461話
世界の北の番人、「極地の魔女」クロウリー。
世界の西の番人、「深海の妖獣」ゴトシャ。
銀獅子副代表室、秘密装置の奥のパニックルームのような場所から飛び出してきたのは、番人2匹だった。
白い髪と赤い髪。
ここで一日二日過ごしたのではないか、あちこちに散らばった生活用品が見ものだ。
さっと見回すと、クロウリーが気まずそうにうなじをさすった。
「ハハ。私、ミストルトがいないと生活力が全然……」
「……」
マジでどうでもいいから、さっさとこの状況を説明しろ、という目つき。
クロウリーは気まずさを隠し、すぐに本題に入った。
「コホン。驚かないで聞いてくれ、ジオ。この結婚式を設計したのは私だ」
「……お前だと?高尺ドーム結婚式という、とんでもない炎上騒ぎを起こしたのは、まさにお前か」
「うん」
「ふむ……昔の友情に免じて、ボコボコにされる前に弁解の機会を3秒やる。開始」
「ちょっと待って。落ち着いて私の話を聞いてくれ」
「3」
「本当にちょっと待って!これは言ってみれば全部、お前のためなのに」
「?」
「だから私たちは、お前に警告しに来たんだ!警告!」
「警告?」
止、止まった……!クロウリーが安堵の息をついた。
「あいつは殴ると言ったら本当に殴るんだから」
超越者たちの集合によって時間が一時停止した密室の中。
眉間にしわが寄る。キョン・ジオは露骨に嫌そうな顔でクロウリーを見下ろした。
18世紀のオペラ歌手のように華やかだった男はどこへやら、なんと……蠱惑的でたまらない美女が。
「何だ、あのグラマーは」
かなり見慣れない。
「大魔女」という真名らしく、もともと男性体と女性体を自由に行き来できるやつだが、ミストルトと恋人になってからはずっと男性体で過ごしていたやつだった。
久しぶりに会った友達が、いきなり女性体の姿をしているのも、その姿で虎との結婚式を設計したというのも、とんでもなく呆れるばかりなのに、今度は何?警告?
ジオの顔が深刻になった。
「クロウリー、こいつまさか……」
「ねえ……もしかして、アイデンティティの混乱で隠遁、みたいなことしてた?日本のあの引きこもり何とか?世間知らずになったんじゃない?私がその、星座という、めちゃくちゃすごい宇宙皇帝になったのに」
「いや、知ってる!知ってるって!地球出身の星座なのに、地球の番人が知らなかったら誰が知ってるんだ!そうじゃなくて!」
これでは再会の喜びを分かち合うのは無理そうだ。
始まる前からすでに疲れ果ててしまったクロウリーの隣で、ずっと黙っていたゴトシャがぽつりと言った。
「ジオ、お前があの星座になったのが問題なんだ」
「え。何ですか。私を知ってるんですか?馴れ馴れしいですね」
「……」
一言一言に込められた根に持つ性格。
過去を忘れられない永生者たちの関係は、こういう点が不便だ。ゴトシャは再び貝のように口を閉ざした。
間に挟まれたクロウリーだけが、気まずい笑みを浮かべるばかり。
「まあまあ、そんなに言わないで。過ぎた過去は過去だし、今はそれが重要なわけじゃないから。こう見えてもゴトシャも、お前を助けに遠くから来たんだぞ」
「何を助けるって。必要ないってば」
「うううううう……そうじゃないかも」
「……?」
ジオと見つめ合うクロウリーの表情が真剣になった。
「今から正直に言ってくれよ、ジオ。お前、「前兆症状」を感じたことあるだろ?」
前兆症状?
「いきなり何だよ」
『最高管理者。大魔女はおそらく、去る4月8日前後に最高管理者とバベルの接続が一時喪失した破滅の前兆のことを言っているようです。』
バベルの耳打ちに、今度はジオの顔が固まった。
「……何だよ。それをどうして知ってるんだ?」
「やっぱりな……正確には何だった?どんな感じだった?」
「何かの声、みたいなものだったけど。ああ。鼻血もずっと出てたし」
「ジオ」
クロウリーの声が低くなった。
見つめ合った親友の顔が、これ以上ないほど暗い。
隣のゴトシャも同様だ。
何だ?感じがおかしい。
ジオは理由の分からない不吉さを感じた。
「どうした。何だよ」
「私たちの推測が当たった」
クロウリーにつぶやいたゴトシャが、まっすぐにジオを見つめて言った。
「星座、お前。分裂した」
「ゴトシャ!」
クロウリーが慌てて叫んだが、ゴトシャの直球はすでにジオに強く突き刺さった後だった。
ジオは呆れて彼らを見つめた。
「何、何言ってんだ?何が分裂した?」
「エゴが抜け落ちたんだ。格が手に負えないほど膨大になった究極存在たちがよく見せる現象だ。断片化という」
「断片化が何かは私も知ってるよ、この白髪の説明魔が!」
「……」
ゴトシャはすぐにむくれたが、知ったことか。ジオはうんざりしたようにクロウリーを振り返った。
「なあ。お前たちは当然知らないだろうけど、こっちにはそれはもう済んだ話なんだよ。もちろん、ちょっと危険水域まで行ったことはあったけど。でも何とかうまく解決したし、その後はそれなりに管理もちゃんとやってるって」
「ちゃんとやってるって、確かなのか?」
「ああ。いや、それに私に何が付いてるのか忘れたのか?断片化が進行したら、バベルやお星様が一番先に気づくだろう。惑星の原住民に過ぎないお前たちじゃなくて」
「はあ……お前ってやつは。何をそんなに頑なになってるんだ」
「……?」
「お前は自分が何様だと思ってるんだ?」
わけが分からない顔。
やはりまだ幼すぎる。自分の位置を認識するには。
込み上げてくるため息を飲み込んだクロウリーが、閉鎖言語に切り替えて言った。
「お前は「星座」だ。この万流表の中で、お前より高い存在はいない」
「分かってる」
「そんなお前から抜け落ちた断片もまた、星位だ」
「……!」
何?
「格は関係ない。抜け落ちたものがお前より弱くても、どんな形であれ、格の本質は星座だ」
クロウリーが乱暴に豊かな髪をかき上げた。
「星座の格を誰が壊せるというんだ。世界と共鳴する私たちが一番早い。ここが、星系外で、「全知の悪魔」が、あの者が本体状態に戻れば話は別だが。今の、お前は厳然とあいつらより上位の存在なのに。バベルも同じだ。もはや以前のように独立していて全知全能な存在じゃないだろ。お前が分かれた瞬間から、お前の付属であるバベルもまた、分かれるしかないんだ」
「……バベル。」
「把握中です。最高管理者!そんなはず、そんなはずはないのに……少々お待ちください!」
「血を流したと言ったな?」
「……それは私が今、調子が悪いから」
「なぜ調子が悪いんだ」
残念そうにジオを見つめたクロウリーが、重い口調で続けた。
「分裂した「彼ら」がお前の力を盗んでいるからだ」
そして「彼ら」という複数の言葉にジオが反応する間もなく、番人がそれらをジオに言及すると同時だった。
「来る」
ゴトシャがぱっと目を開いた。深海が宿る彼の紺碧の瞳が、動揺で揺れた。
「動く。世界が」
「……何?」
「審判者の配分が始まる」
「……!」
ジオは勢いよく立ち上がった。
世界が揺れていた。
格の高い超越者たちの集合によって一時停止していた時間が、強制的に再び流れ出す。
世界の流れを感じたキョン・ジオの表情が、どんどん消えていった。
暴君の機嫌を損ねないように、クロウリーは声を低めた。
「危険水域まで行ったことがあったって言ってたな。お前はおそらく、知らないうちに水域を超えてしまったのかもしれない」
「……」
「ボヒョンは、とっくの昔から、ある者たちが世界律に違反して歴史に登場したことを注視していた。私たちの世界は、お前も知っての通り、どんなメインストリームよりも「ロールバック」をたくさん経験した場所じゃないか」
どんな流れにも巻き込まれず、ひたすら世界と同調する番人たちは、そのすべての回をはっきりと記憶していた。
だからこそ、西と南があれほどキョン・ジオと対立し、憎悪を燃やしていたのだ。
「その数えきれない歴史を記憶している私たちが知らない変数の出現?それは特異点の中でも非常に危険だ。流れを見ると、高い確率で推測するに、おそらくその集団はお前の分身たちとつながっているか、つながる可能性が高い」
「集団だと?」
「ああ。一種のサイビ集団なんだけど。その幹部たちが、少し前にここ東に来たんだって。フューチャーショー?それのせいだったかな?とにかく、その集団を一箇所に集めるつもりなんだ。そのためには、招待状を送るに値するイベントと、できるだけ広い場所が必要だった」
「だから高尺ドーム結婚式……」
「そうだ。信じてくれ、ジオ。私たち番人は、最善を尽くしてお前を助けるつもりだ」
「なぜ?」
「え?」
「なぜ助けるんだ」
冷たく沈んだキョン・ジオの眼差しが、クロウリーを通り過ぎ、ゴトシャの方へ向かった。
「お前たち番人は、世界のことしか頭にないじゃないか。なのに私をなぜ助ける?」
「……そりゃ」
ゴトシャは短く答えた。彼にとっては簡単な話だった。
「長年、良くも悪くも私たちが見守ってきた、よく知っているキョン・ジオだからだ」
「……」
「あいつらは私たちが知る必要もなく、知りたくもない肥大した格を持つ侵入者たちに過ぎないからだ。ただそれだけだ」
「……」
ジオが考えに沈む。
何を考えているのか見当もつかない顔。クロウリーはしばらく彼女の様子をうかがってから言った。
「まずは幹部たちが目標だが、あいつらが集まったその場所に、お前が現れれば、分身たちも現れる確率が高い。集団とつながっていようがいまいが、審判者たちが配分され、世界が動いたからには……お前の意向を探りたいだろう」
分裂していても、結局本体はこちらだ。
分かれた断片に過ぎない分身たちは、本体の動きに敏感に反応し、触覚を研ぎ澄まさざるを得ない。
必然的に。
「だから……もしよければ、その日お前も参加してほしいんだけど」
「もしあいつらが現れたら。いざとなれば殺す?」
「殺せない。言っただろ。分身でも星座をどうやって殺すんだ?」
「じゃあ」
封印するしかないな。あの時……
淀みなく言い放ち、口ごもる。
とても慎重な口調でクロウリーが付け加えた。
「あの時……あの者を封印した時のように」
「ああああああああ!」
「星約刻印が封印されました」
「刻印が完全ではないため、星位との接続が不安定です。星約状態が「破棄」に変更されます」
「悪魔の悪ふざけは見過ごせない。処刑式の対象は「化身」キョン・ジオ。化身であるお前は、今日この場で死ぬ」
「…………あっちが助けに来たというのは、そういう意味だったのね」
「どうやら、究極格を封印できるほどの力が込められているのは、西の三叉槍だけだからな」
西の境界の神物、「沈淪の三叉槍」。
世の中のすべてを飲み込む深海の力が込められた神物だ。ジオもまた、その槍にやられて星約を封印されたことがあった。
ジオは無意識に鎖骨をまさぐった。傷一つ残っていないが、良くない記憶だった。
「お星様に会いたいな」
無駄に遠くに送ったかな。
固く閉ざされた密室のドアをちらりと見ながら、ジオは呟くように尋ねた。
「鬼主はこれ全部知ってるの?」
「断片化の話は、知らない。だいたいお前の敵対勢力を集めて処理するという話くらいしか」
「結婚式はじゃあ、完璧な餌ってことね」
クロウリーが肯定した。
「そうだ。開かれるまでは、舞台が始まるかも分からない。だからこの餌は存在するが、存在しない……例えば「シュレーディンガーの結婚式」みたいなものだ」




