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429話

「ところで、キャプテン、ご主人様」


その時、強制的に聞き耳を立てていた海賊の一人が突然口を挟んだ。


同行したサマリア海賊団の中で一番若いウーリーだった。


「それくらいなら別れるのが正解じゃないですか?」


「ん?」


「聞いてると絶対いい人じゃないみたいだし。女の人が悪い男に執着するのって病気ですよ。うちの姉もそうだったから身を滅ぼして、私まで海賊になったのに」


「こら、こら。ウーリー、お前!静かにしろ!女だって?ここに女がいるか?」


「あっ、そうでした。そ、そうですね」


「でも、その言葉も一理あるわ。あいつ一人手に入れるために家族も友達も全部諦めたって?そんな奴と付き合うもんじゃないわ。海賊が見てもダメなら、その時は本当にダメなのよ!」


「そうよ。チャンスが来たら別れなさいって。あいつの執着がひどすぎて大学?とかいうのにも行けなかったって」


「大学って何だ?」


「フック・ジョーの国では社会に出るために必ず通らなければならない学校みたいなものらしいわ」


「勉強もさせずに一日中ベッドに閉じ込めて、その高いアイスクリームばかり食べさせたって言うじゃない。魂胆見え見えだわ!幼い女がどこにも逃げられないように文字も教えずに悪い癖を覚えさせて家に閉じ込めるクズっているじゃない」


「なんてこと!それって人のすることかよ?!」


「フック・ジョー、しっかりしてると思ったのに、まだまだ青いわね。男を見る目があまりにもなさすぎてもうどうしようもないわ」


「偉大なる海の父が助けてくださったのね、そうよ。見守ってくださったのよ。あいつが記憶を失ったのも逃げろって助けてくれたのね」


「とにかく異端審問官の中にまともな奴なんていないんだから。偽善者ばかり!」


「あの狂信者集団にまともな奴なんてハイロードと総領提督しかいないってことくらい誰でも知ってるわ」


「ロードくらいの男なら監禁されてもただ甘んじて受け入れるわよ、ちっ。どうせ審問官と会うなら同じ男が見ても素敵なハイロードみたいな男に会うべきだわ!」


「ところで……………さっきキャプテンご主人様があの男の名前はキョウルだって言ってませんでした?ハイロードの名前もキョウルだけど、まさか……」


「違うわよ!ありえない!当然、同姓同名よ!同。姓。同。名!」


「何馬鹿なこと言ってんだ?」


「ハイロードが会いたいからって会えるような人じゃないでしょ!この海で一番高貴な男なのに!そこの聖戦の教皇よりも貴重な男じゃない」


「とにかく、私の気持ちとしてはフック・ジョーの代わりに高貴なハイロードに匿名で投書でもしてやりたいわ!あんたたちの集団にとんでもないクズがいるって!」


海賊たちが心を一つにしてハイロードを称賛し、ハイロードをこき下ろした。


「…………ひっく」


黙って聞いていたジオがすすり泣いた。


「クズでも…………私は好きだったのに………?」


「あらまあ、かわいそうに…………」


「生きててキスしたり抱きしめたりしたいし、一秒でも会わないと不安で死にそうになるような奴は、あいつしかいなかったんだもん」


「あらあら……………」


そうだったの?


すっかり感情移入した海賊たちが初恋に落ちた幼い妹を見るように、よしよしと慰めた。


「あんなに純愛だったなんて、うちのフック・ジョー」


「大丈夫よ。いい男がまた現れるわ。泣かないで、泣かないで。あいつは幸せ者だってことも知らないで、記憶までなくしちゃって!ろくでなし!」


「うちのキャプテン、フック・ジョーは性格がめちゃくちゃで、すごく乱暴で、手もすごくかかるけど、外見だけ見ればあんな美少女はいないのに、悪いやつ……」


「間違って殺しても生き返る奴もあいつしかいないのに…………」


「し……………え?」


「殴ってもいいって甘えてくるし…吐いても手で受け止めてくれるし、毎日おんぶしてあげて、飽きたら言葉遊びに変えてくれるのもあいつだけなのに……ゴホン」


「・・・・・・?」


………まさか、聞き間違いか?


「今まで話してたのは元カレじゃなくて元奴隷だったのか?」


「こんなのが…………純愛?」


海賊たちの目に動揺が走る中、サルバがため息をつきながらテーブルをトントンと叩いた。


「無駄話はこれくらいにして。他人の船に乗せてもらってる身で、酔っ払うつもりじゃないだろうな?」


「いや、副船長。俺たちをなんだと思ってるんだ!」


酒はいつだって海賊のいい友達だが、同時に最も危険な敵でもあった。


副船長の雷に、団員たちは慌てて酔いを覚ました。


酒宴を片付けようと辺りが騒がしくなる中、サルバは、顎を突いてじっとジオを見つめた。


眠いのか、しきりにまばたきをしていた瞼がゆっくりと閉じられる。


酒に酔っているせいか、冷ややかな普段とは違ってほっぺが赤くなっていて、なかなか見栄えが良かった。


おとなしく目を閉じている顔。


あの珍しい黄金の瞳が見えるか、見えないかの違いなのか?印象からして全く違った。


こうして見ると、ただの普通の人間みたいだ。平凡で幼いエイリアンの女の子。


「ふっ」


「うぶ毛があるな」


サルバはどうしても頭を上げられないジオの頬を人差し指で軽くつついた。


「くそ…………めちゃくちゃ柔らかい」


これは小麦粉の生地か、人間か?


見た目は陶器みたいなのに、感触がこれはあまりにも……。


「ううう」


思わずもう一度突っつくと、ジオが鬱陶しいのか眉間にしわを寄せた。


サルバはそれに自分が笑みをこぼしたことにも気づかなかった。


「伝説の海賊が親の仇で、記憶を失った元夫は異端審問官か」


「エイリアン。お前、一体何者なんだ」


「兄貴!そろそろ甲板の方も- うっ!」





ドーン!


船が大きく揺れたのはその時だった。


サルバの方に歩いてきたピーターがそのままゴロゴロと床を転がった。


団員たちは酒瓶を掴もうとしたり、柱を掴もうとしたり、悲鳴を上げながらもがいていた。


すぐに上の方から叫び声が聞こえてきた。


「おい、居候ども!ちょっと外に出てこい!」


「んー、なに?」


「…あ。起きたのか?俺、出てくる」


うっかりジオを抱きしめていたサルバが咳払いをして勢いよく立ち上がった。


妙な寒気を振り払うように肩をぶるぶる震わせる彼を、ジオがとぼとぼと追いかけた。




ザッパーン!


黒い波が船体を激しく叩きつける。


手すりに群がっている船員たちの顔つきが尋常ではない。


「おい、エンゾ!なんだ?乗せてやる代わりに甲板の方には近づくなと言っただろう」


「あれを見ろ、マーキュリー。[天罰]だ」


天罰?


サルバが手すりの方にぴったりと寄り添った。


船員の一人が望遠鏡を差し出したが、高位覚醒者である彼には必要のないものだ。


ハッ!ピーターと団員たちが横で慌てて息を呑んだ。


「ふ、ふ、不倶戴天の網?!」


「ふ、副船長!あそこ、俺たちがいた4番埠頭じゃないですか?マジか•••••!死ぬとこだった」


遥か遠い海。


6層海の溶鉱炉、4番埠頭の空を中心に雄大な光源が伸びていた。


一帯の空を占拠した光彩の巨大な網に海水が身もだえする。


上からは光が降り注ぎ、下からは津波が押し寄せる。6層海の陸地全体がまるで監獄のように包まれた、実に恐ろしい光景だった。


誰も逃げられないだろう。


何かを探すように執着的に掴んで広がることを繰り返す網が、まるで生きている獣のように見えた。


「もし俺たちがずっとあそこにいたら·•··!」


「何を言ってるんだ。間違いなく捕まって断頭台行きだ。噂には聞いていたが、こりゃすごいな…!」


「うちの副船長がいなかったら、う~考えただけでもゾッとする」


サマリア海賊団が素早く溶鉱炉から抜け出したのは、全面的にサルバのおかげだった。


補給が必要だと言ってぐずぐずする船長に、彼が現場で一括で大金を支払ってしまったのだ。


全財産を使い果たしてしまったが、おかげでサルバ一党は誰よりも早く溶鉱炉を離れることができた。


ハイロードと異端審問官たちが本格的な捜索を開始する前のことだった。


「何を探すためにあんなことまでしてるんだろう?」


「知らないさ。危うく運悪く巻き込まれるところだったけど、避けられただけマシじゃないか?」


「偶然にもほどがあるな。だからたまには上層海よりも中層海の方が怖いって言うんだよ」


さあ、どうかな。


「本当に偶然だろうか」


サルバは険しい顔で騒がしい遠い海を凝視した。


何かずっと引っかかっていた。


「ところで、不倶戴天の網ならハイロードが直接乗り出したってことですよね?」


「そうだよな?総領提督でもないのに、あの高値の男が一体どうしたのか知らないけど」


「もしかして……………本当に、まさかと思って言うんですけど。本当にキャプテンご主人様の元カレがハイロードなんじゃないですか?」


「何だって?」


「おい!ウーリー、お前またでたらめ言ってるのか?」


「いや、だって名前も同じだし-」


「キョウルが珍しい名前か?あそこの寒い地方じゃ犬も猫もみんなキョウルだって!」


「そうだ!キョウルは俺の故郷にもいるぞ?めちゃくちゃイケメンで後悔することで有名な奴だった」


「それにさっきフック・ジョーが言ってたの聞いてなかったのか?クソみたいな男は置いといて、ハイロードがあんな、あんな人間扱いもされない惨めな姿で恋愛なんかするような人かよ!」


「それもそうか……………」


すぐに納得したウーリーが頷いた頃だった。


「あ、あ、ちょっと、あの津波、今ここまで来る- え?!エンゾ船長!あ、あれ大変なことになったんじゃないですか?」


「………………!ちくしょう!操舵手!すぐに舵を取れ!帆を全部下ろせ!マストも早く倒せ!」


天罰が荘厳だと見物している場合ではなかった。陸地から始まった波紋がますます広範囲に広がっていた。


[不倶戴天の網]から始まった津波と嵐の余波が陸地から遠く離れたここまで押し寄せてくる。


速い。この速度なら直撃だ。


船員たちの動きが慌ただしくなった。





ギイイイイイ!


大型クリッパー法船がすでに揺れ始めていた。


まずい。


お前らも手伝え、サルバが叫ぼうとした瞬間。




ヒュウイイイイ。


「……!」


「な、なんだ……?」


混乱を突き破って入り込んでくる口笛の音。


甲板の上を急いで走っていた足が一つ二つとぴたりと止まる。


みんなが約束したかのように一方向を振り返った。


手すりに寄りかかっている背中が小さい。


しかし•••••。


バンダナの下から黒髪が荒々しい海風になびいた。


遠い海を凝視する顔。


その唇から口笛が鳴り続ける。


ハミングのような口笛に合わせて、ある風が吹いてきた。


小鳥の群れが羽ばたきで運んできたかのように、しなやかで穏やかなそよ風だった。




[職業スキル、5階級元素系上位広域呪文- 口笛 Breeze Warblers']



無形の鳥たちが巨大な船体を押し出す。


彼らに従ってきらびやかに散りばめられる金色の魔力が星風を見るようだった。


「……帆」


一番最初に我に返ったのはこの船の船長。


エンゾが上気した顔でハッと叫んだ。


「ほ、帆を再び広げろ!可能なすべての帆を上げて船速を最大限に高めろ!俺たちはこのまま網の範囲から抜け出すんだ!」


「イエイ、キャプテン!!!」


船長の命令を大声で復唱し、船員たちが一糸乱れぬ動き始めた。


年中船の上で暮らしている者たちだ。


風がいつどんな方に傾き、誰の味方になってくれるのか、海の男たちより敏感な者はいないはずだ。


今吹いているこの風は俺たちの味方だ!


確信が船乗りたちを躊躇なく動かした。


「……」


「……」


騒がしくなる甲板の上で、サルバとサマリア海賊団はぼうぜんと立ち尽くしていた。


操舵室に移動していた船長エンゾが肘でサルバを軽く突いた。


「誰だ?一体どこであんなもんを拾ってきたんだ?」


「……それが」


「とにかく良かった。ありがとう。おかげで助かった。さすがサマリア海賊団だな」


エンゾがからからと笑いながら消えていった。


「誰かって……」


誰よりもサルバ彼が一番聞きたかった。


一体あのエイリアンは何者なんだ?


一体何者だから、たかが口笛一つで台風の方向を変えるんだ?


相変わらずのんびりと手すりに寄りかかっているキョン・ジオがそんな彼らをちらりと振り返る。


「何見てんだ。未開な奴ら」


酔いなど全くないすっきりとした顔が嘘のようだ。


現実感がさらになくなった。


どこからが本当で、何が嘘なのか?


混乱に満ちた海賊たちの視線と、自分が呼び寄せた海風の真ん中で、地球から来た魔法使いはただ意地悪くニヤリと笑ってみせた。


「顎が外れるんじゃないか」


魔法初めて見たか?




☆☆☆


数日後。


黒層海上層区間、2層海。


メイン埠頭、「トゥーフェイス」通り。


不意に不規則的に開かれる1層海、そこへ行こうとする大海賊たちがみんな集まってくる場所。


マウンテン入口と接している「トゥーフェイス」通りは、異端審問官たちも来るのをためらう2層海の中でも最も悪名高い無法地帯だった。


賞金稼ぎウルルカは手配書がべたべたと貼られたその通りを見回した。


多種多様な手配書の中でも、ひときわ鮮明な手配書が堂々と貼られていた。



たった十日。


十日ぶりにこの海で最も有名になった名前だった。



[聖戦特級功績]


キャプテン フック・ジョー (様)


サマリア海賊団


-100億-


「別名……百億の魔法使い!」


ところで、この者の手配書の隅々に貼られているこの文章は一体どういう意味だろうか?


[力を隠すのもうやめる頃合いですよ - ペク]


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