295話
「ゆっくり休んでください。これくらいなら、ホワイトハウスも満足しているはずなので、週末に連絡することはないでしょう。」
「ありがとう、ルーカス。送ってくれて。」
「君はほどほどを知らないな。愚直にそれを全部受け入れているのか?」
「ハハ。私が黙って消えたのは事実じゃないか。人々はどれだけ不安だっただろう?ルーク、君も行って休んで。」
折よくエレベーターも到着する。
ティモシーは笑ってルーカスを見送った。後ろに寄りかかると、熱い息が漏れた。
「少しは断るべきだったかな……?」
一ヶ月以上不在だったティモシーに、政府はすべてを詳しく聞きたがった。韓国のランカーたちとも事前に相談しておいた部分だったので、ティモシーは素直に情報を共有してあげた。
そうして呼び出され、閉じこもって報告書だけを作成すること二日。
円満な協力のおかげだろうか、気分良くジン大統領が夕食の席で自ら酒を注いだ。国家英雄の無事帰還を歓迎すると言って。
そのグラスが酒量を越えるまで拒めなかったのは、ルーカスの言うとおり愚かな性格のせいだ。
「ふう……。でも今日はやけに星たちが静かだな。」
おせっかい焼きの二人はどうしたんだろう?
不思議に思ったが、ふらふらする精神のせいで疑問はすぐに消え去った。
「ヘラ、明かりをつけてくれる?」
どさっ。ソファーに倒れるように横になりながら、ティモシーが呟いた。
「照度は低めでお願い。久しぶりに洋酒を飲んだら、めまいがする。」
しかし、言葉が終わっても室内には変化がない。返事もなかった。
ティモシーはゆっくりと目元を覆っていた腕を払いのけた。
酔いのせいで焦点がぼやけていた目が、いつの間にかはっきりとしていた。
「……誰だ?」
家の中に誰かいる。
すると、かすかに聞こえる笑い声。聞き慣れたトーンの……ティモシーは勢いよく身を起こした。
「まさか……!」
「久しぶりだね、ティミー。たった一人の僕の友達。」
窓際に突っ立っていた影が振り返る。日陰から歩いて出てくると、ゆっくりと姿が現れる。
長い革のコート、柔らかくうなじを覆う髪、一度見たら忘れられないボンベイサファイア色の瞳。
記憶していたよりも雰囲気が鋭くなっており、怪我をしたのか片方の目元を隠していた。
予想外の登場に戸惑うのも束の間、ティモシーは奥歯を噛み締めた。
「グイード。お前がどうしてここに!」
「歓迎してくれるとは期待していなかったけど、こんな敵意とは。僕の頬に穴が開くよ、ダーリン。」
「そうか、グイードじゃない、もう。『キッド』と呼ぶべきかな?」
「インターポールが捕まえた奴らがたくさん喋ったみたいだね。ああ、FBIかな?」
「適当にごまかすつもりはないだろうな。お前が〈解放団〉の団長だという証拠は、あり余るほど出てきたからな。その間騙されていた僕らが馬鹿なほどに。ギルドメンバーの士気を考え、対外的には伏せておいただけだ。」
「そう?君は全部知っていながら騙されてくれると思っていたのに、本当に知らなかったというのか?それはそれでがっかりだな……」
沈黙するティモシーを見て、キッドが優しく笑う。すべてを知っているという、また相手を無力化させる笑顔で。
「調教師」。
水面下で彼が最も恐れられるランカーとして数えられていた理由だった。
生命体なら誰でもグイード・マラマルディに好感以上の感情を抱く。例外はなかった。
恋人であれ、家族であれ、その何であれ。対象が最も愛する存在が彼と重なるからだ。
ティモシーは最も近くでその姿を見てきた。どんな残酷な者でも友達の前では嘘のように無力だった。しかし。
ティモシーは冷静に訂正した。
「騙されていたんじゃない。信じていたんだ。」
「君の言うとおり、たった一人の友達として私が君に見せられる信義であり、最善だったからだ。」
「最善か……。かわいそうな俺の友達ティミー。だから君はいつも失敗するのだと思わないのか?そんなにもどかしく、愚直にも最善の道ばかりを追求して。」
妙なニュアンスで呟いたキッドが再び微笑んだ。
いつの間にか取り出したティモシーの聖剣が、暗闇の中で物寂しく光っていた。
「おや、ダーリン、それで僕を斬るつもり?君が聖剣を取り出すのはとても久しぶりだね。それは殺すのではなく生かす剣だから、二度と誰も斬らないと言っていたのに。」
ティモシーは剣を握り直し、乾いた声で答えた。
「悪の道へ進む親友を放置しないのは意志ではなく、義務。神も寛大に見逃してくれるだろうから心配するな。」
「『神の子』らしい傲慢さだね。」
信仰に関して嘲弄されるのは一日二日ではない。挑発に乗らないようにしよう。ティモシーが淡々と戦闘前の聖号を切るのだが。
「でも、どうしよう?君は誰かを罰する資格がないのに。」
「••••••何?」
「今回の大審判者は君じゃなくて、他の人だから。」
キッドはまだ火傷のようにヒリヒリする目元をいじった。審判の剣が引っ掻いていった傷だった。
窓際の満月が悲しい。友達だった二人の男が見つめ合う。
再び続いた声は、笑い気なく無味乾燥だった。
「剣を収めろ、ティモシー・アンゲロス・リリーホワイト。」
「愚かな友達に世界の真実を教えて、君を説得しに来たから。」
「キョン・グミじゃない?今日も来たんだ。」
「家族でもないのに献身的だ。暇でもないのに。最近テレビをつければ出てくるのに。」
病院の人たちが噂していた。
最近ほどハンターキョン・グミ、の話題性が良い時はなかった。この一ヶ月間、本当に狂ったようにゲートとダンジョンを討伐して回っていたので。
強烈な降臨現象を経験した能力値が、堰を切ったように成長傾向を描いたのが一番目の理由。
そしてキョン・グミ個人的にも神経を尖らせる場所が必要だったのが二番目の理由だった。
「いらっしゃいましたか?キョン・グミ学生さんが来たついでに、私も早く用事を済ませてこようっと。楽にしてください。」
付き添いの人が嬉しそうに席を空けた。
ハンターセブランス病院、VIP病棟。
豪華な個室や今出て行った付き添いの人は、すべて〈サルート連合〉が費用を負担している。
アカデミー内で起きた事故だっただけでなく……決定的にキョン・グミがそう言った。
「ヨ・ウィジュがここに横になっているのは私の責任もあるから。」
まったく無関係ではいられない。キョン・グミはぼんやりとヨ・ウィジュを見つめた。
高価なヒーラーたちが高価なスキルを注ぎ込んでも無駄だった。意識のない友達は、ヤドカリのいないヤドカリの殻のように急速に乾いていった。
「……ねえ、ヨ・ウィジュ。髪の毛がこれは何なの。誰がお前を高校一年生だと思う?」
友達の白く染まった白髪が見慣れない。
ガリガリに痩せた手足もそうで、以前から知っている人が見たらヨ・ウィジュだと見分けがつかないだろう。
キョン・グミは苦笑した。
「塔に行ったうちの姉さんと兄さんも帰ってきたのに、ドリームウォーカーという子が夢の中にそんなに長くいたらどうするの?」
シー、シー。
一定の呼吸器の音。また、周囲に満ちた病院の匂いは、いくら経験しても慣れなかった。
「私、本当に病院嫌いなのよ。うちの家族みんなそう。それでもこうして来たら、やりがいがあるようにしてくれなきゃ。」
「聞いてる?毎日ここに来てるから、私友達もみんな離れていきそうだって。ソル・ボミがどれだけぐずぐず言うか知ってる?」
その時、ガラガラ。
背後から聞こえるドアの音。
ああ。キョン・グミは床に置いたカバンを持ちながら、慌てて立ち上がった。
「もう帰ろうと思っていました。」
「……いや。いて、帰らないで。」
ヨ・ガンヒがぎこちなくうなじをこすった。短く切った自分の髪がまだ見慣れない仕草だ。
「聞いたわ。ウィジュのところに毎日来ていたって。いざ私とは初めて会うのね。あの日の後で。」
そりゃ避けていたから。キョン・グミは的外れなところに視線を向けた。
急に親しくなったかと思えば、急激に疎遠になり、本意ではなく命の恩人になった仲だった。
ヨ・ガンヒを見るたびに恨んでいた目と笑っていた顔が同時に思い浮かび、どう接すればいいのか困惑した。
「ぎこちないわね。テレビでもつける?」
音量を下げた機械の音が静寂を埋める。画面だけを見つめていることしばらく。ヨ・ガンヒが先に沈黙を破った。
「ごめんね、グミ。この言葉から言うべきだったのに、とても遅くなったわ。」
「ああ。」
「私が大人げなかったわ。正気じゃなかったみたい。」
「……〈解放団〉にやられたんですよね。未婚術と全部証明されたじゃないですか、何を。」
「そうだからといって、私が潔白な被害者ではいられないわ。実際に私の人生が辛いと目を塞ぎ耳を塞ぎながら、他人のせいばかりにしたのは事実だから。」
ヨ・ガンヒが苦々しく呟いた。
「幼い妹がだめな姉さんを助けようと、あんなことになるまで……」
「私の罪は大きいわ。」
「許さなくてもいいわ。あなたとみんなを危険に晒すところだったのに、あなたは私の命まで助けてくれたじゃない。ハンターらしく行動で恩返ししてみせるわ。」
ヨ・ガンヒは若く、強いハンターだ。
アカデミー内では彼女を置いて、近いうちに1番チャンネルに上がってくるだろうという話がちらほらと出ていた。
だから借りを返すのは 明らかに有意味なこと。
しかし、あまりそうしたくない。キョン・グミは見ながらぽつりと吐き出した。
「私は羨ましいです、ウィジュが。」
「え?」
「自分よりもはるかに優れた姉さんの命を救い、大切にしている人たちに遠慮なく近づいて。」
「私に最後に言った言葉がそうでした。あなたを信じて、あなたが受ける愛を信じなさいと。他人にそんな言葉を言ってあげるには、自分自身をどれだけ信じなければ可能なんだろう……そんな気がしたんです。」
外観がすべてではない。外面よりも内面が強い人たちをキョン・グミは無数に見てきた。
いつもそんな人になりたかった。
「すごいじゃないですか。かっこいい子ですよ。私と友達になってくれてありがとうと一度も言えなかったのが申し訳ないくらい。」
「だから必ず起きるはずです。強くてかっこいい子らしく。」
その言葉が終わった瞬間だった。
え?
キョン・グミの目が大きく見開かれた。
「……ウィ、ウィジュ?」
今 明らかに指がぴくっと動いた。
再び見るとまぶたもぴくぴく震えている。驚いたヨ・ガンヒが魂飛魄散してヨ・ウィジュをまさぐった。
「お姉ちゃん!看護師さん!早く!」
慌ててナースコールを押したキョン・グミが叫ぶと、その時になって勢いよく起き上がる。
慌てて外に人を探しに行くのだが。
「先生!ここに患者が目を覚ましました!先生……」
おかしかった。人々が深刻な顔で一箇所だけを見てざわめいている。
背筋が寒くなり振り返るとキョン・グミまでそうだった。魂が抜けた顔でテレビの画面を見ている。
その視線を辿っていくと、ニュースに出ている緊急速報の字幕。
[汝矣島漢江現在進入不可、原因不明の遮断幕により全域封鎖中]
「うちの姉さん、今日あそこに行くって言ってたのに……」
キョン・グミがぼんやりと呟いた。
面倒な奴を見に行くと言って笑っていた姿が反射的に思い浮かぶ。
漢江公園全体を巨大に覆っているボックス。
韓国の人々がよく知っている「領域」の姿だった。
違う点といえば、彼らが見てきたものはいくらでも内側が見え、詳しく見なければ区別された境界がわからないほどだったが……。
今は光一点入る隙間もない真っ黒だという点。
そうだった。その点だけを除けば、あれは 明らかに魔術師王の固有スキル、「ライブラリー」領域と似ていた。




