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423話 番外編6

転がり込んできたランカーが、居座る海賊王になる

世界の中心であり、唯一の大陸である「バベルマウンテン」を、螺旋階段のように取り囲む全9層の黒い海、黒増しモタ。



その中でも中間地点の始まり、6層海は、あらゆるろくでなしの若造と、質の低い無法者が入り混じって集まる、ゴミの溶鉱炉だった。



「よう、じいさん。久しぶりだな」


「…サルバ? まだ死んでなかったのか?」


「死ぬかってんだ、この野郎。くたばって二度と来なきゃいいと思ってんだろ? 品物は?」 


こいつの口の利き方は相変わらずだな。


駆け出しの頃から一貫しているから、初心をよく維持していると言うべきか。


舌打ちした主人のじいさんが、ここで少し待っていろと言い残し、店の奥に入っていった。


退屈そうな顔で男が陳列台に寄りかかった。


自然と周囲がそんな彼をちらちら見始める。



息が詰まるほど野性的な雰囲気を漂わせる男だった。


磁石のように視線が引き寄せられた。


海賊にしては整った顔立ちも一役買っている。


海風に粋に焼けた肌の上にある、サーモンピンクの傷跡は勲章のようで、それに短くうねる銀髪が加わり、男はまるで陸に上がってきた戦いの神のようだった。



全身から「俺は危険な奴だ」と殺気をむんむん放っているのに、矛盾的に刻まれた泣きぼくろは、哀れな味わいまである。


彼を盗み見る視線がどんどん増えていくと、サルバが険悪な顔つきになった。


「何見てんだ。その目玉をくり抜いて、おはじきにしてやろうか」


「はいはい! そんなに力を入れてどうする。品物はここにある。代金はいらないから、早く行きなさい」


「なんで代金を受け取らないんだ? 物乞いに施しでもするってのか?」


「そうじゃなくて、お前さんも見たから分かるだろう。異端審問官があちこちにいるんだ。出くわす前に早く行かないと」 



ああ、それか。


耳にぶら下がったたくさんのピアスをいじりながら、サルバがそっけなく笑った。


「天罰が怖くておどおどするくらいなら、海賊なんかやめて、神官の尻の穴でも舐めてろ。余計な心配すんな、ちゃんと代金を受け取れ」



「心配じゃなくて、心配してるんだよ。ちっ」


「クク、うちのじいさんは通報しても、俺が一度くらいは見逃してやるよ。顔なじみの義理もあるしな」

「ああ、もういいって、この野郎! まったく」


 声を出して笑ったサルバが、品物を確認した。


二、三台の携帯電話と、各種雑誌だ。


「今回はちゃんと電話できるんだろうな? 前回みたいにクソみたいなガラクタを売りつけたら、マジでただじゃ済まさないぞ」



「間違いない! 俺もその件でこっぴどく喧嘩したんだ。とにかく銀河商人はろくでなししかいなくて……。ああ。代わりに、なんて言ったかな、通信社? 黒海にはそれがないから、その機械にお前さんが登録する電話番号でのみ連絡可能だと、口を酸っぱくして言われたよ」


「通信社? それが何だって、こっちにはないからって騒いでんだ?」


俺に分かるかっていうように、じいさんが肩をすくめた。サルバが短く舌打ちした。


「は、つまりこの機械同士でしか連絡できないってことか。ガキどもの商売上手ときたら。あと何台か用意しておけ。また今度来るから」


「何台だ?」


「できるだけ。今日はこれを受け取って、残りの代金はその時に払う」


サルバがポケットからぽんと投げ出した。


素早く受け取って中身を確認したじいさんが、満面の笑みを浮かべた。


「相変わらず太っ腹だな! お前の海賊団に配りでもするつもりか?」


「知ったことか。雑誌は。これで全部か?」


「それも他の星間からかき集めてきたんだ。密輸が簡単なことだと思ってるのか?」


「うるせえな、分かってたら俺がやるよ。こんな状況で他人に高い金払って頼むと思うか?」


うんざりしたように悪態をついたサルバが、片手で雑誌を1冊手に取り、ぱらぱらとめくった。


わいせつな表紙を過ぎると、けばけばしいグラビアと、密輸業者がいちいち翻訳した広告やコラムが出てきた。


「こいつら宇宙人は、女を裸にするのが大好きなのか。なんでこんなにみんな肌を露出して………………」


「へへ。だから人気があるんじゃないか」


「ニヤニヤすんな。汚らしいったらありゃしねえ。それに今回は、星座の話があんまりないな?」


「そりゃあ、もう言い尽くしたからじゃないか? 即位してから何度も同じ話をして、どれだけ使い古したことか。飽き飽きしてたから、ちょうどいいけど」


「飽きてたか? 別に」


「そういえば、お前さんは星座にやけに関心があったな。不思議だ。どうせ別の世界の話なのに、何がそんなに面白いんだ?」


「面白いから見てると思うか。世の中の動きを知ろうとして見てるんだ」


「知ってどうする? 俺はこの年になるまで、偉大な集合官様の服の裾すら見たことがないぞ。ましてや星座は、それよりもっと上、星系のずっと一番上にいる方だっていうじゃないか?」


 まあ、完全に間違ったことではないが……。


もういい。



「またな、じいさん。行くぞ」



これ以上話すのも面倒になり、サルバが手を振って振り返った。


店の外で用事を終えるのを待っていた、険悪な顔つきの屈強な男たちが、その後ろにどっとついていく。


密輸通りのチンピラたちが彼らを見て、我先にと目を伏せた。


彼らが完全に遠ざかってから、息を潜めていた店の中の密輸業者たちが、わあわあと騒ぎ始めた。



「サルバって、マーキュリー? サルバ・『マーキュリー』・ガスパール?」



「サマリア海賊団の副船長だろ?」


「うわ、主人のじいさん~、そう言ってたVIPがあの御仁だったんですか? やけに物騒だって言ってたのは、そういうことだったんですね!」


「噂がものすごく縮小されてたんだな。ちっ。あれが人の目つきか? 人を食う獣だ」


「あいつは誰なんだ? ちょっとゾッとしたけど、そんなにすごい奴なのか?」


「こりゃ大変なことになるぞ。サマリア大海賊団を知らないのか? 最近上層海で一番勢いのある支配勢力じゃないか! ランキング海戦で4位まで上がった奴らを、本当に知らないってのか?」



「ああ、長話はいい! このおっさん、さっきのあの人間に、聖戦で懸けられた懸賞金はなんと70億だ。70億ウォン!」


「何!少し前に73億まで上がってたぞ」



「73億ウォンなら……………バベルコストでいくらだ、730万? うわ、マジか。身体改造まで一気にできるじゃん?」



「いや、そんな人間が、この6層まで何で降りてきたんだ?」


「副船長……………! 密輸業者を探していらっしゃったのなら、上の階で探されても十分だったはずですが」


わざわざこんなろくでなしの溶鉱炉まで降りてくる必要があったのか、団員の1人がぶつぶつ言った。


サルバがその頬をぴしゃりと叩いた。


「うるせえぞ、この野郎。殴られたいのか?」


「あ! もう殴っておいて! 危険を顧みないからでしょう。最近の神官たちの雰囲気が物騒なのをご存じないんですか?」


「こいつ今日に限ってどうしてこんなにぐちぐち言うんだ? おい、こいつ何か変なものでも食ったのか?」


「僕たちみんな同じものを食べましたけど。ピーター兄貴はもともと、ちょっと怖いもの知らずなところがあるんです」


「なんだと、この野郎ども?」


むっとしたピーターが、下品な悪態をつくと、部下たちが喜んでけらけら笑う。


サルバが露骨に呆れた様子を浮かべた。荒くて大きな手で、ピーターの緑色の頭を強く叩きつける。


「痛っ! 兄貴! 今回はマジで痛いです!」


「頭が付いてるなら少しは使え、この間抜け。これはただの飾りか? 俺が密輸品だけを探しに来たのなら、1人で降りてきただろうが。お前らまでぞろぞろ連れてくると思うか?」


「どういうことですか!」


「お前の言う通り、ろくでなしの溶鉱炉に、こんなに異端審問官がうようよいる理由は何だと思う?」


「……え?」


海賊たちが無知だという偏見は、全部こういう奴のせいで生まれるんだ。


サルバが舌打ちした。



「6層の奴隷マーケットに、ティンカーベルが現れたそうだ」


「ええっ?! ティンカーベルですか?」


思わず大声を出したピーターが、慌てて再び声を小さくした。



「ティンカーベルといえば、あの伝説の製作系妖精ティンカーベルですか? アイテムというアイテムは全部直してくれて、強化バフまでかけてくれるっていう? それってただの噂じゃなかったんですか?」



「捕まえにくいから伝説になるんだ、この野郎。伝説なんてそんなもんだ」 


わずか24歳にして、73億の懸賞金をかけられ、伝説になりつつある男が言う言葉だった。


ただの冗談には聞こえなかった。


団員たちの憧憬の眼差しに、サルバがふっと笑った。


「知り合いの奴隷商と話は済んでて、品物は確保してあるはずだ。俺たちは見物するふりをして、そっと持ち帰るだけでいい」


「さすが副船長……! 兄貴、最高です!」


「うちのマーキュリー兄貴、きゃあ、マジで~!」



サルバと団員たちは、足早に6層埠頭の外れ、奴隷街へと入っていった。


入り口を越えると、市場の屋台のように道端にずらりと並べられた鉄格子が現れる。


種族から出身まで、すべて千差万別。


奴隷マーケットにも階級が存在する。


高貴な神官様たちは、絨毯が敷かれた室内の競売場ならともかく、こんな道端に転がりながら値段交渉する場所まで、お越しにはならなかった。


そのため、生命軽視が当然とされるこの無法地帯でも、断然死角に属する場所。



「そこのイケメン海賊のお兄さん! 見てってよ、今日の品物はいいよ~、宇宙人もいるよ?」


「めったにないチャンスですよ! 閉店セール! 1プラス1まで! 皆さんいらっしゃい!」


うっ。片方の耳を塞ぎながら、ピーターがうんざりした。


「ここはいつ来ても落ち着きませんね。用事を済ませて早く行きましょう、兄貴」


同感だった。


サルバは取引しておいた奴隷商の店番号を思い出しながら、大股で歩を進めた。


一目で大物と分かる大海賊の登場。


大物を釣り上げようと、恐れを知らずに付きまとおうとした客引きたちが、後についてくる団員たちの目つきを見て、慌てて退散した。


そんな人数がどんどん増えていくにつれて、ごった返す市場の真ん中で、まるでモーゼの奇跡のような光景が繰り広げられていた刹那。


「うわああああああああ!」


「なんだ、この野郎?」


幽霊でも見たような顔で逃げ出した商人の1人が、彼とぶつかって転げ回った。


サルバは悪態を飲み込みながら、肩をぱっと払った。


いつの間にか周囲が静まり返っていた。


海賊たちに道を開けていた人波と、「何か」から逃げ惑っていた人波。


2つの人波が合わさり、自然と開けた空間で向かい合うことになった両者。


サルバは一瞬眉をひそめた。何だあれは。


「………………奴隷なのか?」


めいっぱい曲がった鉄格子、ぐちゃぐちゃに血の海になったその中で、血痕一つなくそびえ立っている黒髪の少女。


じっと彼を見つめてくる白い顔が、のんびりとして穏やかだ。


片手に自分より3倍は大きい体格の商人をつるつる持ち上げているとは、信じられないほど。



「ひっく!」


誰かがしゃっくりする音が聞こえた。


猫のようにすました目つき、その中のぞっとする黄金の瞳。


それを見ることに非常に集中していたサルバ・ガスパールは、ゆっくりとある違和感に気づいた。



何かおかしい……。


周囲の人々の驚愕した顔が、決してあの奴隷の圧倒的なパフォーマンスだけのせいではないような……



「ひ、ひ、兄貴……?」


自分よりもずっと魂が抜けたような声で、ピーターが横から彼を呼んだ。


サルバはゆっくりと視線を落として確認した。


種馬のように逞しい彼の太ももの上に、鮮明に描かれた黒色の神聖な烙印……。


彼に烙印を押している聖なる光を、ぼうっと追いかけると、おかっぱ頭の手にぽつんと握られたスタンプが見える。



硬直したサルバの脳裏に、該当アイテムの情報が自然と浮かび上がった。


聖戦で交付される神聖力の精髄。


古株の黒海奴隷商たちのマストハブアイテム、烙印スタンプ(スペシャル等級、偵察価格:500,000ウォン)……ピーターが震えながら念を押した。



「う、うちの副船長が今……あの奴隷女の奴隷になられた……?」 


サルバもぼうぜんと呟いた。



「…マジかよ?」


芳年24歳の大海賊、サマリア海賊団副船長サルバ・『絶対に折れないマーキュリー』・ガスパール。



初めて見る見知らぬ女(推定身分:宇宙人奴隷)の奴隷になりました……!


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