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404話

「ああ、クソ。知らないって言ってるでしょ?ただ急に自分の声みたいなのが聞こえてきて―」


「自分の声?」


傷ついた手のひらを執拗に舐めていたキョウルが、顔を上げた。


「今、自分の声だと言ったか?自分の声が、自分とは関係なく聞こえたと?」


「うん。ほら、解離性どうのこうの?多重人格みたいなものかな?」


「……クソが」


「なんだと、どこに向かって悪態ついてんだ?」


ジオが足を上げて思い切り蹴り上げた。


ベッドの下に転がり落ちた彼が、うんざりしたように頭を振った。


「痛い」


「誰が悪態をついていいって言った?」


「お前に言ったんじゃない……はあ。エゴの分裂だ」


「え。何言ってんの」


ジン・ギョウルがため息をついて立ち上がった。


再びベッドの上に乗ってくる重みに、ジオの体が揺れる。


その頭の両側に、彼が腕をついた。


間に閉じ込めたジオを、キョウルがじっと見下ろした。


くすぐるようにジオがその腕をくすぐると、彼の声がかすれて低くなった。


「……私が『理』の化身だということを知っているだろう」



「それってただのあなたの修飾語じゃなかったの?その外神を覗き込んだら、化身だとか何だとか、ただのあなただったけど」


「そりゃ、私が第1格だからな。私の比重が圧倒的に大きいからそう感じるんだ。本体がすなわち私だというのも、間違いではない」



「何言ってんの」


「私は存在しない空虚だ。すべての時空間を超越した無限であり、全体である一つだ」


肉声では伝えにくい概念だ。


意志として伝えた彼が、再び言葉を続けた。


「実体として認知できないから、時空間に留まるためにはエゴを分離して実体化するしかない。『格の分裂』。究極にたどり着いた格たちが、宇宙万象に関与して意志を伝える方法だ」



「格の分裂?」


「そうだ。破片化とも呼ぶ」



ジオも聞いたことがある名前だった。


過去、キッドが異次元の媒体を通してこの地に呼び出した、黒く古い悪夢もそう呼ばれていた。


「太古から、バベルよりも早くから座していた古きものである私は、数えきれないほどの自我を持っており、それらは私のように破片として散りばめられ、この星系のどこかに存在する」



彼がこのように自分のことについて詳しく説明してくれるのは初めてだ。


ジオバンニだった頃を含めて。


ジオは傾聴した。


横に肘をついて横になったキョウルが、そんな彼女の髪を優しく撫でた。


「じゃあ何?お星様とそっくりなクローンたちが、宇宙のどこかを歩き回っていると?うわー、マジで嫌なんだけどー」



「いや。そうではなくて」


「ん?」


ジン・ギョウルが笑った。


なぜかぞっとする―


「私が全部食べてしまった」


……ええ?


ジオが目を丸くすると、キョウルが可愛いというように涙ぼくろに唇を擦り寄せてきた。


くすくす笑う。


「私の可愛い子を助けるために、この体が全部~食っちまったんだ。最後に私が根源に吸い込まれたのは、無駄じゃなかったんだぞ?」


彼は本来、本体の最も弱い破片だった。


[全知の悪魔]。




最も弱かったからこそ最も人間的であり、だからこそこの魔法のような女に、どうしようもなく惹かれてしまった。


キョウルは最初で最後に愛をするエゴだ。


だからこそ、結局最も強い存在になった。


「外の深淵に長く閉じ込められていたせいで、まだ回復中ではあるが、私のエゴが根源の大部分を占めているのは否定できない事実だ。だから本体がすなわち私であり、私がすなわち父王だ」



ジオを抱きしめながら、彼が呟いた。


「もちろん、このすべてがお前が深淵に沈んだ私を救い出してくれたからこそ可能なことだが……」


あの時を回想すると、気が遠くなる。


世界ロールバックの真実が明らかになり、身を投げたジオと共に深淵の門を越えながら、彼は思った。




もう終わりだな。


二度とお前に会えないんだな。


死が彼女を飲み込まないようにするというのが彼の誓いであり、バベルが公証した契約だった。


だからキョン・ジオの代わりに〈虚無の呪い〉ペナルティを飲み込み、墜落してまた墜落しながら、苦い諦念をした。


それでもいいと、お前が生きているならそれでいいと、お前の21歳が続くなら私はこれで満足だと目を閉じた。




「こんにちは……愛しい人。会いたかった」



そして数えきれないほどの道を戻って、彼を探しに来てくれたジオを見て、どれだけ泣いただろうか。


めちゃくちゃに切り刻まれ傷ついた彼の頬を包む手と、静かに口づける唇に、彼は息が詰まるほど嗚咽した。



「お前を…お前を愛している」


「知ってる」


「失うわけにはいかなかった、私は、どうしてもそうすることができなかった……」


「うん。知ってる」


「愛しい人」


「うん。お星様」


もう呼べば彼の愛に応えてくれる彼女がいる。


数十万年の末に得た救いだから、あまりにも切実で大切で、いつもハラハラした。


キョウルが飲み込むため息が深くなった。


「……格の分裂は必然的なことだ。星座ほどの格を、自我一つで耐えられるわけがないから、お前にも当然当てはまる。お前が経験したのはその兆候だ」



「はあ。私がじゃあ分裂すると?細胞みたいに?嫌だ」


「嫌なら今すぐにでもお前の宮殿に戻れ。バベルがすでに勧めていたではないか」



冗談のない口調が真剣だ。


ジオはびくっとして彼を見つめた。


キョウルの視線が濃かった。


「私もまた、お前がそうすることを願っている」


「……急にすごく雰囲気出すじゃん?どうしてそんなに深刻なの」


「深刻な問題だからだ」


「だから分かったけど、ただの多重人格みたいなものじゃないの?さっきは正直私も驚いたけど、急に、それで対処できなかっただけで。世の中に自分の意識世界も制御できない魔法使いなんてどこにいるの?」


「完全に勘違いしているな。究極格の分裂は、多重人格などではない」


「……」


「事案の深刻さが理解できないなら、私を見ろ、愛しい人。私がその例だ。私の『根源』が私を制御していたか?」


「……!」



ジオが固まった。



「いや、違う。敢えてそうはできなかった。むしろ……」


キョウルがジオの手に指を絡めて引き寄せた。


手の甲に触れる彼の唇が冷たかった。


「私に食われた」


陰険なその低音に、鳥肌が立った。



ジオの目が揺れる。


キョウルがじっとそんな彼女を見つめた。


「こんな私のような存在がお前にも生まれるんだ。ただお前とは全く違う存在が、お前が制御できない状態で生成される」


「……」


「お前はまだ幼すぎる」


「……」


「ずっと人間基準に留まり、大きく勘違いしているだけだ。星系基準でお前は、持っている格に比べて遥かに幼いどころか、新生児レベルだ」



ぞっとする。


数時間前、荒々しく自分を追い詰めていたあの幻聴が、思わず再び蘇った。


ジオは初めて問題をきちんと直視した。


「お前にとって破片化は時期尚早だ」


キョウルが宣告するように終止符を打った。


「お前は耐えられない。絶対に」


「……」


キョン・ジオはどんな熾烈な戦いでも決して敗北したことがないからこそ、ここまで上り詰めてきた。


しかし、そんな自分の歴史を無視するのかとむきになることはできなかった。


この瞬間、愛する人の目に宿っているのは、純粋な憂慮と愛情だったから。


ジオはゆっくりと彼をじっくりと見た。


その時初めて見えた。


震えている美しいまつげだとか、風前の灯火のように不安に揺れている彼の自我のようなものが。


キョウルは怯えていた。



「怖い?」


「……」


「恐れてるの、お星様?私があなたに食われるんじゃないかって」


「……ああ」


キョウルはあっさりと認めた。


自分よりもずっと小さい恋人の胸に、彼は体を精一杯丸めて抱きついた。


「ひどく怖くて恐ろしい。お前は強い。弱いのは……」


震える声で彼が真実を吐露した。


「弱いのは私だ。いつもそうだった……」


途切れる息が荒かった。



何をしても手慣れていて余裕があって、始終腹立たせていた男だ。


その硬くて強い上着を脱ぎ捨てると、こんなにも危うくて脆弱な素肌があった。


ジオは憑かれたように手を伸ばして彼の頬を包んだ。


目が合う。彼がため息をついた。



「……こんなことで興奮するな…」


「してない」


「赤面を隠して言え。性格マジで……」


「私が性格悪いから嫌い?」


「嫌いなわけないだろ?趣味が悪いにも程がある」


「泣いてみて」


「……」


「うん?泣いてみて。みっともなくぐずぐず泣いてみて。可愛がってあげるから」


「お前は悪魔か。…」


「悪魔は弱すぎる」


「煽ってるのか?」


言うのをやめよう。


ジン・ギョウルがうめき声を上げて額の上に腕を乗せた。


見栄えの良かった顔が隠される。


ジオは手のひらで硬い腕をぴしゃりと叩きつけた。


「……どかさないで」


「どいて。顔を見せてくれ」


「マジで参ったな……。」



ほら、見ろ見ろ。思う存分見ろ。


諦めた悪魔が四肢をだらんと垂らした。


感情を少しも抑えられていない状態だから正直嫌だったが、赤悪魔よりもっと悪魔のような暴君は、自分の望むようにしてしまう性分を持っていた。


早い諦めが肝心だ。


小さく白い手が彼の両頬を掴んだ。


きらめく金色の瞳が彼を見下ろす。


その光があまりにも眩しくて、キョウルはむやみに文句を言った。



「痛いって……魔力込めて掴むな。よっぽど魔力が有り余ってるんだな」


「すごく満足」


「……はあ、性格が悪い」


「私のもの」


「……」


「誰にもあげない。永遠に私のもの。もう一人の私にも絶対にあげない」


黒檀の髪が降り注ぐように彼の顔に垂れてきた。


音もなく腹の上に乗ってきた重みが軽い。


「自我を守らないと。これを共有すると想像したら……」


「……」


「宇宙を1人用にしたくなる気分だ」



その喜悦と狂気に満ちた両の瞳。


無防備に顔を差し出したキョウルが、しばらく無言でジオを見上げていた。


多くの考えが浮かび上がっては消えていくのを繰り返した。


たまらなく愛おしい私の暴君。


結局、どうしようもない失笑が漏れた。



「……私は皇帝に弄ばれる愛妾になった気分だ」


「ほほう」


ジオがふっと笑った。天真爛漫で傲慢に。


「では、朕にキスをしろ。お上のお言葉だ」


「かしこまりました、陛下」


ジン・ギョウルは顎を上げて、いつも焦がれる唇を奪い去った。


執拗に追いかける口づけに、上半身が起こされた。


深淵に吹いていた嵐は、いつの間にか静まっていた。




そして。

夜明けが訪れるずっと前、静かな夜明け。

キョン・ジオは雪岳霊山に到着した。


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