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321話

「隊長……隊長? 冗談はやめて起きてくださいよ。隊長!」


「……ジョナサン」


「さっさと起きてくださいよ。こんなところで寝てたら顔が歪みますよ。チーズばっかり食ってるアメリカ人はそんなこともないんですか? 心配させるようなことしないでくださいよ。まったく」


「ジョナサン、やめてくれ」


「何を止めるんですか? あんた、外でみんなが待ってるのが見えないんですか? 大騒ぎですよ。いつまでぐずぐずしてるんですか?」


空虚な空気を震わせる友人の間の抜けた声……。


ルーカスは顔を覆った。


「やめてくれ。ティミーは死んだんだ」


「はは……このユタの田舎者が何を、何を言ってるんだ……」


そんなはずはない。


ぎこちない笑みを浮かべたジョナサンが後ずさった。ぼんやりと後退し、何かにぶつかる。


振り返ると、声もなくすすり泣いている同僚の顔が見えた。


衝撃で狭まっていた視野が戻ってくる。


あちこちに言葉を失い、釘付けになったように突っ立っているギルドメンバーたち。手形がつくほど顔を覆い隠したルーカス。そして。


そして……。


深い眠りについているかのように穏やかな顔のティモシー。


目の前から消えないバベルのシステムメッセージまで。


「……嘘だ」


「嘘だと言ってください。こんなことなかったじゃないですか。いつからバベルがランカーが死んだら知らせるようになったんですか。キャロルが死んだ時もディランが死んだ時も何も言わなかったのに、どうしてうちの隊長だけ……急にこんなことを? エラーですよ。エラーですよね」


「ティミーは2位だったからな」


ルーカスが嗄れた声で呟いた。


「バベルなりの哀悼だろう」


哀悼あいとう


じゃあ本当に……?


ジョナサンはぼんやりとティモシーの方へ近づいていった。


横に置かれた主を失った聖剣は光を失い、青白い顔には生気がなかった。


首が折れた百合のように。


「ティミーが……隊長が、そんなことを言ってたな」


「隊長、何か悩みがあるんですか? 何も言わないで、まるで事情のある男みたいな顔をしてるんですけど?」


「俺がそうか?」


「韓国に行きたくないなら行かなくてもいいのに。ちょっと気になりますね。特に何も言わなかったけど、俺たちはあっちとは友達、家族、まあそんな強い繋がりがあるんじゃないですか? ちゃんと判断してくれると信じてますけど……」


「ジョニー」


「はい?」


「俺の判断を、俺を信じるか?」


「また何を、間抜けな……信じないわけないじゃないですか。うちの隊長なのに」


「ただ隊長だからか?」


「隊長として尊敬してるし、友達として今まで見てきたから信じるんですよ。何ですか、これ? 気恥ずかしいことを言わせないでくださいよ」


照れ臭そうにするジョナサンを見て、ティモシーは微笑んだ。金髪が柔らかな陽の光のように輝いた。


「俺もだから、自分の友達を、友達を信じる」


「遺言状が、遺書があります……」


きちんと畳まれ、テーブルの上に置いてあった。目が腫れたトビーがこちらに手紙を渡した。


震える手で読み進めていたジョナサンが押し黙った。


その時は何のことかわからなかったが、今になってわかる気がする。


「俺は、俺は……決めた」


「お前らが何と言おうと、隊長の望む通りにする。すぐに韓国に行かないと」


沈黙していたルーカスが制止した。


「そんなに即決できる問題じゃない。俺たちはティミーの友達である前に、アメリカのハンターだ。自国が危険なのに他国を助けに行くのか? ホワイトハウスから止められるぞ」


「おい! お前、俺と違うものを読んだのか? これを見てもまだそんなことが言えるのか!」


「興奮するな」


ギルド長と副ギルド長がいない。


胴体だけになった〈イージス〉の唯一の頭として、彼は冷静でいなければならなかった。遺書を畳んでしまいながら、ルーカスは落ち着いて目を伏せた。


「まず、韓国と連絡を取ってみる必要があるな」














「……何?」


ジオは眉をひそめた。


突然のワールドアラート。


何が変わったのかと思ったら、ランキングからティモシーの名前が見えなかった。


まさか……裏切ったのか?


瞬間的な考えだった。




[辺獄]で見た記憶によれば、ランキングから姿を消す方法は無主の地所属だけが可能なことだったから。しかし、その考えは浮かんだ途端に消え去った。



「他の奴ならともかく、ティモシーがそんなことをするはずがない」


お人好しのあいつは、自分の首にナイフが突きつけられても「お前を許す」と言って、そのナイフでそのまま死んでくれるような奴だ。


そうでなければ、大天使二人がかりで庇い立てして気が気じゃないはずがない。


「エラーみたいだな。バベルもいよいよ終わりか。チッ。まあ、変える時期だろ。長すぎたんだよ」


首を横に振りながら、再び箱を見つめるジオ。


現実逃避に近い否定だった。虎は一瞬舌が固まるようだったが、言うべきことは言わなければならなかった。


「……どうかな。ランキングが全部上がってる。こういう場合は高い確率で死亡、だろうな」


「何言ってんだ? 頭おかしいのか?」


ジオの眉間に深い皺が刻まれた。


「ワールドランチャットでも見てみろよ。みんな何事かって騒いでるぞ。ただでさえ、いきなり現れた世界樹でみんな気が滅入ってるんだから、無駄口は慎め」


虎は口を閉じた。


死亡確認まで時間がかかるのは当然だった。どういうわけか情報が早い最上位ランカーたちは沈黙しており、チャンネルで騒いでいるのはその下のランカーたちだけだった。


彼が黙って見ているだけなので、ジオも気分がおかしくなってくる。苛立ちを込めて睨みつけた。


「ランカーの死亡なんて経験したことないみたいにどうしたんだよ? こんなことまで言わせるなよ? 銀獅子が死んだ時もこんなじゃなかったぞ。こんなメッセージ出なかった……」


「キョン・ジオ」


「お前はあの時『ここ』にいなかった」


塔にいた。


降りかかる静寂が重い。


虎はタバコに火をつけた。突っ立ったまま動かないジオが再び箱を持ち上げた。


「……ティモシーが死んだなら、ホン・ヘヤが言ったはずだ。私は忙しいんだ。これを早く解決しないと」


意地を張って箱を見つめる。


汚染された世界樹の枝。


オローズが持っていたような真っ黒でもなく、中央銀河大共和国、キングスタウンで見たようなきらびやかな色でもなかった。


灰白色。


古い白骨のように埃に似た色だ。触ると崩れてしまいそうな感じも似ていた。


観察するジオの目から金色の魔力が発せられた。




[鑑定に失敗しました。特性『慧眼』で読み取れない物質です]


[固有特性『慧眼(希少)』と『洞察(特別)』の組み合わせで新しい特性を開花できます。開花しますか?]


[特性、『賢者の真眼(伝説)』が開花します]


[鑑定に成功しました]



► 捨てられた世界樹の枝束


> 分類:シナリオアイテム


— 死んだ世界樹の破片の束。捨てられ腐っていく枝に誰かが呪いをかけ、強力な混沌の触媒となった。不運と不幸を呼び込み、万物を腐敗させる。




新しい特性開花に続く鑑定の成功。


開花した目で一段と発達した境地の情報が押し寄せてきた。


これまで上がった格の影響が最も大きいだろうが、バベルの案内も親切になった気がする。求道者の決勝点が聖座だということを知った状態だからか、純粋な好意だけとは感じられなかったが。


「前もって列に並んでおこうってことか?」


とにかく使用可能なアイテムではなかった。ジオは集中した。


「ふむ。呪いがべったりと付いてるのが、地面に置くだけでも脈を断ち切る不運の塊だな。壊すと逆効果になりそうだから封印しないと。補助しろ、虎」


虎は黙って指を弾いた。


青い炎が番をするように各方位に立つ。手のひらを合わせてタバコの火を消した彼が目を伏せた。チッ、新しい火が灯る。


「主がそれを望むならね」


戦争はこの瞬間にも進行中だ。切迫した時間に速い速度が要求されるだけで、深刻に難しい作業ではなかった。


中央に置かれた箱。


歩みを進めるジオの手から魔力的なペンが生み出される。


サーッ! 虚空をなぞる流麗な筆跡が黄金色の糸を流した。一行ずつ完成するたびに網のように揺らめき、箱の上に降りていく。


魔法陣が複雑になるほど、並みの高位魔法使いも舌を巻くほど。


しかし、陣とは。


「約束」


ジオが呟いた。


世界と疎通し、約束した共通の基礎を中心にひたすら加えていくだけだ。鮮明な意志と、それを支えるための、しっかりとした設計で。


その過程で魔法使いは数千回の演算を繰り返し、世界の真理と接触しながら……。


極大化された洞察力を持つ。


だからこそ、キョン・ジオは悟った。


封印が完了し、消えゆく金色の光。黒檀の髪が乾いた肩に静かに降りかかる。偉大な魔法使いから人間に戻った超越者が自分の眷属を振り返った。


「……ティモシーが」


ふう。虎は堪えていたタバコの煙を吐き出した。


無表情な顔でジオが呟いた。


それと同時だった。




ガン、バタン!


「……知ってるだろうとは思ってたけど、ちょっと遅かったか?」


はあ……。荒々しく開け放ったドアに手をかけながら、男が茶色の髪を掻き上げた。鍛えられたハンターらしく、荒くなった呼吸をすぐに整えながら。


「今入ってきたニュースだ。〈イージス〉のギルド長が死亡した。オフィシャルだ。アメリカから直接連絡があったんだ。そして……」


ジョン・ギルガオンの顎に力が入った。


「もう一つある」


「俺たちだけでなく、世界が滅亡寸前らしい? これは魔塔を通じて世界魔塔主が直接伝えたニュースだ」


戦争中にも司令塔を差し置いて飛び上がってくるしかなかった。そんな事案だった。


「大統領を飛び越えてすぐ来たんだ。世界が滅んで原始時代に戻ることになったら、政府よりも最強者の意見が必要だと思ったから」


ジオは彼を見つめた。身なりを整えるジョン・ギルガオンの眼差しが驚くほど冷静だった。


「どうする?」


そして彼の期待通り、キョン・ジオは答えを知っていた。


腕を伸ばす。


何もない虚空にひびが入るように、ある空間が開かれた。覚醒者なら誰でも持っていて、誰でも知っているそれ。


インベントリから出てきた櫃は見栄えのしない姿だった。しかし。


ジョン・ギルガオンが目を大きく見開いた。


信じられないほど神聖な聖鐘がそこから流れ出ていた。バチカンにいる教皇も及ばないほど。


当然だった。


これは最初の救世主の犠牲から生まれた聖精だから。


ジオは手に持った[仔羊の聖精]を虎に差し出した。


「アメリカに行け」


「行ってティモシーを助けてくれ」


[必要な時が来るだろう]


星たちが教えてくれた時が今ではないかもしれない。しかし、今日のキョン・ジオの決定はこうだった。


世界の善を生かすと。


善悪と混沌の岐路で……善を失わないと!


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