448話
「じゃあ、行くんだな。こうして。」
「うん。家に火事が残ってる。」
「火事?」
帰還は入国時とは異なり、秒速で進んだ。
バハムートが自分の命綱として空輸してきた昨日の日付の韓国新聞のおかげ。
ナ・ジョヨンと面識のあるやつなのか、新聞1面のランカー拉致説、(疑問符処理されているが誰が見てもナ・ジョヨンが明らかな)容疑者のシルエットを見て「これだ!」と思って慌てて持ってきたようだったが••••。
こちら基準でホットイシューはそれだけではなかった。
「クーデターが起きたらしい。」
「え?!」
「元奴隷隊長が立ち上がった。だから早く逃げて家の中を締め付けなければ。急いで死ぬ。」
翻訳機が故障したのかという表情でジオを観察していたサルバが、すぐに軽く笑った。
「・・・そうか。行く人は行かなければ。••••残る人は残って。」
かなり苦い顔。
「まあ、情がかなり湧いたのかな。」
ジオは改めて銀髪の海賊をじっくり見た。
[崩壊の夜]が終わった。
すべてを光で押し出した黄金の太陽の登場に1階は空白になり、大聖殿も跡形もなく消えた。
また、[超越戦争]でまともに戦ってもみないまま星座に完敗した集合官が、その代価として格を一部喪失したのはおまけ。
バハムートは当分の間、支配影響力を減らし、回復にだけ専念しなければならなかった。
1階の崩壊及び大聖殿の消滅と集合官の下向き。
様々な要因が同時に重なったので、これからここの歴史も見ごたえがあるだろう。
集合官の影響力が減ると、星間には乱世が到来するもの。この黒層海の場合には、見たことのない非常に自由な乱世になるはずだった。
そしてそんな乱世には英雄が必要だ。
ジオはその宿命の主が誰なのかもよく知っていた。
目の前のやつと初めて会った時から。
「おい、マーキュリー。」
「なんだ。サルバと呼べ。」
「私たちの世界で「マーキュリー」といえば、みんなロックスターを一番に思い浮かべるんだ。」
「ロックスター?なんだそれは?」
「人々を夢中にさせ、数多くの人々の偶像になる、かっこいいやつ。スーパースターの別の言葉。」
「………………スーパースターはまたなんだ?」
「最高に輝く星。」
「・・・!」
サルバの目元が浅く震える。
帰国準備を終えた一行が後ろから彼女を呼び始めた。
もう本当に行く時間だ。
ジオはにっこり笑って振り返った。
「名前に恥じないように生きろ。「マーキュリー」」
追いかけてくる足音はなかった。
笑みが残った顔のままジオは飛行船、ささやかな彫刻船に向かった。
広場復帰ボタンが活性化されたが、バンビがまだ正気を取り戻していない状態だった。
別に異常があるわけではなく、獅子心のために肉体が再構成されているからだとか。
とにかくそのおかげで慎重な運搬が必須。
「天気最高だな。」
空が晴れている。
海は青かった。
黒海が歴史の中に消えた青海で、ここの人々は今日の伝説を忘れないだろう。
真っ青な空には少し前、集合官が開いたトンネルが見えた。向こうに銀河がうねる。
今にも星が降り注ぎそうな姿。
「異議があります、ジオ。よその男に親切すぎると思いませんか?」
ぴょんと乗船するジオの腰を抱き下ろしてくれながらジン・キョウルが口元を歪めた。
私は不満がある、不満そうな声がだらしなかった。
ジオは鼻で笑って受け止めた。
「お前、私がやったものにサインはしたのか?」
「.....その、別れの挨拶の時間をもっと必要としないのか?うちのベイビーは友達もいないのに、寂しくないように宇宙人の友達と挨拶をよくして別れなければ。」
「提出期限は地球到着までだ。」
「.......」
苦痛な表情で「ある覚書」を再び睨み始めるジン・キョウル。
「ぷっ……」
ざまあみろ。
少し離れたところで嘲笑っていたペク・ドヒョンがジオと目が合い、びくっとした。
「あ。ジオさん。えーと、これは-」
「ペク執事も準備することがあるんじゃないか?」
「え?何、何を•••••?」
「プラカードを使わないで何してるんだ?」
「・・・え?いや、はい?じゃあ本当に「それ」をしろとおっしゃるんですか•••••。」
「……」
ジオはじっとペク・ドヒョンを見つめた。
ペク・ドヒョンは背中を伝う冷や汗を感じた。
「いや、もちろん僕の腕前が少し良くなかったことは認めます。しかし、そこにはそれなりの事情が•••••。」
「……」
「その時はどうしてもそうしなければならない理由があった•••••!」
「……」
「•••••、します。•••••。」
「うん。」
「ぷっ。」
「笑うな。クソ星。何が偉いんだ、コラ。」
「......はい、はい。」
そんな中でも最大限距離を置いて彫刻船の端と端にうずくまる美男子二人。
彼らが与えられた分け前の紙を握って苦悩に陥る頃。
「ここに来る時から知って始めた事実じゃない。別れなければならないということ。」
「ダルヤ、それでも…」
ホン家双子はまともな別れをしていた。
足を踏み出せずにためらうホン・ヘヤの姿にホン・ダルヤが笑った。すっかり成長してしまった顔で。
「お兄ちゃん。」
「・・・・・・。」
「私はもうお兄ちゃんが守ってあげなければならない病気の妹じゃない。だからお兄ちゃんも、ホン・ヘヤの人生を生きなさい。」
「••••人生を生きろとは、急に何を」
「もう私に借りがある気分で生きなくてもいいんだよ。ヘヤ。いつも言いたかった。私が病気なのは全部お兄ちゃんのせいだと思っているのは、あまりにも利己的な考え方じゃないかな?」
「.......!」
「私にも私の運命があるのに。」
「ダルヤ……」
ホン・ヘヤが言葉を続けられず、唇をぎゅっと噛み締めた。
ダルヤは結局ここに残ることにした。
集合官が市民権を出すことにしたので、一定以上の滞在期間が必要なせいもあったが…。
「ピョルヤがですか?ここに••••?」
「恩人と恩人の娘だと言っていたが、どちらかは分からない。」
「おかしいですね。ピョルヤは子供を持つことができないのに•••••ああ!まさか?」
「何か思い当たることがあるのか?」
「はい••••すごく古い記録ではありますが。ヘヤ、ダルヤが死んで一人残ったピョルヤがいました。たった一人。偶然が重なりに重なって十数年をさらに生きたとか…」
「それで?」
「そのピョルヤが処女の体で懐胎したと記録されているんです。」
「え。聖母マリアか?」
「さあ。そうこうしているうちに、ある日行方をくらまし、次の世代も無事に生まれただろう••••家門内ではただ伝説があまりにも古くなったので混ざった、荒唐無稽な記録のように思っています。でももしそのピョルヤが生き続けていて、宇宙に落ちたのなら••••」
「その宇宙がこの黒層海かもしれないということだな。ふむ。バベルの塔もなかった時代に?」
「••そうでしょう。この件は私にお任せください。私がここで一度調べてみます。」
「特に重要なことではないようだが。」
「それでも私の家門のことですから。そして•••·••もしかしたらこのうんざりする「呪い」を解くことができる手がかりかもしれないし。」
ちょうど兄と別れて振り返ったホン・ダルヤと目が合う。
しばらく立ち止まり、こちらに向きを変える足取り。
近づいてきたホン・ダルヤが彫刻船の外からジオを見上げた。
「キング。」
「言え。」
「あの、聞きたいことがあります。もしかしたら最後だから••••••答えてくれますか?」
「見てから。」
ジオの服の裾をそっと掴む手。
病色もなく、痩せこけていないホン・ダルヤの手首には健康な血色が戻っていた。
過去とは違って。
しかし、向き合うとジオは思い出すしかなかった。
一見平凡に見える目から完全に終わるまで燃え上がっていた炎。
遠い昔に出会った、枯れ枝のようだった余命宣告された少女を。
深呼吸とともにホン・ダルヤが尋ねた。
「私は、生きてもいいですか?」
「……」
「このままずっと?」
キョン・ジオにしている質問ではない。
これは「星座」にしている質問だった。
「へえ。予知者が他人に未来を尋ねるのか。」
「私の未来は見ることができないのが予知者たちではないですか。••••死が目の前に見えるまでは。」
「私もだ。」
「はい?」
ジオはそっけなく答えた。
「星座も見てないって。自分の未来は。当然他人の未来も。」
もちろん推測程度は可能だ。
それは優れた魔法使いなら誰でも可能なことだった。
袖で目元を拭ったホン・ダルヤが後ろに下がった。
ダルヤは外で、ヘヤは中で泣いた。
チャンネル大韓民国はこうして計2人のディレクターを持つことになった。
「元気でね!キャプテンフック星座!」
「理のない男じゃないだろ!」
「私たちのこと忘れちゃダメだよ!分かる?一度海賊は永遠の海賊!そう約束したじゃないか」
「バカ!もう男じゃないって!」
「捨てないでくれ!」
「ああ、しまった。そうだ!そうだった!それでも大きくなった娘の心を盗んで忘れるな」
「ううっ、ご主人様!」
泣き叫びながら別れのハンカチを振るサマリア海賊団。
ジオは顎を突いて鑑賞した。
座だと知っていてもあんなことをする姿が純粋だと言うべきか、間抜けだと言うべきか•••••。
「とにかくバカども。」
そしてその時。
ガタン!
彫刻船が激しく揺れる。
突然飛び上がり、船の手すりをぎゅっと掴んだ手のためだった。
海風にたなびく銀髪が揺れる。ぶら下がるのに必死で真っ赤になった顔でサルバが叫んだ。
「おい!お前、二度と来ない、いや、来れないのか?!」
何だ、この唐突な怪力ショーは?
ジオはあっけにとられて答えた。
「知らない?」
「クソッ!!ちゃんと答えろ!!!できるのか、できないのか?」
「たぶん?ハブが開けば?」
「できるってことだな?ならいい!約束したぞ?!」
いや、何の約束ですか?
しかし、ジオの答えよりもすでにかなり我慢していた重罪人の忍耐が尽きるのが早かった。
「う、うわああああ!」
「あらまあ?」
突然強くなる風!台風のような風速にサルバが耐えきれず落下した。
反射的にジオが立ち上がると、すぐその前を、こじ開けて座る背中。
「何-ペク執事?」
「ここが快適ですね。あそこはとても不便で。あれ?ああ、あんな•••誰かが落ちたようです。やはり黒層海••••••環境が荒れていますね。ジオさん、お気をつけください。もっと奥に入りましょう。」
「……」
「そうではありませんか、高等生物?あなたもここに長くいたから、よくご存知でしょう。」
「何を言ってるんだ?私は、今日着いたばかりだぞ。ただ環境が荒れているという話には同意する。一目見れば分かるんじゃないか?最初からダメな地域だからな。」
「人員超過だ。どこに入り込むんだ。」
「宇宙人はちょっとね。しかも根無し草の海賊野郎·····。」
敵の敵は味方。
共通の敵に出会い、力を合わせた二人の男が平然と言葉を交わした。
「どこを見ようか。こんな〜あそこにいるな。とてもよく落ちてるな。カツラではないようだな?じゃあ間違いなく染色だな。自然な銀髪じゃない。」
「銀髪ではなく白髪ではないでしょうか?黒海の人々は海風で髪が白くなることが多いと聞きました。」
「何だと?男性ホルモンがどれだけ不足すれば髪が白くなる?ちっ。男の魅力はそもそもサラサラのこの髪にあるのに。長髪が男しかできないスタイルであることは有名な話じゃないか。昔の私はだな……」
「僕も実はこんな話、自分の口でするのはちょっと気が引けますが、幼い頃から近所で公認のジョン×ヒョンとして少し有名でした。男バージョンのジョン・ジ
だと••••••。」
誰に聞かせようとでたらめをたくさん並べているが、当の誰かは手すりの向こうを見ているので、もう関心外。
「来ないなら俺が行く!行くからな!おい!聞いてるのか!」
「ううん、そうしろ!バイバイ!」
「…おほん!」
「....ゴホン!」
「あの、静かにしてくださいませんか?反省(論文)文を書くのに邪魔です。まだ300ページも残っているのに。」
は••••••彫刻船を一人で使うのか!
(聞こえるように)つぶやいたジョン・ヒドが彼らを睨みつけ、再びくるりと背を向けた。
原稿に集中する模範生に見られる、近づきがたい気勢。
二人の男が口を噤んだ。
そうであろうとなかろうと、ジオはずっと伸びをした。
星がいっぱいの空がいつの間にか手に届きそうなくらい近くなっていた。
ついに......帰還!
「グッバイだ。海よ。」
バベルとバハムートに聞くところによると、なんと一ヶ月ぶりの復帰ということか?
行ってみようか。
(メラメラ燃えているが)楽しい我が家へ.......
「ジオさん………………?大丈夫ですか?」
「うん?なぜ?」
「いえ、表情が………………。」
「表情?どんな表情だ。めっちゃ元気だけど?とても完璧に大丈夫だけど?」
「......ああ、はい。」
そうだ。大丈夫だ。そうだ。当然だ。
「まさか本物じゃないだろう。」
ハハハッ。
………………まさか〜。
☆☆☆
「......あの、副代表様?あの、イベントのスケールが、これはあまりにも…………. 「あれ」みたいじゃないですか?」
「何が。」
「だから………………えーと....例えば、本気だとか?ああ、もちろんそんなことはないでしょうが-」
「そうだよ。本気。」
「・・・・・・。」
ど、どうしよう......?
急速に蒼白になったジョン・ギルガオンが虎に向かってぎこちなく笑ってみせた。




