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287話

これはウィンターの記憶。


そして、ジオの過去の一場面。


「大将軍。」


乾ききった、飢えた風が吹く。


見捨てられ、荒廃した土地によく似合っていた。ジン・ギョウルは部下の呼びかけに顔を上げた。


「あそこが西のニダです。近隣にはもうありません。ですから、あそこだけ確認して、王都へお戻りください。王の呼び出しを無視し続ければ、いくら将軍様でもお咎めなしでは済まされないでしょう。」


「探すものを見つけたら、だが。」


「臨時代行は王ではありません。それくらいの区別もできない愚か者は、首を刎ねられても文句は言えないでしょう。」


「許しは一度きりだと肝に銘じろ。」


「……申し訳ありません。」


いけ。ジン・ギョウルは無表情に馬の腹を蹴った。


「今回」の世界は運が悪かった。




世界の根を世界樹が担っており、星間ハブになる可能性もあったが、それも今は昔の話。


老衰した世界樹は息絶え絶えで、それに伴い世界も着実に滅亡へと向かっていた。


災害、疾病などの人災から、狂ったように増える魔物の群れや、異星の敵まで……。


複数の国がすでに機能を喪失し、数多くの土地が主を失い見捨てられ、残された者たちは我を忘れ戦争に明け暮れていた。


「王が現れなければ、すぐに滅亡するだろう。」


神聖な世界樹は高潔で、混濁した世に独り立つことはできない。


だからこそ、共に荷を分かち合う契約者が必ず必要だった。そして、世界樹の契約者のみが「王」として推戴される。


これがこの世界の第一法則。


残った国々が死に物狂いで争っているのは、すべてそのせいだ。王座は空っぽなのに、そこに座るべき主が現れないから。


世界樹の契約者が現れないまま、すでに数十年が過ぎた。


世界樹が死ねば、世界も滅びる。焦った小物たちが、生の最後の欲深さから、王を僭称したとしても、さほど不思議ではなかった。


しかし。


「その席には、主がいる。」


ジン・ギョウルは貧弱な村を見渡した。


傲慢な大将軍の眼差しに、難民キャンプの住民たちは慌てて身を隠す。


馬が入り口に完全に入るよりも前に、知らせを聞いた村長が、ひれ伏すように駆け寄ってきた。


「大、大将軍様!こんな辺鄙な場所に、一体何の御用で……恐縮至極にございます!」


「騒ぐな。聞きたいことがある。」


淡々とした口調だったが、村長は容易に緊張を解けなかった。


黒い旗を翻し現れる、戦場の黒い軍隊。


そして、その先頭に立つ、ウィンターの名を持つ悪魔。


東部と南部の統一に大きく貢献した戦争鬼の悪名は、この西の果てまで届くほどだった。


人類の悪夢であり、同時に人類の希望だと言ったか?


「何なりとお尋ねください。誠心誠意お答えいたします!」


「人を探している。年は二十歳を超えていないだろう。黒髪で、瞳は同じく黒色か、稀に金色である可能性もある。見覚えはないか?」


「ううむ……それが。」


村長の顔色は、あまり良くなかった。知らない様子。ジン・ギョウルは眉をひそめた。まさか、ここにもいないとは……ああ。


「もう一つ。」


「……はい。」


「かなり性質が悪いだろう。」


「……あっ!」


村長の顔色が、急に明るくなった。周りに集まってきた村人たちもそうだ。ざわめき始める。


「あの泥棒女のことでしょうか?」


「そういえば、あの子、髪が黒かったな!いつも薄汚れているから、よく見ていなかったけど、しかし、あんな身分の低い者を、なぜ貴人様が……?」


「静かにできないか!」


騒ぎが大きくなるにつれ、騎士たちが警告すると、村人たちは体を縮こませる。ジン・ギョウルは、その間も村長から目を離さなかった。


「心当たりがあるようだな。」


「は、はい!おります!とてもたちの悪い娘が一人おります。ですが……違うでしょう。おっしゃられた特徴と大体合ってはいますが、ただのありふれた小娘です。気性が荒く、ろくな仕事もできず、厄介者でしか……!」


「連れてこい。」


「え?い、いえ、それが本当に!」


「いや、いい。私が行く。どこにいる?」


「し、将軍!」


部下たちが慌てて呼んだが、ジン・ギョウルは無視した。


すぐに村の中に入ろうと、彼が手綱を引いて向きを変えた瞬間。


「……ウォウ!」


イヒヒーン!


突然制止された馬が、前足を上げていなないた。蹄が乾いた地面を叩き、砂埃が舞う。


どうしたんだ、とばかりに、主人に向かって怒ったように鼻を鳴らす。


しかし、そのいななきが止まるまで、ジン・ギョウルは少しも息をすることができなかった。


そのまま石像のように固まっていること、しばらく。一箇所に視線を固定し、彼が馬から降りた。


ドクン、ドクン。死んだと思っていた彼の心臓が、激しく脈打った。


難民キャンプの入り口の片隅。



相変わらず黒いおかっぱ頭で、あの娘が、そこにいた。


自分に再び訪れたウィンターを、そうやって見つめていた。


彼は歩いて行った。自分が息をしていないという事実も忘れて。


年は十七歳くらいに見える。驚きはしない。今回は、彼がひどく遅れたから。


人間の体は邪魔で、制約が多かった。北、東、南の全域を、狂人呼ばわりされながらも、くまなく探したが、決して容易ではなかった。


しかし、確信があった。


この世界は、彼にとっても勝負の分かれ目だったから。


自分の身を削る代わりに、彼の分まで彼女に譲った。燦爛と輝くように、これまで以上に価値のある肥やしを用意してやった。


だから、生きているはずだ。


いつもそうだったように、眩しく偉大な生命力で。だから。


山猫のような眼差しが、彼を真っ直ぐ見上げていた。お前が誰であろうと、絶対に負けないという目だ。


ジン・ギョウルは、上半身を低くした。


スッ。ゆっくりとフードを脱ぐと、警戒心で尖っていた目元が、一瞬丸くなる。


「どうだ、ハンサムか?」


「……何よ、自分で言うなんて。」


「君も美しい。」


あの眼差しが何を意味するのか、ジン・ギョウルはよく分かっている。この狂人は何だ、相手にせず逃げるべきか、と悩んでいるのが見え見えだった。


しかし、ウィンターは本気だ。


手足は痩せ細り、体のあちこちに傷跡が多かった。泥棒だというから、鞭打たれた跡もあった。


君は、こんな扱いを受けるべき人ではないのに。


燃え上がる憎悪が煮えたぎり、心臓を刺したが、ジン・ギョウルは表に出す代わりに、静かに息を吐き出した。




彼女の方へ、腕を伸ばした。


トウッ。脱ぎ捨てられた彼の革手袋が、床に落ちる。


ジン・ギョウルは、彼女が驚かないように、とてもゆっくりと、両手で幼く冷たい頬を包み込んだ。


「……あの、私、薄汚れてるけど。」


「知っている。」


熱い温もりが慣れず、どうしていいか分からない目。


そんな中、埃まみれのその頬が、呆れるほど白くて、ジン・ギョウルは笑った。


泣いた。


「……初めて会ったから、挨拶をしよう。私の名前は、ウィンターだ。」


涙なしに泣く男。


傲慢な顔つきをしているくせに、ひどく哀れな姿だった。


無底の淵のような彼の瞳を見つめながら、彼女は、憑かれたように答えた。


「ジオ。苗字はない。何も持っていないから。」


「そして。」


「……こんにちは、ウィンター。」


「ああ。こんにちは、愛しい人。」


予想外の返答に、ジオの両目が大きく見開かれる。


低く囁いたウィンターは、包み込んだ頬から手を離さずに、深く顎を引いた。


「何も持っていない、と。」


いいや。君は間違っている。


何も持っていないのは、こちらだ。


私は君を持つことができないとしても、君は私を永遠に所有し、すべてを手に入れるだろう。


私が君に誓ったように。


私たちが共に約束したように。


「君の私が、そうして見せる。」


皆が見ている前で、ジン・ギョウルの唇が、ジオの額に触れた。


世にも稀な貴人を扱うように、柔らかい口づけで。


そして彼は、躊躇なく片膝をついた。


丁重な服従で、皆に聞こえるように、けだるい声が言った。




「大将軍ジン・ギョウル、世界の主であられる、殿下にお目通りいたします。」


「……!」


驚愕が広がっていった。


滅びゆく世界の、唯一の大将軍が率いる軍隊だった。少し遠い距離だったが、境地に達した騎士たちには、十分に目撃することができた。


少女の額に鮮やかに浮かび上がった、世界樹の烙印。封印が解かれ、燦爛たる星の輝きを放つ金色の瞳を。


否定することのできない、王の顕現だ。


沈黙は長くは続かなかった。


……ズルッ!




膝をつく音が、波のように次々と続いた。ついに主人と出会った騎士たちが、声を揃えて叫んだ。


「殿下にお目通りいたします!」


叫ぶ軍隊に続き、住民たちは慌てて頭を下げた。


生きていて、見ることになるとは一度も思わなかった光景。そして……ジオはゆっくりと顔を向けた。


このすべての場面を作り出した、一人の男。


どん底を這いずり回って生きてきたから、ジオは知っている。


静かな狂気が光る瞳。


まともなふり、丁寧なふりをして身を屈めているが、あんな目をした奴がまともであるはずがない。


俊敏な猛獣のように鍛えられた肉体は、どれほど恐ろしく、息をするたびに漂う殺気と血の匂いは、またどうだ?


「しかし。」


泣いている顔は、ジオが生まれてから今まで見た中で、最も美しかった。


無言の視線を感じたジン・ギョウルが、目を伏せたまま、小さく笑った。


「警戒されなくても大丈夫です。これからは私が、殿下の傍から片時も離れずお守りいたします。私と共に行き、本来殿下のものだった席にお上がりください。」


「警戒なんてしてない。ただ……」


「お尋ねください。」


「……一緒に行ったら。」


それで、ジオは純粋に疑問に思った。


一番美しくて、


そして、一番素敵に見えるから。


だから、一番欲しくて。


「私、あなたを所有できる?欲しいんだけど。」


まだ未熟で、生意気なだけの欲望。


しかし、聞く者には違った。ジン・ギョウルがゆっくりと顔を上げた。


「人を狂わせるような口癖は、相変わらずだな。」


変わらないその欲深さが、ひどく嬉しく、また一方では、呆れる。


ジン・ギョウルは、平然と立ち上がり、わざと困ったように眉をひそめた。


「……私とて、一応大将軍ですので、そのような妾の位をいただくのは、少々困りますが。正室ならともかく。」


「……え?」


「もうすでに、内室を整えるおつもりとは、家臣として誠に頼もしい限りですが……聞いている者が多いので、今度からは私の体面を配慮して、どうか二人きりの時に提案してください。」


「……?」


こいつ、今、何て言った?


ジオは、ぼんやりとした顔でジン・ギョウルを見つめた。




そっと、一人二人と顔を上げた騎士たちと住民たちが、興味津々な顔でこちらを見ていた。


「何なの、この雰囲気……?あの顔は明らかに、恋仲の男女を見物する時の、近所の人たちの顔……!」


「く、狂ったか!違う!そうじゃなくて!私の言いたいことは!」


ようやく状況を理解したジオが、真っ赤になった顔で、手を振りながらジン・ギョウルにわあわあ言いながら飛びかかった。む、もちろん、完全に違うわけではないけど!


そして、そんなジオの腰をそっと支え抱きしめる腕。笑みを含んだ囁きが、風に混じる。


「ご存知ないだけで、すでに君のものだ。ずっと昔から。」


ジオは、ハッと顔を上げた。


目が合うと、ジン・ギョウルがニッと笑う。文句のつけようがないほど、素敵な笑顔だった。


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