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289話

「異邦人よ、そなたは知らない。彼女の中に潜在している残酷さを。」


台詞を朗読するジオの声が、眠気に酔ってだるかった。


たまには二人が喧嘩をしない日だった。


世界樹との繋がりがより深まるにつれて、ジオが目を覚まさない日も増えていった。肉体の機能がゆっくりと停止していっているせいだった。


たった一人残された最後の王が役割を果たせなくなると、国は自然と体制を変えた。




中央銀河共和国。


王は名ばかりとなり、大将軍は執政官となり、元老院が国を運営した。


ジン・ギョウルは、その全てに耐えられなかった。


一日と置かず理性を失い、彼の手に多くの命が消えていった。ジオが止めても、怒っても聞かなかった。


引かない王と引けない恋人の喧嘩だったので、二人は疲れ果てるまで声を荒げた。最近の日常はいつもそうだった。


それでも、今のようにいとおしく平和な時間もあって……。


ジン・ギョウルはまだ狂わずにいられた。彼はジオの膝に埋めていた額を上げた。


「それはまた、どんな本だ?気に入ったことを言うな。私の女も残酷極まりないからな。」


「脚本よ。幼いメディックの子が持ってきたの。『流れ込んできた』もの。たぶん、あそこじゃない。」


ジオの顎の動きにつられて、ジン・ギョウルも見た。


窓の向こう、遥か遠くにある蒼白い青い点。


星間ハブでは、連携されたチャンネルがいくつも見えるが、時間と空間が入り混じり、そこの物が流れ込んでくることもよくあった。ジオが見ているのは、そのうちの一つだった。


「あそこに興味があるのか?よく見ているな。すでに何度も死んだ場所だというのに。」


「文明の発達がここによく似ているんだ。何度も文明が滅んだ場所なのに……死ぬ日が決まっているからか?速く、激しく生きる者たちが羨ましく見える。」


「あっ。また配慮のないことを言ってしまったか?」


「……ああ。」


気まずそうに肯定すると、ジオは彼をなだめるように優しく撫でた。ジン・ギョウルはゆっくりと息を吐き出した。


殺風景な機械音だけが聞こえる密室。


そして生命維持装置、ガラス管。


この中でジオが永遠に目を覚まさない日、世界樹は回復を終え、ついに再び花を咲かせるだろう。生命の樹液を噴き出しながら、ハブを映画のように美しく彩るだろう。


ジン・ギョウルが絶対に望まない姿だった。


「……私はここのくだりが気に入った。『早く、夜明けよ』、そして『我々を悲惨な死から救いたまえ』。」


「繋がりのない台詞だけど?」


指がなぞった場所をじっと見つめてから、ジオは本を閉じた。


「それぞれ違う人物が言った言葉だけど、まあ、あなたに似合っているわ。一人はどんな誘惑にも最後まで愛を諦めない者で、もう一人は彼女の残酷さを恐れている者たちだから。」


「私の心をよく分かっているくせに……いい。約束だけは守れ。」


「何の約束?」


「……覚えていないのか?一昨日約束したことだ。」


ジオは眉を少しひそめた。


肉体機能の低下は神経にも影響を及ぼしていた。所々抜け落ちた記憶が多い。


ジン・ギョウルの顔が恐ろしく固まった。低い声で嘆息する。


「本当に皆殺しにしてしまいたくなるな。」


「……怒ってる?」


「怒っていない時があったか?知っていると思ったが?」


「嘘。」


彼は怒っているのではなく、悲しんでいるのだ。


ジオに関しては敏感なのに、自分自身には無頓着だった。ジオは彼の首を抱きしめ、頬を寄せた。


ギョウルの煮えたぎっていた息が静まった。


「何の約束だったのか教えて。」


「駄々をこねないで。ちっとも可愛くないから。」


「もう私のこと嫌い?」


本当にありふれた質問……。しかし、これがそれなりの気を晴らす方法だと分かっているので、ジン・ギョウルはため息をつきながら腰を抱きしめた。


「……違う。愛している。いつも。」


だからどうしても諦められなくて、毎回こうなる。


「そなたが死ぬ前に私を殺してくれるという約束だった。とても重要なことだ。我々の次のために。私の最後の懇願だから、絶対に忘れてはならない。」


「何だ、その……次だと?」


「ジオ。」


「……分かった。それなら、こうしよう。」


また眠気が押し寄せてきていた。


閉じようとする瞼に抵抗しながら、ジオは魔力を引き出した。疲れ、不安な彼の目元を撫でた。


「[キーワード]をかけるわ。約束の言葉を聞いたら、この瞬間を思い出すように。」


「いくら忘れても、そうやってまた思い出すさ。長い眠りについても、必ず目を覚ますから、そなたが忘れずに私に言ってくれ。」


「……そなたがする約束は、もう信じない。」


そう否定しながらも、ジン・ギョウルは心の中で約束の言葉を何度も繰り返し唱えた。




早く、夜明けよ。


悲惨な死から我々を救いたまえ……。




「殿下!」


「呼吸と脈が戻りません!意識がありません!」


「か、閣下!大神官様!聖地に世界樹が……!世界樹がついに花を咲かせました!!!」



悲劇から平和の瞬間は、恐ろしいほど短く過ぎ去る。


殺戮と狂気の血なまぐささが、ギョウルの手から消えることはなかった。


それでもジオが嫌がり、怒るせいで、彼女に会いに行く前には必ず洗い流してきたが……全て無駄なことだった。


今、この瞬間の血の匂いが彼から洗い流されることは永遠になさそうだから。


騒ぎの中、ジン・ギョウルはジオを再び抱きしめ直した。


震える手で口元をこすって拭ってみるが、血痕は消えない。彼の涙がその上に落ち続けても、濡れた唇をいくら重ねてもそうだった。


「起きて……」












「お願いだ、夜明けよ……」


必ず目を覚ますと言ったじゃないか。


私から先に殺してくれると、私を見捨てないと約束したじゃないか。


私を愛していると言ったじゃないか。


「こんな風に行かないでくれ……信じないと言った言葉は全部嘘だった。全部嘘だったんだ。怒らないから。そなたが言う通りにするから。」


「全部そうするから、お願いだ……どうかお願いだ……」


哀願するすすり泣きが嗚咽になり、悲痛な嗚咽が絶叫になるまでは長くなかった。


またしても別れ。


そして死別だった。


ギョウルはそうして崩れ落ちた。



[刻印されたキーワードメモリの復元が完了しました。]




M | 99





口づけを残したジン・ギョウルが背後の深淵に落ちていき……その瞬間はほんの一瞬だったが、戻ってきた記憶は長かった。


キョン・ジオの目が見開かれる。


吹き荒れたギョウルの記憶。


凄惨な死で終わった恋人の悲劇。自分のものではない感情が消化されず、狂ったように暴れた。


記憶の強烈な余波に囚われたジオは、それを整理する間もなく、本能的に腕から伸ばして見た。


深淵の中にジン・ギョウルが墜落していっていた。遠ざかる。



「ダメだ。」


ダメだ。どこへ行くんだ。


このままではダメだ。


これ、何だ?この記憶が何なのか説明して行け。私を探し求めていたと?お前は私をどうして最初から知っているんだ?前世が一つではないとでも言うのか?我々の『次』?


こんな風に行くのはないだろう、こんな風に去ってしまうのはないだろう?


この狂った奴。狂った野郎。


「謝罪の言葉は聞いてから行けと言うんだ!!!」


行くな。


ごめん。


自覚できなかったすすり泣きが喉を掻きむしって出てきた。ジオは力が入らない足に無理やり力を入れた。


何をすることもできないうちに、あっという間に彼を飲み込んでしまった深淵が、ひどく恨めしかった。


「探さなければ。」




ひたすらその考えに取り憑かれ、床を引っ掻く彼女を背後からわっと掴んだ。キョン・ジロクだった。


「キョン・ジオ、気が狂ったか?!」



ドゴゴゴーン!



世界樹が全焼した。


執政官が死んだ。


終わった。


急激に膨張した深淵が、急速に聖地を飲み込んでいた。キョン・ジロクは、蠢く闇が聖体まで飲み込むのを目撃した。


共和国は失敗した。


「すぐに逃げなければならないんだ、キョン・ジオ!しっかりしろ!」


「離して……引きずり出せる。あいつ、あんな風に行かせてはダメだ、ダメなんだ……こんな風に殺しては!」


「姉さん!!!」


「俺の目を見ろ。」


キョン・ジロクが荒々しくジオの頬を掴んだ。似た色とそっくりの目が互いを見つめる。


「何を見たのか知らないが、戻って来い!俺がここにいるじゃないか。俺たちは今ここにいるんだ、キョン・ジオ!」


涙でぼやけていた焦点が戻ってくる。ジオはめちゃくちゃに歪んだ弟の顔を認識した。


良かった。キョン・ジロクが安堵の息を飲み込み、手を下ろした。


それと同時に。






テーン- テン- テーン!


『アルタ核(R2) 』を獲得しました!]


《バベルの塔55階攻略に成功しました。》


(55thフロア。メインシナリオ-〈星間ハブI入国〉終了。》


[チャンネル「国家大韓民国」の出入国ビザが星間ハブ「国家中央銀河共和国」に正式登録されました。]


[おめでとうございます。これで自由な出入国が可能です。]


[広場に移動しますか?]





強制移動ではなく選択肢だ。


ハブだからか、塔の他の階を攻略した時とは違っていた。


「こっち!」


遠くからティモシーが両腕を慌ただしく振っている。その手に持った金色の結晶が明るかった。アルタ核が結集するやいなや、近くにいた彼が素早く掴み取ったようだった。



バチン!


大きな音にキョン・ジロクは驚いて振り返った。自分の頬を強く叩いたキョン・ジオが、落ち着いた顔で頷く。


「そうだね、行こうか。」


四方が崩れ落ちている最中でも、行かずに彼女を待っている仲間たちがいた。


自分のものではない感情に、こんなものに、あの愚かな奴らを……命よりも大切な家族を放っておくわけにはいかない。


ジオは遥かな深淵をちらりと見て、振り返った。


ポツポツと落ちる涙を踏みしめ、


過ぎ去った冬の墓地を踏みしめながら。


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