324話
南にたどり着いた時、乱戦は極に達していた。
「流れが我々の方に傾いた時に動け!機会を逃すな!」
「[光よ!]」
駆魔の呪文。聖力を込めた白い光がしきりに光った。絶対に退かないというハンターたちの顔には決意が見え、勝利を確信していた侵入者たちには徐々に恐怖が漂った。
ここで終わる。
負ける。
死んでしまうという、本能的な恐怖。
怯えた魔獣が一歩後ずさると始まりだった。敵軍の陣営がドミノのように瞬く間に崩れた。
「くそ……!」
幻想王が顔をしかめた。
戦闘効率のために理性を除去した悪夢軍団と、死者で構成されたアンデッド軍団。命令を理解する上位個体はいたものの、崩れる陣営を統制できるほどではなかった。そしてこちらも……
そんな余裕はない!
「この、忌々しい人間があああああ!」
ドオオオオオン。
キョン・ジロクは槍兵を短く握った。躊躇なく振り回した。
「據韋孔。」
「據」、外から押さえ。
「韋」、内へ回し掴み。
「孔」、前に突き出す。
華麗なスキルは忘れた。ひたすら少年時代、銀獅子から伝授され、体で覚えた槍術の基礎として動いた。
理性を有する動物に与えることのできる最大の悪夢は、巨大な怪物などではない。
自らとの戦い。まさに自分自身と向き合うことだろう。
ドッペルゲンガーたちがキョン・ジロクの前に立った時でさえ、軍団長は今回こそは自信があった。
これで終わりだ。確かに!
幻想王の格を剥ぎ取って作った手足は、キョン・ジロクの戦闘力を寸分の狂いもなくコピーし出した。もし成長するなら、成長するその瞬間まで!
しかし。
「どうして、ずっと乗り越えてくるんだああああ!」
金緑色の魔力が華麗に降り注いだ。キョン・ジロクは笑った。
「これが俺だと?」
俺「だった」と?
「弱すぎる。」
自分とそっくりの奴らが襲い掛かってくる。
毎日見ていた流麗で、覇道的な動き。彼の肩を切り裂いたが、キョン・ジロクは止まらず集中した。
振り回すほど何かを感じた。
掴めそうで近かった。
「成長」が。
「……いや、二百年彷徨って帰ってきても故郷にはもっと凄い奴らがいるな。俺なんか名刺も出せないよ!」
ドオオオオオン。
一撃で切り裂いた亡者たちを飛び越えながら、ジウンオが笑いを爆発させた。
無我の境地に達したキョン・ジロク。凄まじい成長速度が彼にまで感じられた。
「やっぱり!」
帰ってきてよかった。
交通事故に遭ったあの日。バベルから招待状を受け取った瞬間、落ちた異世界はジウンオに成長と成功をもたらした。しかし、常に満たされない飢えのようなものが存在した。
寂しさだったのか、渇きだったのか?
分からない。
一つ確かなのは、彼が今この瞬間、これまで以上に生きていると感じているということだ。以前のように……初めて「ジョー」に、ランカーたちに憧れを抱いたあの頃のジウンオのように!
「絶対に追い越してやる!」
胸が熱い。失っていた情熱に火が付く。
ジウンオは細剣を手に、飛ぶように敵陣に飛び込んだ。
「馬鹿どもが、悪あがきを……」
キッド呟いた。
止まらず戦う彼らに言った言葉だけではなかった。沈んだ悪党の眼差しが、空に降り注ぐ流星雨を凝視した。
「今更、片方の味方をすると?」
萬星祭。
内心警戒していた不安要素が、ついに現実になった。そうだ。キョン・ジオの変化は彼一人だけが見たのではないから。
継承によってすべての過去を記憶する「人間」は自分だけだが、一部の高等聖位にも記憶する権限があった。奴らの仕業だろう。
「それでも、結末は変わらない。」
世界善の復活が指し示すものは一つだ。
[幼羊の聖情]の消滅。
それで十分だ。
キッドは、再び手を挙げた。指揮者の旋律が鋭く高揚し、同時にキョン・ジロクが立っている地面が揺れた。
「[改善行進曲9番、ネメシス(No. 9 Nemesis)]」
「ヤングボス!」
精霊たちも止められなかった。
ゴオオオ。、
真下から湧き上がった顔のない死霊たち!奴らが鎌で周りの精霊たちを虐殺し、キョン・ジロクの足首を掴んだ。
あの復讐鬼たちは敵味方を区別できない。コントロールが必須。集中したキッドの手が動く瞬間。
スッ。
U | »
キッドは、素早く体を捻った。
サッ! 切り裂かれた薄緑色の髪が耳の横に散らばる。退くキッドの目が揺れた。その目に刻印のように映る、黒髪。
そして、強固な光の信念。
「まだ終わっていない借りがあるでしょう、先輩。」
「……ペク・ドヒョン!」
復讐鬼を呼んだか?望むならいくらでも見せてやる。向き合ったペク・ドヒョンから、研ぎ澄まされた殺気が飛び散った。
キッドの顔が固まった。
「まだ正気に戻らないのか?カイロスに会っていないはずはないだろう。」
「会ったさ。おかげで、はっきりと悟った。」
「何を?」
「僕が『審判』するべき敵が誰なのか。」
ペク・ドヒョンは目を輝かせた。
心臓が躍る。胸がいっぱいになるほど。
壊れていた記憶のパズルのピースがはめ込まれ、ついに現れた絵は明澄で明確だ。
弄ばれた過去。
無力に失った縁。
目の前で崩れ落ちた愛。
苦しい、苦痛だと表現することさえ足りない時間だった。そうなることに一役買った最大の原因であり、仇が目の前にいる。
「僕は大義など知らない。僕の『審判』は極めて私的なものになるだろうから。」
「善意の守護者はどこに行った?」
呆れたようにキッド皮肉ったが、構わない。ステータスウィンドウに表示された性向は、変わってから久しいから。
[• 性向:歪んだ信念の守護者]
聖約聖、万物の守護者ヴィシュヌが彼に言った。利己的だと。
間違った言葉ではなかった。
世界など滅びるなら滅びればいい。どうせペク・ドヒョンにとって重要なのは常に人であって、世界だったことは一度もなかった。
ジオが星の座に登極に失敗したら、それがどうした。
世界が滅亡したらどうなる?
一緒に戦う機会がまだ残っている。終わるまでは何も終わらない。
だからキョン・ジオが彼を信じて[時計]を発動させたあの時のように、彼もまたジオを信じて約束を守る。
どんな道でもあなたを助けて歩むという、涙で結んだあの約束を。
「記憶がごちゃ混ぜの時も、一つだけは確かだった。」
時間を遡って戻り、目覚めた途端に思ったその考え。
ブゥルルル!
ペク・ドヒョンの滅剣が、喜びに満ちた剣銘を吐き出す。「審判の剣」が宣言した。
「お前だけは……必ず僕の手で殺す!」
今回は、傷跡一つずつやり取りすることで終わらないだろう。
地面を蹴ったペク・ドヒョンが、一抹の躊躇もなく剣を振り回した。
「いや!やっぱり来たな!」
ナイス!ドミが嬉しそうに拳を振るった。素早く危機から脱したキョン・ジロクが槍を握る。頭に来たのか、さっきよりも勢いが激しかった。近くで援護していたギルド員が声を張り上げて応えた。
「懲戒処分にすべきじゃないですか?いくらスーパールーキーだとしても、そうですし、休暇が長すぎました!」
「間に合って来ればいいんだ!来ると思ってたじゃないか!ジオ様がいるのに、あいつがどこに行くんだ?」
「それがどういうことですか!」
「分かっててなぜ聞くんです?ルーキーがジョー様を好きなんだよ!まるで命がけで熱烈に!」
ちょうどドッペルゲンガー、一匹を処理して着地したキョン・ジロクの首が、パッと回った。
「兄貴がキョン・ジオを好きだと?」
「……それを知らなかったと?マジで?」
クソ。初耳だ。
キョン・ジロクの集中が、思わず揺らいだ瞬間だった。
ドンッ!
そちらに落ちてきた落石の残骸が粉々に砕け散る。
「誰が私を好きだろうと関係ないだろ?集中してないのか?」
戦闘中であることを忘れ、あちこちから感嘆の声が上がった。魔術師王の実物だ!興奮した声が叫んだ。
体に合わない防御コートの裾がひらめいた。しかし、少しも滑稽ではない。視線の中央に着地し、ジオはもう一度言った。
「集中しろ。」
冷たい声が一気に戦場を掌握した。
傾きかけた勝勢、相次ぐ最上位ランカーの登場に浮かれかけていた流れが、即座に整理される。ハンターたちが祈りを整えた。
キョン・ジオは蒼空を見上げた。
「ひ、ひっ!」
こちらが現れたのを見るや否や、軍団長が慌てて尻尾を巻いて逃げようとしていた。
尻尾を下げた敵ほど良い獲物はない。計算するよりも、容赦なく追い詰めるべき時!魔法使いの頭の中で爆発的な演算が迅速に回った。
「[引き裂き、締め付けろ。]」
[固有スキル、9階級攻撃系超絶呪文(変形)–「鳥籠(Aviary)」]
クググググング!
揺るぎなく呪文の完成を見守っていたジオが眉を上げた。
わなのように攻撃的に湧き上がるこは、光の筋。そして、それを補助するように包む木の幹たち。
[精霊召喚 一 自然属性:大地、上位大精霊「ドライアド(Dryad)」]
「小娘……センスは悪くないな?」
入ってくる時を知っているじゃないか。
上手く育てれば、こいつはハ・ヤンセよりも大物になるかもしれない。軽く笑ったジオが目配せした。
「キョン・ジロク、仕上げろ!」
分かっている。
道が見えた瞬間、キョン・ジロクはすでに走っていた。
森が踊る。精霊が木を助ける。魔法が敵を捕らえた。
漠然と暗いだけだった夜空の色が、徐々に変わっている。キョン・ジロクは残りの月光をすべて払い、ひたすら槍先に込めた。
「あの野郎を止めろおおおおおお!」
軍団長が血を吐きながら絶叫した。彼を貫通して生成された鳥籠にかけられた体で、もがいている。
バビロンは手をこまねいて成功を待たなかった。
キョン・ジオは弟の道を阻む障害物を、見て見ぬふりをするほど慈悲深くはなかった。
襲い掛かってくる1軍団の上に攻撃が、長雨のように降り注いだ。轟音と土埃が嵐のように巻き起こった。四方を囲んだ立ち込める血の匂いの中で、キョン・ジロクは止まらず槍を突き出した。
「孔」、目の前の敵を突き刺す!
目が眩むような金色、そして巨大な深緑色の斬撃が、巨大な矢のように伸びていった。回転しながら敵に向かって猛烈に突進する。喉仏に届くほど近づいてく
る。
あれは避けられないだろう。
戦場の誰もが確信した。驚愕に満ちた軍団長の顔にも、諦め混じりの絶望が漂うのに。




