493話
「くそ•••••。」
外の歓声が大きくなるほど心臓の鼓動も高鳴った。クォン・ランドは焦る手つきで深くかぶったキャップを直した。
本来、彼はこんなところにいるべき人間ではない。こっそり抜け出したのがバレたら、会長や叔母たちが黙っていないだろう。
それでも仕方なかった。
「•••••優勝すると言っておきながら、そんな見苦しい姿を見せるなんて。クォン・ララ。」
テレビの中でへたり込んでいる妹の姿を見た瞬間、後患も何も考える余裕はなかった。彼の体はすでに裏口を越えていたのだから。
「見かけ倒しのお兄様気取りか......」
一体何の役に立つのかと思いながらも、ぞろぞろと楽屋のドアの前までやって来ている自分の姿がおかしい。
自嘲しながらクォン・ランドは手慣れた様子で周囲の警戒を怠らなかった。
そして人影がまばらになった頃合いを見て、素早くドアを開けて入った。
バタン。
「誰よ!」
「俺だ。」
鋭く甲高い声。
反射的に顔をしかめながらクォン・ランドは帽子を脱いだ。
「なぜドアに魔法までかけて••••••一人で何してるんだ?そんな隅っこで。」
「•••••あんた、なんでここに来たの?バレてまた何か騒ぎを起こすつもり?さっさと出て行って。」
「騒ぎは俺じゃなくて、お前がすでに起こしてるみたいだけどな。お前の今の姿、テレビに乗って全部バレてるぞ。多分、家の大人たちも−」
「からかおうと思って来たの?クソ、出て行け!」
ガシャン!
クォン・ララが投げつけた花瓶が足元で粉々に砕け散る。クォン・ランドもカッとなって叫んだ。
「心配で来たんだよ!」
自分の今の状態がどんなものか分かってるのか?
中は腐っていても、外見はアイドルらしくいつも輝いていた妹だった。
クォン・ランドの顔が歪んだ。
「心配で来たんだよ。状態があまりにもひどそうだったから!お前が俺を疫病神扱いしてるのはよく分かってるし、理解できないわけでもないけど••••••!」
まずい、感傷的になるな。
クォン・ランドは首を振って振り払った。
「•••••どうせお前に今必要なのは感情のゴミ箱だろ?それなら俺が一番得意じゃないか。」
「狂った野郎。」
「狂った薬物中毒の野郎なのは今に始まったことじゃないだろ?」
クォン・ランドは慎重に足を踏み出して近づいた。
楽屋の隅の方。
仕切りが設けられた隅にうずくまっているクォン・ララは、後ろ姿しか見えなかった。
マネージャーも、いつも連れているスタッフたちも周りにいないのを見ると、どれだけ駄々をこねたのか見なくても分かる。
「いい加減にしろよ。」
「終わったの。全部ダメになった。台無しにした••••。」
「ダメになるって何をダメになるんだよ。一つもダメになってない。とりあえず出よう。家に帰って考えよう。結婚問題は••••••何か方法があるだろう。」
「方法?ハハハハハハ!方法?ホウホウ?」
「人生が終わったわけじゃないだろ。もう少し考えてみようって−」
「ちょっと待て。」
クォン・ランドは眉をひそめた。
これは何の匂いだ?
なぜ今気づいたのかと思うほど、生臭い匂いが四方に充満していた。クォン・ララに近づくほど悪臭レベルで深刻になる。
「全然話が通じないのね。そうじゃないの。」
「おい、お前怪我したのか?」
違う。ぼうぜんとつぶやくクォン・ララをあちこち探しているうちに、クォン・ランドはハッと気づいた。
ララの方じゃない。この匂いは−彼は勢いよく立ち上がり、クォン・ララの前の仕切りをバッとめくった。
「.....!」
「台無しにしたって?台無しにしたなんて言ってない。台無しにしたんじゃなくて、ぶち壊したの。ぶち壊したって言ってるの!」
「これは一体......」
思わず後ずさりしたクォン・ランドは、自分の足音にハッとして振り返った。
そして目が合う。
血管が切れて真っ赤になった目でクォン・ララが満面の笑みを浮かべた。
「あの人がぶち壊したの。お兄ちゃん。」
何かおかしい。
頭の中で警告灯が点滅した。
「これ、誰の••••••誰の血だ。お前がやったのか?まさか?」
仕切りの中の風景は、ぞっとするほど赤一色。
クォン・ランドはその中で装飾品のように整然と整列された、頭に似た何かを見た気がしたが、必死に否定した。
「まさか?え?俺が考えていることじゃないよな!答えてくれ!」
「必要だって言ったの。」
「誰が!」
「........」
「...クォン・ララ。ララ、お前おかしいぞ。」
「私は、優勝するわ。必ず。」
ララは確かにこのゲームに運命を賭けた。
しかし、それは自分自身を手放さないためだった。縛られている自分の境遇を克服しようと飛び込んだゲームであるだけに、ゲームのせいで自分自身を手放してしまうことなどありえない。
「考えてみれば、7階級の魔術精霊を使ったこと自体がおかしい。」
クォン・ランドは生唾を飲み込んだ。
普通の家族のように親しくはなくても、一生を同じ屋根の下で暮らしてきた。少なくとも彼が見てきた妹にはそんな実力はない。
そうだ。あれは正常なクォン・ララではない。
「私が何を?私は警告したわ。許さないって言ったじゃない。」
「一体誰のことを言ってるんだ?まさか••••••お前の相手だったあの人?」
「........」
瞬間、悪態が出そうになったが、クォン・ランドは最大限冷静に口を開いた。
「クォン・ララ。それが誰だか知らないからそう言うのか?お前がずっと中にいたから、分からないみたいだけど、外は大変な騒ぎになってるぞ。あの『ニードヘッグ』が現れたって。」
「ニードヘッグ?」
「そうだ。あの人が乗っている黒竜。来る途中で見たら名前もすでに全部変わってたぞ。あの人だ。『キョン・ジオ』。あの偉大な魔術師王だって。」
許すだなんて、とんでもない話だった。
試合前に偶然出会った冷たい顔を思い浮かべながら、彼は生唾を飲み込んだ。
「位階の差を見ろ。魔術師王は9階級−いや、10階級以上だ。究極に達した覚醒者がどんな存在か知ってるだろ。超人じゃない。超越者だ。俺たちのような人間じゃないんだ。」
立ち向かえる存在ではない。
「もう忘れろ。何か踏んだと思って、忘れて俺たちの行く道を………………。」
冷静に。ゆっくりと。
刺激せずに説得しよう。
「まだ理性は残っているみたい−」
「・・・。」
クォン・ランドの目が激しく揺れた。
「私を呼んで。」
「勝てないなら、食べればいい。」
「......」
「食い尽くせばいいって。」
罠はすでに仕掛けられていた。
クォン・ララが静かに彼を見上げる。
クォン・ランドはそうして音もなく忍び寄ってくる恐怖と向き合う。
「お前••••••何をしようとしてるんだ?」
(私を呼んで。ララ。)
(私が望むことをさせて。)
ララ。
口の中で発せられなかった呼びかけ。
そして彼が最後に見たのは、激しく回転する魔力回路。血の色の黄金色に染まる妹の瞳だった。
☆☆☆
「何か引っかかるな。」
「あ、あ、あの、パ、パ、パ、パル、少しだけ、ド、ド、ド、ドゥロジュシルス•••••」
なんてことだ。私が魔術師王にウェディングドレスを着せているなんて。お母様、仏様、神様••••••!
ブライドウォ、ついに決定した優勝者の身支度を手伝うスタイリストチームは、緊張のあまり顔色まで真っ青になっている。
あれじゃ舌を噛みそうだ。
ジオは舌打ちをして腕を上げた。
事実上の決勝戦が終わった後。
勝者をさらに決める必要はなかった。
選手を紹介する字幕が「ジ・キョン」から「キョン・ジオ」に変わると、残っていたすべての参加者がその場で棄権を宣言した。
そうして電光石火で決定した優勝者。
あとは優勝セレモニー、つまり花嫁入場だけだった。
「サイズが小さすぎて、これを一体誰が着るんだ?と思っていましたが、杞憂でしたね。不思議なほどぴったりです!」
予想外の協力的な態度に緊張が少しほぐれたようだ。スタッフの一人が愛想よく話しかけてきた。
「私のだから当然でしょ。」
参加した瞬間から決まっていた花嫁の座じゃないか?
ドレスは事前に完璧にオーダーメイドされたキョン・ジオ専用だった。
そして外の人のすべての服には、中の人の好みが反映されるもの。
ジン・キョウルの好みが積極的に反映されたウェディングドレスは、スリムなラインで長く落ち、ドレスというよりは長いワンピースに近かった。
レースも極端に少なく、純白の色を除けば用途を見分けるのが難しいほど。
「ウェディングドレスというより、実は戦闘服なのでは?」
「まあ、それも間違いではないし。」
広域挑発核爆弾を投げておいたのだから、いつどこで反応してくるか分からない状況じゃないか。
邪魔くさいこんなドレスまで着飾る理由は何だろう?
ほら。私たちはお前たちの存在を全く知らず、完全に油断している最中です。だから早く出てきてくださいというシグナルだった。
「ところで、一つお伺いしてもよろしいですか?」
「何。」
「本当に虎様とこのままご結婚されるんですか?本当ですか?」
「なぜ。」
「いえ•••••魔術師王が誰かと結婚するなんて信じられなくて。そうじゃないですか。そう思いませんか、皆さん?」
周囲に同意を求めるスタッフ。するとみんな気まずそうに笑って頷く。
「やっぱりちょっとそうですよね?キングは私たちみんなのものだから••••••?」
「私が?いつから?」
「ひん…違いますか?」
そっけない態度を取っていたのはいつのことやら、いつ会ったというのにこんなにまとわりついて騒ぎ立てるんだ?
見た目は年上の女性たちが泣きそうな顔でまとわりついてくるのを、ジオは一人一人手のひらで押し退けてやった。
「化粧はしないって言ったわよね?」
「ええ。」
「ブーケは−」
「しないってば。いつ終わるの?早く早くして。」
「これが最後です!でもブーケは必ずこれを持ってほしいと銀獅子の方から要請があったのですが、本当に持たないのですか?」
「え?」
銀獅子?
ジオは眉をひそめた。
「新郎は入場しないことにしたのに?」
ウェディングアイルに立つのは花嫁一人だ。
番人たちは観客席に隠れていて、ジン・キョウルとペク・ドヒョンの方も同様。
おとり用とはいえ、一応は結婚式。
恋人の顔色を全く見ないわけにはいかないから。新郎の席は色々と空けておくのが妥当だった。
虎とも少し前に整理を終えたばかり。
あの意地悪な虎がそんなに空気の読めない人ではないはずなのに••••••。
首をかしげながらジオは顔を向けたが−
「•••••要請が誰だって?銀獅子?」
「そう聞きましたが••••••どうかなさいましたか?」
「違うな。ちょうだい。」
慌ただしく動いていたスタッフたちは、我を忘れて作業を止め、じっと見つめた。
ついさっきまで彼らの前にいた人は確かに魔術師王だったのに••••••。
白い花を束ねたブーケ。それにそっと鼻を埋める顔がほんのり赤い。
白く美しい頬が桃色に染まった。
咲き誇る生気がまるで春の水を吸った花、燦爛たる若さの誇示のように無邪気で眩しくて。
自分に注がれる視線の中でキョン・ジオが気まずそうな笑みを浮かべてぶつぶつ言った。
「何見てるの。仕事しなさい。」
「引っかかっていた理由が分かったわ。」
黙っているはずがないのに、静かすぎると思ったわ。でもこんな小細工を仕掛けてくるとは。
ジオは手袋をはめた指先でいたずらっぽくブーケの花のつぼみを軽くつついた。
それは聖都アドミヤの花だった。
風が吹けば重さもなくひらひらと舞う、雪の結晶のように軽くて軽い白色の花の群れ。
初めてキョウルが彼女にプロポーズしたあの美しい時代の断片。
『7-A:一瞬たりとも自分のことを忘れないでほしいというデモのようですね。』
『しつこい男…………………』
「その通りだわ。」
一人で歩むことにしたウェディングアイルさえ、ただでは済ませない。とことんしつこい男だった。
バベルのぼやきを失笑で受け流しながら、ジオは最後にベールをかぶった。
手に持ったブーケがちょうどいい重さだ。
「偽物たちをさっさと片付けて、うちのダーリンとハネムーンでも行こうかな?」
『そんな話はお二人でなさってくださいませんか?聞いているのが不快です………』
「花嫁様、ご入場です!」
スタッフの叫び声とともにドアが大きく開く。照明が降り注ぐ。遠くからワーグナーの結婚行進曲が聞こえてきた。
緊張感は全くなかった。
すべて仕組まれた茶番。意味など一切込められていない見せかけに過ぎないから。
「そう思って。運命だと思って受け入れて−」
バベルに冗談を言いながらジオがそうして正面に足を踏み出した瞬間だった。
「・・・。」
吹雪のような雪の花が視界を染める。
風、花、星…………白く眩しい歓喜。
そしてウェディングアイル、その純白の道の先に一人の男が立っている。
キョン・ジオはそのまま立ち止まった。
古い記憶が吹き荒れた。
「無知ゆえに残酷な言葉を平気で言うね。私がお前をどれほど長い年月見守ってきたと思っているんだか………………それでもまだ不安だったら。」
足を踏み出さないと、早く来ないのかと、新郎の姿をした彼が手を差し伸べる。
「私の肉体と魂が熱烈に崇拝するお前に、あえて永遠を約束する。そのすべてを喜んでお前の名の下に捧げる。」
彼は似合わないほどひどく緊張した顔をしていた。
平然を装うのが得意で誰もそんな彼に気づいていなかったが、ジオだけは読み取ることができた。
そんなことがいつもジオにだけは可能だった。
そして…………足が動いたのか?
近づいたのを見ると、彼が近づいてきたか、こちらから歩いて行ったかのどちらかだろう。
ジオは近づいてきた彼をじっと見上げた。
「愛するアナタ。」
「どうか泣くか悪態をつくか、どちらかにしてください。」
また泣いているのか?そんなはずはないのに。
ひどく優しい手つきが目元を拭う。ジオは思わず身をすくめた。
彼が風のように笑いながら冷たくなった頬と手を撫でた。
「セリフは使い回しだけど、これはジオバンニではなくキョン・ジオに言っているのだから、また変な誤解はするな。」
しかし、意地悪ないたずら心はほんの一瞬だった。
柔らかな微笑みとともにジン・キョウルが囁いた。
「お前に求愛するために永遠を渡ってきた。」
「........」
「だからあえて断言するが、お前に捧げるこの私の心は永遠よりも価値があるだろう。」
ゆえに多くの人々が見上げて賛美する永遠よりも尊いアナタよ。
「私の誓いを受け入れてくださいますか?」
ジオにだけ聞こえるように、無限で不変の心を込めて。
そしてそんな彼と向き合いながらキョン・ジオはその瞬間悟る。ふと悟った。
あまりにも長い時間が経って忘れていたのだ。
このひどくて笑えない狂気を諦めもせずに繰り返してきた理由を。
「そうだったのか。」
私はお前を一人にすることができなくて、お前を一人にしたくなくて、この長い愛に足を踏み入れた。
誓いはもう必要なかった。それで十分だった。ジオは足を踏み出して彼、彼女のキョウルをわっと抱きしめた。




