280話
ドンドンドン!
巨人の心臓の鼓動のような太鼓の音、そして興奮した観客が熱烈に送る歓声。
ベテラン司会者の高揚した声に合わせて、ちょうどいい具合に雰囲気が盛り上がる。
脱落したA組の勝利者、ジェニバは目を丸くした。
「結局あの二人か……」
華麗な効果音と映像を映し出す魔導具の下を、二人の男が歩いて出てきていた。
全く予想を外れない今回のトーナメントの嚢中の錐たち。
類例なく早い決勝戦だと言った。
あの二人は組別本選から頭角を現し……本当の本選、マスターマッチでも同じだった。組の運が良かっただけだと騒ぐ賭博師たちをあざ笑うかのように、そうそうたる競争者たちをあっという間に撃退した。
「私たちとはまるでレベルが違う。」
ジェニバは大人と子供の喧嘩のようだった自分の敗北を思い出してみた。
鬼の目玉がギラリと光ると、それが終わりだった。何かしてみる前に蹴飛ばされ、そのまま記憶が途絶えた。正気に戻ると治療室で……。
「ふ、ふえっ!はあ、ここはどこですか?し、試合は!」
「何を聞いてるんだ?負けたよ。ジェニバ、お前は運が良かったんだ。帰りに宝くじでも買って行け。」
親しい治療師が舌打ちをした。
ジェニバの次、身の程知らずに騒いでいた他の奴らは、少なくとも四肢のどれかを失って出て行ったとか。
「まだ消えてない……」
ジェニバは競技場の血痕を見て、ゴクリと乾いた唾を飲み込んだ。 きっと洗浄の魔法がかかったはずなのに……!
それでも過ぎてみれば、鬼の目玉の方はまだマシだった。
もう片方、槍使いという若い奴は、武器も抜かなかったそうだ。
準決勝の後半になってようやくゆっくりと取り出し、それすら一度振り回して終わったとか。
倒れた相手の前で露骨に汚いものが付いたかのように槍を拭いていたとかで、武器すら混ざるのが嫌だったのだろうと観客が噂していた。
「どこの家の息子か知らないが、生意気なやつだ。」
顔だけ良ければいいのか?
ジェニバはすでにできている槍使いのファンクラブの方を見た。今夜の主人公は花鹿お前だお前、地獄から来た悪魔プリンス……プラカードの文句がひどいものばかりだった。
当の本人は全く関心もなさそうだったが、司会者にもそれは関係なかった。熱烈な歓声にむっと顔をしかめた美青年を見て叫ぶ。
「まず、うっとりするような外見とそれよりもっとうっとりするような実力で、登場から旋風を巻き起こした美男槍術師です!今までこんなランカーはいなかった!これは花鹿なのか、悪魔プリンスなのか!チャンネル『国家大韓民国』所属のバンビ!」
キャアアアア!
広告を流していた魔導具の画面が、紹介と同時にキョン・ジロクの顔を大きく映し出した。
狂奔する観客席。キョン・ジロクの顔つきがさらに険しくなった。
「狂ってんのか、クソ。なんだこの紹介は。」
「顔をほぐせ。ランカーの基本はファンサービスだ。誰かの言葉通り。」
フィルターまで焦げ付いたタバコを弾き飛ばし、彼の決勝戦の競争者、虎がせせら笑った。
その笑いに反応するかのように、魔導具の画面が今度は彼を捉える。
夕方の風に青い鬼気が漂う髪が揺れた。
「相手もまた華やかです!ネームド強者たちを簡単に打ち破り、トーナメントに君臨した霊術師!圧倒的なカリスマに棄権敗が続きました!現在、賭博師の過半数が優勝を占っている強者!チャンネル『国家大韓民国』所属、鬼主!」
ワアアアア!
今回の歓声はキョン・ジロクの時よりもさらに太く、どろっとしていた。興奮してわめき散らす髭面の男たちを見て、キョン・ジロクは歯を食いしばった。
「……この狂った、なぜそっちの紹介はまともなんだ?」
「鹿王子様よりはこちらの方がスター性がはるかに低いから仕方ないだろう。」
なだめるように虎が肩をすくめた。らしくもなくニヤニヤ笑うその顔が、キョン・ジロクをからかっていることを示している。
「ふざけてるな。」
キョン・ジロクは神経質に片腕を伸ばした。専用武器召喚。暗緑色の閃光がひらめいた。
サッ!虚空に半円を描きながら手の中に落ち着く槍。
開始前から武器を抜く姿に、その間キョン・ジロクに慣れていた観客席がざわめいた。
「子供扱いするな。卒業して独立してから久しいから。」
「子供たちはなぜ構われるのが嫌いなのかわからない。いい時に知らないで。」
「年寄りはなぜ昔のことばかりを懐かしむのかわからない。淘汰されていることも知らずに。」
ふむ。口の中に残った煙を吐き出しながら虎が笑った。
「……年寄り?」
「じゃあお若いんですか?」
年齢で首根っこを掴めば誰と喧嘩しても負けることのない20歳のチンピラキョン・ジロクが皮肉った。
「少なくとも千歳は召し上がっていらっしゃるでしょうに、それくらいなら老人ホームでも仰天して受け入れてくれないでしょう。先生、ここではなく棺桶に行かなければならないと。」
「先生か。懐かしい呼び名だな。うちのバンビが昔の呼び名をすっかり忘れたわけではないようだ。」
「私の記憶とそちらの記憶が少し違うようですが?」
「そんなはずはない。お父様が席を外されるたびに私を探していたあのノックの音を忘れない。とても可愛かったからな。」
「誰も期待していなかった新生チャンネルの大反乱!「国家大韓民国」!同じチャンネル所属の二人のランカーです!身内喧嘩はバトルトーナメント史上初ですよね?ファイナルラウンド!カウントダウンを開始します!5!」
そうだな。とても興味深い。身内喧嘩か。
「間違ったことは言ってないな。」
キョン・ジロクは荒々しく笑った。千年もののけの虎神様なので、どうせ口では勝てない。
「誰の記憶が正しいか見てみようか。」
「4! 」
餌という本来の目的を忘れてはいなかったが、これはプライドの戦いだった。
「3! 」
目の前に悠然と立つ相手は「銀獅子」の継承者であり息子。
そしてキョン・ジロクは「銀獅子」のたった一人の弟子であり孫だから。
同じく「銀獅子」を継承した身で、いつまでも一方的に子供扱いされるわけにはいかないのではないか?
「2! 」
どうせ舞台まで用意してくれたのだから、ありがたく頂戴してやらなければ。キョン・ジロクがロンギヌスの槍を構えた。
「本気でやれ。本気で行くから。」
人間の仮面を被った者たちが持つ生物的限界、それを乗り越えたS級の魔力が蠢く。
広がっていく陰鬱な暗緑色の魔力に、玲瓏な金色の光がまとわりついた。
鬼主はそれを見つめた。あれが誰の色なのか知っている。
彼は絶対に持つことのできない色。
「1! 」
「幼稚だな。」
「……悪くないな。たまには。」
数字が消える。観客が息を呑んだ。二人の男の口が同時に閉ざされた。呼吸が低く流れ。
そして。
クワガガガガ!
地面から湧き出る、悲鳴を上げる百鬼の山と生命で揺れ動くイバラの森。
霊力と魔力。混ざり合わない二つの力が激突したのは一瞬だった。
「な、何?あの人たちなぜあんなに本気なの?」
キングスタウン王宮、外郭庭園。
塀の犬小屋からやっと抜け出してきたナ・ジョヨンが パニックになる空を指差した。
スタジアムの電光掲示板のように競技場の空を広く覆った転送魔導具が決勝戦の実況中継をしていた。
王宮とトーナメント競技場は距離が遠くない。殴り合う二人の姿がよく見えるという意味。
「作戦には全く関心がないようですが?!眼中にないみたい!」
買収しておいた警備兵にお金を渡していたサ・セジョンも振り返った。
ちょうど魔導具の画面ではキョン・ジロクが虎と血を吐いていた。
ビクッ。反射的に肩が震えたが、サ・セジョンは冷静だった。私は作戦中だ、私は素晴らしい参謀だ、理性を失ってはいけない……。
「……視線を惹きつける効果は確かでしょうね。行きましょう。時間がありません。」
「本当にあんなことして大丈夫ですか?誰か死にそうなんですけど?」
「……まさか。ジョヨンさん、私、見かけより心臓が弱いので、そんな飛躍はやめていただきたい。家系に狭心症があるので。」
「あっ!はい!す、すみません!私が(同じオタクの気持ちを考えずに)つい口を滑らせて!」
真っ青になったサ・セジョンの顔色をナ・ジョヨンが哀れそうに見つめた。ソンビのように生真面目な顔をして、その通り虚弱だ。
派遣職だが、バビロンでの経験ももうそれなりにあるので、副ギルドマスターがどれほどヤングボスに尽くしているか
彼女も知っていた。
漢国の帝王を育てた策士、「張子房」に例えられるほどサ・セジョンのキングメーカーとしての経歴は元々有名でもあるし。
柱の陰に素早く身を隠しながらナ・ジョヨンがこっそり言った。
「以前から気になっていたんですが、ギルドマスターにはどうして風邪を引かれたんですか?」
「……風邪ですか?」
「あっ、口癖が。どうして忠誠を、いや、そうじゃなくて、どうして出会われたのか……みたいな!アハハ。理事に聞いたら元々〈ソンジン〉法務チームにいらっしゃったとか。ジョン理事と同期で。」
「ジョン・ギルガオンがそう言っていますか?」
「違うんですか?10年来の仲だと……」
「……うんざりするような縁ではありますね。小中高、大学まで。」
「え?じゃあ10年以上経っていらっしゃるんじゃないですか。」
「相互合意のもとで絶交してから久しいです。もうただのどこにでもいる知り合いです。」
「この人、冷たい……!」
全くそう思っていないようだったジョン・ギルガオンの姿が頭をよぎる。
「私はジョヨンさんの方がもっと気になりますね。そのくらいの狂気、いや、気持ちなら普通じゃない事情があるはずですが。」
「え?あ、私の事情ですか、まあ……」
ナ・ジョヨンがにっこり笑った。
「救いですよね、当然。ジオ様が私たちみんなにいつもそうしてくださるように。」
恥ずかしがるその顔。サ・セジョンはじっと見つめた。
もちろんナ・ジョヨンがキョン・ジオに見せる心の純粋さには誰も異論はないだろう。しかし。
「あまりにも純粋すぎると毒になるだろうに。」
まあ、これも今すぐ重要なことではないから。サ・セジョンは頷き、前を見るよう自然に話題を変えた。
戸民官配下であることを意味する標識をつけた官僚がこちらに歩いてきていた。
「話は聞いています。私はサロク様の副官、タク・ジンと申します。ですが……遅かったですね。二人だけですか?」
「聞いたよりも警備が厳重でした。知人の助けで警備兵を買収してやっと入ってきました。」
王宮が位置する東門の内側から治安隊がシーリング検査をしていた。革命軍たちはそこで一次的に選別され、二人だけ残った状態。
顔の広いミンチの助けがなかったら、犬小屋のようなものがあることすら知らなかっただろう。危うく最初からしくじるところだった。
サ・セジョンが眉間を揉んだ。
「警戒を強化するというのはあまり良い兆候ではありません。内部で何かありましたか?もしかして気づかれた気配とか。」
その言葉にタク・ジンの顔色が暗くなる。焦った様子で手招きした。
「とりあえずついてきてください。」




