないから。
ただ、普通のギルドのデスク職の覚醒者たちが平均E、F級であることを考えると……
「このスペックなら絶対に市場で通用する!」
魔術師王キョン・ジオは肩を震わせてクククと卑怯に笑った。
デスク職界のキンブ。
アルバイト地獄ハイスペックのラスボスの出馬宣言だった。




