42話
デパートほどVIPマーケティングに本気なところは珍しい。
上位20%が売上の80%を占めるという「パレートの法則」に非常に忠実な場所。
高級デパートをモデルにした大企業傘下のハンターマーケット、清潭のDマーケットも同様だった。
一般客にオープンしたのは3階まで。
その上階から、つまり「専用館」からはガードマンが出入り制限ラインを張って統制していた。
「国家公認ハンターライセンス所持者と同行の方のみ入場可能です。ご確認お願いいたします。」
「さっきやったじゃないですか?」
キョン・グミがぶっきらぼうに言い返した。
4階に上がってくる頃にはすでに一度済ませた手続きだったから。
しかし7階前のガードマンは微動だにせず、ずっと無表情。
ジオと視線を交わしたグミがうんざりした手つきでカバンを再び開けた。
「お客様、入場は難しいかと。」
「……なぜですか?」
「7階からは『ロイヤル専用館』として運営しております。等級によって階別の制限があり、E級ライセンス所持者様は6階までのみご利用可能です。」
一言で言えば入店拒否だった。 人口排除。
うちの条件に合わないしょぼさでどこに突っ込もうとしてるんだ? 水を濁さずさっさと帰れ。 えへん。
「E級」に力を入れて発音したガードマンが傲慢に後ろ手を組んだ。
もうこちらに目もくれない。
グミは黙って入店拒否された自分のライセンスを受け取った。 何でもない顔でくるりと振り返る。
「……それは知らなかったわ。今度からはバンビでも連れてこないと。 行こう、お姉ちゃん。」
「何だ、物売りどものくせに入店拒否とは。」
「いいの。ハンターが等級でカットされるのが一日二日じゃないし。 慣れてるわ。」
しかしジオは見てしまった。
言葉とは裏腹に、うねる長い髪の間から赤く火照った末っ子の耳たぶを。
昔からとにかく嘘は得意だ。
あって損はないと言っていたが、本当にそうだった。
面倒なことだと思っていたが、こんなところで使うことになるとは。
もう行こうと促す腕を軽くたたきながら、ジオはポケットを探るふりをして、インベントリを開いた。
ワールドランキング1位、惑星代表にもなる人間界トップの怪物(名前:キョン・ジオ)を横に置いて、キョン・グミが未練なく振り返ったのは、それなりに確信があったからだ。
キョン・ジオのライセンスがここで公開されるはずがないという確信。
なぜなら、世の中のすべての「スペシャル」たちが大抵そうであるように、S級たちはハンターのバッジさえもめちゃくちゃ派手だったから。
もちろん覚醒者の等級によってますます華やかになるのがライセンスの特徴ではあるが……
それでもAAA級までは決まった枠、 「免許証」形式を維持するなら、S級からはそんなものはない。
ひたすらナンバリング。
国から付与されたコードに魔力を注入すると、システムに登録されたS級覚醒者個人の固有の紋章がホログラムで出力される式。
重要戦力であり、ごく少数のS級たちを国が特別管理すると言って始めたことだった。
だからS級たちはライセンスの形がそれぞれバラバラだった。
コード刻印さえされればそれが何であろうと関係なかったから。
キョン・ジロクのような場合はピアスだったし、チェ・ダビデはブレスレット。
キョン・ジオは……
「……何だっけ?」
ゆ、指輪だったか?
なくして何度か変えた気がするけど……
携帯電話ケース? え、エアポッド……?
「……」
知らない。 どこかにはあるだろう……
インベントリの隅のどこかを探せば出てくるだろう。
とにかく今必要なのはそれではなく。
当然、黒竜とあらゆる華やかさで塗り固められた魔術師王の紋章をこんなところで取り出すわけにはいかないが。
「はい、どうぞ。」
ジオにはちょうど少し前に受け取っておいたものがあった。
HUNTER LICENSE / ROK /
覚醒者 キョン・ジオ
━ LEVEL. B ━
1st CLASS
戦闘系(魔力特化)•剣士
万が一に備えて局長と虎が押し付けてきたパルドジェの(偽装)身分証明書。
もちろん本キャに比べればしょぼいことこの上ないサブキャスペックだったが。
ピラミッドはもともと上にいくほど狭くなるもの。
覚醒者も同様……いや、ひどいと言えば一番ひどかった。
いくらゴロゴロそいるのがハンターたちの今の世の中だとしても、B級からはいわゆる「別世界の人々」。
大多数のギルドで主軸となる戦力も普通はB級からだからだ。
「し、失礼いたしました。」
ガードマンたちの態度が即座に変わった。
確認するや否や顔色が変わると、そわそわと様子を伺いながら付け加えた。
「お客様は10階『トリニティ館』まで階別制限なくご利用いただけます。 お迎えできるよう階の職員に事前に連絡を入れておきましょうか?」
答えはキョン・グミが代わりにした。
「結構です。勝手にします。」
こんなに親切な方々だとは知らなかったわ。
道を開けるガードマンたちの間を通り過ぎながら、つっけんどんなつぶやきと肩パンも忘れずに。
堂々とした足取りで先に行くグミの後をジオがのそのそとついて行った。
ショッピングが始まってから二時間。
窓のないデパートの室内は相変わらずまぶしいほど明るかった。
* * *
イム・サンイン、満37歳。
職業:清潭Dマーケットトリニティ館所属VIP担当チームパーソナルショッパー。
立派な口ひげのこのジェントルマンは、立派な外見とは裏腹に、最近内心穏やかではなかった。
釜山マリン支店で認められ、清潭本店に上がってきてからもはや半年。
いまだにこれといった実績を上げられていないせいだった。
一般デパートのパーソナルショッパーと「ハンターマーケット」のパーソナルショッパーはその性格が少し違う。
あちらが比較的体系的な運営のもと、長年の顧客の要請と予約によって呼ばれる秘書システムなら、ハンターの方はまさに実戦ロト。
初めて見るどこかのやつがふらっと来て、ふらっと何十億も使っていくことが日常茶飯事だった。
したがってショッパーたちも顧客の要請に優雅に呼ばれるのではなく、こいつがロトか、あいつがロトか、大物を逃さないように常に入口の前に待機していなければならないのが現実だった。
「大口客一人捕まえればソウル生活も安定するはずなのに……」
しかしソウルのケチなやつらの縄張りが半端じゃなかった。
少しでも見込みのある客だと思ったら、自分たち同士で集まってトスしてあげたり、後押ししてあげたり……ふざけんな。
さっきも丹精込めて作業していた客を在庫確認に行っている間に丸ごと奪われてしまった。
イム・サンインは焦って入口をちらちら見た。
もう月末なのに今月もダメなら……
折しも顧客入場。
床を鳴らす足音にミーアキャットの群れのように場内のすべてのショッパーたちの頭がくるりと回った。
頭からつま先まで。 スキャンは正確に15秒。
すり切れたベテランショッパーたちには顧客の見積もりを出すのにそれくらいの時間で十分だった。
女二人。
一方は未成年の高校生。
もう一方は、若く見えるが童顔なだけで確実に年上。 二十歳くらいと推定。
全く似ていないが、高い確率で姉妹。
歩き方や体の向き、目線などから見て、関係における主導権は妹の方。
しかし経済権は確実に姉にあり。
妹の靴のブランドは中間。 カバンは、お、正統イタリア製品じゃないか?
制服はセッピョル高、江南8学区。 髪の毛と爪および管理状態から見て、少なくとも中産階級以上。
ふむ。 姉の方は……
「えー、だめだ。」
何だあれ? PCルームのニートじゃないか?
近所の散歩に出てきたこの区域の浪人生の威厳に感銘を受けたショッパーたちが一斉に顔を背けた。
等級測定器並みの腕前でスキャンしたことはなかったことのように、やっていたことに再び集中した。
「……何よ? 妙に気分悪いんだけど。」
「また、いきなり何?」
「いや……変ね。 全方位で侮辱されたようなこの感じは何?」
「あんた、何か被害妄想みたいなものがあるの?」
「勘が獣レベルだな。」
耳を傾けて聞いていたイム・サンインは内心感嘆した。
「ベテランショッパーたちのスキャンに気づくとは。」
数ヶ月前に訪問した、ランキング8位のチェ・ダビデが全部ぶっ飛ばしてしまう前に気分悪い目つきを片付けろと脅して以来初めてだっ……
「ちょっと待って、何?」
瞬間背筋がぞっとする。
この気分を何と説明すればいいのか分からない。
まるで暗い頭の中で明るい灯がともる感じ。
イム・サンインは戦慄した。
釜山マリン店の伝説、16年目の商売人の勘が叫んでいた。
「これは大損か大当たりだ!」
入口はまだ閑散。
1:1オーダーメイド対応がルールのトリニティ館では、必ずショッパー一人が顧客につきっきりにならなければならない。
だめだと計算し終えた魚であるだけに、皆が先延ばしにして目を背けているその時点。
イム・サンインはさっさと歩いて行った。
「こんにちは、お客様!」
「トリニティ館にご訪問いただきありがとうございます。 私はトリニティのVVIP担当パーソナルショッパー、イム、サン、インと申します。 本日一日、お二方のお客様の目と手となり、不足なくおもてなしいたします。 よろしくお願いいたします。」
丁寧に腰をかがめる耳元に同僚たちの息を殺した嘲笑が聞こえてきた。
しかし顔を上げたイム・サンインはさらに確信した。
「ジャージの袖に……小豆がついている!」
近くで見るともっとめちゃくちゃだ!
大韓民国最高のブランド館をかき氷のついたジャージとキャラクター靴下を履いたスリッパ姿で横切るこの大胆さ!
「確信だ。 私が正しい。 これは狂人か大物中の大物だ。」
このように他人を全く気にしないやつは人類史上古代中国の皇帝以外にいなかった。
「え……シム・ボンサでもないのに、なぜ他人の目を?」
「ちょっと! 静かにして。 あ、こちらは気にしないでください。 それではお願いします。 イム……サンインショッパー様。」
「ハハ。 呼び方が不便でしたら、楽におじさんとか、そう呼んでいただいても構いません。」
「ほほう、そう。 イムおじさん。 今日は良い物はあるか?」
「キョン・ジオ!」
同僚たちの嘲笑がサラウンドで聞こえてくるのは錯覚だろうか?
「違う……私が正しい……」
揺れる心を必死に立て直しながら、イム・サンインはキョン姉妹を中に案内した。
プロの笑顔を消さないまま。




