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285話

ドスン!


「ずいぶんと焦っているようだな。君が探しているのは、もしかしてこいつか?」


大神官は笑いながら、血まみれの誰かを床に投げつけた。膝をつかされたサ・セジョンは思った。


「革命軍が裏切ったわけではなかったか。」


ひどく血みどろで誰だか判別しづらいが、意識を失っている者は、護民官サールクに間違いなかった。


「殺しはしなかったから安心していい。反逆者は共和国国民全員が見ている前で処刑するのが原則だからな。」


血まみれのサールクとは対照的に、綺麗な指先の大神官は優位に立ったと感じているのか、のんびりしているように見えた。後ろ手に組んで浮かべる笑みが穏やかだ。


「だから卑しい者には、最初から席を与えるべきではなかったのだ。ホミン官というやつが、裏金を作っているのは知っていたが、革命軍とは?ハハハ。」


「裏切り者のチャランもすぐに捕らえられるでしょう。革命軍の本拠地に中央軍を送りました。」


「君の功績は決して忘れないようにしよう。」


「とんでもない!身の程知らずの反逆者どもを処断するのは、共和国市民として当然のことです!」


フフフ。


……笑う?


大神官の眉がピクリと動いた。


彼らが振り返ると、肩を震わせていた


サ・セジョンがあっと顔を上げた。


「失礼しました。続けてください。」


「……なぜ笑う?」


「あまりにも紋切り型だと思いまして。少しおかしくて。我慢しますので、気にせず用を足してください。」


「……こ、この身の程もわきまえず、正気ではないやつがよくも!」


「ホーム、やめろ。死ぬ前に何か言わせておけばいいだろう?」


さすが慈悲深いと、卑屈に笑みを浮かべたタクジンが、丁重な姿勢でマッドボールを大神官に差し出した。


それを受け取った大神官が、注意深く観察する。


「よそ者の客のおかげで、この醜いものを久しぶりに見ることができた。それで、聞けばこれを扱えるのだと?」


大神官が杖でサ・セジョンの顎を持ち上げた。鋼鉄製の杖が、軍人たちに殴られた箇所をぐっと押す。


うっ!サ・セジョンは苦痛に歯を食いしばった。それでも返事がないので、焦った、タクジンが叫んだ。


「私がはっきりと聞きました!方法を知っているから心配ないと!この者、早く答えろ!」


「シーッ。騒ぐな。そいつの手首をまくれ。」


あっ!タクジンが声を上げた。


シリングは共和国内で起きたことなら全部記録する。読むのに少し時間がかかるだろうが、無駄にこうして口論する必要はなかった。


サ・セジョンがニヤリと口角を上げた。


「なぜそんなに焦る?ああ。マッドボールは旧式のものだと言ったか……。使用方法を教えてくれるような人物が少ないのは確かだろうな。例えば、執政官、とか。」



シュエエエエク!



ゴホッ!サ・セジョンの腰が折れた。


壮年だとは信じられないほどの力で殴りつけた大神官が、再び杖を振り上げた。


ボカッ、ボカッ!肉を叩く音とサ・セジョンのうめき声、拘束具である鉄鎖が揺れる音が空間に響く。


しばらくの間、彼を殴り続けた大神官が、流れ落ちた前髪をかき上げた。







滴り落ちた血のしずくが水面に落ちる。


血まみれの杖がサ・セジョンの頬を押しつぶした。大神官が身をかがめた。狂気に満ちた目だった。


「やはり閣下と結託したのか?やつがようやく真実を知ったのか?答えろ。答えれば、貴様の卑しい命だけは特別につなぎとめておいてやる。」


「……クッ。ハハ……」


この狂ったやつ。また笑う。


こわばった顔で大神官が杖を再び握りしめた瞬間だった。


「……違うのか?」


「何だと?」


「……お前、クソ神じゃないのか、この野郎。」


ゆっくりと持ち上げる頭。ようやく目が合う。大神官が思わず


一歩後ずさった。


サ・セジョンの炯炯けいけいたる眼差しが、堪えきれない笑みで満ち溢れていた。自身の策略が成功するのを見る策士の目だった。


血で真っ赤になった歯でサ・セジョンが明るく笑った。マッドボールの使用方式?


「そんなもの知るわけないだろ。生まれて初めて見たぞ、ウシン野郎!」


それと同時だった。



ファルルルルク!




「た、大神官様!世界樹が!」


まばゆいほど真っ白な聖火せいか


不覚にも。


白く燃え上がる炎が、世界樹の幹を猛スピードでたちまち飲み込んでいた。


「あ、だめだ!」


若い顔をした元老たちが一人、二人と座り込む。悲鳴があちこちで上がった。


予期せぬ災いにぼうぜんと立っていた大神官が、我に返って叫んだ。




「な、何をしている!早く!早く火を消し止めないか!」


慌てた軍人たちが右往左往した。慌てて近くの水をかけてみるが、消えない。


当然だった。


「高位司祭が祭祀を通して呼び寄せた火だからな。」


サ・セジョンはかすんだ目をパチパチさせた。


燃え盛る木を回ってこちらに走ってくる女性が見えた。


彼らの誰にも見えない


姿だろうが、彼にだけは見えている。彼女に透明化をかけた施展者がまさに彼だったからだ。


「副ギルド長様!」


どれだけ地面に叩きつけながら懇願したのか、汗で濡れたナ・ジョヨンの額が赤かった。驚愕して叫ぶその口元を見つめながら、サ・セジョンは目を閉じた。


「成功したようですね……ジョヨンさん。」


「私が捕まったら、世界樹から燃やしてください。そうすれば、あちらはどうにかして、聖体をこちらに呼び寄せざるを得なくなるでしょう。彼らのすべてが無駄になる前に。」


「ですが……本当にタクジン様が裏切り者なのでしょうか?」


「私を信じませんか?派遣職ではありますが、ギルド員に信頼されないとは、これは残念ですね。」


「いえ、そうではなくて……。」


わかっている。生まれつき善良なヒーラーたちは、人の悪を簡単には信じない。だが、不幸なことに今回は確実だった。




聖地へ移動する道。


サ・セジョンは少し距離を置いたタクジンを確認しながら、さらに声を潜めた。


「嘘のように不完全なものは、ほころびが出ます。一番簡単な方法は、彼が予想もしない方向に歩いてしまうことです。自身の不完全な情報に従う人々を見て、優位に立っているという考えが崩れながら、隙が生まれるのです。」


彼が予想した通り、マッドボールを扱えると言うとすぐに、タクジンは不快な様子を隠せなかった。


気づいたと言うのも申し訳ないほど、お粗末なスパイだった。サ・セジョンはナ・ジョヨンの肩を強く握った。


「聖地に入るとすぐに、ジョヨンさんに属性付与結界をかけます。透明化と空間操作。やつらはジョヨンさんの存在感を感じることができないので、ジョヨンさんが逃げたとだけ思うでしょう。その時がチャンスです。」


「それでは副ギルド長様は?副ギルド長様の継承結界は多重施展が不可能じゃないですか!」


「そんなに私の無能さを指摘しなくても……ハハ。どうせ敵がまともに頭が回るなら、魔力遮断や制圧具からかけるでしょう。ジョヨンさんはジョヨンさんがやるべきことに集中すればいいんです。聖火、呼び出せますよね?」


攻撃呪文のない純粋な司祭が起こせる火は、祭祀を通した聖火だけだった。


ナ・ジョヨンの目が緊張で、しかし決然とした光で震えた。


「正直、自信はありません。でも必ずやり遂げます。そうしなければならないから。」


祭祀は制限階級のない固有の儀式だが、聖物をはじめ、司祭の聖力まですべてを切実に捧げなければならない。


血まみれのサ・セジョンを支えたナ・ジョヨンが、潤んだ瞳で燃え盛る世界樹を見つめた。


白い灰が舞い散る。


空間が切り裂かれていた。


聖力はいくら絞り出しても一滴も出てこない。だがナ・ジョヨンは今回は泣かなかった。




「ジオ様が、仲間たちがいる。」


信じなければならなかった。


彼女が必死に起こした煙は、皆を呼ぶ狼煙のろしになったはずだ。


「くそ、ちくしょう!」


全身灰だらけになった大神官が、慌ててマッドボールを祭壇に上げた。




ウウウウウーン!


獣の瞳孔が広がるように、マッドボール中央の真っ黒な点が拡張する。


急速にしわが寄っている自分の手を握りしめながら、大神官がわめき散らした。




「保安接続コード - [葬送曲]!隔離解除!流刑者の隔離を解除する!追放した流刑者を今すぐここに召喚しろ!早く!」


[最高権限担当者のアクセスを確認しました。]


[リクエストが承認されました。]


[他チャンネルの空間を接続するのに一定の時間がかかります。しばらくお待ちください。]





「ヒ、ヒーラー様……」


「ハッ、あ、だめ!!」


微かな声にハッと我に返ったナ・ジョヨンが、サールクの襟首を掴んで引き上げた。間一髪だった。


世界樹が燃え尽きながら、聖地のあちこちにシンクホールのように果てしない深淵が生まれていた。


見ているだけでも背筋が寒くなる。


「あの中に落ちたら終わりだ……!」


ぎゅっと唇を噛み締めたナ・ジョヨンが、意識を失ったサ・セジョンとサールクを深淵から遠い隅の方へずるずると引きずった。


うめき声を上げていたサールクが、彼女の手の甲を握りしめる。その時までナ・ジョヨンは透明化が解けていることにも気づかなかった。


「ハアッ、ハアッ、ヒーラー様、私の話を……時間があり、ません!聖体が出てきたら早く、早く世界樹の苗、苗木を準備……」


「あっ!はい!」


ナ・ジョヨンは急いで懐から幼い子供の拳ほどの大きさの根を取り出した。


普通に見えていたのに、本能的に世代交代を感じたのか、いつの間にか霊験あらたかな光が漏れていた。


安堵したサールクが肩で息をした。


「せ、聖体が召喚されたら聖体の心臓にそれを植えてください……!ハアッ、機、機会は一度きり……!」


「……わかりました。」


ナ・ジョヨンの顔がこわばった。


故人の遺体を毀損きそんするということに、強い拒否感があるが……世界樹はアルタ核、ここのバベルの塔だ。


アルタ核のないチャンネルは崩壊する。例外はない。


共和国数百万人の命がかかっていること、すでに革命軍とも約束したことだった。ナ・ジョヨンは歯を食いしばって気持ちを立て直した。場内を見渡した。


すでに半分が灰と化した世界樹。


燃え尽きた跡に金色の粉が集まってきていた。あれが全部集まって凝集すれば、アルタ核が現れる。


そしてそれと同時に、向こう側の祭壇の上で渦を巻きながら生まれてくる赤い穴……。






[流刑地閉鎖完了。追放された流刑対象を召喚中です。]


ザーーーーー!


聖女だ!ナ・ジョヨンは顔を上げた。


一番最初に、風に浅く揺れる黒髪が見えた。


次にはか弱い指先。痩せた肩、陶器のように白い肌。


「え……?」


ああ。


まさか。ナ・ジョヨンの茶色い瞳が衝撃で揺れ動いた。


「無理、、、、、。」


うめき声のようなつぶやきが漏れた。


彼女はぼうぜんと聖女を、王を見つめた。そうだ。前世だと推測した。頭ではわかっていた。だが。


ここまで似ているとは思いませんでした、ジオ様。


「わ、わ、私は……無理、絶対無理……!」


頭が真っ白になった。あの心臓に木の根を突き刺せと?私が、まさか?想像するだけでも気が狂いそうな恐ろしさが、ゾッとするようにナ・ジョヨンの全身を覆った。


無意識のうちにどれだけ力を入れたのか、手のひらに食い込む爪。


「どうしよう?どうすれば……?」


パニックに陥った信徒の真っ赤な血


しずくが、床に墜落するまさにその瞬間だった。




シュエエエエエク!


天を鋭く切り裂く破空音。


耳がぼうっとなる巨大な轟音が天地を揺るがした。




ドゴォォォン!


立っていた人々が誰彼となくバランスを崩し、よろめいた。頭がガンガンと揺れた。


衝撃の余波で場内に立ち込める土埃の雲。そして


それが静まる頃、現れたのは


「ああああああ!だめええええ!!!」


雷に打たれた巨木のように粉砕された世界樹。


大神官の喉が裂けるような絶叫が、これまでになく悲痛だった。しわくちゃの顔が崩れ落ちる。


ナ・ジョヨンは魂が抜けたように、世界樹を完全に粉々にしたもりを見つめた。滑らかな胴体の上に白くペイントされた文字が見えた。





[No.777]


「だめじゃないことなんてないでしょ?」




キーーーーーッ、ドスン!


舞い散る灰の合間を縫って着陸する飛行船。その上に揺るぎなくそびえ立つおかっぱ頭の女。


幼く無情な顔が、ぞっとするような嘲笑を描き出す。


ようやく聖地に足を踏み入れた王、キョン・ジオが傲然と彼らを見下ろした。


「私は全部できるわ。」


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