395話 番外編 4章
水が澄みすぎると魚が逃げる。
9年前。
「…しかし依然としてこの大韓民国のランキング1位、最初のS級に関する情報は皆目見当もつかないのですね?」
「そうです。戦闘映像を見ると魔法使いなのは明らかですが、それ以外の情報は一切ありません。事実、いくら魔法使いだとしてもこれほど圧倒的なパフォーマンスを見せる場合はあまり、ありません。ああ、訂正します。全くありませんでしたね。もちろん、こちらはその珍しいS級である上に、進入ランキングを見ると現存する職業魔法使いとは格が違う存在だと見るのが正しいでしょう。」
「一部では魔法使いという職業について再評価が必要だという説まで出ていますからね。知り合いの魔法使いが言っていましたが、ほとんど化け物だと。」
「化け物••••••」
「はは、ええ。はっきり言って人の限界はとっくに超越したと見るべきでしょう。とにかく、このような前例のない活躍に我が国だけでなく全世界の関心が集まっているにもかかわらず、政府と管理局は黙認しています。とても厳重に隠しています。急速に国力を回復中の国家としては、宣伝アイコンとして打ち出して広報しても足りない状況なのに、とても特異な歩みですよね。」
「ここまで隠すのは本人の意思ではないでしょうか?つまり•••••ジョーのことです。」
「さあ。私たちには知る由もありません。それこそ全てが非公開ですから。名前さえも。」
「借金でもあるんじゃないか。とんでもない額の。」
神経質な声がパネラーたちの言葉を受け止めた。
TV画面の中には資料映像として魔術師王の活躍場面が出ていた。
先日行われた2級ゲートの時だ。
「ジョー」は現場に現れてからわずか3分で討伐を完了し、大きな話題を呼びました。
子供は魂を奪われたように口を開けたままぼんやりとその場面を見つめた。
そんな背後から声がずっと続いた。
「みんな隠れて通う理由があるからそうするんじゃないの?後ろ暗いところがあるんだよ。借金取りに追いかけられているとか、死ぬほどの罪を犯したとか、それとも醜い姿でもしているんじゃないの。」
バシッ!
「お前みたいに、この子が、お前みたいに!」
頭のてっぺんを叩いて落ちたお盆がチャリンと床に転がる。子供は慌てて部屋の隅に駆け込みうずくまった。
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい•••••!」
「何が悪いんだ?」
「あ…見すぎた?テレビ•••。とても面白くて••••••ごめん、ごめん••••••。」
「ちっ、ちっ。」
大いに軽蔑を込めて彼女が舌打ちをした。
「醜くてもあんなに上手くやれば何が問題なの?どこの家の子供か、あの家の親は幸せだね、幸せだよ。でもこれは、え?」
「あ、痛い。」
「役にも立たないくせに!いつもご飯ばかり食いつぶして!」
バシッ、バシッと足蹴りが降り注ぐ。
子供は体をさらに丸めた。我慢できなくなった足蹴りはすぐに止んだ。
「ああ、私の運命よ!私の身の上よ。この運のない子が。生きて何になるの。どこかに行って死んでしまえばいいのに。」
「•••••!ご、ごめんなさい、アンナ!死なないで!私が悪かった!」
「黙れ。お前の声も聞きたくないから。」
「本当にごめんなさい。死なないで。ね?あ!そ、そうだ!今日は私、水だけ飲むから。機嫌を直して。ね?」
「••••••そう?それはよく考えたわね。馬鹿な化け物のくせに。」
「へ、へへ.......」
「水入れはそこにあるから持って行きなさい。」
「うん.....!」
「家族がご飯を食べている時に、前回みたいによだれを垂らして見つめていたら、一週間水もないと思え。分かった?」
「うん、うん!ありがとう!」
アンナは子供がご飯を食べるのが嫌いだ。
もちろん息をするのも嫌だし、人目に触れるのも嫌いだが••••。
一つは聞き入れ難く、もう一つは既に行っていた。
だからすぐにアンナの機嫌が良くなるためには、飢えるのが最善。
心が楽になった子供が水入れを受け取ってうつ伏せになった。
姿勢は不便だったが、化け物である自分は家畜も同然なので、何を食べるにしても飲むにしてもこうして食べなければならないと教わった。
アンナだけでなくイサクもそうだったし、モーセもそう言った。
だから彼らが正しい。
間違っているのは賢い家族ではなく、いつも馬鹿な化け物ダビデだった。
「あいつまたあんなことしてるわ。馬鹿なやつ。」
「放っておきなさい。ご飯食べるわよ?!」
「もう食べてきたわ。」
帰宅したイサクとアンナが何か話しているのが聞こえた。
ダビデは目をぐるぐると回した。
アンナは時々知らない言葉を言った。
外国語だろう。
おそらく母国語?
弟のイサクも彼女から教わってその言葉を話すことができた。
だから二人はよくあのように知らない言葉で会話をした。
ダビデは理解できなかった。
アンナがダビデには教えてくれなかったからだ。
だからダビデはそれがどこの国の言葉なのかも、家族全員と違う黄色い目を持つお母さんがどこの人なのかも分からなかった。
そう。
アンナはお母さんだ。
ダビデを産んでくれた実のお母さん。
イサクは弟で、モーセはお父さんだった。
しかし家族全員がダビデがその呼称で呼ぶのをひどく嫌がったので、ダビデはお母さんを「お母さん」と呼ぶことができなかった。
それが時々とても悲しかった。
「アンナ、あの・・・・・・もう食べ終わった。」
「じゃあ自分の部屋に入ってなさい。縁起でもない髪の毛が見えないように。お父さんが帰ってくる時間になったのに、その目に触れたらお前も私も死ぬと思え。」
「うん!分かった。絶対に出てこない!」
ダビデはタンスを開けてよじ登って入った。
体が大きくなくてよかった。
ここで少しでも大きくなったら、アンナが言ってもこの部屋に入ることができないかもしれないと思った。
それは大変だ。
アンナが悲しむから。
ダビデは体を精一杯丸めたまま目を閉じた。
閉じた目の中でさっき見たテレビの中の場面がちらついた。
テレビは家の外に出られないダビデの唯一の世界だった。
そして最近、ダビデのその小さな世界の中では毎日一人の人だけが出てきた。
魔術師王 ジョー。
世界を救った英雄。
世界で一番強い魔法使い。
私のように、もしかしたら私と似ているかもしれない化け物。
何も知られていないから想像する面白さがあった。
ダビデは毎日想像した。
どんな姿だろうか?
年齢はいくつだろうか?
大人だろうか?
子供だろうか?
もしかしたら私と同い年ではないだろうか?
髪の色は?
目はまた何色だろうか?
「目はうーん......金色だったらいいな。アンナの目のようにキラキラした......」
本当にきれいだろうな!
胸がドキドキした。
すくすくと育った想像が風船のように膨らむ。
楽しかった。
☆
「おい、おい!おい!赤い髪!」
うたた寝をしていたダビデの耳がピクンと立った。
誰かが呼んだようだった。
見慣れない••。
顔を上げてきょろきょろすると、金属がぶつかる音が響く。鉄格子。窓の方だ。
「そうだ、お前だ!お前のことだよ!」
ダビデの家は半地下だった。
半地下の窓の外、しゃがみ込んでいる誰かが一生懸命彼女を呼んでいる。
ダビデはしぶしぶ近づいた。
日差しが眩しくて目がくらんだ。
少し眉をひそめて見上げると、幼い顎と頬に貼られた絆創膏が見える。同い年くらいの男の子だった。
「ああ、何度呼んだら来るんだよ。お前、チェさんのおじさんの娘だろ?」
「チェさん?」
「え?なんだ、ここはチェさんのおじさんの家だろ。
おい、お前チェ・モーセおじさんの娘じゃないのか?」
「違、そうだよ!モーセはお父さんの名前だよ。うちのお父さん......」
「だろ?そうだろ?なんだ〜。」
チェさん•••。
じゃあ私はチェ・ダビデなんだ。
初めて知った。嬉しくなったダビデがへへっと笑った。
「確かに娘がいるって言うのに、近所の人たちはみんな噂だって顔も見れないって言うし、チェ・イサクは家に連れて行ってくれないし。隊長の俺が出るしかない。ところでお前、どうしたんだ?」
「どうしたって?」
「怪我したんじゃないのか?おい、お前の顔についてるそれ、血だろ?」
男の子がさらにぺちゃんこに地面にくっついて鉄格子越しを覗き込んだ。
ダビデは反射的にたじろいだ。
数日前、夢でジョーと走り回って遊ぶ想像をしていたら、タンスから転がり落ちてモーセと出会ってしまった。
モーセはアンナよりもダビデを嫌っていた。
否定の種だとか、不倫だとか、身を滅ぼす原因だとか、とても難しい言葉を言いながら、顔を合わせるたびに渾身の力で殴った。
ダビデはとても丈夫な方なので、アンナやイサクが殴るとすぐに治る。
しかし力の強いモーセが殴ると何日も跡が残った。
今のように。
「おい、お前•••もしかして虐待されてるのか?だから家の外にも出られないのか?モーセおじさんとアンナおばさんがお前をいじめてるのか?」
「い、いや!いじめてない!こ、これはただ私が化け物だから!当然のことなんだ!お、お前、何者だ!なんでアンナの悪口を言うんだ!お前なんか嫌いだ!」
「••••お前、丹東から来たんだろ?」
「丹東?」
中国丹東地域。
その貿易通商、距離で北朝鮮住民を相手に商売をしていた韓国僑民たちがいた。
鴨緑江大橋開通以後、丹東新都市は北中貿易の華麗な転換点になると期待されたが••••••。
ゲートアウトブレイク。
彼らもまた大激変の風を避けて通ることはできなかった。
直撃を受けた北朝鮮は焦土化されて無主空山に転落し、各国の国境と閉鎖主義が強化されるにつれて、接境地域の僑民たちは強制帰国手続きを踏んだ。
韓国に帰る場所のある僑民は祝福された場合だった。
コネも、財産も、行く場所もない一部の僑民たちは、持ち主がいなくなった空き地、北朝鮮新義州に住居を移した。
ダビデの家族、チェさん一家もその中の一人だった。
「丹東から追い出された乞食たちはみんな似たようなもんだ。赤い髪のお前も俺も同じだって。俺もうちの親父にせがんで殴られて生きてる。」
「...お前も?」
「そうだ、この野郎!それでもお前の方がちょっとひどいけどな。なんで家の外にも出させないんだよ。首についてるその犬の首輪はまた何だよ?子供みたいなのに••••••おい。お前、何歳なんだ?チェ・イサクの妹か?」
「何?違うよ!私がイサクより先に生まれたんだ!2•••2年だったか?3年?」
混乱した顔で指を何本も折ったり広げたりするダビデ。
男の子が眉をひそめた。なんだ。
「じゃあ俺と同い年だって?お前が14歳にもなるのか?うわ......マジで全然そうは見えないけど。年齢詐称してるんじゃないのか?お前、俺にタメ口きこうとして嘘ついてるんだろ。」
「違うよ!私は生まれた時から全部覚えてる!私がイサクより先に生まれたのは間違いないんだから?」
「何?プハ。おい、馬鹿だな。人がどうやって生まれた時から記憶するんだよ?こいつ嘘つき確定だな。」
「本当だよ!」
「お前、モーセおじさんの娘でもないんじゃないのか?考えてみたらお前の家族みんな黒髪なのに、お前だけ赤いのもおかしいし。染めてるわけでもなさそうだし。」
「違うってば!私アンナの娘だよ!私がそうだったのを見たんだ!お、お前なんか嫌いだ!あっち行って!消、消えろ!」
ダビデが泣き出した。
悲しくなってわあんと泣き出すと、慌てたのか、男の子が鉄格子を掴んで揺さぶった。
「おい、おい!シー!シーッ!泣くな!分かった、分かったって!信じるから!」
「違うんだもん•••••!うわああああ•••••!」
「分かったって言ってるだろ。俺は嘘つきとは友達にならないから。だから確認したんだ!」
「うわあああん•••••• クフン•••••と、友達?」
「ああ。そうは言っても俺がお前と友達だって言ってるわけじゃないけど。」
「うわあああん!」
「いや、おい!ああ、泣くなよ!」
「友達になりたい••••• うわあああ!」




