315話
ソウル郊外、韓国魔塔。
国内魔法使いたちの揺りかごであるここは、普段は「アウトサイダー養成所」、「反ソーシャルクラブ」、「レイブンクローのふりをするが、現実は引きこもりのオタク塔」などなど… 各種ミームと汚名がつくほど静かで学究的な雰囲気が特徴だ。しかし、今日は違った。
「北東Aポイント、レッドワープ45番、接続不安定です!マスター、支援お願いします!」
「本塔からの魔石補給はまだか?このままでは現場に出たバトルメイジたちがみんな死んでしまう!」
「今、ミュータブル学派で解決中です!」
中世ヨーロッパの大聖堂のようにゴシック様式で高く重厚に伸びた尖塔とステンドグラスの下で、五色の魔力光がめちゃくちゃに降り注いだ。
虚空あちこちから昇り降りする昇降機は全部満員で、せっかちな者たちが呼び出した浮遊魔法と飛行道具に風を切る音が止まらない。
ファアッ、チャリン!
階のあちこちでは魔力火炎と鐘の音が相次いで鳴った。魔塔に今入場した魔法使いのレベルを知らせる装置だった。
[Lv.4:マスター Entered]
「マスターがもう何人目だ?」
「お尻の重いレベル4がこんなに……!全国に隠れていたマスターというマスターはみんな飛び出してくるみたいですね!」
「研究資料を共有してくれとあれほど頼んだ時は一人もいなかったのに、こんなにわんさかいるのはサルートアカデミー以来初めてだ。」
レベルで区分される魔塔の等級は全部で六つ。
[入門者(1) > 修行者(2) > 弟子(3) > マスター(4) > グランドマスター(5) > 賢者(6)]順であり、現在まで最高等級は魔塔主マーリンが唯一だった。
すぐ下の等級であるグランドマスターでさえも少し前、チョン・ヒドが一段階上がって全世界基準で五人ほどだったので、事実上マスターが魔塔の重要戦力というわけだ。
もちろんその頃からは職業階級で言えばみんな6階級以上の高位魔法使いなので、人の言うことを聞く奴らがいないのが問題だったが。
弟子の一人が舌を巻いた。
「先輩。今マスターたちがこうしてわらわら入ってくるのは、さっき戦場にキングが出てきてからですよね?」
「高潔な英雄心を持った方々はとっくに戦場に出ているからまあ、そう見るべきだろう。」
「いやはや。うちのキングの波及力が良いと言うべきか、マスターたちの良心が中東に行ったと言うべきか。」
「放っておけ。大半がどれほど深刻なのか分からずにいたが、ジョー様が出てきたのを見て初めて事態を把握して慌てて駆けつけてくるのだろうから。」
「とにかく、誰があのアウトサイダー塔ではないと言うか……
「シーッ!静かにしろ。アウトサイダー大将が通る。」
「そこ、全部聞こえてますよ?」
[Lv.5:グランドマスター Entered]
チョン・ヒドはこそこそ自分を避ける奴らをパッと睨みつけながら通り過ぎた。憎らしいから水をぶっかけてやろうかとも思うが、時間がない。
「あら、ヒド様?さっき出て行かれたのに……?」
魔塔の最上階。
入口の側に立っていたマスターの一人が慌てて腕時計とチョン・ヒドを交互に見た。
「出て行かれて10分も経ってないのに?妹さんが大怪我をしたと言って病院にもう行ってきたんですか?」
「死んでなかったんですよ。奇跡的に現れてくださった救世主のおかげで。」
「え?救世主?」
相手が戸惑った様子で聞き返したが、チョン・ヒドは無視して眼鏡をかけ直した。
むっとする熱気に満ちた場内。
高いステンドグラスの天井の下に、最上階の全部をぎっしり埋めた超大型魔法陣がある。
陣の頂点ごとに立っている高位魔法使いたちの全身に汗がびっしょりだった。
大規模[ウィザードアイ]と魔力凝集及び増幅陣である[ウィザードキャッスル]の重複。
石油成金が自動車にガソリンを入れるように手当たり次第に魔石を叩き込んでいるが、仁川戦線の面積を全部カバーするだけに魔力消耗も凄まじかった。
「あら、グランドマスター!早くお戻りになりましたね!」
「ソンタンは?」
「魔塔主と通信中です。」
何?チョン・ヒドが不満そうに顔をしかめた。
「マーリンのやつ、気まぐれに付き合っている場合じゃないから無視しろと言ったのに、やっぱり。」
とにかく、あいつは間抜けなのは認めなければならない。韓国魔協支部長というやつが一度もきっちりできない。
「ソンタン!時と場所も区別できない魔塔主なんか相手にする必要はないと私がはっきり……!」
さっさっさっ、面白くない気持ちをいっぱい込めて近づいて行った足取りが瞬間止まる。チョン・ヒドが眉を上げた。マーリンと対話中だったソンタンが深刻な表情のまま振り返る。
「……来ましたね。マーリン、今おっしゃった話をヒドさんにまた話していただけますか?」
[「ミスター・チョン、ご無沙汰しております。」]
「挨拶を交わす雰囲気ではないようですね。」
その時初めて画面の向こうのマーリンが制服をフル装備しているのが見えた。紫色のローブと魔法使いたちの武具であるタリスマン(Talisman)装身具まで。
「どうしたんですか?普段はジャージでも着てうろついている人が……きちんと髭まで剃って。ついに隠遁生活を終えて韓国に支援に来る気になったんですか?」
[「残念ながら、そうではない。」]
ダーティブロンドを一房も残さずにかき上げたマーリンが傷だらけの手などを重ねた。
[「あなたの要請を無視したことをいちいち謝罪はしない。こちらも国家に縛られた身なので女王の許可なしには軽々しく行動できないのだ。私なりには物資支援で誠意を尽くしたつもりだ。」]
「今更言い訳はいいから、言うことを言いなさい。そこの馬鹿どもみたいにぐるぐる回さないで。」
[「状況が少し変わったのだ、グランドマスター。」]
マーリンが指を弾いた。
すると横にホログラム地図が一つ浮かび上がる。地球のリアルタイム魔力流れと移動経路が現れるウィンドマップだった。
アウターゲートと熾烈な戦争が繰り広げられている韓半島の方は黒いほど赤色。
チョン・ヒドが面白くなさそうに睨みつけた。
「これは一体なぜですか?盛んに燃えているじゃないですか。うちの家に火がついたことに何か不満でも?」
[「チッ、魔法使いという男があまりにも視野が利己的であってはならない。その隣も少し見てみなさい。」]
……え?
ちょっと待て。チョン・ヒドが眉をひそめた。
詳しく見るためにテーブルをつかんで身をかがめた彼の目がどんどん大きくなる。
「これは何だ?魔力流れがなぜ大西洋に……」
急速に渦巻いている韓半島上の流れのせいで、ともすれば見過ごしやすかった。
しかし詳しく見てみると大西洋、太平洋など。海を基点に静かにひそかに凝集する流れが見えた。
そしてその中でも微細だが色の変化まで現れるほど最も流れがはっきりしている所は……アイスランド、スコットランド、ノルウェーが接している北海の三角地帯。
「フェロー諸島……!何ですか?マーリン、ここはあなたが居るところじゃないですか!」
[「何だろう?海の向こうの友達の土地が燃えていると思ったら、うちの家が燃えたという話だ。」]
「おい、マーリン!」
[「よく聞け、次期魔塔主。」]
低い呼びかけにチョン・ヒドが緊張して魔塔主を見つめた。
[「私たちの空にゲートという青い災いが到来する前、世の中のすべての人が言った。世界は燃える火薬庫であり、どこかで戦争が起きても、それはすぐに第3次世界大戦の始まりになるだろうと。」]
[「ふとそんな気がした。考えてみれば私たちはいつも、同じ戦争の真っただ中にいて、今になってそれが最後を迎えるための盤にたどり着いただけではないだろうか?」]
年齢に逆らった老年の大魔法使い。淡々と話したマーリンが若い顔で笑った。
[「私の予知が当たっていれば、長くない間隔を置いてランキング先頭たちが位置する塔の首都を中心に世界すべての場所でアウターゲートが開くだろう。」]
「……まさか。」
[「誰が誰を助けるか問うことはない。」]
去るために席から立ち上がりながらマーリンが画面の向こうの魔法使いたちを見つめた。深い目で凝視しながら最後の言葉を結ぶ。
『私たちは同じ戦争の上に立っているのだよ、友よ。」]
そしてマーリンの言葉が終わって、通信が途絶えると同時だった。
「マスター!突発状況が!戦線西側のウィザードアイ接続が不安定です!危険水位です!」
西側。
王がいる所だ。
「……すぐに拡大しろ!」
ハッと気づいたチョン・ヒドが振り返りながら叫んだ。
魔法陣の上、戦線の空にあるものと同じオーロラ色の眼球が点滅しながら指定されたフィールドの姿を持ってくる。
「あ、あれは!」
「オーマイゴッド……」
首を精一杯そらした魔法使いたち。口を閉ざした嘆息が広く広がった。
彼らの目の前に繰り広げられた異質で荘厳な光景。
地獄道の招来。
黒ずんだ青い海水と大型魔獣の群れが猛烈に突進する前、空間が裂けるように大きく開いた血色の口。
ファン・ホンが開け放った広大で恐ろしい地獄の門に、獅子王の魔獣軍団が消え、そのまま軍団長とファン・ホンさえも飲み込まれる姿だった。
「ファン・ホン!!!!」
喜んで私に押し寄せて来い。
敵から視線を離さずに堂々と両腕を広げたファン・ホンの姿が最後だった。
大蛇のように牙をむいた地獄道が生きているものをすべて飲み込み、津波と地獄の硫黄が混ざって押し寄せながら地面には…….
もう何も立っていない。
[ほう!なかなか賢い奴だな、自滅を選ぶとは!]
絶え間なく続いていた攻防。
ぴったりくっついても避けないジオを見てラッパ吹きが会心の目を輝かせた。口元を長く裂きながら爪を振り回す瞬間。
[……]
「……黙れ。」
不覚だった!
握りつぶすように顎をつかむ握力。
瞬間、正面からキョン・ジオと目が合ったラッパ吹きが本能的な恐怖に言葉を失った。
血走った魔法使いの金色の目。
「後先のことはどうでもいいから、ここで今すぐお前の口から引き裂いてやる前に黙ってろ。」
[ノ、ノ、キャアアアアク!!]
ドーン!
ミサポが引き裂かれて投げ捨てられる第4軍団長。ジオは墜落する魔獣を睨みつけながら慌ててチャンネルをつけた。
「ファン・ホン。おい、ふざけるな。」
答えて。
「アナウンスオン。……おい、ファン・ホン。そこにいるか?答えて。答えろ!」
どうか答えてくれ。
チャットウィンドウの上に何事かという文字の列が浮かび上がり始めた。しかし、速いスピードで上がっていくランカーたちの名前、そのどこにもファン・ホンのものはない。
「違う。」
目が回る。
むかむかする中で吐き気がこみ上げてきた。違う。ジオは精神をしっかり持ち、魔力を広々と敷いた。
紫色の泥水になった渦の上に魔力を注ぎ込んで透視した。
「……!まだ生きている。」
そうだ。ファン・ホンがどれほどしぶとい奴なのか!あいつがどれほど根性があるのか。
かすかだが、確かに感じられた。
ファン・ホンの生命力が。
遅くない、死んでない。四方から噴き出す黒い爆撃を避けながらジオは奥歯を噛み締めた。
ただ感じられる気が今にも消えそうなほど微弱なのが問題。時間が切迫していた。ゴールデンタイムが終わる前にできるだけ早く救わなければならない。しかし。
[アアック!どこに行った、ベール、私のベールが……!]
「あの狂った野郎……」
さっきより目に見えて強大になった軍団長の狂暴な気運。
ミサポが剥がされた顔を覆ったラッパ吹きが残骸の上でよろよろと立ち上がった。ゆっくりと現れる顔は黒く干からびた骸骨。
[殺してやるうううアアアック!!!]
ドグン、ドグン、ドゥクァガガガガ!
高周波の悲鳴と共に生きている触手のように数十本に分かれて伸びていく腐食の黒闇。
触れる所ごとに渦巻いていた泥水がチイイイ、眩暈がするような音を立てて燃え尽きていった。
[危険感知!十悪軍団第4軍団長「黒闇のラッパ吹き」の劇毒に露出されました。]
[『絶対結界』が活性化されます。]
[異界の毒で該当毒に対する耐性が存在しません。露出が持続されると生命力に影響を受けます。解毒や場所移動を推奨します。]
状態異常にかかる可能性もあるという意味だった。キョン・ジオ人生でほぼ初めて。
しかし、このままにしておくと泥水の中のファン・ホンまで燃やしてしまうかもしれない。ジオは下唇をぎゅっと噛み締めた。
「残りの魔力は……半分以下。」
やはりあの方法しかないのか?
[特性、「絶対結界」が非活性化されます。]
「クウッ••••••!」
毒に触れた皮膚がヒリヒリする。
しかしジオは口元を本能的に覆っていた腕を下ろした。絶対結界に入っていた魔力が体内に再び急速に凝集する。
[何をするつもりだ?ありえない。隙を与えると思うか!]
隠しておいた切り札一つなければ、それが21世紀現代ファンタジーの主人公だろうか?
「この身は江湖の道理を守る。」
再び正面から殺到する攻撃。近づくにつれて瞬く間に枝分かれが倍増するが。ドーン!
[専用武器召喚]。神話級スタッフを地面に突き立てて障壁を作りながらキョン・ジオは落ち着いて深呼吸した。
そしてヒューイイイ、戦場に吹き始める金色の風。
魔法使いの真魔力だった。
[……!]
空気を重く押しつぶす圧力にラッパ吹きが殺すように睨みつけながら長い腕を垂らした。軍団長の腕がますます長くなりながら曲がっていた背も急激に高くなる。
来る。今回の攻撃は激しいだろう。
注視するジオの額に玉のような汗がにじみ始めた。たった一手だけ避けられればいいのだが。
「たった5秒だけ……」
「援護が必要な表情だな、キング。」
タアアン
[キャアアアアク!私の、私の顔!]
トボトボ。
すぐ後ろから聞こえてきた、絶対に聞き慣れない軍靴の音。
今誰も見なかった隙に飛んで行った魔弾の持ち主だろう。
ジオは驚いて目を瞬きながら振り返った。
カラカラ。口の中でキャンディーを転がしたキム・シギュンが銃を肩にかけて眉をひょいと上げる。
「アティテュードに合わなくてもこれは勘弁してください。この歳で現場で転がろうとしたら糖分が足りなくて。」
そして彼の横にチャクチャクと立つ黒服と防御コートを着た背中たち。
暗い夜にも鮮明に見える、白い背景の国旗と文字。
Korea, Crisis Reaction Team
「忠誠!私たち、遅くなりましたか?」
黒ずんだ埃と傷だらけの顔でクォン・ゲナが笑顔を浮かべる。軽い敬礼と共に、地面に突き刺さったスタッフを抜いてジオに丁寧に手渡した。
「お前たちがここにどうして、どうやって……?」
「戦時じゃないですか、キング。安保法が何と言おうと戦場に魔法使いを一人で送るのは近距離ディーラーとして絶対にあってはならないことでしょう。」
「おい。クォン・ゲナ、法が何だって?それが上司の前で言う言葉か?」
たしなめるようにため息をついたキム・シギュンが装填しながらちらっと振り返った。
彼もまたひどく疲れている様子だったが、ぼうっとしているジオを見る眼差しは穏やかだった。
「大きな助けにはならないかもしれませんが、驚くのはまだ早いです。私たちだけが来たのではないので。」
そう言いながら後ろの方に顎をしゃくる。
無意識について行ったジオの目がどんどん大きくなった。揺れる瞳の中に微かな夜明けの光が照らされる。
「よくも、誰に……」
かすかで高潔な夜明けの光を肩にかけながら歩いてくる一人の男。
ためらうことなく横に近づいてそこが自分の場所だというようにキョン・ジオの敵を見つめる。静かだが、節制しない殺気を込めたまま。
「血の匂いがしますね、ジオさん。あの生意気な魔獣のせいでしょう?」
目元に見慣れない傷があったが、ジオを見るといつ冷たかったのかというようにサラッと笑う顔は一点の変わりもなくそのまま。
「お前……」
白衣の騎士。
そしてキョン・ジオの宿命的審判者。
帰ってきたペク・ドヒョンが微笑みを消して正面、ジオの敵に向かって鋭く剣を向けた。
「命令してください、私の王。私があなたの敵を審判し、屠殺するように」




