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443話

「ロク、ジロク!しっかりしろ!」


嵐が吹き荒れ始めた海。


痙攣する膝をついて、キョン・ジロクが再びよろめきながら立ち上がった。


「……死なない。騒ぐな、ハア。」


いつも若さと精気に満ちていた目が濁ってぼやけている。


いつの間にか首のあたりまで静脈が黒く広がっている。


「言わなきゃだめじゃないか!なぜこんなになるまで!」


「兄さん……静かに。静かに言ってくれ。頭に響く。」


「解毒剤は?いつから——くそ、ちくしょう、早く答えろ!このままじゃ本当に死ぬ——!」


「……課題。」


「何?」


「課題だって……ペク・ドヒョン、だから静かにしてくれ。クソ……。」


ペク・ドヒョンがそのまま凍り付いた。


力なくと笑ってみせたキョン・ジロクが、槍を強く握りしめ深呼吸した。


笛を吹いてから、ほんの少ししか経っていないのに夜霧の向こう、うんざりする船がまた押し寄せてきていた。


「分かったら、耐えろ。俺はもう目も見え——ゴホッ!」



「キョン・ジロク!!!」




☆☆☆




サルバ・マーキュリー・ガスパールは乾いた唾を飲み込み、頬の雨水を拭った。


すべてが一糸乱れぬ動き。


あっという間だった。


エイリアンテロリストが現れ、戦雲が立ち込め、騒然とした雰囲気の中、どこからか笛の音が響き渡り………………。


急に変わった三人の顔色。


ホン・ダルヤが一番最初に動いた。


手すりを掴む彼女の片方の目が鋭く光った。


能力の一つ、「千里眼」だと言った。


遠い場所まで見通すという彼女は、すぐに空中に映像を一つ浮かび上がらせた。


血を吐いて倒れる不滅槍の姿だった。


そして・・・・・・。


「……声をかけられないな。」


誰もが口を開けなかった。


隣で口を噤んでいる同僚たちのように、サルバも沈黙し、甲板の中央を見つめた。


激しい雨粒に打たれながら、彼は考えた。


「雨を呼び、風を操る人を……単純な魔法使いと言えるのか?」


「押し寄せてきます!」


嵐の中でホン・ダルヤが閉じていた目を大きく見開いた。


広域バフ「ウェザーコントロール」と広域デバフ「怒りの風の破壊詩」。


現代魔法の究極であり、神話に近いという9等級の呪文が同時発動されているところだった。



たった一人のための狂暴的な補助。


弟の状態を確認するやいなや、キョン・ジオが反射的に行ったことだった。


「介入はどこまで可能だ?」


「適業スキル、9等級殺傷系超絶呪文——「コンケンの銛GaeBolg」」



ドゴゴゴゴゴゴゴ!


暗雲の間から落下する深海の巨槍たち。


海が揺さぶられる。


「答えろ、バベル。」


片手を軽く振ったまま、ジオが皮肉った。


始動した黄金の瞳が炎のように燃え上がっていた。


「私が海水をごっそり干上がらせる前に。」


見守っていたホン・ヘヤは息を深く吸い込んだ。


「……知ってはいたけど。」


一つずつ分かれた彼ら双子の「世界眼」は、それぞれ能力も違う。


しかし、視界だけは共有しているので、ホン・ヘヤは見ることができた。


今しがたあの超絶呪文一つで、不滅槍と裏切り者を捕らえるために押し寄せてきた艦隊の半分が粉砕された。


沈没していく人々の恐怖に濡れた顔が鮮明で・・・・・・。



「あれさえも調節したのか・・・・・・」


暴君の怒りにバベルが何と答えたのか恐ろしくもあり、気にもなったが、キョン・ジオは唯一ホン・ヘヤが読み取りにくい相手だ。


だから、とても想像ができない。


「ホン・ヘヤ。」


「……!はい。」


ホン・ヘヤはハッと我に返った。


ダルヤが浮かべた映像にまだ視線を固定したまま、ジオが言った。


「「リンク」を開け。」


命令した。


「……リンクをですか?」


ホン・ヘヤが眉をひそめた。


「なぜですか?……まさか私を代わりにそちらに送って、あなたを代理させようと?バベルがそう言ってるんですか?そんなごまかしで介入ペナルティを減らそうと?」


「違う。お前は、私を代理もしないし、バンビを代理もしない。」


「ではなぜ……。」


「お前が言ったじゃないか。」


ジオはホン・ヘヤを振り返った。


「お前、「通路」だろ。」


「……?」


「これ以上私が手出しをすると本末転倒になるんだ。それならあいつが「直接」やれば問題ないってことだろ?」


まさか!


何を言っているのか察したホン・ヘヤの目が揺れた。


キョン・ジオが念を押した。


「私とキョン・ジロクを繋げ。」


「…………無理です。俺を媒体に二人を——そんなことやったこともないですし、人と人を繋ぐなんて?それも一介の覚醒者と超越者を繋ぐ? 狂ってるんですか?隊長にどんな副作用が出るか分かったもんじゃ—!」


「できる。」


「はい?」


「できるって。私とバンビは。」


雨の中でもはっきりとした発声。


抑揚のない独特のハスキーな声で、キョン・ジオが確信に満ちて言った。


「「私たち」なら可能だ。」


これは厳然とキョン・ジロクの試験の舞台だ。


だからジオも多くのことを肩代わりするつもりはない。


ただ、目が前が見えないのなら、逆境の中で彼が何も見えない状態なら。


キョン・ジロクの目くらいは自分のものと代えてもいいのではないか?


「ふう……………分かりました。試みは。試みはしてみます。結果は保証できません。」


「ありがとう。」


「………何よ。」


聞きたくないことを聞いて仰天したホン・ヘヤが、むっつりと悪態をついて振り返った。


そのすべての会話を聞いていたホン・ダルヤが、兄に手を差し出した。


正確な座標指定から三者連結まで。


世界眼一つでは不可能なこと。


皆が緊張して見守る中、沈黙の中でダルヤが口を開いた。


「「無極、太易、太初、太始、太素。反極と太極……………」」


世界眼の共鳴のために唱える、地球最初の巫女後継の真言が、徐々に韻律へと変貌していく。


歌声のような声を聞きながら、ジオは目を閉じた。


今この瞬間、願いはただ一つ。


「立ち上がれ。」


私はお前を一度も一人にしたことはない。


ならお前もそうでなければ。


「最後まで一緒に行くって約束しただろ?」




☆☆☆


「ロク、だめだ。ジロク、お願いだから、キョン…!」


遠くに聞こえるペク・ドヒョンの声。


かすかだ。

キョン・ジロクは思わず考えた。


「いつ倒れたんだ?」


体が重い。


思うように動かない。


生まれてこの方、こんな感覚は初めてだ。


何も見えず、感じられず、ただ聴覚だけがかすかで、恐ろしく寒い。


キョン・ジロクは失笑した。


「やっぱりな。」


「美しい死などない」


キョン・テソンが死によって英雄になった日、崩れていく妹を見て得た悟り。


間違っていなかったことを再び悟る。


泣かない冷酷な狩猟神の星が涙を流し、優しくて親切なペク・ドヒョンがしきりに荒い悪態をついていた。


見よ、死とはこのように醜く、悲惨なものなのだ。


キョン・ジロクは冷えていく自分の体を認知した。


たかがこんな死。


そうか。結局無謀だったのか?


・・・・・。


・・・・。


「………………いや。」


後悔しているのか?


「絶対ない。」


そんなはずがない。


そんなはずがない!


「姉さん。」


「死ぬな。」


「・・・・。」


「お前が死んだら私も死ぬ。」


「分かってる。お前を置いて私がどうして死ねるんだ。」


「生きられない。無理だ。お前なしで私がどうやって生きていく……?私は無理だ…………」




ドクン——



「姉さん。」


私なしでは絶対に耐えられないキョン・ジオ。


「だから行かないで、お願いだから……お前なしで私がどうやって生きていく…………………」



ドクン、ドクン


ある記憶が押し寄せてきた。


キョン・ジロクの記憶にない場面だった。


「……それがなぜそこにあるんだ?」


「危、危ない時はこれを壊せって、あの兄貴が………………!」


「よかった……魔法まで私を見捨てたのかと思った。」


「キョン・ジロクが死んだ瞬間、このすべては終わったんだ。私が正気で生きることを望んだのなら、その場で私の弟を生き返らせるべきだった。」





雪原。


舞い散る吹雪の中の、道に迷った女。


欠乏したまま生まれ、片割れなしでは決して完全にはなれない宿命を持った人。


彼の姉。


彼がいてこそ完成する、彼の完璧ではないキョン・ジオ。


「………………姉さん。」


彼を呼んでいる。


キョン・ジオが。


キョン・ジロクはパッと目を開けた。


瞳の中で渦巻く黄金色の光輝。


同時にカチッ——異端的な閃光と共に、手の中に生成される槍一振り!


「適業スキル、9等級戦士系極意——「彼の怒りを歌え、女神よSing,Ogoddess,TheangerofAchilles」」




ドーン!


ザーッ!


「………………キョン、キョン・ジロク?!」


海面を切り裂いていく究極の斬撃。


真っ二つに割れた海。そびえ立つ、海水が雨となって、バラバラと落ちてくる。


目元が濡れたペク・ドヒョンが、茫然自失半分、呆然半分でぼんやりと見上げた。


「お前、今……………?」


「兄さん。まさか泣いたのか?」


「何?…………ガキ、今冗談言ってる場合か?お前一体どう……………!」


わめき散らすのをやめて、ペク・ドヒョンが固まった。


何かが違っていた。


「ちょっと待て。目が……………あの目は?」


見間違えるはずのない黄金色に、ペク・ドヒョンが口を開き、キョン・ジロクも笑いながら振り返った。


何がどうなっているのか、こっちも分からない。


しかし、毒気がまだ消えていないのに、すっきりとした視界。


驚くほど全身に充満したこの魔力。


自分のものとルーツは同じだが、決して同一ではない…………


「ホン・ヘヤのリンク?違うな。ちょっと違う。」


それでもこれだけは確かだった。


今この瞬間、彼らは繋がっている!




ヒュイイイイイ——!


海を凶暴に真っ二つにしたロンギヌスの槍が、破空音と共に主の手に戻ってくる。


軽々と掴み取りながら、キョン・ジロクは広大な夜の海を睥睨するようにゆっくりと見回した。


神がかってペク・ドヒョンを数で圧倒していた艦隊が、大いに動揺している。


圧倒的なパフォーマンスに動じずにいるのは、片方に退いた、黒竜旗を掲げたジン・ギョウルの飛行船だけ。


「何を企んでいるのか分からないけど。」


「知ったことじゃない。」


四方は包囲された状態。


数百隻の砲口が一斉にこちらを向き、戦況の形勢は誰が見ても不利だ。


しかし、肌に触れる敵の殺気が少しも恐ろしくなかった。


「リーダー。」


専用武器召喚。虚空に現れる剣を背景に、ペク・ドヒョンが手すりの上に一緒に足をかけた。


「ギルドメンバーを苦労させておいて、一人で格好つけるのはありですか?」


「ウォーミングアップしろと配慮したんだ。」


「口が達者だな。」


S級覚醒者は一人軍団。


そして現在この時刻、戦場にいるS級は全部で三人。


毒から解放された根源繊維が嬉しくて悲鳴を上げている。


キョン・ジロクは口の中に残った血を吐き出しながら笑った。


彼を見ている敵に向かって。


「そうだな。ぐずぐずしている時に俺の首から先に取っておくべきだったな。」


食べさせてもらっても食べられないんじゃ、仕方ないか。


もう殺しても殺せない。


「さっきの言葉、俺だけが聞いたのか?」


「立ち上がれって言ってるじゃないか。姉さんが。」


だから早く。


俺、家に帰らなきゃいけないんだ、雑魚ども。




☆☆☆



荒々しく揺れる黒海。


嵐の中で悲鳴と絶叫、落雷と覇気が降り注いだ。


血の染み付いた残骸が波に運ばれてここまで押し寄せてくる。


距離はもう遠くない。


一生懸命狭めたおかげで、戦場はいつの間にか目の前。


しかし、海賊たちの中で不平を言う者はいなかった。


皆が近づいてくる戦場を見て、見とれてしまった。


「これが人の戦いだと……これが?」


「まさか……。」


夜の海の上にきらめく黄金色に目が眩むようだ。


適応期間も必要なく、キョン・ジオの魔力を自分のもののように振り回すキョン・ジロクのおかげで、戦況は急速に傾いていた。


このままではすぐに終わる。


そしてその危機感を敵軍も感じ取ったようだ。


「……!ジオ様!」


ホン・ダルヤが慌てて叫んだ。


ジオを探す彼女の顔色は真っ青だった。


「チ、枢機卿団が……!何をしているんですか!ただ事ではありません!」


すべてを「読む」ホン・ヘヤの目とは異なり、ホン・ダルヤの「遠くを見る」目は過去、現在、未来まで見通す。


ジオが振り返らずに答えた。


「分かってる。」


とっくに感じ取っていたから。


波の向こう、海の向こう……そのはるか下を凝視しながら、ジオは呟いた。


「来るぞ。「デカいのが」。」


その言葉が終わると同時だった。




クオオオオオオオオオ——!


「クッ!」


「な、何だ!あれは……………?!」


歯が思わずカチカチとぶつかり合う。


海賊たちの顔が一瞬にして恐怖に染まった。


すべての希望を奪い去る叫び。


崩れる均衡に海面がひっくり返る。


濃い霧の中で重厚な巨神を起こす、九つの影。


暗い夜がさらに暗く染まった。


この黒海を支配する支配者の名前は「悪夜」。


ここの土着神格をすべて食い尽くして王座を占めた、悪意に満ちた夜。


「………………化身。」


うんざりした声で呟いたホン・ヘヤが、ジオをパッと振り返った。


「悪夜の化身です!」




☆☆☆



クアアアアアアアア!


眷属たちの切実な呼びかけに目覚めた悪夜の牙、九つの頭を持つ海竜。


黒海竜王が咆哮を上げた。


歴史の古い星間だからだろうか、それともここの支配者の直系化身だからだろうか。


無数に積み重なった歳月と高い格のおかげで、竜が放つ気勢は超越的で圧倒的だった。


今にも終わりそうだった戦場の流れが一瞬止まるほど。


しかし。


「……」


タッ——


船の残骸の上に降り立ったペク・ドヒョンが、無言でこちらを振り返る。


キョン・ジロクも同じことを考えているところだった。


繋がっているおかげで、あいつが何を躊躇しているのかリアルタイムで感じられた。



「そんな必要ないのに。」


すでに課題を受けた身なので分かっていた。


集合管は彼に試験を与える存在であって、戦う相手ではない。


少なくともこの課題ではそうだった。


それなら反則に、反則なら。


「不正行為じゃない。」


「やりたいようにやれ。キョン・ジオ。」


それでも躊躇するなら背中を押してやろうか。


「このセリフを俺が言う日が来るとは。」


口元が歪む。


キョン・ジロクはフッと笑い、傲慢に言った。


「領域宣布。」




☆☆☆


「あらまあ?」


ヨ・サスミ見てみな?


年を取ったからって、いろいろやるんだな。


キョン・ジオは目を開けた。


愉快な笑みが思わずこぼれた。


もちろん誓約はない。星もない。


しかし、もはや星系の何にも束縛されないので、図書館も自分のものとして扱うことができた。


図書館の中に巣食っている存在も。


「そっか、まあ。」


ここまでお膳立てしてやるのに、受け取れないならキング・ジオの面子が丸潰れだ。


「ブックマーク——ナンバー0。」


世界を壊す神話の悪竜。


敵意の虐殺者MaliceStriker。


超越者キョン・ジオ、魔術師王は躊躇なく第1の眷属を呼名した。


「来い。ニーズヘッグ!」


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