444話
無数の人々が恐怖と敬意を込めて歌った。
遥か昔、神々が生きていた時代に、一匹の悪竜がいたと!
積み重なりゆく時間の中、彼らが歌った物語は伝説となり、伝説はすなわち神話となった。
そうして幾重にも積み重なって歴史として生命を得た「偉大な記録」。
サラララララッー
図書館が開かれる。
神話が動き出す。
世界樹の葉が波のようにざわめき揺れた。
続いて広大に広がる海を掌握する······燃え上がる灰と炎、そして星の匂い。
自身よりも偉大な主の呼びかけに、夜空を開き黒竜が巨大な翼を広げた。
━━━━━━━!
「うっ!」
「捕まえろ!飛んでいくぞ!」
海賊たちが悲鳴を上げながら慌てて服の裾をつかんだ。
頭上を素早く滑空する竜が巻き起こした強風に、ぼうぜんとした彼らの髪がめちゃくちゃに乱れた。
☆☆☆
「り、竜がまた……?!」
「ちょっと待って!あ、あれ、どこかで見たようなー!」
祭壇の岩島と一番近い位置。
神殿側でも、海賊側でもない曖昧なその位置に停泊していた飛行船の甲板の上。
尋問官たちがぼんやりと空を見上げた。
ざわめく声がだんだん大きくなっていく。広がる混乱が騒がしい。
理由は明白だった。
パタッー!
風に揺れる黒竜旗の上に、空の上の黒竜の影が重なるように重なった。
まるで一体、一つであるかのように。
「ロ、ロード……!」
「……。」
補佐官が震える声で彼を呼んだが、ジン・キョウルは答えなかった。
沈んだ彼の目が揺れていた。
激しく。見たことのない拍子で。
☆☆☆
涙は涙で、血は血で。
また、悪はただより激しい悪で。
みだりに許さず、救済しない。
恐怖で迫る敵にはそれ以上の恐怖で報いる暴君の覇道。
それが人間、キョン・ジオの不変の王道。
クウウウウウウウンー!
神話と神話が入り乱れる。
今日のこの海の上には善はない。
悪神を代行し、魔王を代行する二匹の悪竜。
夜の海と夜空の対峙が被食者たちの世界を揺るがした。
「ニードヘッグ!」
キョン・ジロクの断固たる声が響いた。
ザアッ!
九頭竜の血で濡れたニードヘッグが尾を伸ばした。
姉の悪竜が近づくやいなや、足元の船を投げ捨て高く飛び上がったキョン・ジロクがそのまま竜の巨大な肉体を駆け上がった。
ニードヘッグと呼吸を合わせ槍を振るうたびに、散開する黄金色の火の粉と雷電。
水を得た魚のように暴れまわるキョン・ジロクは、人というよりは一本の槍、一筋の稲妻のようだった。
「………………狂ってる。」
ホン・ヘヤは鳥肌の立った腕をさすった。
「通路」としてあの同い年の兄妹を繋いでいるのは彼だった。
だからホン・ヘヤは何よりも近くで目撃することができた。
九頭竜の複数の頭が激しく襲いかかる。
キョン・ジロクがあえて耐えずにそのまま落下した。
待っていたかのように波が受け止める。
それも見ずに足場にしてキョン・ジロクが再び飛び上がった。
すると風が彼の背中を押した。
ニードヘッグがその一瞬の空白まで埋めながら九頭竜をさらに激しく押し返すことさえも当然だった。
キョン・ジオの目がキョン・ジロクの視界であり、キョン・ジロクの槍がキョン・ジオの意志だった。
呼吸、心拍、神経系、魔力回路。
ただの一つの拒否反応もなかった。
すべてが正確に噛み合った結果。
成功という単純な言葉では足りなかった。
キョン・ジオがキョン・ジロクを完成させ、キョン・ジロクがキョン・ジオを完成させる。
今この瞬間、彼らは「一つ」だった。
「こんなことがありえるのか?本当に?」
「これが単なる兄妹だと……………?」
「空が暗くなり竜が鳴く。」
ホン・ヘヤがはっと横を振り返った。
「鐘楼と星々が問う、壊れた子よ何を失って彷徨うのか。私は子であり子ではなく、死ぬ方法を失ってしまった。」
真言が込められた声。
つぶやくホン・ダルヤの焦点がぼやけた。
「私を目覚めさせる者は誰か。」
半分の世界眼が霊験あらたかに光る。
「星々が先を争って答えるが、暗くて一番先頭に立ったのは月だ。同じように壊れた月だ。見よ!私は十二回死んでも死なず、神であり神ではないだろう。お前のところへ行こう。そうして空の、我々の-」
「終末の預言者」、ダルヤの予言だった。
「止まらない循環が始まるだろう。」
「……あ、兄貴、どう見てもキャプテンの旦那が……!」
竜たちの戦いに波がさらに激しくなったが、ここは揺れ一つない。
ピーターが手足をばたばた震わせた。
敬意と混乱が半分ずつ混ざった表情が奇妙だった。
「ただの魔法使いじゃ、ないんじゃないですか?!」
一体フック・ジョーの正体は何なんだ?
みんなの頭の中に共通して浮かんだ疑問。
もちろん普通レベルじゃないことはとっくに知っていた。
幽霊船の双子が手厚くもてなすのを見て驚愕もした。
しかし。
一言で伝説の中にしか存在しない「竜」を呼び出すなんて?
少し離れた方、甲板全体を占めるほど大きな黄金色の魔法陣の上にそびえ立つ背中をピーターがしきりにちらちら見た。
すっかり集中した魔法使いの横顔が冷たかった。
「同一人物なのか?」
醸し出す雰囲気からして全然違う。
「人は間違いないだろうけどー、はっ?も、もしかしてあの宇宙人が言ってた魔王だったりして?!」
「…………ずいぶんと早いな、え?早い。また顎でも外してろ、クソガキ。」
サルバが舌打ちをした。
情けない部下を睨みつけ、再び顔を向けるや否や。
「ちょっと待て。あれは何だー」
「……………おい。望遠鏡。望遠鏡をくれ。」
「え?目もいい旦那がなぜー」
「いいから渡せ、クソが!」
☆☆☆
何かおかしい。
『7-A:悪夜は他の集合官たちと違って化身をたった一つしか置いていません。だから力も自然に集中せざるを得ない………』
『バベル:まさかここでさらに力を使おうというんじゃないでしょうね、最高管理者?すでに図書館が開かれました。これ以上力を使えば封印解除です。覚悟してください。』
キョン・ジオはメッセージウィンドウから視線を離し、再び水平線を凝視した。
「だが、気に食わないんだよな。」
「なぜますます強くなるんだ?」
ニードヘッグは決して押されているわけではない。
バンビも同じだ。
しかし問題は相手側。
九頭竜、その中でも1階を象徴する最初の頭の力がますます強固になっていた。
このままでは決着がつかずに状態が固定される。
「原因を探さなければー」
「ジョー!後方7時の方向!」
サルバ?ジオは反射的に彼が叫んだ方向を確認した。
魔力が込められた魔法使いの視界が拡張し。
「・・・・・!」
「た、助けて!助けてください!どうか!」
「ううっ、この悪魔ども!お前らは狂ってる、狂ってるんだ!」
「し、神官様たち、一度だけお許しください!二度と海には出てきません、ど、どうか…………お母さん!」
大規模な艦隊が集まっている敵陣の真ん中。
黒くうねる海水の中の渦、黒赤色の集合官の紋様が浮かび上がったその上に、どこかの人々が次々と投げ込まれていた。
神官たちの手に強制的に突き落とされた彼らが落下するたびに、悲鳴と共に鎖がジャラジャラと音を立てた。
「烙印を押された奴隷たちだ。」
いつの間にか駆け寄ってきたサルバが歯を食いしばって言った。
「あのクソ野郎どもが人々を生贄として捧げ続けていたんだ、クソッタレ!」
ジオの顔もこわばった。
リアルタイム人身供養。
絶え間なく燃料を供給されているから、九頭竜は疲れも知らず、ずっと強くなり続けているのだった。
「ちっ。何かあると思ったよ。どいてろ。」
「ジョー。」
パシッー手首を掴む力。
ジオがうんざりして振り返ると、サルバの表情も負けてはいなかった。
いや、こちらよりもはるかに深刻だった。
「行くのか?あそこへ?」
「………………?じゃあ行かないのか?あのめちゃくちゃなクソ行為から断ち切らなきゃ決着なんてつかないだろ。」
「どうやって行くつもりだ。」
「方法ならいくらでもあるー」
「私を使え。」
「・・・・・・?」
「私に乗れ。」
何を寝言をほざいているんだという目で見ても、サルバはあくまでも強気だった。
むしろ何かを決心した顔で再び言う。
「私が連れて行ってやる。」
「いや、だから何ーえ、えっ、マジか?!」
ジオが飛び上がって後ずさった。
いつの間にか目の前に現れている、一匹の狼!
薄暗い雨の中で美しい銀色の毛が艶やかに乱れ散っていた。ジオは思わず口をあんぐり開けた。
「乗れ。この体は水の中でより速いから。」
唸るたびに漂う海の匂いが強烈だった。
そして銀色に揺らめく狼の目は浅葱色。
サルバ・「マーキュリー」・ガスパールの目だった。
「………………マーキュリー。」
ジオは憑りつかれたように手を伸ばした。
その意味は水の中の銀、水銀。
「絶対に折れないマーキュリー」。
サルバの異名がぞっとするほど心に響く瞬間だ。
ただ流れ走り続けるだけで折れることのない、海の狼。
そうして宇宙から来た魔法使いを背に乗せた黒海の狼、マーキュリーがすぐに水面を走り始めた。
☆☆☆
バシャーン!
巨大な狼は本当に速く、また強かった。
海をぎっしり埋め尽くした艦隊の砲口を破壊しながら通過し、九頭竜についてきた海洋魔獣の間を水が流れるようにすり抜けていく。
容赦ない風に黒髪がなびいた。
キョン・ジオは息を大きく吸い込んだ。
「ふう。」
スピード感がすごい。
解放感もまた。
もともとあらゆるスポーツカーを収集して集めていたスピード狂ではないか。
恐れを知らない目が狼の毛をぎゅっと握りしめた。
狼の足がはっと止まった。
だから異変に気づいたのはジオよりもサルバの方が早かった。
「え?何だ。なぜ止まる?」
「クソ、俺が馬か?!狼だろ、狼ーじゃなくて。おい!また血が出てるじゃないか!」
「え?ああ。わかった。はい〜拭いた。再出発〜!」
「何が再出発だー!この野郎!どうりで怪物たちがぞろぞろ追いかけてくると思ったよ!海の怪物たちが血の匂いに敏感だという常識も知らないのか?」
「え。ここで私だけ血を流してるわけでもないし、あちこちに死体が山ほどあるんですけど。」
「ああもう、お前が魔獣なら高級な魔力込められた血を追うか、あんなしょぼいやつらの血をー!もういい。クソが!」
頭の上からポタポタ落ちてくる血のしずくのせいでしばらく止まっただけなのに、その間に魔獣たちが群れをなして押し寄せてきていた。
サルバが足に力を入れた。
ひょいっと跳躍して近くの船の上にドスン!着地する。
目標の渦が肉眼で見えるほど目の前だった。
時間がない。
突然乗り物が消えてよろめくジオの腕をサルバがわし掴みにした。
「・・・・・・.」
いつの間にか人に戻った彼が沈んだ眼差しでジオをじっと見た。
鼻血が滲んでめちゃくちゃになった顔。
背後では香りの良い魔力に惹かれて追いかけてきた魔獣たちが涎を垂らしている……。
悩みは短い。
サルバはジオを押した。
「行け。」
そして同時にまだ消えていない獣の爪で自分の脇腹を裂いた。
「行って、お前がやるべきことをやれ。」
ふわっ、広がっていく血の匂い。
血の量はもうこちらの方が多い。
このままジオと違う方向に走っていけば、深海獣たちはジオではなく彼を追うだろう。
若い海賊の顔が決然としていた。
「用が済んだら俺の仲間たちに伝えてくれ。海に埋められたから墓標は必要ないと。」
遺言まできれいに伝えたサルバが笑った。
なかなかかっこよく背中を見せながらくるっと振り返るのに。
「え。ふざけてんじゃねえよ。」
「うっ?!」
後ろから叩かれて折れる膝。
慌てたサルバが振り返ろうとしたが、叩きつける力が先だ。彼の額がドスンー甲板の隅に叩きつけられた。
「???」
「一回の生よチョイ役のくせに、どこで図々しくレジェンド退場でシーンを盗もうとしてんだ。この区域の主人公は、私なんだよ?生意気にも。」
「な、何?何言ってんだ?!これ離せよ?おい!離せってこのキチガイ…。」
「ご苦労さん、終わるまでちょっと寝てて。」
「や……ろ……」
もがいていた体からだんだん力が抜けていく。
サルバの首ががっくり落ちるのまで見届けたジオが背中を踏んでいた足をゆっくり離した。
「……」
『7-A:星座••••。』
『バベル:最高管理者。』
キョン・ジオはポタポタ落ちてくる鼻血を手の甲で何でもないようにさっと拭った。
「ちょっとめまいがするな。」
弱体化された状態でちょっと無理をした。
しかしこの瞬間にも「リンク」は継続中。
したがって魔力にも、キョン・ジオのどこにも隙があってはならない。
「うちのバンビは泣き虫だからな。」
「数式······ライブラリと重ならないように、魔力回路に最大限影響がないように、それでも強い打撃を与えるほどの······」
素早く計算する頭がブンブン回転した。
ジオは首を振った。
多くはないけど、少し。
ほんの少し手一杯だ。
だから補助がいればいいな、無意識的にそう思ったのかもしれない。
いや、実はそれよりも…
ドシンドシン。
「私を探してた?」
いつもすべてを共にしてきた彼女の最も忠実な仲間、その空席を感じたのかもしれない。
キョン・ジオはその時初めて正面の、この船の一番高いところに掲げられた旗を確認した。
「祈る黒竜旗•••••!」
足音が近づいてくる。
振り返ろうとしたが、ジオの頬と顎を包み込む手が早かった。
手袋がない。
反射的に考えた瞬間、そのまま重なる唇。
「……!」
雨の中で絡み合う息が熱い。
「何……!」
押し退けようとしたが、ジオははっと気づいた。
頬を包んだ彼の手がガタガタ震えていた。
キスも荒々しくなく、ただひたすら切なかった。
それ以上押しのけないとジン・キョウルがさらに震え始めた。
切実で焦るように絡みついていた舌がほどける。
熱い唇が滑り落ちてジオの顔全体をまさぐった。
冷たい雨水の間をくまなく血を舐め、残すことなく痕跡を残す彼の舌が感じられた。
むさぼり食うようでまた執着的なキスだった。
「言え。命令しろ。」
かすれた声で彼が囁いてきた。
「補助してやろうか?」
「……やってみろ。」
そっけない許可にジン・キョウルがうなだれていた上半身を起こした。
ジオに視線を固定したまま、そのまま銀色のピストルを握った腕だけを伸ばしー
タアアアアンー!
激しい雨脚を裂き一直線に伸びていく銃弾。
反射的に方向を追ったジオがキョウルをパッと振り返った。
目がぱちくりした。
「あんた今、教皇をヘッドショットした……?」
「何度も言っているだろう、愛しい人よ。どんなゲームでも敵将の首から取らなきゃ早く済まないって。」
さっきから驚愕した顔で固まっていた部下の尋問官たち。
彼らを背景に冷笑を浮かべるキョウルの顔が物騒だ。
一方また、ジオのまぶたの上に再び降りてくるキスはひどく柔らかかった。
彼がいつもジオにしてきたように。
視線が合う。
彼の瞳の中の深淵が嵐のように揺れていた。
眠りから覚めて伸びをするように。
「寂しく雨に打たれて歩き回って、うちのベイビーったら…………」
雨に濡れた恋人を壊れてしまわないかと慎重に抱きしめながら、ついに帰ってきたキョン・ジオのキョウルがにやりと笑った。
「お兄ちゃんに会いたかった?」




