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283話

彼は、鋭い銛で体を貫かれたかのような表情だった。


冬の二つの瞳が、難破船のように揺れた。


ティモシーの胸ぐらをつかもうとしたので、ジオが慌てて制止した。


「どうしたんだ?ペーパードライバーを刺激するな!ただでさえ時限爆弾なのに、子鹿のように扱って。」


しかし、ジン・ギョウルは半分魂が抜けた人のようだった。うんざりした叱責にも頓着せず、ジオをうっとりと見つめる。


「……何?」


たじろいだジオが、反射的に彼の肩を掴んだ手から力を抜いた。


しかし、…… その手を再び強く握ってくる手。


「どこか具合でも悪いのか?一体どうしたんだ?」


どうかしてしまったジン・ギョウルは思った。


ありえないことだ。


彼女は死んでいない。今も彼が自分を探しに来ると信じて、星系のどこかで一人寂しい時間を耐えているはずだ。


私の恋人は死んでいない。


私の幼いジオは死んでいないはずだ。


あの子がまた僕を捨てるはずがない。そんなはずはない。そうでなければならない。


だから、目の前のこの女は偽物だ。彼のジオと同じ顔をして、同じ名前を使い、同じ痛みを与えるが、偽物でなければならない。


「……この先はブラックホールだ。」


濃いどころか、ねっとりとした深淵を抑え込んだジン・ギョウルの目が、ジオを射抜くように見つめた。執拗なほどジオから視線を離さず、静かに呟く。


「だから注意しろという意味だった。」


彼の言葉と同時に、飛行船が長い闇のトンネル、障害物区間のブラックホールに吸い込まれていった。


「すぐにジオ様にお伝えしなければ!」


「今はダメだと言いました。」


サ・セジョンの口調は断固としていた。地下監獄から出て今まで続いた論争にも、彼は終始一貫して反対の立場を固守した。


こちらを見ていないタク・ジンを確認したナ・ジョヨンが、早口で囁いた。もどかしい様子を押し殺しながら。


「それでは本当にジオ様がこのまま何も知らないまま、前世の恋人を殺すのを傍観するつもりですか?少なくとも知らせるのが筋でしょう!それが人としての道理であり、同僚としての礼儀です!」


「そう言うなら、聖女がジオ様の前世だというのも確かではありません。私たちは計画通りに進みます。」


「今、誰を馬鹿にしているんですか?それとも副ギルド長様が馬鹿だとでも?」


執政官が勘違いするほど似た外見から、聖体がある位置を告げるキョン・ジロクの尋常ではなかった反応まで。


わざわざ口に出して言わなかっただけだ。


経験豊富なランカーたちが推論するだけの状況証拠はすでに十分。


地下監獄で出会った囚人の話は、それの終止符に過ぎなかった。


「まさか……聖女の名前が『ジオ』ですか?」


「知らなかったのか?まあ、どうでもいいか。死なずに醜く耐えた甲斐があったな。奴らが滅びる様をようやく見られるぞ。マッドボールがどこにあるか知りたいか?」


乾いた咳を吐き出した老人が、炯炯とした目で言った。


「よく聞け。この王宮には非武装地帯がちょうど二箇所ある。」


一つは聖地、もう一つは。


「謁見室。そこだ。その王座の後ろの幕を引けば、小さな祈祷室があるはずだ。時間が経ったが、大神官、あの陰険な奴は自分の決定を簡単に変えない。きっとそこにそのままあるだろう。」


まるで彼らを待っていたかのように、詳細な情報だった。疑いを捨てきれないサ・セジョンが尋ねた。


「それをどうしてご存知なのですか?」


老人がククッと笑った。ある後悔が滲む顔だった。


「この老いぼれが元老院にその方の死亡を最終宣告した医者だったのだ。」


「……!」


その時代の医術総責任者。


執政官がメディックを探す声に一番に駆けつけた者も、怯えた部下が執政官の前でジオの死を否定するのを傍観した者も、皆彼だった。


「奴らがどうしていいか分からず右往左往している時、遺体を収拾し、自分の手で直接ガラス棺を閉じて星系に流したのだ。」


取り返しのつかない罪を犯したと、老人が自嘲した。


考えてみれば、聖女隠匿と最も近い関係にある者。だからマッドボールの位置についても、詳しく知らざるを得なかったのだ。


謁見室へ向かう秘密の通路も囚人から聞いた。医術全般を責任を負っていた者だったので、元老院が知らない裏道についても詳しかった。


サ・セジョンは祈祷室内部を注意深く見回した。


人の手が長く触れていない、古びたこんな場所に貴重な物を隠してあるとは、容易に予想できないだろう。


ナ・ジョヨンはサ・セジョンが見せるその泰然自若さに、少し腹が立った。


「まさか戦略のためなら、個人の気持ちくらい踏みにじられても構わないとおっしゃるんですか?」


「飛躍しないでください。そんなことは言っていません。前世のように頼りないものに振り回されたくないだけです。ずっとそうやって探さずに自分の言いたいことだけ言うつもりなら、邪魔なので出て行ってください。」


「頼りないですって?バベルの塔の中にどれだけ多くの世界が存在するかは、今まで十分見てきたはずですが。」


「その数多くの可能性の中に、誰かの前世だった世界が一つくらい混ざっているのが、そんなに受け入れられないことですか、バビロンの副ギルド長様?」


バビロンは、どのギルドよりも塔を登った回数が多いギルドだった。


無言のサ・セジョンに向かって、ナ・ジョヨンが声を低めて言い放った。


「執政官に会って、ジオ様は明らかに動揺されました。前世の縁だから、私たちが知らない感情的な交流があったのでしょう。副ギルド長様がその方をどう見ているか知りませんが、ジオ様はそんなに冷酷な方ではありません。」


「申し上げます。私はその方が心を痛める姿、絶対に見過ごせません。」


ナ・ジョヨンはキョン・ジオに関しては妥協しない。


それがナ・ジョヨンの人生を救った救済者を遇する、彼女を尊敬し愛するナ・ジョヨンのやり方だった。


「……万が一、それでジオ様が執政官を殺せなくなったらどうしますか、ジョヨンさん?」


「いいえ。殺します。全部知った上で、自らの決定でそう『選択』するでしょう。その違いです。他に何か言うことはありますか?」


無表情な顔でナ・ジョヨンが今にも無線機のボタンを押そうとした瞬間だった。


「救いはいつも起こることです。」


「……え?」


「人が人を救うのはありふれていて、よくあることだと言っているんです。ナ・ジョヨンさん。」


感情を押し殺す声。ナ・ジョヨンがハッとした。


サ・セジョンは疲れた手つきで、少し乱れた髪をかき上げた。


「ジョヨンさんだけが誰かに救われたと思っているんですか?いいえ。こちらも同じです。私も誰かに救われた命です。」


サ・セジョンは、ジョン・ギルガオンという人間の人生についての話だ。


実家は有名な財閥だった。


そんな財閥としては珍しく、愛によって結ばれた結婚が彼の両親だった。


仲睦まじい夫婦の一人息子は明晰で、すべてが幸せで平和に見えた。姑のいじめに耐えかねた彼のシンデレラ母親が自殺するまでは。


人生が方向を失うのは一瞬だった。


母親の苦しみを知らなかった息子は、償いをするかのように家と縁を切った。当然の怒りが降り注いだ。


恩も知らない奴、だからと言って死んだお前の母親が生き返るのか、情けなくて出来損ないな奴。


見かねたジョン・ギルガオンの助けで、後援を受けてどうにか卒業まではしたが、そこまでだった。


賢い後継者を取り戻すための家のいじめは執拗で、彼を絶え間なく蝕んだ。


疲れた。


なぜ生きているのかも分からず、目的を置く場所もなかった。そんな無用な人生だったので、目の前で青い災いが襲ってきても、何も思わなかった。ただ。


「ようやく死ぬのか。そうか。こうして死ぬのも悪くないな。」


そうやって彼が真っ青なゲートをぼんやりと見つめている頃。


「参ったな。三顧の礼まで尽くすつもりで探しに来たのに、死にかけている死体とは。クソ。これは本当に使えるものなのか?正気に戻ったらすぐに起きろ!……よ。」


救済者が現れた。


制服を着た15歳の救済者が。


「何をぼんやりと突っ立っているんだ?……よ。これ本当に使えるものなのか?正気に戻ったらすぐに起きろ!……よ。」


ジョン・ギルガオンあの詐欺師め、すっとぼけている時に気づくべきだったとか、散々文句を言っていた少年は、どこかぎこちない口調とは裏腹に、手際が鋭く断固としていた。


そうして崩れたビラ村が新緑の森に覆われた瞬間。


煌々と輝く月明かりの下で、キョン・ジロクが彼を振り返った。


サ・セジョンとは全く違う、生命力が爆発的に溢れかえっている目をして。


「そっちがそんなに賢いって言うなら、ちょっと壮大な目標があるんだけど、だから一人で 自分でやれるブレインが必要なんだ。一緒に行く気あるか?あの向こうへ。」


指先が指し示す先には、空を裂いた黒塔があった。


ただ他人事だと、自分の人生が忙しくてサ・セジョンが一度も考慮したことのなかった選択肢だった。


「あそこを…登るのか?なぜ……?」


何だその質問は?という顔で眉をひそめた少年が、うんざりしたようにため息をついた。


それからじっくりと考え込み、ポンと投げつけた。


「死んだ人と生きる人のために。」


「ああ……。」


「できることを無視すれば後悔するから。守れるものがあるなら何でもしたいし、何でもすれば自分自身を少しは憎まずに済むから。」


「……!」


「大体そんな感じだけど。とにかく高く登ってみれば収穫があるんじゃないか?まだちゃんと登った人がいないから想像に過ぎないけど。」


手入れされていない縮れ毛をかき上げながら、キョン・ジロクがニヤリと笑った。


「知らないふりをして逃げるつもりはないだろうな。信頼できる情報筋からサ・セジョンさん、そっちが先覚醒者だということもすでに聞いているから。」


「まあ……ゴホン。どうしても力を隠したい、いや、登録が嫌なら一般人として入ってきてもいいけど。まだ何もないけど、すごく大きくなるギルドだから弁護士一人くらいは必要だろう。」


不器用な手つきが残していった名刺一枚。


彼が去り一人残されたサ・セジョンは、じっとそれを見つめた。月が沈み夜明けになるまで。そして。




「きゃー、おめでとうございます!AA級!ダブルA級ですよ!」


騒がしいセンターの人々の声を背景に、目の前にメッセージウィンドウがいくつも表示されていた。


歓迎するというバベルのメッセージを読み飛ばしながら、サ・セジョンは一つのウィンドウをじっと見つめた。





/サ・セジョン様、ニックネームを設定してください。/


答えは決まっているかのように出てきた。


「……サンサン。」


救いのように死の淵で出会った少年。


今は想像に過ぎない少年のその夢を助けたい。もう想像ではないように。


サ・セジョンの新たな方向だった。


「キョン・ジロクが私の命を救ってくれて満6年。今でもあいつは私について何も知りません。ただ自分の才能だけで生きていく金持ちの家のエリートだと思っているだけでしょう。」


「……どうしてですか?」


「私がそれを望んだからです。」


サ・セジョンはナ・ジョヨンを見た。


「キョン・ジロクが完全無欠な救済者ではないことを知っているから。」


「……!」


恐ろしいほど強いが、中身は子供に過ぎないことを知っている。そんな奴に守るべき対象の一つに転落したくなくて。


「それよりも隣に並んでくれる同僚として、私の人生を救ってくれた英雄が高く登っていくのを助けたいから。」


蒼白になったナ・ジョヨンを見て、サ・セジョンが尋ねた。落ち着いて、淡々と。


「今、ジョヨンさんの行動が本当にその方のためだと確信していますか?」


ナ・ジョヨンの手が震えた。


「……私は。」


「やるべきことを放り出して、その方が経験する不運にどうしていいか分からず、むやみに盤面全体を揺さぶろうとするのが、本当にジオ様のためですか?」


手に負えない自分の個人的な感情によってではなく?


「人に救われることは起こりうることです。その特別だがよくあることが私に起こったからといって、いつまでもそこに浸っているわけにはいきません。」


向きを変え、棚の後ろを再び探っていたサ・セジョンの指先が止まった。隠されていた櫃を取り出す。古びた埃を軽く払うと、世界樹の模様が現れる。


カチャ。


櫃を開けると、蓋の閉まった聖杯がそこにあった。サ・セジョンは慎重にそれを開けた。


赤い目のように見える渦巻き模様の球。タク・ジンが息を呑んだ。


マッドボールだった。


「……盲目的なのは、いいでしょう。私たちのような人間にとって、目標は明確であればあるほどいいですから。でもジョヨンさん。」


「基準を一つの場所にだけ置くと危険です。そうしているうちにナ・ジョヨンさん自身の基準が崩れてしまいます。」


「世界は私とその人だけが生きている場所ではないでしょう。本当にジョヨンさんの救済者を大切にしたいなら、たまには一歩引いて見守ってください。」


じっとそれを見下ろしていたサ・セジョンが、ナ・ジョヨンを振り返った。マッドボールを手にしたまま尋ねる。


「もう一度聞きます。『救いの灯火』。どうしたいですか?」


静寂が訪れた。


一分、二分。


果てしなく長くなりそうだった沈黙の果てに、ついに顔が上がった。


ナ・ジョヨンが言った。落ち着いて。


「今すぐマッドボールを聖地に持って行き、聖女を取り戻します。それでまず味方の勝機を確保します。申し上げることは、私たち全員の命がかかった重大事案の変数なので、その次にします。これが私の妥協です。」


サ・セジョンがニヤリと笑った。


「それはなかなか説得力がありますね。」


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