表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
471/501

471話

レイモンド・ロスチャイルドはプライドが高い。


名家の御曹司らしく、気性も並大抵ではないため、彼が誰かを「ご主人様」と呼ぶ姿を見たら、誰もがきっと驚愕しただろう。


しかし、これは家の一大事だった。


「何よりも、あの男は……」


レイモンドはふとよぎった「あの日」の記憶に、乾いた唇を湿らせた。


かつて世界の金脈を支配したロスチャイルド家(Rothschild family)。


激動する現代に至り、過去の影響力を大きく失ったが、ロスチャイルドは自分たちの黄金時代を一度も忘れたことはなかった。



そして20年前、突然訪れた【新時代】。


これだ。


ロスチャイルドは機会を逃さず、素早く動いた。


彼らは新たに開かれた新世界を手当たり次第に吸収した。


新エネルギー、ダンジョン、アイテム、魔導工学、ブラックマーケットなどなど……。


押し寄せる時代の波に乗って新たな秩序が確立され、ロスチャイルドはその先頭を強固に位置づけることに成功した。


しかし、足りなかった。


依然として飢えていた。


バベルが主導するこの時代は、強力な力によって左右される新野蛮の時代だった。


ロスチャイルドは、自分たちが食い尽くしたのはメインディッシュではなく、「王」が残した残りかすに過ぎないことを知っていた。


もちろん、だからといってクーデター?そんなことは考えもしなかった。


ロスチャイルドから王が出たことは、長い歴史の中でも一度もなかった。彼らが望むのは王冠ではなく、ただ「王座に最も近い隣の席」。



「ランキングが変わりました。こうなると再考すべきではないでしょうか?」


「一時的なことです。すぐに元の位置に戻るでしょう。盾が魔法に勝てるはずがありません」


「その通りです。魔法使いは自ら『神』になれますが、クルセイダーはいつまでも『神の子』のままです。リリーホワイトは持っている限界が明確です」


「しかし……私たちが彼女の懐に入り込むことができるでしょうか?あまりにも偏狭です。どうしても壁を低くしてくれそうにありません」


「……」

「……」

「……」

「……」


「懐に入り込めないのなら、懐の影になるのはどうでしょう?」


暗幕の裏で身を低くし、時を待つのは彼らが最も得意とすることだった。


〈Hallowed Arcana Observers〉。

聖なる魔尊の証人たち。


似非宗教に偽装した秘密結社組織は、そうしてロスチャイルドの手で生まれ、徐々に勢力を拡大し始めた。


ジョーが拒否できないジョーの影となり、王が認識しない間に距離を縮めていき、そうして……。



「【灯火】が自ら入ってきました」


「いいですね。篤実さでは誰にも負けない者です。定められた手順だったと思います」


「【天使】もです。ああ、オプションを一つ付けてきましたが」


「誰です?」


「死霊の【調教師】です。ダブルA級。気にする価値はありませんが」


「先日サントロペであった件で、【聖女】と【マダム】も完全に感化されたようですので、ゆっくり接触してみましょう」


「やはり予想通りですね。宗教界は簡単です」


「これで要注意人物はほぼ完了でしょうか。ああ、【教授】を除いて」



「【教授】はもうロイヤルファミリーに分類すべきではないでしょうか?ロイヤルファミリーはアンタッチャブルです」


「まだ早いです。血がつながっているわけでもなく、【獅子】たちのように養育者でもありません。婚姻関係は薄っぺらくて、その者は婚姻関係にすらないではありませんか。どこから現れたのかもわからない者が、あの方のそばに付きまとっているだけなのに、ロイヤルファミリーだなんて、とんでもないことです」


「わかりました。それでは一旦【教授】は保留にして……」


「順調ですね。あの方と共にする『D-DAY』が本当に近づいてきました」


すべて計画通り。




和気あいあいとした雰囲気の中、ロスチャイルドが祝杯を上げようとした時だった。


「ヘイ」


闇の中から響いてきた聞き慣れない声。

ここはニューヨークのグランドロッジ、その中でも最も奥深い深部だった。誰もが驚愕した。


「な、誰だ?!ここに一体どうやって-!」


「何者だ!正体を明かせ!」


「私?私はジオ」


「……?!」



何?まさか-?


「バッドアス(Badass)ジオ!今生まれたばかりで、すごく面白い匂いがするから来てみたんだ?」


中途半端な長さの髪、アロハシャツに短パン、適当に履いたビーチサンダル。


耳の後ろに挿したサングラスに、ぶら下がるリングピアス……。



服装と同じように軽薄で、言動も軽々しかった。


14歳?15歳?ちょうどそのくらいの年頃の典型的な不良ティーンエイジャー。


しかし、レイモンドは妙に目を離すことができなかった。喉が渇くような緊張感が襲ってきた。



この異邦人を見た途端、頭に浮かんだ考え……。


「悪魔」

悪魔に会ったようだ。


そして考えに確信を加えてくれるように、異邦人が笑った。闇の中でも奇妙な光を放つ黄金の瞳を細めて。


「お兄さん、お姉さんたち。私とゲームしない?」



あの日。

そこのロスチャイルド、計21人が死んだ。


理由は、彼が提案したゲームに「あえて」同意しなかったから。



「なあ、レモナ。何考えてるんだ?」

「……何も」


「うーん、違うんじゃない?違うんじゃないの?」


生き残ったあの日の生存者も21人。

この悪魔は正確に半分を殺し、半分を生かした。


生き残った生存者21人は、その場で服従を誓った。

レイモンドもその一人だった。



「ビビんなって。バーカ。食ったりしねえよ。お前は気に入ったって言ったじゃん?目は汚いけど、素直なのが面白いんだって」


「私はご主人様に常に忠誠を誓います」


「当たり前のことは言うなよ」


犬を扱うようにレイモンドの頬を軽く叩いた彼が、再び遠くのビルを顎で示した。



「あれについて言ってみろ」


金色の瞳が悪戯っぽい興味で輝いた。


「どうしようかな、思い切って助けてやろうか?強制脱落はマジで笑えるけど、あのクソ野郎が脱落したら俺様まで危なくなるんじゃないかって?うん?」


「いいえ。時期尚早です。まずは様子を見ましょう。1番がどうなろうと」


「なんで?」


レイモンドは冷静に答えた。


「1番が脱落して危険になるよりも、1番を助けるために我々2番が露出する方が危険度はずっと高いです。申し上げた通り、今回は絶対に様子を見るべきです」


王の犬たちが忙しなく動いているが、肝心の王は家に閉じこもっている状態。


ジョーの意中が全く掴めない状態で、軽率な行動は禁物だ。


レイモンドは慎重になりたかった。



「偵察のために私がゲームに参加している状態ですので、ご主人様は一旦状況を見守ってください。『鬼』に見つかるにはまだ早すぎます」


しまった。この発言は少し危険か?


レイモンドは気まぐれな幼い主人が不快感を感じる前に、急いで付け加えた。


「ご主人様が足りないというのではなく、我々がまだ『それ』を見つけられていないからです」


「ふううん……えー、つまんなくなってきた。もう寝るわ」


「はい」


「ついてくんなよー。めんどくさい!ああ!一晩中子守唄を歌ってくれるならついてきていいぞ。お前、それ得意だろ。発情した犬みたいにウーウーって。ケケケ」


「………………邪魔はしません。お休みください」


頭を下げて挨拶したレイモンドは、遠ざかる背中をじっと見つめた。


数歩離れて待機していた 従者たちが近づいてくる。


「若様」

「……」


「寛大すぎではありませんか?いくら強くても限度があります。あの者は少し- うっ!」



従者がうめき声を上げて座り込む。

脛を蹴り上げたレイモンドが、そのまま足を高く上げた。


他の従者たちが目をぎゅっと瞑る。




ボコッ、ボコッ……!

次第に荒くなる男の息遣いが、真夜中の屋上を濡らした。


「クソ……生意気な」


先程までの丁寧な姿とは全く違う姿。しかし、それが彼らがよく知る若様だった。


「下僕のくせに、部品のくせに、考えるふりすんなって言ってんだよ、クソガキ。俺をバカにしてんのか?あ?」


「い、いいえ、申し訳ございません……!」


ネクタイを荒々しく引っ張ったレイモンドが、悪態を噛み締めた。彼の眼差しが獣のようにギラギラと光った。


そして深呼吸を数回。



再び落ち着きを取り戻したレイモンドが、血の付いた頬を拭った。従者たちの視線がさらに低くなった。


「リオを不自由なく、よくお世話しろ。出しゃばった真似は考えるな」


「…はい、若様!」


レイモンドは、彼に名前を付けてあげた瞬間を覚えている。


悪魔が明かした「ジオ」という名前は使えないことだった。


黄金の瞳を輝かせ、その名前を使えるのはこの惑星でたった一人だけだから。


だから今生まれたばかりだという彼に、どこで初めて目を開けたのか尋ね、ロッキー山脈と繋がる川を言うので、その川の名前を使うように付けてあげた。


そして派手なものを好む彼が、自ら名前を次々と付け加えて、


「バッド・ムーン『リオグランデ』ソサ・ナシメント…………ですか?」


「おう。どうだ、イケてるだろ?」


何と反応すればいいのかわからなかった。


独特で長い、レイモンドが適当にごまかそうと口を開いた瞬間だった。




《ランキングが変動します》


《ワールドランキングアップデート!》


《最上位ランキングが大幅に変動します》


《3位》 バッド・リオ・バッド・ムーン リオグランデ・ソサ・ナシメント up7899


「……!」


「あれ?プヒヒン、早いな~?これじゃダメなのに?バレちゃった!」


狼狽したレイモンドは眼中にないまま、何がそんなに楽しいのかキャッキャと笑っていたリオが、サングラスを投げ捨てた。


そして彼の黄金の瞳が奇異に………とても奇異に輝き。



あれ?


「………ば、ば、今!な、何が起こったんですか?」


「バレちゃダメだってば~まだは~。」


リオが鼻歌を歌いながら遠ざかった。


彼は最後まで答えてくれなかったが、レイモンドは壁にかかった時計を見て悟った。


「時間が……………!」


正確に1分40秒。


アップデート通知が出る前に戻ったのだ!


そして再び2分が過ぎると、とても静かに席を占めた新しい順位。


正気を取り戻したレイモンドが周囲に尋ねたが、彼を除いて誰もそのランキングの変化を不思議に思わなかった。


まるで誰かが認知できないようにわざと「設定」したかのように。


レイモンド・ロスチャイルドはその日から、リオグランデをご主人様と呼び始めた。


「勝算がある」


指一本で20人以上の覚醒者の命を奪い、時間を逆さまに戻す…………


実に童話の中の「悪魔」のような魔法使い!


参加を望もうと望むまいと、レイモンドが足を踏み入れたこの【ゲーム】にかかっているのは、他でもない、世界の「主人」の座だ。




カチッ。


「うーん、なんだ?」

「子守唄を歌いに来ました」


「何?キキキッ!狂ってるんじゃないの、こいつ?」


ロスチャイルドは王にはならない。

貪るのはただ、王のそば。


王座のゲームで勝てば、仇でもご主人様としてお仕えできないわけがない。レイモンドは彼のそばに恭しく膝をつき、子守唄を歌い始めた。





☆☆☆



ウウウウウウウウ-!

轟音に地軸まで揺さぶられるようだった。

都心の一等地で、噴き出した「十字架」のおかげで、遅い時間、予期せぬ道路統制に入った警察たちが驚いて互いを見た。


「聞こえたか?何の音だ、これ?」

「何かのエンジンの音みたいだけど-」


「おい、キム巡査!バリケードを撤去しろ!早く!」

「え?先輩、急にどうしたんですか……」


「早く撤去しろって!何してるんだ!早く動け!」


時間がないかのように、せわしない手振り。


うろたえながら反応した警察たちが急いで統制用バリケードを撤去するとすぐだった。



ブオオオオオオオオオオン。


「……?!」


「ひっ、な、何だ!」


一瞬にして彼らを通り過ぎる黒い影。


後から来た突風に制服がひるがえった。 魂が抜けた警察官たちが顔を上げた。 あれはー


「バ、バイク……?!」


一般人用は絶対違う。


気づいた誰かが叫んだ。


「あれ、レースサーキット専用じゃないか?!」


「レースが何だ、この夜中になんて、スピードだ……! チーム長、誰ですか? 止めろってあれほど騒いでたのは誰なんです。」


「そ、それが……!」


「いや、ちょっと見てみろよ! 一目見てもカワサキニンジャH2Rじゃん。 マジか! あれ、マジで乗ってるの初めて見たって。 それも不法に改造したレプリカなのか、音が完全にモンスター…… あれ?」


ちょっと待って。


つや消しブラックに、怪物的に改造したレーサー用レプリカといえば……。


「ま、マジか、キョン・ジロク! あれ、バビロンのキョン・ジロクじゃないか!!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ