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377話

パチッ。



静かな時間だった。


夜明けと朝の間。


散歩するように虚空を歩いてきた足が、音もなく床に着地した。住宅街へと続く路地で、キョン・ジオは立ち止まった。


バンビのせいで、夜中にこっそりセンターに行ってきた帰りなのに……。



招かれざる先客がいた。


「……」


「……」


ふう、煙を吐く息が静寂を破る。



ジオは黙って視線をそっと下げ、彼の足元に落ちているタバコの吸い殻の数を確認した。


少なくとも10本は超えているようだった。


「……どれだけ待ったの?」


「そっちこそ。」


手の中のタバコを弾くように投げ捨てながら、虎が問い返した。


「あとどれだけ待たせるつもりだ?」


「……」


「何度言えばわかるんだ。人は、どん底までしがみついてやっと振り返る。お前は、趣味が悪い。」



もちろん直すつもりもないだろうけど。


「それでも、お前のすごい性格を知らないわけでもないから、いつも通り黙って、おとなしく呼ばれるまで待ってみようかと思ったが……」



チャカッ、ライターの火が明滅する。


頬が少しこけるほどタバコの煙を深く吸い込んだ虎が、再びジオをじっと見つめた。


「俺はもう限界だ。」


始終淡々としていた顔に、苦笑が浮かぶ。



「降参しに来たんだ、キョン・ジオ。どう思う?」


「……わざと時間をかけたわけじゃない。お前だけを放置したわけでもないし。私は、まだおじいちゃんにも会いに行ってないし、ロクやグミにも、まともに話してない。ただ、時間が必要だった——」



「ペク・ドヒョンに会いに行く帰りだ。」


「……!」


「言い訳を続けても、別に構わないけど……」



街灯の下の塀に寄りかかっていた虎が、上半身を起こしてジオをじっと見つめた。


斜めに口角を上げる。


「まだ何か言うか?」


「……いいえ。」




「俺は銀獅子の虎。これからお前の保護者であり、師であり、また……許してくれるなら、お前の友達にもなりたい人間だ。」





かつて師だった男だ。


キョン・ジオの幼い頃を、ウン・ソゴン、キョン・ジロクと共に三分している男。


ひたすら献身的な保護者だったが、師らしく厳しい時も少なくなかった。



虎が本気で叱ると、こちらは慣性的に小さくなるしかない。


それに、ペク・ドヒョンには会いながら、虎は放置するなんて。


何を言っても矛盾だし、言い訳だ。


ジオ自身が考えても、何も言えなかった。



「俺の恨みが正当じゃないと言うなら言え、キョン・ジオ。遠慮するな。 知った分をわきまえて消えてやるから。」


「……ああ、本当に。なぜそんな言い方をするんだ?申し訳なく思っているのを見ればわかるでしょ? ほどほどにして。」


キョン・ジオは結局キョン・ジオだ。


申し訳ないことがあっても、へりくだらない。


少し見せた低姿勢さえ、相手が他の誰でもない彼だからこそ可能なことだと、虎も知らないわけではなかった。


だから、このあたりで自分も引くのが最善。


本来ならそうだっただろう。



「なぜそんなふうにするんだ……」


失笑と共に噛み締めた言葉が、口の中で転がり、しまいには中をひっくり返す。


虎の沈んだ灰色の目に、一瞬苛立ちが映って消えた。



「手遅れの反抗心か。」


もっと下劣に、もっと醜く、もっとひどく振る舞いたかった。


どん底まで洗いざらい見せてやりたいという欲望が、彼にないはずがない。



しかし、できない。


自分に許された線は、疑う余地もなく明確だから。


虎は数歩離れて立ったジオと自分の間の距離を測った。


この間隔は驚くほど狭いのに、決して重ならない。


不変のこの平行線を、彼は越えることができなかった。


他意でも、自意でも。



「……」


虎の視線が、塀の向こうの住宅に向かった。


明かりが消えたキョン・ジオの家とは違い、双子のようにくっついた隣の家は、真昼のように明るい。


待っている人がいるのだ。


虎は窓際に立って自分をじっと見ていた美男子と、当然のように家の周りに陣取った、主人を知る者たちについて考えた。



立て続けにタバコを吸う間、ずっとそのことを考えていた。


トボトボ。


革靴の音が近づいてくる。



ジオが無表情に彼を見上げる。


幼く無感情な顔。


愛らしいが、誰よりも残酷だ。


いつでも自分を引き裂いてしまうことができる桃色の頬を見ながら、虎は静かに呟いた。


「俺がどこまで我慢しているのか、お前は知らない。」


「ほどほどにしてと言った。」



「俺とは違って、お前は我慢する必要がないんじゃないか。言ってみろ、キョン・ジオ。命令しろ。消えろという一言で、俺が身を引くことをお前も知っているだろう。」



「はあ、本当にそうやって出てくるのか?」


「それでも、やはりお前が俺を手放せないのなら。」



虎が身をかがめた。


巨大すぎて威圧的な超越者の肉体が、めいっぱい低くなる。


自分よりか弱い肩に額を埋めながら、虎はさらにか弱く囁いた。


「俺を再び支配しろ。」


「……」


「誓約を受けろ。俺をお前の従僕にしろ。」


かつてはそう思った。




キョン・ジオに隷属されたくないと。


ただの眷属ではなく、対等な立場で、この子がいつでも頼れる安息の地になってあげたかった。


しかし、もうそれは自分の役目ではない。



永遠に届かない場所へ上がってしまったキョン・ジオの隣の席は、自分のものじゃなかった。


だから、違う形でも、許されたのがこの程度の場所しかないのなら、それだけでも手に入れるべきだった。



「……」


ジオはぼんやりと虎を見た。


世界線全体を巻き戻した。


復旧時点以降のことは、当然起こらなかったことになった。



眷属関係も初期化されたのは当然。


正しいことをしたと思った。


キョン・ジオは、自分が消えた世界で、彼女が冬を探し求めている間、虎がどうなったのかを知っている。



誓約した主人を失った眷属は、二度と人の姿に戻ることができなかった。


長い年月、世界の影の中で一人彷徨い、虚無へと散っていった。


輪廻が許されない先天超越者たちの末路が皆そうであるように。



「……永遠に生きるのもうんざりするのに、首輪までつけられるって? 自業自得にもほどがある。おじさん、ふざけないで、ただ人混みの中で生きてください。」




「お前に永生について訓戒される日が来るとは思わなかったな。なかなか新鮮だ。」



「たかが数百年生きた程度のくせに、あんたは何を知ってるの?」


ジオの眼差しが冷たくなった。



「誰もいない停留所で、永遠に来ない列車を待つ気分を知ってる? 想像でもしてみたら。あんた賢いじゃない。耐えられなくて線路に飛び込んでも、あんたを轢いてあの世に送ってくれる列車すらないんだよ。ただ、おかしくなって正気を失って全部諦めてしまうまで、クソみたいに何もないんだよ。わかる?」



長広舌まではいいとして、ニュアンスがどこか妙だった。



「うーん……」


虎はらしくもなく舌の長いジオの言葉を聞きながら、ふと尋ねた。



「俺は自殺したのか?」


「……! あ、違う。ええと?」


「お前はそれを見たんだな。」


「あ、あれ……?」



「帰ってこないお前を待ちながら狂人になって、消滅まで行ったのか。確かに、死なない存在が死ぬ方法といえばそれしかないだろうな。」


向き合ったジオの目が揺れる。



虎は事態のすべてを理解した。


納得した彼は、ゆっくりと頷いた。



「そうか。それで?」


「……何?」


「それで。それがどうした。」


「……? 何言ってんの、私の言葉ちゃんと理解してる? あんたが耐えられなくて狂うって言ってるの? ただ狂うレベルじゃなくて、孤独死する獣になるんだって。私がそんなサイコパスに見える?」



「キョン・ジオ。」


「何。」


「俺は俺を知っている。だから、わざわざ俺について教えてくれようと努力しなくてもいいんだ。」



一体どこで何年暮らしてきたら、似合わない大人ぶった真似をするのか。


指でジオの鼻先を軽くつついた虎が、腰を伸ばした。気が抜けた笑いが出た。



「俺がそんな行き詰まった状況に陥ったとしたら、それはきっとお前が痕跡一つ残さずに俺を捨てたからだろう。」



「捨ててない——」



「ああ。捨てるな。消えもするな。」



「……」


「他のことは敢えて望まない。それだけ餌として投げてくれれば、死んだり狂ったりすることはないから安心してくれ。こんな手のかからない獣がどこにいるんだ?」



チャンスをやるから掴め。


軽く笑った虎が、コートの内ポケットに手を入れ、タバコの箱を取り出した。


周囲は徐々に青く変わっている。夜明けが遅すぎるのだ。



「夜が明ける前に送って差し上げないと。」


どうやらキョン・ジロクのせいでセンターまで行ってきたようだが、予想以上に会話が長引いて、長々と引き止めていた。


手首の時計を確認した虎が、唇でタバコを咥えた。


そしてちらっと見ると、相変わらず悩みの多い顔。


「ここまで頼み込んでいるのに……」


「単純に考えろ、ジオ。」


「お前は俺のものではないが、俺はお前のものだ。これは同意するか?」


「うん。私のものよ。」


「手放すつもりはないし。」


「当然でしょ。嫌よ。私がなぜ?」


「そうか。ところで、俺の首輪が緩すぎて、俺が他の飼い主を探したら?」



「……? 何言ってんの。」


ジオの眉間が不快そうに歪んだ。


「あんたプライドないの? その程度なの? 何かクソみたいなこと言ってんの。眠くて死にそうになるのを我慢して聞いてたのに。節操のない虎のクソ野郎、本当に最悪。」


虎は心の中で苦笑した。このサイコパス。


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