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332話

「今すぐ降りてこい。」


「嫌だ。」


「降りてこいと言った。」


「嫌だと言ったでしょ。命令口調で話さないで。私があなたの手下だとでも?寝てる間に顔中引っ掻いてやるわよ。」


「何?手下……何?それは一体どこで覚えた口の利き方だ……ジオ!まさかまた一人で出かけて人間と遊んでいたのか?」


「遊んでたのはそっちでしょ!いつもこの家、あの家と恥ずかしげもなく出入りして!」



あの忌々しい猫!


悪魔は頭のてっぺんまで熱がこみ上げてくるのを感じて、紙をパッと投げ捨てた。



「くそったれ!それはお前が私の料理はまずくて食べられないと断食闘争したからじゃないか!お前のせいでプライドを捨ててみすぼらしく物乞いして回ったのを、町の男娼扱いするのか?こんな恩知らずな獣め!」


「だって……だって、あなたの料理は本当に最悪なんだもん!」


「……この、くそったれ!」




12年が過ぎた。


魔力の祝福を受けて生まれた高位魔獣らしく、成長は目覚ましく、自我が完全に確立したジオは人間化も難なくやってのけた。


しかし、本質は魔獣。


体内に恐ろしい魔力を秘めているだけに、不完全な仮面を被る人間化は決して安定しているとは言えなかった。


「警告したはずだ。馬鹿でもないくせに、なぜわからないんだ?そんなことして人間どもの前で解けでもしたら?やつらが自分たちと違うものをどう扱うか、お前もよく知っているはずだ。魔女狩りにでも遭いたくてそうしているのか?」



厳然と異端審問官が存在する時代だった。


自分よりはるかに劣る魔物たちも世間の目を避けて日陰に隠れて生きているのに、一体何を信じてあんなことをしているのか理解できなかった。


「ふん。私が燃え盛るのを見てるつもり?人柄が素晴らしいわね。」


「そういう意味ではないだろう。」



ジオが目を丸くする。


悪魔は増えたため息を飲み込んだ。


「人間を心配して言っているのではない。私がなぜそんなことを?」


「私は傷つくあなたを心配しているの。」




数秒、静寂が続いた。


……タッタッ!天井からついに降りてきたジオが彼の前に立った。


きちんとしていて手入れの行き届いた黒髪、冷たく蒼白な顔。見ているのがもったいないほど美しい生命だ。


この魔法のような贈り物を世話する数十年間、悪魔は一瞬たりとも退屈したことがなかった。


「ここまで夢中になるつもりはなかったのに。」


じっと彼を見上げる金色の瞳…。


悪魔が片方の眉をひそめて笑った。


「それは私に抱きしめてほしいという目つきか?」


「わかってて聞くのね。」


どうしようもない。捨てられた最初の記憶のせいか、甘えがまったく減らない。


「全部受け入れてしまう私も問題だが。」


抱き上げると、自分の場所だとでもいうように慣れた手つきで首に巻き付いてくる。ジオの背中を撫で下ろしながら、悪魔は床に落ちている紙を拾い上げた。


「さて、話してみろ。これは一体どうしたんだ?私だって仕事はしたくないが、お前が人間の世界で暮らしたいと言うからしている仕事だろう。なのに落書きをしてある?小さくて可愛いからって、本気で飢えさせるわけにもいかないし。」


「落書きじゃないわ……」


「じゃあ何だ、象形文字か?」


冗談のつもりだったのに笑わない。


それどころか、寂しそうにこちらを睨みつけてくるジオに冷や汗が出た。一体これは何なんだ……?誰が見ても落書きじゃないか。


「ええと……ううむ、つまり。どこを見てみようか。これは……」


「[キョウル]。」


真言だ。


悪魔が顔を上げた。


ゆっくりと振り返ると、ジオが指で紙を指している。下手くそな魔力文字を指でなぞりながら、はっきりとした口調で発音した。


「[キョウル]。あなたの名前。」


「ラプラスも、モルゴンも、全部偽名じゃないか。そんなものではなく、私が呼ぶ、本当の名前……。ずっと考えていたんだけど、いいものが思い浮かばなくて、すごく悩んだの。」



お互いの名前を付けてあげる。


これが「運命」においてどんな意味を持つのか知っているのだろうか?どう結びつくのか、こいつは知っているのだろうか?


ジオを引き取り、名前を付けてあげながら、この子が自分に属するという考えはいつもあったが、この子に自分が属するということは一度も想像したことがなかった。


しかし


「悪くないな。」


キョウルはニヤリと笑った。


その名前を、その運命を喜んで受け入れた。


どうせ超越の運命を背負って生まれたジオバンニは、永遠の命を享受するだろう。


長い年月、退屈な星系を二人でこうして喧嘩しながら生きていくのも、それほど悪くない気がした。


気分が良くなったジオがキャッキャッと笑う。


キョウルは彼女の髪にいたずらっぽく顎をこすりつけながら囁いた。


「まったく、普通じゃないな。私のことをそんなに好きになるなよ。別にイケメンではあるが、何がそんなに良いんだか、永遠に一緒にいようとするなんて。」


「知らない。自分でも趣味が悪いと思うわ。終わった。ジョアンナが、悪い男にハマったらどうしようもないって言ってたのに。」


「その生意気な小娘は一体誰だ?そして誰が悪い男だ?」


「優しくはないじゃない。」


「そこまでやったら反則だろう。」


くすぐったいと言って腕の中から抜け出した。


走り去るジオを逃がしてやり、キョウルはのんびりと顎を突いた。


「しかしお嬢さん、否定はなさいませんね。私のことを好きだという言葉に。」


「否定なんかするわけないでしょ?」


くるりと振り返ったジオが、春の小鳥のようにさえずるように言い放つ。


もちろんキョウルもわかっていて言ってみただけだった。


あの恍惚とした黄金色の瞳に込められた愛情を誰よりも一番最初に見抜いたのは、他ならぬ彼だったから。


しかし、その愛が毒になるとは思わなかった。


「……ジオ?」




ガチャリ。


紳士用の杖をドアのそばに立てかけながら、キョウルはコートを脱いだ。国王が彼を執拗に引き止めるせいで、普段より帰宅が遅くなった。


それでも、遠くから自分の足音が聞こえるだけで、他のことをしていても迎えに出てくる人なのに。


「怒ってるのか?確かに最近、神経質そうではあったな。」


今回はまた何でその癇癪を鎮めてやればいいのか?


一緒に30年も暮らしていると、並みの人間どもの物では機嫌を取るのも難しい。


キョウルは首を締め付けるクラバットを緩めながら、ちらりと見上げた。


上階から微かな気配が感じられる。


「ジオバンニ、私の顔を見ないのか?今日はお前が好きな髪型にしたんだぞ。忙しいからって午前中も見なかったくせに。」


少し寂しくなってきたぞ?大声で言ってみても、何の反応もない。


「全部聞こえてるの知ってるぞ。わかった、悪かった。本当に悪かった。でも、お前がそうやってずっと意地を張って降りてこないなら、お前が大事にしているリンゴ酒を……」



—トントン。



「やっぱりな。」


背後から聞こえる小さな足音。


キョウルは失笑して首を横に振った。見せつけるようにわざと蓋まで開けたのに、あの欲張り屋が降りてこないはずがない。


これから一緒に一杯飲みながらうまく宥めて……そう思ってリンゴ酒を注いでいた手が、突然ピタリと止まった。


「まさか。」


「……キョウル。」



ガシャーン!



落下したクリスタルグラスがそのまま粉々に砕け散る。砕けた破片にシャンデリアの光がぶつかり、飛び散った。


しかし、彼は身動きが取れなかった。


階段の手すりを握ったまま立ち止まったジオが、震える瞳でキョウルを見つめている。


怯えきったその目。


ゆっくりと、キョウルの視線が血に濡れたジオの足元から上がっていった。


つま先まで伸びた髪、黄金に輝いていた瞳は恒星を失った夜のように真っ黒で……魔力は。


まるで「人間」のようだ。


……何だ?


たちまち全身から血の気が引いていくようだった。蝋人形のように固まった顔で、キョウルは呟いた。


「お前……」


「お前、一体……何をしたんだ?」


一体何をしたんだ。


夜明けの霧のように低く立ち込める低音に、ジオはむしろ正気に戻ったような表情だった。


落ち着いた顔で彼を見つめ返す。


キョウルは痙攣する自分の手を強く握りしめた。……衝撃的だ。雷が鳴り響き、ジオの顔が鮮明になるたびに、彼女の感情が垣間見えた。


罪悪感、恐怖、悲嘆、苦痛……。


しかしそこに、後悔はなかった。


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