403話
日が沈む時刻だった。
別名、犬と狼の時間。
影で見分けがつかないその日暮れに、外見は人間であるに違いないが、決して人間ではない二人の男が向かい合ったまま裏門に立っていた。
低い階段の上にはジン・キョウルが。
その下には虎が。
互いを見つめる顔が乾いている。
車にもたれかかった虎の口元からタバコの煙が散った。
風が吹く方向はジン・キョウルのほうだ。
灰色の混じった夕暮れの風にキョウルの髪が揺れると、男はまるで神のように見えた。
楽園から墜落して殺人鬼になった男神。
ジン・キョウルが口元を軽く歪めた。
かすかな微笑だった。
だるそうだが、ひどく凶暴な………。
そこまで。
ジオが彼を制止した。
「お星様」
「・・・・・・」
「……こいつ、今正気じゃないんじゃないか?」
完全にイっちゃってる?
まともそうに見えても、とっくに逝ってしまっている目を見ると、ひどく気が気でない。
さっき奇妙な幻聴が聞こえたのを見ると、こっちも行ったり来たりしているみたいだけど、頭のおかしい人同士が出会ってもっとおかしくならないか?
「お互いのための美しい別れが必要—」
「違う」
顔を上げると、くだらないことを言うなという表情でキョウルがジオを見つめていた。
眼差しが複雑微妙になると、乾いた洗顔をした後にはまたいつもの顔だ。
ニヤリと彼が笑ってみせた。
「迎えに来た。行こう、ダーリン」
「もう私が見えるようになったの?」
「もともと見えてたよ。だから狂ったようにここまで走ってきたんだ」
くだらない人間たちの機嫌を取りながら。
省略した彼の裏の言葉が聞こえてくるようだった。
なにしろあの悪魔の性質からすれば、すぐに目の前に現れてもおかしくないのに。
そうせずに大人しくここで待っていたのは、純粋に人々と一緒にいたジオの体面を考慮したことだ。
グツグツと腹が煮えくり返っていたはずなのに。
でもそんな最中に虎までバッタリ出くわしたからには••••。
うーん?ジオは思わず感嘆した。
「ずいぶんと我慢したな?」
前に殴られた教訓があるみたいだな?
キョウルがため息を飲み込んだ。
「•••いいから、家に帰りましょう」
二人きりになれる空間が切実だった。
キョン・ジオを寝かせて、頭からつま先はもちろん、細胞一つ一つまで全部調べてみないと気が済まないようだ。
数分前、ジオが世界から消えたように感じた時は、大げさではなくこの惑星を粉々に砕いてしまうところだった。
その頭のてっぺんがカッと沸騰する興奮の余波が、今も全身に残っている。
拳を一度握って開いたジン・キョウルが恋人の腰に腕を回した。
精神は疲れて、肉体は煮えたぎって困った。
「ジオ」
その時、二人の間を割って入るタバコの煙。
「紹介はしてくれないのか?」
靴で吸い殻を踏み消した虎が、片手でうなじを揉みながらこちらを見る。
「ハ」
キョウルが失笑した。
呆れて。
こいつに一言、言ってから殺すべきか、それともただ殺すべきか少し悩んでいると、ジオの方が早かった。
「何の紹介が紹介だって?知り合い同士で何を言ってるんだ」
人間でもない男たちに薪をくべてやる気はない。
ただでさえダビデのことで頭が痛くて死にそうなのに。
ジオがヒラヒラと手を振った。
「こっちは私の星。そっちは私の虎」
「……」
「どっちも私のものだけど、こっちの人には私が自分のものだと権利を主張できるという違いがあるから、参考にして交通整理をするか、それとも一生互いに顔を合わせないようにするか」
私が見てるのが気まずくて嫌なんだ。
ぶつぶつ文句を言ったジオがキョウルの方をチラッと見てからハッとした。
目をゴシゴシこすった。
な、何だ?見間違えたか••••••?
悪魔はどこへ行って、どこかの天使が··•••?
キョウルの眼差しが、悪魔祓いされた悪魔のように澄み切っていた。
澄み切っているのがほぼ1級水準。
変わった眼差し一つで陰険な雰囲気を醸し出していた灰色の髪まで、天使のサラサラした銀髪に見える錯覚がする。
「ん?私のジオ、どうしたの?」
こ、このめちゃくちゃ簡単なやつ・・・!聞けとばかりに念を押して「私のジオ」と発音する様子には、ため息が自然と出てくるほど。
キョン・ジオは必死に無視して虎の方を振り返った。
極度に精錬された鋼鉄のような男なので、目立った変化はない。
しかし。
「へえ。••••」
いい年してそんな物憂げな目つきは反則じゃない?
さっきあんたの命を助けたんだぞ。
「こいつ、こんなに頼りなさそうに見えても、うちの世界観の黒幕ですよ」
すでにあなたを殺そうとして摘発された前科まであります。
見えるものより悪魔が近くにいるってこと、知らない?
もちろん虎にまともに返事もせずに海外逃避までしたせいで、いくらか良心がチクチク痛んだが•••••·。
それはそれ、これはこれだ。
交通整理をきちんとしないと、交通全体を滅亡させるやつが堂々とメインヒーローとして居座っている以上、余地=破局というわけだ。
「権利主張、か•••••」
虎が作り笑いを浮かべた。
「生きすぎたようだな。キョン・ジオの口からそんな言葉を聞くとは」
「だから誓約を破棄したじゃないか。あんたの魂までは捕まえないって。私だってそれなりに良心というものがあるんだ。まあ、ちょっと薄いけど」
「•••••じゃあ、誓約を受け入れてくれない理由がこれのせいだと?」
虎の目元が険しくなった。
「たかがこれ?」
「たかがって••••」
ジオが気まずそうにつぶやいた。
ただでさえ後ろで要員たちが灰色の髪が勝ったとか、青い髪が負けたとか噂しているのも気になって死にそうなのに。
「俺が『そんなこと』を望んでいるのではないと、君が知っていると思っていたのに、キョン・ジオ」
「……」
「俺が君にとってそんなにひどい人間に見えたのか••••••」
独り言のように重く落ちる虎の言葉尻が苦い。
その上、隣に立つキョウルの雰囲気がますます尋常ではなくなっていた。
ジオは目をそらし、靴の先で足元をトントンと叩いた。
「何でも後で話して。今こんな話をする時じゃないだろ」
「…ヘタから伝言が来た」
「何?」
「宗主が君に伝えてくれと言っていた。チェ・ダビデより先に自分に会ってほしいと、雪岳で待っているそうだ」
「•••ハ・ヤンセが閉関から出たのか?」
「そうだ、今日」
ジオの顔色が悪くなった。
事故を起こして怖気づいた子供のように、一瞬後ずさりする背中をキョウルの手が手慣れた様子で支える。
その硬い感触にキョン・ジオは素早く動揺を隠した。
いつものように無関心な顔で言った。
「私が勝手に行くから、銀獅子は引っ込んでて」
「そうしよう」
「チャンのおじさん」
遠く後ろの方で男性たちを睨みつけていたチャン・イルヒョンの肩がビクッと跳ね上がった。
「は、はい!キョン・ジオハンター、はい。おっしゃってください」
「雪岳に行く。私が連絡するまでオールストップにしておけってのは本気だから聞き流すなよ。お願いじゃなくて警告だ」
「最大限努力してみます。それでは今すぐ出発されるんですか?」
そうだとうなずこうとした瞬間だった。
「ダメだ」
腰に回された腕に力が入る。
振り返るとジン・キョウルの冷たい言葉が続いた。
「希望的観測はよく聞いたが、今日君は私と一緒にいなければならない」
「いや—」
「キョン・ジオ。今夜はそうしなければならないんだ」
言葉を遮る口調が断固としていた。
絶対に譲れないというように。
空気が読めないのかと文句を言おうとしたが、ジオはハッとした。
しばらく。
「……」
キョン・ジオの視線が血管が浮き出た彼の腕と恋人の生気のない目を順に見た。
瞳の中に隠された深淵が揺らめく。
嵐に遭ったかのように激しく揺れていた。
ジオは肩の力を抜いた。
•••••急場をしのぐにはここしかないな。
これほどだとは知らなかった。
まともに見ると、どうして無事で立っていられるのか不思議なほど、彼は暴走寸前だった。
城のように堅固な外神の精神は、ジオに関することになるといつもこんな風に情けなく脆弱になるのだった。
周りの人々が静かに様子を窺っている。
その中でジオの口が開いた。
「雪岳にしばらく待っててくれと伝えて」
「•••••!キ、キョン・ジオハンター?」
信じられないというようにチャン・イルヒョンがジオとジン・キョウルを交互に見た。
この非常事態にまさかあのわがままを聞き入れるはずがないと内心結論付けていた要員たちも慌てて口を開ける。
「ハア……」
キョウルが背後から両腕でジオを包み込んだ。
額がコツンと触れる。
彼も緊張していたのか、うなじに触れる息が落ち着きなく熱かった。
ジオは気にせず言った。
「遅くても、明日よ夜には行く」
「•••、わかりました•••••!」
一般人を装っているジン・キョウルは、きちんと車まで運転してきた。
ジオは彼のポケットから車のキーを取り出し、先に歩いて行った。
キョウルは前髪をかき上げた。
ジオが席を立つと、すべての視線が彼に突き刺さっていた。
唖然と自分を見つめるチャン・イルヒョンに、彼は軽く微笑んで見せた。
チャン・イルヒョンの顎が外れる。
歩き出すと、紅海が割れるように要員たちが道を空けた。当然だというようにその間を横切っていたジン・キョウルが、少し立ち止まった。
「ああ」
「……」
「さっき全部聞こえてたぞ。今度からはそんな賭けはしないように、公務員の皆さん」
「……」
「あいつは私のものだから」
「……」
「世の中に自分の女のことで騒がれるのを好む男がいるだろうか。私は特にそうだ」
「……」
「性格があまり良くないので、私は・・・・・・。そんな幼稚なこともなかなか許せない」
肝に銘じておいてくれ。
紳士的な言葉と共に長いコートの裾が揺れた。
階段を下りてヘッドライトを点滅させている車の方へ近づいていくと、低い声が彼の足を止めた。
「欲張らない」
タバコの煙が風のように流れる。
「そんな資格もないし」
「……」
「だからあの子をいじめるなと」
ジオがいる車の方を凝視していた虎が顔を背けて振り返った。
数百年間も世界を生きてきて出会った人々の中で、最もぞっとする目をした男がそこにいる。
黒色のコート、銀灰色の髪、深淵に似た目、身にまとった風からは酷寒の冷気が漂う…………
キョン・ジオの星だった男。
外見は人間だけでなく、どんな生命体でも魅了できるほど官能的であると同時に、世界のどんな賢者たちよりも知的だ。
虎がジオと出会う前から、いつも当然のようにジオの日常に、居場所を占めていた存在が、あんな姿をしているとは想像もできなかった。
ラプラスの悪魔が嘲笑した。
「身の程をわきまえているやつだから、欲は考慮にも入れなかった」
「・・・・・・」
「私はお前の欲望が気に食わない」
ドシンドシン。
言葉は刃のようで。
「隠したから見えないわけではないぞ。二百年でも生きたいなら、その欲望さえも去勢しろ」
虎は目を閉じた。
ほんの一瞬だった。
その一瞬に出会ったものは…………
無限の沈黙。
空虚な深淵。
虎の冷たくなったうなじから冷や汗が流れ落ちた。
その傍らを悠々と通り過ぎながら、究極の格を持つ太古の悪魔が囁いた。
「お願いではなく警告、である。」
恋人の口癖と同じ言葉を。




