33話
そして再び、今、現在。
その首輪を過剰に掴んでしまったせいで、いつの間にか一般人コースまで可能になった才能の塊、ジオは、ぼんやりと見つめていた。
最悪へと突き進むダンジョンの実況を。
誰かが言ったか?
人間は危機に直面すると、とりあえず人のせいにするものだと。
「考えてみれば、全部お前のせいじゃないか!ユン・ウィソ、この野郎!」
「いや……そんなに急にキレる?」
「お前さえいなければ!離してください!あの野郎、20位圏内のランカーが急に割り込んできたからこうなったんじゃないですか!呼んでもいないのに勝手に割り込んできて!」
結局、首根っこを掴まれるユン・ウィソ。
骸骨のように痩せこけた男が、ガソリンスタンドの風船みたいにフラフラ揺れるので、同情心が湧いてくる始末だ。
ジオ(1位)は、しおらしくなってファン・ホン(6位)を睨みつけた。
「あの良心のない豆腐王……」
「なんや?」
ピンチに追い込まれたユン・ウィソも、悲しそうな目でファン・ホンの方を何度もチラチラ見た。
「わあ、みんな俺のこと見てるけど、どうなってんだ……?」
「アイ・ヘイト・ファン・ホン。」
「……!」
「あ、すみません。興奮しすぎて英語が出てしまいました。ファン・ホンを罵らないと死ぬ病気にかかっていて。」
「そ、そんな病気もあるのか?」
「私はファン・ホン、アンチの管理人だから。」
「……まさかファン・ホンそのまま彼方へ消えろさん?」
「今、何をしているんですか!」
爆発するタク・ラミンの叫び。
S級の二人がハッと顔を上げた。
床に転がっているユン・ウィソの姿を見て、状況把握は容易だった。ファン・ホンが顔をしかめて呟いた。
「あのバカ、何してんねん……?」
ユン・ウィソの国内ランキングは29位。
それも、その希少なA級テイマーだ。
おそらく今ここで攻略隊全員が同時に襲い掛かっても、勝ち目はないだろう。
覚醒者間の等級とは、それほどの隔たりを意味する。あんな扱いを受けるような人物ではなかった。
ジオは、じっとユン・ウィソを見つめた。
最近、本意ではなく何度も接する人物。
自分の兄が「魔術師王」だというユン・ガンジェの主張から、竜の鱗などなど。
何気に気になっていたところに。
タイミング良く、目の前に現れてくれた。
ユン・ウィソが持っていると推定される他の用事も見物するついでに、ダンジョンの中までついて来てみたところ……
竜の影も形をない。
「サツマイモ畑かよ。」
下手すればウェブ小説を見る時でさえ、サツマイモ区間は聖約星に読ませるサイダーパスの神経を逆なでする、どうしようもない破滅展開。
「あ、いえ。要員さん!私は大丈夫です。す、すみません、皆さん。ご迷惑をおかけしました。」
「あなたのパーティーメンバー、キョン・ジオさんがサツマイモ大嫌いを叫んでいます。」
「全部私のせいだから……」
「違う。そうじゃないんだ、この野郎。やめろ。」
「だから、とりあえず攻略から、私たちの攻略からしましょう。私の弟を必ず助けなければなりません。お願いします。私が、何でも……」
ついに腰まで深く折るユン・ウィソ。
ジオの表情まで固まりかけた、まさにその時だった。
バベルネットワーク
▷ ランカー1番チャンネル
▷ ランキング6位「アナウンス」使用
/チャンネル所属人員が「アナウンス」を使用中です。/
/アナウンスモードでは「チャンネルを閉じる」機能を利用できません。/
| 6 |
夜食王:お前見てるか
| 6 |
夜食王:ガキ、ふざけてんのか。腰を伸ばさんかい
| 8 |
ダビデ:??何これ?急にアナウンスとかマジか
| 8 |
ダビデ:マジかよwww急に寸劇入ったらさっきのバカなこと無かったことになるんか。ウケる
| 8 |
ダビデ:早く消せよ?テレビ画面全部隠れるやんけ。クソがㅡㅡ
| 4 |
白鳥:ダビデ。引っ込んでろ。私たちに言ってるんじゃない。
| 6 |
夜食王:お前がそれで1番チャンネルのランカーか。
| 6 |
夜食王:1番には1番のプライドがあるんや。ガキ、基本がなってないな
| 6 |
夜食王:お前にどんな事情があるのかは知らんけど
| 6 |
夜食王:4級だろうが2級だろうが、こんなダンジョン一つくらい目をつぶってでもクリアできる
| 6 |
夜食王:はずやろ
| 6 |
夜食王:お前の後ろにいるのが今誰なのか
「分からんかったら教えてやろか?」
バベルネットワーク
| 6 |
夜食王:俺はファン・ホンや。ユン・ウィソ。
「せやから腰伸ばせや、優しく言うとる時に。」
独り言のように小さく低い声。
しかし、聞くべき人の耳には正確に届いた。
ジオは、誰かの背中がブルブル震え始め、ついに聞こえる瞬間まで全部見ることができた。
「腰を伸ばして顎を上げろ。」
拳を握ったまま腰を伸ばし。
「正面を見ろ。」
正面を直視するハンターの基本姿勢。
ハンターであり、韓国「ファーストライン」ランカーのユン・ウィソが、赤くなった目で声を張り上げた。
「……何でも、私が全部責任を取ります。」
「……」
「一人も死なせないようにしますから、だから今回の攻略!進めてください!」
ランカーとは集合ではなく個人だ。
しかし、ごく稀に、集合になる瞬間も確かにあった。
日常のように定着した右側のチャットウィンドウ。
見慣れたそこをチラッと見たジオが、面倒くさそうに顔を背けた。
* * *
バベルネットワーク
▷ ローカル ─ 大韓民国
▷ 国内ランカー1番チャンネル
| 1 |
ジョー:ㅇㅅㅇb
| 5 |
バンビ:?
| 3 |
アルファ:ほほう……
| 3 |
アルファ:俺はジョン・ギルガオンだ。ユン・ウィソ。
| 8 |
ダビデ:??何してんだよマジでwww
| 4 |
白鳥:私は白鳥だ。ユン・ウィソ。
| 2 |
サンサン:私はサ・セジョンだ。ユン・ウィソ。
| 8 |
ダビデ:……
| 8 |
ダビデ:わ、私はチェ・ダビデだ。
| 29 |
ユン・ウィソ:やめてください……
| 8 |
ダビデ:
| 8 |
ダビデ:あ、ああやるつもりなかったんだよ?!やる気全然なかったんだってば?!なんで大げさにするんだよマジで。!!!
| 8 |
ダビデ:マジでリアルだってば。興味ないから;;!!
| 4 |
白鳥:泣くな。
* * *
[Timer - 00:04:44:30]
残り時間、約5時間。
寄生王傘下の腹足種は、腹で這い回りながら卵を産む凶虫だ。
宿主として汚染するのに、彼らは種族を選ばなかった。
だから、早く民間人を救出できなければ、攻略の如何にかかわらず、永遠に取り返しのつかないことになるかもしれないと。(タク・ラミン情報)
しかも、難易度が変更されたことで、腹足種だけが現れるわけでもないようだった。
ジオは、ヨンガリ(怪獣)フィギュアを立て直した。
建物の地下から出るとすぐに、「真の友情フィギュア」の上にパッ!と浮かび上がった方向矢印。
魔力ホログラムだから良かったものの、もし形でもあったら、このめちゃくちゃな状況に……
ザザッ- バン!
「うっぷ。うぇっ。吐きそう……」
「いや、ホヤかよ?死ぬたびに体液テロとかマジ勘弁。誰かインベントリに余ってるタオルないですか?」
「ありません。魔石を適当に回収したら急いでください……ユン・ウィソハンター?どうしたんですか?大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫……大丈夫です。」
折れていた膝を立て直し、ユン・ウィソが冷や汗を拭った。
「それより、先に送った私の金翼鳥たちとの接続が切れました。4階から視界妨害が凄まじいのですが……何が原因なのか確認もできませんでした。おそらくすぐに食べられたようで……す。」
顔色を窺いながら言葉を濁すユン・ウィソ。
一瞬にして沈んだ雰囲気のせいだ。
……
……
緊張で凍り付いた目が、目の前の4階非常口のドアに向かった。
「4級」ダンジョン。
それにもかかわらず、あまりにもスムーズだった以前の階層。
これからが本番であることを誰もが直感したのだ。
誰も率先してドアを開けない静寂の中で、泰然としているのはたった二人だけだった。
「あかん、あかん。」
国内ランキング6位。
力の隠し持ち、ファン・ホン氏が余裕綽々どころか、ふてぶてしい勢いで首をポキポキ鳴らした。
失笑しながら非常口の取っ手を力強く掴む。
「モンスターにビビってどうする。どうせモン……」
ギイイイ-.
「ひ、ひゃあああああ!」
ドーン!
ハアハア。
ファン・ホンは、光よりも早く閉めたドアをバンと押さえた。真っ青になった顔で、オドオドしている。一行を見回す。
「な、何ぼーっと突っ立ってんねん!早く、エ、エフキラー持って来い!さっき世界で一番でっかいゴ、ゴキブリ見たんや。。びっくりした。」
「……マジかよ。あいつマジでちょっと足りないんじゃないの?」
[あなたの聖約星、「運命を読む者」さんが、見知らぬ男の背中から降りてから言えと、気まずそうに言い返します。]
「……」
コホン。
バタバタとタク・ラミンの背中から静かに降りてきたジオが、罪のないフィギュアをトントンと叩いた。
い、嫌なものは嫌なんだもん。
「マジで嫌なんだもん。」
「止めろ!止めろ!前衛、この野郎どもは何をしている!寝てるのか?お休み中ですか?」
「究極技!究極技残ってないのか?」
「ゴキブリって元々飛ぶ生き物でしたっけ!お願いだから、クソバベルさん!いい加減にしろよクソ!」
パササササッ!
「き、究極技ならあるよ。みんな、私ならできる!」
[聖約星、「運命を読む者」さんがヒイッと怯えます。]
[悪魔を狩る鎌で虫を狩るつもりか。正気を保てと諫めます。]
「セスコ!セスコオ!」
「誰だ、軽率にセスコなんて言ったやつは!誰だ!」
「ちょ、ちょっと待って!バン・テホハンター!そこは!そちらに攻撃を飛ばしたらダメで……!」
ド、ドーン。ガガガー!
崩壊は連鎖的だった。
キョンは本能的に体を丸めた。
崩れる足元。
瞬間、一緒にバランスを崩したかと思った体が、素早く空中で体を支えながら回転する。
落下する破片を足場にして、足をポンと弾くと同時に。
コーナーの壁の隙間に軽く着地
。
[特性、『キャットパルクール』が非活性化されます。]
[あなたの聖約星、『運命を読む者』さんが、10点満点の点数板をずらりと掲げます。]
「……セーフ。」
頬に張り付いたおかっぱをジオがフーッと吹いた。
あっという間に起きた状況。
最後に目撃したのは、誰かが誤って放った攻撃で、昇降機側が崩れ落ちていく場面だった。
名誉の殿堂入りレベルのトロル行為だ。一行の過半数が立っていた場所だったのに……。
パーティーチャンネルはまだ静かだった。
壁の向こうも奇妙なほど静かだ。
ん?ちょっと待って。これデジャヴ……?
なぜか流れる冷や汗。
前科のある脱出職人キョン・ジオは、わけもなく焦り始めた。
「また『ご一緒に行きましょう2』じゃないよね……」
プレッシャーをたっぷり抱え込み、そっと顔を出すと。
「……」
目の前に現れたのは、まるで獣に食い荒らされたかのような、荒々しい歯形の空っぽのクレーター。
周囲は一面、白っぽい。
粘液質で絡まっていた床の卵も、毒液を撒き散らしながら滑空していた虫の群れも、跡形もなかった。
ただ、不気味な穴と、まるで吹雪のように舞い散る石灰の粉だけ。
そして。
その真ん中に立っている人影。
「……氷のプリンセス?」
「何言って……うっ!」
ハッと音を立てて振り返ったファン・ホンが、顎を落とした。
にゃくざさん、なんでそこにいるの……?
確かに誰もいなかったはずなのに?
それにキョン・ジオも状況把握完了。
分かりきっていた。
みんな墜落して、一人残ったと思った途端、スキルをぶっ放して身を守ったんだ。この我慢のないヤクザ者が。
コンクリートの壁を食い破った唐突なクレーターも、今になってようやく脈絡がつながった。
S級ハンター、ファン・ホン。
異名は阿修羅。
絶えず食い扶持を争う餓鬼と修羅の闘将。
好き嫌いなく手当たり次第に食い散らかし、過ぎ去った場所に残るのは、素敵な食事があったという痕跡だけ。
「チッ。完全に現場押収。」
一番面白いのは、他人の家の火事見物。
ジオはか弱い一般人モードで、すぐに口を覆い隠した。
あらまあ!私は今、とても驚いていて、ショックを受けていますわ。
「ま、まさか……、豆腐王さん、ご隠居ポジ……?」
「違う。お、落ち着け、にゃくざさん。ちゃんと説明できるから。ま、そのスマホはちょっと置いて!あ、ああ、カメラを起動しないで!とりあえず落ち着いて話、うっ、そこに虫、虫!」
「ひゃあ!どこどこ!」
パサッ、パーン!
ポトッ。
……
「……あった、のに……?」
「……」
「……死んでる……」
……
静寂……
いや、静まり返っている。
本能的な防御機制だった。
中型蟲種モンスターを魔力で引き裂き、瞬殺してしまったキングジオが、目をパチクリさせた。
あ……えっと。
静かに、錆び付いたロボットのようにぎこちない手足を動かしてみる。
しゃがみ込みながら床に投げ捨てた携帯電話(4年契約)から、そっと拾い上げた。
カシャカシャ、カシャ。カシャ!
「……自動連写モードにしちゃってて。」
「……あ、ああ。いいよ。削除はまあ、ゆっくりやっても大丈夫だから……」
「ご配慮ありがとうございます……」
「どういたしまして……」
妙な沈黙の中、そうして数分。
わけもなく色眼鏡を外したりまたかけたり、周囲も一度サッと見回したりしながら。服についた埃までポンポンと払った二人。
お互い、長い言葉はもう必要ない。
ファン・ホンは無言で人差し指を立てた。
「お前もか……?」
完璧な現場検挙。
逃げ道なし。
すべき答えはすでに決まっている。
というわけで、計算を終えたキョン・ジオは、ゆっくりと親指を立てた。
照れくさそうな笑顔と共に。
「私もだよ……!」




