465話
「見た?」
「見たわよ!二股かけてたって?ありえない!」
「生きてて、あんな幸運を棒に振る女を見るなんて。ちっ、ちっ!」
「頭がおかしいんじゃないの。相手がよりにもよって虎よ?私が全部もったいなくて腹が立つわ。」
「っていうか、マジで『あれ』やるの?」
「まさか~、えー、まさかあ………………。」
早朝から<グッドモーニング・バベル>を通じて公開されたニュースは、あっという間に大韓民国全域を飲み込んだ。
銀獅子副代表の結婚相手だった美貌の一般人、某氏が婚約者の裏をかいて夜逃げしただと?
しかも(ディスパッチ発なので信憑性はやや落ちるが)理由は二股!
これだけでもネイバー掲示板の既婚女性版に書き込まれたらコメントが数万件はつき、あらゆるコミュニティにコピペされるドロドロの展開であるに違いないのに……。
ストーリーはそこで終わりではなかった。
平日昼間にもかかわらず、国民全体の集中力が類まれに見るほど澄み切って活気に満ちたその時。
売れっ子から悲劇的な(予備)売れっ子になった某ヘビースモーカー男性に、全国民の関心が集中していたまさにその時、ついに本物の公式発表が上がってきた。
記者会見すらせずに、<銀獅子>では非常にすっきりとした声明文を一つだけ発表した。
【尊敬する国民の皆様、せっかく始めた結婚式なので、やめるのもなんなので、そのまま行うことにしました。】
つまり、たった一行の
【追伸:花嫁は当日募集。】
あ、追伸も一緒に。
「……え?」
「いや、あの、これが全部ですか?声明文がたったこれだけ?」
「もっと……もっとちょうだい!もう少しだけください!朝からサボりながらこれだけを待っていた会社員たちの怒りが怖くないのか!」
「申し訳ないけど、今理解力がないのは私だけ?」
そして、過度に先進的で急進的なウェディング文化にびっくり仰天した儒教国民と、ネタ不足でめまいを感じるドーパミン中毒者たちの痒いところにそっと手を差し伸べるために登場したのは……約束のあのギルド!
【国民の皆様~!びっくりしましたか^^?
さあ~、ここからは私達D.I.がお世話させていただきます。】
そうです。はい。
まさかあれ。マジでやります。
《ブライド・ウォーズBride Wars》!
法的に有効な婚姻適齢期の覚醒者女性なら誰でも参加可能。
募集年齢に上限?なし。
容姿及び職業、また国籍不問!
【全ての参加者は、本イベントの共同主催であるギルド<D.I.>と<大韓民国覚醒者管理局>の立会いのもと、同等の条件で競争し、イベントの最終優勝者は当日花嫁として結婚式に入場することになります。】
確定公式発表と破格の募集条件に、世の中はまさにひっくり返った。
キャー、めっちゃ熱いじゃんwwww
- これが銀獅子だ
- これが男だ~~~
- 上げ男力半端ないwwww花嫁は逃げたけど招待状回したからそのままやるってwwマッチョでクールガイのレジェンドじゃね?気絶する。
- まさに男の中の男。
- 女になりてぇ、、、、、
- 皆さん、これが銀獅子です。
- でも男はダメなの?韓国はまだまだだね。
女装推奨。
トランスジェンダーはダメとは言ってないから、今から女性ホルモン打てば余裕じゃね。
- ラインナップ超期待www全世界の女性ランカー達が絶対押し寄せるだろ。
当たり前じゃん?結婚に興味ない人も皆来るだろ。
虎と結婚したら銀獅子が自分の家に転がり込んでくるようなもんなのに、当然じゃん
義実家が世界7大ギルドwww超ラッキーレベルじゃない
- いや、条件がどうとか関係ないでしょ皆…新郎が虎じゃん、虎だってば、あの虎よ。
- 是非私に、お兄さん是非私に。
- 離婚届出してきました。今年58歳。新しい嫁ぎ先にいくのにちょうどいい年。彼の花嫁。私が一度なって見せます。
お姉さん、それは違う
マジかよwwwwwwwwww
お姉さん、どうか家庭に戻ってください
虎もこれは勘弁してほしいと思うはず…もしかしたら可能かも······?という考えで、青雲の夢を見始めた人達と。
- それにしても国籍不問?クミタンナ、これ国宝流出罪じゃない?
- 大人しく寝ていた八千万の未婚女性達が墓から飛び起きるような戯言だ。
どうかそのままお休みください…っていうか墓から起きたらゾンビじゃん?。
いや、まず国民の頭数が八千万もいないから。
鬼主… 異民族にくれてやるくらいなら、いっそ私のものになる方がマシではないか?
ふむふむ…。
普段は寄り付きもしないご先祖様を呼び出し、胸の奥底から太極旗を取り出す臨時愛国者達まで。
炎上キングの策略によって、ついに全世界的な花嫁ブームが巻き起こり始めた中……
「これでは、私達側の意志を黙殺されたとしか思えません。」
「決してそんなことはありません!お、大きな絵を描いている最中なので、少しだけご容赦いただいてお待ちいただければ、早急に······」
ブームとは全くかけ離れたある場所。
金髪の美しい美男子、ティモシー・リリーホワイトは込み上げてくるため息を飲み込んだ。
「つまり、その大きな絵というのが何なのか、またそれが私達の副ギルド長拉致事件と一体どういう関係があるのかをお尋ねしているんじゃないですか」
終わりのない堂々巡りの会話だ。
チャン・イルヒョン局長との通話は、結局今回も何の成果もなく終わった。
「[なんて?]」
「同じだよ。ずっと同じ話だ。」
「[ファック。もう聞く必要ないって言っただろ?ジョーを呼び戻せないから結婚式自体を延期したんだ!新郎新婦を犠牲にして!]」
「ちっ、信じられないな。あの<銀獅子>まで韓国政府の操り人形だったとは····。」
「[アジアの政府って本当にどれもこれもゾッとするほど気持ち悪いな。]」
「[この国で魔法使い王が特に神聖視されている理由がよく分かったよ。この国の国民にとって彼女は自由意志の希望みたいなものなんだろうな。この独裁政府の圧制を抑え込む。]」
「[ハンガー・ゲームのカットニス・エヴァディーンみたいに?ワオ。]」
「[まさか。じゃあ、あの話も本当なのか?]」
「[どれ?]」
「[この国はランカーを含めた全ての覚醒者に『識別番号』を付与して、政府がそれで彼らを統制してるんだって。]」
「[え、マジ?!オーマイガー……………!]」
「[き、聞いたことある!覚醒者達だけじゃないはず。全ての市民に『住民登録番号』というものを強制的に付与して、それがなければ自分の身元を証明することもできず、あらゆる生活領域で制限を受けるんだって。]」
「[マジかよ、本当に恐ろしいじゃん……………?!ジョナサン、お前こんな国で生まれたのか?]」
「………………いや、それが、まあ、間違った話ではないけど、ああもう、どうにかなりそうだ……………」
「[大丈夫だ、ブラザー。俺はお前の痛みに共感する。]」
「・・・.」
キューバ出身の同僚がジョナサン(本名:パク・ヨンギュ)の肩を優しく抱きしめた。
こ、この外国人どもに誤解を解いてやる自信がない……………!
ジョナサンが目をぎゅっと瞑る間、他の同僚達は相次いでティモシーに不満をぶつけてきた。
「[何度も言ってるけど、ティミー。そもそも私達が提示した条件は三日だった。韓国政府が一方的に破ったんだから、私達は私達のやり方で動けばいいんだ。]」
「[そうだ!こんな独裁政府に振り回されたら、自由の国から来たハンターとは言えない!]」
「[こんなことしてる場合じゃない、すぐにソウルにギルド召集令を-]」
「………………待て。それはダメだ。」
「[なぜ?]」
ギルド員達が理解できないという顔で彼を振り返ったが、ティモシーは断固としていた。
状況が変わったのは韓国政府だけではないから。
「……」
ティモシーの視線が、虚空に浮かんでいる自分のステータスウィンドウをちらりと一瞥した。
タイトル変動のお知らせが表示された時だ。
【宿命の敵】を見てパニックに陥った彼に、彼の星達は言った。
【今何考えてやがるんだ、ティモシー・アンゲロス・リリーホワイト?まさか本当に『王』がお前の敵になり得るとでも錯覚してるのか?/皮肉】
「だってパパ、ファーストタイトルが•••!」
【その程度の文字に振り回される精神だから、お前はまだ翼一枚まともに広げられないんじゃないか!この愚か者が!/激怒】
【ちょっと!そんなに責めないでください!この子がどれだけ驚いたと思ってるんですか、大きくなってから一度も呼ばなかったパパって呼んでるじゃないですか!/憤慨】
【俺が何をしたって言うんだ••••••!/むくれる】
【ティミー、落ち着け。覚えておきなさい。いつも言ってるじゃないか。お前が信じて従うべきものは、常に自分自身の善なのだと。世界と運命がお前を揺さぶっても、お前がお前自身を正しく保っていれば、どんな悪もお前を征服することはできない。/優しい】
【運命の悪戯にわざわざ付き合う必要はないという意味だ。/冷静】
【それでもどうしても不安なら、これくらいは言ってもいいだろう。とりあえず、あの『役割』はお前のものじゃない。/穏やか】
【既に譲渡したものだ。/断固】
「譲渡……ですか?」
【それは、滅びゆく者が読むことのできない時間の中の物語。】
【歪んだ運命が歌い、星々が沈黙した悲劇。】
【彼女に会いなさい、息子よ。】
【お前が求める答えは、最も偉大な魔法使いの元にあるだろう。】
【星々の王だけが、苦悩する善を神聖にするだろう。】
星達が語る物語は、いつものように曖昧だった。しかし、一つだけ確かなことがある。
「必ずジョーに会わなければ。」
世界律が動いた。
行動にこれまで以上に慎重を期すべき時。
親友の行方不明に不安を感じ、突然押し寄せてきた運命に怯えてもいたが、今はもう一度忍耐力を高めて機会を伺う時だ。
ティモシーは決意したように言った。
「とりあえず、待ってみよう。延期されたとはいえ、日付は本当にすぐそこだ。ああ、そういえばルークからはまだ連絡が-」
「[た、大変だ!]」
勢いよく開くドア。
集まっていたイージスギルド員達とティモシーの視線が一斉にそちらに向かった。
息を切らしながら入ってきたギルド員、トビーが青ざめた顔で叫んだ。
「[さっきロシアの傭兵王が入国したって!]」
その言葉に何か反応する間もなかった。一緒に走ってきた別のギルド員が続けて叫んだからだ。
「[イラン革命隊長とギリシャ大統領の娘も!そしてララ・クォンも参加- いや、そうじゃなくて!ウィスキーホテルからすぐに連絡しろって大騒ぎだ、隊長!]」
・・・.
・・・.
「……[ああ、バベルよ。]」
誰かがため息と共に吐き出した一言。この場にいる全員の心情そのものだった。




