31話
* * *
ここは大韓民国ソウル。
ハンターたちの暴力性を実験するために進行中のダンジョンの難易度を突発的に上げてみました。
「2級?今この戦力で2級?は、クソ。話にならないな。」
「4級ですら割り当てられるのがやっとだったのに、俺たちのレベルで2級とは。」
「これはありえません、隊長。今すぐ外部に支援要請して脱出するべきです!」
「残り時間はたったの5時間です。人員が制限されたクエストダンジョンなので外からポータルも閉ざされているはずなのに、外部支援をどうやって受けるというのですか。それに中にいる民間人はどうするつもりですか?」
「いいか!そっちは英雄気取りの安定志向だから中にいる民間人が心配なのかもしれないが、俺は俺が死んだら一人で生きていく母親の方が大事なんだ!分かったか?」
効果は抜群だった。
旧1チーム所属だからタクラミンは最低でもB級ハンター。
そんな彼に平均D級ハンターたちが血眼になって襲いかかる事態が起きた。
本事態の元凶、
最上位ランカー3人。
キョン・ジオ(1位/S級)、ファン・ホン(6位/S級)、ユン・ウィソ(29位/A級)は少し離れた場所で気まずそうに立ち、予期せぬ暴力沙汰を見守っていた。
ジオ(1位)がそっと先にパスした。
「うーん……そもそも人生とは、生きていればぐしゃっと折れる瞬間も来るものじゃないかな……?」
もちろん私は違うけど。
知らんぷりをしていたファン・ホン(6位)がすかさず受け取りスパイクを打った。
「……そうかな。わからへんけど?難易度調整もされたり、信用等級も調整されたり、しっかり気を引き締めんとみんなそうやって一度は経験しながら成長するもんちゃうん?痛くてこそ青春やないか。」
もちろん俺は痛い思いしたことないけど。
救いようのないS級たちが繰り広げる幻のコラボ。
まだまともなユン・ウィソ(29位)が呆然と見つめていたが、2人は完全に無視した。
「やっぱりあんなに怒ることじゃないと思う。みんな暴力的すぎるね。」
「俺も全く同じ考えや。全面的に同意する。え、もしかして俺の生き別れの双子ちゃうか?なんでこんなに考えが同じなん?妹にならへん?よく見たら猫みたいでちょっと可愛いし。」
「え?そっちの弟はファン・ホン設定じゃなかったっけ?設定崩壊やば。」
「……もしかして。もしかしたらファン・ホンに改名する気はないか丁寧に聞いてみただけや、もうええわ。」
それでもファン・ホンは少しは正気を取り戻したようだ。
喋っている間にもさりげなくキョン・ジオを観察し始めた。
難易度再調整もそうだし、やけに泰然自若とした態度などなど。じわじわと疑念が湧いてきたのだ。
ジオは妙なその視線を鼻で笑い飛ばした。
何見てんだ?
「チンピラの豆腐ごときにバレるために磨き上げた10年の歳月ではない。」
〈ランカーが力を隠す〉。
中国を除く北東アジア圏、とりわけ国土に比べてランカーの割合が高い韓国では、割とよくある現象だ。
珍しいことではないだけに、少しでも怪しいと疑いの目を向けられがち。
ジオもそのため、「ダンジョン化」によってセンターの人々と会う前に、あらかじめ隙なく塞いでおいた状態だった。
今日のキョン・ジオの力隠し状態はまさに完璧。パーフェクト。
前回の塔でのハプニングが極めて例外的なケースだっただけ。
あの時のように突発的な状況でない限り、他人がジオの正体に気づく確率は元々極めて低い。
彼女に抑制法を教えた師は虎であり、力を抑え込む心理はほとんど強迫観念に近いからだ。
ジオは無意識に手のひらの傷跡をなぞった。
もう10年前のことだった。
* * *
「名前はジオ?ああ。」
「……」
「そう……分かった。お前か。ジョー。お前が『ジョー』か。」
「おじさん誰ですか?」
「俺?」
自分を直接紹介することが面白いという様子で、男はゆっくりと言った。
「俺は銀獅子の虎。これからお前の保護者であり、師であり、そして……許してくれるならお前の友達にもなりたい人間だ。」
ひんやりとした青銅で削り出したような男。
熟れた笑顔からは焚香と薄いタバコの匂いがした。
「虎。」
幼いキョン・ジオが出会った最初のハイランカーだった。
* * *
覚醒者特別法第8条第1項。
大韓民国の国民である予備覚醒者は、この法律の定めるところにより、国家機関を通じた能力適応訓練に誠実に臨まなければならない。
ただし、予備覚醒者の年齢が満14歳以下である場合は例外とする。
「そうです。満14歳以下は義務教育の対象ではありませんね。さあ、よく調べていらっしゃいますね?しかしこれは場合が異なり……」
待ちに待った韓国初のS級の誕生。
ジオの名前「登録」が終わった直後だった。
ある程度整理された後。
先覚醒後登録覚醒者(生まれつきの特権階級)関連の義務教育の話をセンター側からそっと切り出してみたが。
まさか9歳の子が関連条項をそらんじてくる図は彼らの計画にはなかったようだ。
「ジオさんもご存知でしょう?このままにしておくと危険です。ジオさん自身にも、他の人々にも。」
ほとんど懇願するようにチャン・イルヒョンチーム長は頼んだ。
正体は隠してほしい。
母親に知らせるのは絶対に嫌、教育を受けるのもノーノーノー。
要求事項がどれもこれもめちゃくちゃな駄々っ子に近いものだったが、そのガキは国内初のS級。
国を救った英雄の要請だと思えば謙虚極まりなく感じられた。
だからできることなら彼らもすべて聞き入れてあげたかったが……
これだけは譲れない。
想像してみてほしい。放置されたまま歩き回る9歳の核爆弾を!
チャン・イルヒョンは付きまといながら長々と説得に入った。
小学校の前に張り込んで現れたり、バレエ教室の下で待っていたり。
遊び場で偶然の出会いを装ったりもした。
その努力が可哀想(迷惑)で一度話を聞いてみようと座ったら。
ジオにスッと差し出すカードが。
「1対1の個人レッスンはいかがですか?」
「今通ってる塾がいくつあると思ってるんですか。バイバイ。」
「お、お願いします……どうか教育だと思わなくてもいいので。一度だけ信じて会ってみてください。非常に優れたハンターです。コントロール分野では誰もが認める一番です。必ず、本当に必ず役に立つはずです。」
[あなたの聖約星、「運命を読む者」様がその提案を受け入れるのが良いと助言しています。]
「わざわざ?お星さまがコントロールできるって言ってるじゃん。」
幼いジオもこうやって突っぱねるのにはそれなりの理由があった。
未成熟な肉体に比べて過度な力だが、今まで聖約星が 制御してくれていたから。
覚醒後今までも特に問題なく生きてきたじゃないか?
しかし聖約星の考えは違った。
[今のように頻繁に聖痕を開門するのはお前の小さな体に無理がかかると知らせています。]
[マイベイビーの可愛い肉体が崩壊でもしたらこの兄さんのガラスのメンタルも崩壊してしまうと心配しています。]
「……無能そのもの。」
[バベルベビーモニタリングモードon - 扇情的な発言をフィルタリングします。]
「悪口?まさか悪口言った?さっき?」
[聖約星、「運命を読む者」様がそんな恐ろしいことを言うなと大騒ぎしています。]
[悪口は言ってない、とにかく言ってないとバベルが熱中症になったみたいだと聖約星が苦し紛れに言い訳しています。お前の年齢になかなか適応できないからだと、今後は注意すると咳払いをしています。]
実際うるさくて食わせ者のお星様だが、ジオもよく知っている。
毎瞬間運命を共にし。
また、最後の最後の歩みまで見守ると約束した存在らしく。
この世の誰よりも自分だけのために尽くしてくれるということを。
だからできることなら彼の助言に従うのが正しいという事実も。
センターの人々ですらこれほど献身的な聖約星は初めて見たと不思議がるほどだったから。
「マジで行きたくないんだけど……」
仕方ないのか?
そしてそんなお星様の判断は今回もやはり正確だった。
「ジオ!どうしたの!ジオ!あ、あの、あたなは、どなたですか?」
「避けてください。管理局から来ました。」
センターを訪問することにした前日だった。
バレエの授業中に突然倒れた子供を、周辺で潜伏警護中だった要員たちが急いで連れて行った。
検査の結果。
アウトオブコントロール(Out of Control)現象による強制負荷遮断状態。
幼いジオは眠りから覚められない日が多くなった。




